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紅く燃えて瞳は夢をみる  作者: violet
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ユレイア公爵邸

公爵夫人と同じ馬車に乗って、レネは緊張のあまり固くなっていた。

「レネ」

そう言って、ロザリーナはレネの髪を撫でる。

「シスターには侍女と言いましたが、8歳の貴女には他の仕事をしてもらいます」

え、と顔を上げるレネは、不安がこみあげてくる。


「あらら、大丈夫よ。

私のお茶の相手や、着せ替え人形になってもらいたいの。

うちは、男の子ばかりで、つまらないのですもの」

ビックリさせてごめんなさいね、とロザリーナが笑う。


「公爵夫人、下働きでもありがたいのです。お嬢様がいらっしゃらなくとも、お身内のご令嬢がいるのでは?」

公爵夫人の女の子遊びなら、いくらでも成り手がいるはずである。

この仕事を手放す気はないが、条件の良すぎる仕事に不安になる。

まだ8歳の子供だ。孤児院育ちで大人びているが、いつも孤児院に来てくれる公爵夫人は大好きなのだ。その人のお世話の仕事が不安より嬉しいが勝る。

「これは、子供しか出来ない仕事だし、レネは私の知っている中で一番綺麗な子供よ」

貴族令嬢をたくさん見ている公爵夫人でも、レネを奇麗と思うのか、とレネは嬉しくなってきた。

孤児院ではいじめられた容姿だが、夫人が気に入ってくれるなら綺麗でいようと思う。


貴族の令嬢より綺麗なレネ。ロザリーナは夫の公爵にもレネの事は報告してある。

母親と思われる女性の身なりは、明らかに貴族のものだった。

身元はとうとう分からなかったが、家名を刺繍したのであろうハンカチを持っていた。


「私に恥をかかせないように、マナーはしっかり覚えてもらい、教養の勉強もしますからね」

「はい」

レネは、公爵夫人の気がすむまでお人形に成るのが仕事と納得した。それは、レネにとって魅力的な仕事でもあった。

勉強が好きというわけではないが、知識や技術を得ることは高い賃金を得やすいと分かっていた。

夫人の侍女をするにも、他の仕事をするにも役に立つはずだ。



やがて馬車は公爵邸に着き、早速侍女の真似事だ。

先に降りて、公爵夫人を迎える。

迎えに出て来た家令に、ロザリーナが仕立屋を呼ぶように指示を出している。

ロザリーナが侍女にレネをお風呂に入れて、部屋に連れて来るように言うと、すでに準備してあったかのように、子供服が出された。


「あの、この服は?」

街を歩く女の子達が着ていたような服よりも、もっと上等だとわかる。

男の子しかいない公爵家で、女の子のドレスがどうしてあるのだろう。

「奥様が、お坊ちゃま方がお小さい頃に、着せようと用意されていたのですが、どなたも着られませんでした」

うわ、着せ替え人形、ロザリーナの言葉がレネの頭の中に甦る。

「私、頑張ります。

お名前を教えていただいていいですか?」

レネがお風呂に浸かりながら答えると、侍女も驚いたような顔をする。

「孤児院からと聞いてましたが、しっかり言葉使いができますね。

私はターニャといいます」

「ターニャさん、これからお世話になります。いろいろ教えてください」

孤児の私でも、お世話をしてくれて優しい人だな、侍女の仕事も教えてもらわないといけないし、この人はレネの紫の瞳を嫌悪していない、好かれたいとレネは思う。


孤児院では、弱肉強食だ。皆で協力もするが、おとなしい子供のままでは毎日の食事で出遅れる。

今までは走り回る生活だったが、ここではそれではダメというのがわかる。

ターニャの手つき、言葉使いをよく見て覚えよう、レネは熱心にターニャを見ていた。


お風呂の後、ドレスを着せてもらい髪をすかれる。

「レネといいましたね。

これから毎日、自分の髪を梳くことを朝の仕事としなさい。この香油を使うといいわ」

ターニャは時間をかけてレネの髪を梳くとリボンで飾った。

レネの髪に艶がでて、サラサラになる。


レネは鏡に映る自分の姿に目を見張った。

孤児院では清潔に暮らしていたが、清貧であった。何人も着古した服を大事に着て継いでいた。

その自分が新しい豪華なドレスを着て、まるでお姫様のようだ。

「ありがとう、ターニャさん」

レネはドレスの裾を摘み、嬉しそうに回ってみる。


「あらあら、可愛い。やっぱり女の子がいいわね」

いつの間にか、ロザリーナが部屋のソファーに座って見ていた。

「ロザリーナ様」

驚くレネを、ロザリーナはパンパンと手を叩いて呼んだ。


「ターニャ、リボンはレースの方がいいわ」

「かしこまりました」

ターニャはレネのリボンを解くと、引き出しからレースのリボンを取り出し、結び直した。


「いいわ。レネ、お庭の散歩に行くわよ」

「はい」

レネが歩くと、背中のリボンが揺れ、それがロザリーナを更に喜ばせた。

ロザリーナが笑うと、レネの心も温かくなる気がして頬がゆるんだ。

誰にも気づかれないけれど、今のレネの瞳は赤くなっていた。


お母さんは知らない。シスターは優しいけれどお母さんではない。

こういうのがお母さんなのかな、レネが憧れても仕方のないことだ。


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