ジルディークの覚悟
王宮の王の執務室には、国の重鎮達が集まっていた。
その中には、王太子もジルディークもいて報告を受けていた。
ユレイア公爵家で治療していた令嬢も意識が戻り、ヤールセンと王宮預かりとなった。
「地下の隠し部屋は他にもあり、そこにハヴェイ王国の令嬢二人がいました。 この二人は意識がはっきりしており、身元を確認することができました。
ただ、理不尽な暴力の被害にあっており、王宮にて女官に付き添われております」
グレチモアの報告に、王は頭を押さえて周りを見た。
「陛下、かねてから交渉している、ハヴェイ王国の王弟であるオーウェン公爵に至急に連絡を取りましょう」
ローゼルが進言するのを止める者はいない。
「そうだな、隠し通せる事ではない。令嬢を手厚く保護し、ハヴェイ王国に帰れるように協力せねばならない」
トウゴ伯爵は捕らえられ軍の施設で尋問を受けているが、死罪、家督没収だけで済ます訳にはいかない。
ただ、他国の令嬢を拉致し暴行していたとは、公にはできない。たとえ、皆が知っていても。
ハヴェイに送る使者の選考も難航したが、外務大臣自らが名乗り出た。
危険が高い使者の役だが、ハヴェイからも信じてもらえる人物でなければならない。
「なんとしても、戦争は回避で話をして参ります」
数人の兵士に守られて、大臣はすぐに出発した。
「父上、話があります」
会議は休憩に入り、ジルディークが父であるユレイア公爵に声を掛けた。
「レネのことです」
公爵も、レネが功労者の一人であると分かっている。ジルディークと王の執務室から内務大臣の執務室に移った。
ユレイア公爵は内務大臣であるのだ。
「レネをどこかの男爵家に養女に出したい。その後、伯爵家の養女にします」
ジルディークはコーヒーを淹れて公爵の前にカップを置いた。
公爵はすぐにカップを手に取ったが、ジルディークの話を聞いている。
「母上は、レネを愛人とする事を許さないでしょう」
ジルディークは真っ直ぐに公爵を見ている。
「それは、あの子を妻にする布石ということか?
お前には、婚約者がいるだろう。ミズーリ侯爵令嬢」
公爵は反対はしないが、確認をしてくる。
「ミズーリ侯爵は、トウゴ伯爵とは親戚関係にある。
令嬢は、ユレイア公爵家の名で随分買い物をしているようです。」
公爵にも報告が来ているのだろう、驚くでもなく、ジルディークの淹れたコーヒーを飲んでいる。
「簡単には、解消できないぞ」
「その買い物に常に連れている騎士がいると言っても?
もし、我が家に嫁いで来ても、生まれるのは公爵家の血筋の子ではないかもしれません」
ふむ、と公爵はカップをソーサーに置くと顎に手を持っていく。
「ミズーリ侯爵家から、延ばしている結婚をせっついて来ていたのは、そういうことか。
金使いが荒く、男性関係もある令嬢は困るな。
だが、それでレネという訳にはいかんぞ」
公爵家嫡男の結婚だ、孤児のレネなど問題外である。
「レネ自身、私の愛人と思っているのでしょうが、妻にしても問題ない教養はつけさせています。
後は身分だけだ。今回のことで、王家も協力してくれるはずです」
紫の瞳を娘を正妻にする、ハヴェイに対するアピールにはなるだろう。
「それならハヴェイの貴族の娘でも、いいと言う話になる」
「申し訳ありません。レネがいいのです」
ジルディークは、きっぱりと言い切る。
「わかった、だが簡単ではないし、時間もかかる」
公爵もレネは可愛い。
「ありがとうございます」
ジルディークには、レネを愛人にして、別に正妻を娶るなど考えられない。




