第百十一話
「俺たちはよぅ……B級冒険者な訳よ! 分かるか? B級だぜB級!」
大男三人衆のリーダーなのだろう。真ん中で偉そうにふんぞり返っている男が豪語する。
「お前たちは今登録したばっかりでC級だろう?」
「大変だぜ~? 昇級すんのはよう!」
(……あぁなるほど。大体読めたぞ)
ニヤニヤと白夜たちに詰め寄る大男三人衆。
「だからよう……お前ら俺のチームの傘下に加わりやがれ! これで晴れてB級から始められるな! 感謝しな!」
「こんな上玉見たことねぇ! 嬢ちゃんらは俺が守ってやるよ!」
「ひゃははっ! これから昼も夜も楽しくなるぜ~?」
(だと思ったよ。目当てはうちの女性陣か……また面倒な……)
白夜は今度こそ「はぁ」と大きなため息を吐いて見せ、チラリと女性陣を盗み見る。
「……下衆が」
「……サイテー」
(うわ……見なきゃ良かった……)
このままだとここに死体が三体積まれる結果になりそうだった。
言わずもがなブチ切れ寸前の二人を目にし、白夜は早々とこの場を離れないと大事になると考え、断り文句を切り出す。
「お誘いありがとうございます。ですが俺たちはこのようにすぐに冒険に出るわけではありませんし、すぐに出世したいわけでもないので……お断りさせていただきます」
そう言って手に持った魔法学院の入学資料をヒラヒラと見せ、ペコリと一礼した後、スタスタと出口へと歩みを進める白夜。
「次は魔法学院だな。行くぞ三人とも――」
しかし、白夜がクルリと振り返った時――
「まぁまぁ待ちなって嬢ちゃん!」
「……通れないのですが、退いていただけませんか?」
「俺達と一緒に冒険しようぜ~? あんなヒョロイのよか良いだろ~?」
「……邪魔なんだけど、さっさと退いてくれる?」
「……見事に絡まれているでござるな」
「……アカン」
今まで一緒に旅をしてきた仲なのだから分かる。――二人の堪忍袋の緒が切れかけているというのが。
コウハクは表情こそ穏やかなものの、いつでも風魔法を発動出来るように魔力を纏っているのが分かる。――なぜ相手は気がつかないのだろうか。
イルミナに至っては殺意をかけらも隠していないにも関わらず、目の前の存在は幸せなことに――不幸せかもしれないが――全く気づいていない様子であった。
「ちょ、ちょっとすみません――」
白夜が相手の命の危険を感じ、静止にかかろうとした時――
「いいから俺たちについてこいって!」
「……っ! 私に触れるな! 下衆が!」
しびれを切らした大男がコウハクに無理やり触れようとして、コウハクがブチ切れて風魔法を発動――
「おいおい、いけねえなぁそいつは」
「――っ! いでで!」
――するようなことはなく、大男の手が誰かに掴まれていたのだった。
「お、おいてめえ! なにしやが――」
「あらぁん? あたしたちに歯向かうつもりぃ?」
「――!? な、なんでてめえらがここにっ!?」
「貴方たちは……」
それは大男だった。大男三人衆を止めるのもまた大男三人衆であった。
――もっとも、こちらの大男三人衆には見覚えがある。
「おう兄ちゃん、また会ったな」
「……先ほど門でお会いした冒険者様方でしたか」
この三人衆は先ほど出あった世紀末トリオだった。
「お前ら見たところ学校に行こうとしてんだろ? なら話は早い。こいつらはまだ冒険する気はないってこった。てめぇも無理な勧誘なんかしないでとっとと失せな」
「……っ!」
リーダーの男が三人をギロリと睨む。
三人はその気迫に押されたのか、ビクリと体を一瞬震わせて足を一歩後退させる。
それ以降は潜ってきた修羅場の数が相手とは違うのか、大男三人衆は歯を食いしばり、悔しげな表情をしながらも固まってしまう。
「……チッ! 行くぞお前ら!」
さすがに部が悪いと思ったのか、大男三人衆の頭目が顎で他の大男に指示を出し、三人衆はギルドから荒い足音を立てながら去って行った。
「……はんっ、みっともねえ奴らだ」
「助けていただいて、ありがとうございました」
白夜は蔑みの目で三人衆の背中を見送る世紀末三人衆のリーダーに声をかけながらお辞儀をする。
「いんや、いいってことよ。将来有望な後輩を立てるのは先輩の努めよ」
「おい、俺たちもそろそろ行かねえとやべえぞ」
「あらぁん……せっかくまた会えたのに残念ねぇ」
世紀末三人衆はなにやら慌しい様子で「じゃあまたな!」と行ってギルドの奥へと進む。
「このお礼はいつか必ず!」
「あぁ! まぁ今度一杯付き合えや兄ちゃん!」
「嬢ちゃんたちもまたな。上手く入学できるといいな」
「あらぁ! 楽しみにしてるわねぇん」
最後の言葉に少々寒気を感じたが、白夜たちもさっさとギルドを後にし、魔法学院へと足を運ぶのであった。