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紅く燃えて瞳は夢をみる  作者: violet
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ミズーリ侯爵令嬢

レネの熱も1日で下がり、ゲイルが迎えに来た。

王宮で事情聴取を受ける事になっていたからだ。ゲイルが既に説明してあるが、ゲイルから離れていた時間が長い。

ゲイルはレネを守りきれなかった事の後悔と、ケガに責任を感じてずっと付き添っている。

ゲイルだけでなく、アマディ、ロザリーナも頻繁に来るので、レネの部屋には常に誰かが居た。


「用意は出来たか?」

ゲイルが確認すると、答えたのはレネではなくロザリーナ。

「ええ、見て。とても可愛いでしょ。

このドレスを作っておいて良かったわ」

レネも気に入ったでしょ? とロザリーナに言われれば頷くしかない。

ロザリーナにとって、事情聴取の為の登城がお披露目の如くになっている。

リボンのサッシュで腰をしぼり、胸元に小花を散らしたピンクのドレスはレネにとても似合っていた。

ゲイルもアマディも可愛いと褒めちぎる。


「ジルディークも気に入るわよ、ね」

ロザリーナの言葉に、顔をあげたのはレネだけではない。アマディもだ。

「レネ、何真っ赤になってんだよ!

使用人のくせに、図々しんだよ。兄上には婚約者がいるんだからな」

「アマディ!」

ゲイルが厳しい口調で、アマディを(さと)そうとするが、アマディは止まらない。

「兄上の愛人にでもなるつもりか!」


「アマディ、部屋から出て行け!」

ゲイルの大きな声が響くと、アマディは部屋を飛び出した。


「レネ、大丈夫よ」

「はい、ロザリーナ様」

ロザリーナがそっとレネを抱きしめる。


ロザリーナ様、ごめんなさい。

愛人でもいいの、ジルディーク様と一緒にいたいの。

いつ捨てられるかもしれない、平民でも気持ちだけは私だけのものだから。


「では行ってきます。」

レネはロザリーナにニッコリ笑って、公爵邸を出て王宮に向かった。

「執務官が待っている。決してレネに怖い思いはさせないから」

ゲイルが馬車の中で説明をする。

「トウゴ伯爵は軍に捕らえられ2度とレネに害をなすことはないので、地下の部屋で聞いたことを全部話せばいい」

「わかりました。すごく気持ち悪いし、怖いこと言ってました。いっぱい言いたい事あります」

レネが怒りながら言うのを、ゲイルは安心したように聞いている。

ゲイルには、あの地下道が非常時の為に作られたものにしては不自然すぎると分かっている。

皆がすでに分かっているだろう、あれは猟奇的な趣味を隠すために作られたものであることを。





その夜、ミズーリ侯爵令嬢カミラに手紙が届けられた。

町の子供が小遣いをもらって、届けたらしく差出人は不明だった。


『ジルディーク・ユレイアが使用人の娘を気に入っている。若い娘がいいらしい』


翌日には、カミラに追い打ちをかけるように宝石商が尋ねて来た。

カミラがユレイア公爵家支払いで買った支払いを、ユレイア公爵家が断ったというのだ。

「今までも、ずっとそうだったのよ。

何故急に?」

ミズーリ侯爵家とユレイア公爵家では、財政に大きな違いがある。

昔、ジルディークから舞踏会のプレゼントを用意するつもりはないから、自分で気に入った物をユレイア公爵家支払いで買うように言われたのだ。

確かに、舞踏会一度きりの事を言われたが、それからも公爵家支払いで買っても問題なかったはずなのだ。

婚約者としての責務は最低限しかしないジルディークに、支払いぐらいするのは当然だと思っていた。


宝石商は言いにくそうに、身を縮めてかいつまんで答える。

「私どもには何とも。今後、ユレイア公爵家から支払うことはないと言われましたので」

突然、ユレイア公爵家ジルディークが宝石店を訪れたのだ。

『婚約者とはいえ、婚姻前の他家の令嬢だ。公爵家支払いというのはおかしい。今まで大事にしたくなく支払っていたが、今後は支払うつもりはない』

当然の事であり、宝石商も納得するしかない。公爵家から支払いをすると言われたことはないのだ。

ミズーリ侯爵令嬢が来店する時は、公爵家の人間が一緒にいたことはなく、令嬢が言っているだけだったのだから。

まさか、言われた事をそのまま伝えられず、宝石商は言葉をうやむやにするしかない。

「お持ち帰りになられましたネックレスとイヤリングのお支払いがまだですので、侯爵家でお支払いをお願いしたく」

「私はユレイア公爵家の婚約者なのよ!」

普段から、父親からは浪費を抑えるように言われているから、高額な物を公爵家支払いで買っているのだ。とても父親に支払いを頼めない、勝手に買ってと怒られるのは目に見えている。

カミラは支払いを後日と約束して、宝石商を帰したが支払いの当てなどない。


ジルディークとの婚姻は、いつになっても時期の話にはならず、23歳になった。

カミラはジルディークより1歳年上だ。何度も父親から結婚を急いたが、公爵家からの返事は「時期尚早」だった。

貴族令嬢としては結婚適齢期を過ぎているが、婚約者がいるので体裁が悪いわけではなかった。

それどころか、結婚して窮屈な生活になる前に、自由に遊ぶのに都合が良かった。

どうして、今になって、とカミラは考えた時に、昨夜の手紙を思い出した。


『若い娘がいいらしい』



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