第百十話
冒険者ギルド。
多数の冒険者を抱える組織である此処は、時計塔を正面から見て左側に属している四階建ての建物。
古風な酒場のような雰囲気であるこの場所は、普段から多くの冒険者で溢れ、時には談笑、時には怒号が飛び交う賑やかな場所でもある。
白夜達が訪れた今日この日も、ワイワイガヤガヤと賑やかであった。
「おぉ〜木造建築感漂うレイアウト、大剣を背負う大男、鎧に身を包んだ女剣士、可愛らしい服装の受付嬢、正に冒険者ギルドっぽいな〜」
白夜はゲームで得た知識とこの風景がマッチングしていることに関心を覚えつつ、辺りに目を落としながら歩を進める。
「……なにやら怪しい視線が多いですね。警戒を強めなくては……」
コウハクは白夜達をジロジロと見る視線に対して警戒心を高めている。
「まぁ、そりゃ見てくるだろうさ。あいつらは普段から此処に入り浸っているんだろうし、見ない顔が来たのなら物珍しそうに見てしまうのは何も変なことじゃない。ほどほどにな」
「かしこまりました」
白夜はコウハクにフォローを入れておく。
警戒するのは間違いではないが、やり過ぎるのは間違いだろう。
ゆくゆくは同業者となるのだから、あまり悪目立ちはしたくない。
(頼むから大人しくしててくれよ……いきなり風の球とか連射されて暴動になったら……この街に居られなくなるな)
白夜は少々冷や冷やしつつ、歩くスピードを上げる。
白夜達の目的地は――受付だ。
幸い、受付までは何事もなくやって来ることが出来た。
「いらっしゃいませ。ご依頼でしょうか?」
カウンターに立ち並ぶ数人の受付嬢の中で、今手が空いている所へと向かう。
受付嬢は三角の帽子を僅かに揺らしつつ一礼し、何か依頼があるのかと聞いて来た。
「いえ、依頼じゃないんです。俺達冒険者登録がしたいのですが……」
白夜は周りの三人を見渡しつつ答える。
「かしこまりました。冒険者登録ですね。では必要書類の方に記入をお願いします。お持ちいたしますので少々お待ちください」
受付嬢はまたペコリとお辞儀をし、カウンターの奥に体を向け、複数ある棚の内の一つへと手を伸ばし、引き戸を開ける。
「お待たせいたしました。こちらへ記入お願いします。代筆は必要でしょうか?」
引き戸の中から紙を一枚取り出し、白夜の前に広げながら受付嬢が尋ねる。
「そうですね……お願いしてもいいですか?」
あいにく白夜は文字が書けないし読めない。
なので代筆をお願いする他ない。
そう思ってのことだったのだが――
「かしこまりました。では皆さまのお名前とチーム名をお願いします」
「え? それならあた――っ!?」
「――おっと、すみません。埃がついていましたよ」
何やら隣の二人娘が小競り合いをしている。
イルミナが何か言おうとしていた所をコウハクが軽く(多分)小突く。
(……? なにやってんだこいつら……)
「ちょっと!? 痛いじゃない!」
「お静かに……こういうことですから」
「何が――って、なるほど……そういうことね」
二人は最初険悪になりかねないムードであったのに、コウハクがイルミナに対して耳打ちした途端、通常運転に戻る。
「……そろそろいいか? じゃ、名前からお願いします俺の名前は――」
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「――はい。書類に不備はございません。これにて冒険者登録を終了致します。お疲れさまでした」
「ありがとうございます」
白夜は受付嬢に対して一礼する。
「あと、もう一つお聞きしたいのですが、この国に『リンブルダム魔法学院』という魔法学校があるとお聞きしたのですが……」
「はい。国の端にはなりますが、ここから東南の方角にございます。入学をご希望で?」
「はい。もしあるのでしたらパンフレットのようなものがあればと」
「かしこまりました。入学資料がありますので、そちらをお渡し致しましょうか?」
「ありがとうございます。人数分お願いできますか?」
「かしこまりました。少々お待ちください」
そう言ってから受付嬢はまた奥へと姿を消した。
どうやら冒険者組合は教育機関とも繋がりがあるらしい。
やはり冒険の旅に出かける前に様々な知識を学んでから出立する者が多いのだろうか。
やがて奥から受付嬢が資料を人数分用意して姿を現し、白夜たちに差し出してくれる。
「では、あらためまして――チーム“紅”の皆様、ハクヤ様、コウハク様、イルミナ様、ギン様の活躍をお祈り致します」
チーム紅。白夜たちの冒険者チームの名称だ。
各々の共通する特徴として、【紅】があった。
白夜の苗字、コウハクの目の色、イルミナのドレスの模様、狼形態のギンの爪。
ただそれだけだったのだが――
「紅……! かっこいいね~!」
「なんだか強そうな名前でござるな!」
「主人様が統べるチームにふさわしい名かと」
なぜかチームメイトには大絶賛だ。
これには白夜も思わず調子に乗ってしまう。
「だろう? 俺達にピッタリだと思ったんだ」
腰に手を当てて少しふんぞり返り、ドヤ顔を披露する白夜。
「さすが主さまです!」
「さすがハクヤさん!」
「白夜殿はさすがでござるな」
「そうだろうそうだろう! はっはっは――」
「――おい」
その時だった。その大男が背後に突然現れたのは。
身長百九十センチを優に超えるその大男は筋肉がガッシリついており、背中にはグレートソードを背負い、服装はワイルドにも上半身ほぼ裸であった。
(うわ……強そう……)
白夜は思わず布面積の少ないその風貌に身構える。
あの丸太のような腕を振り回されてはこちらが吹っ飛んでいってしまいそうだ。
いざこざは避けておきたいが、相手の真意がまだ分からない以上、警戒しておくに越したことはない。
「……すみません、受付の邪魔ですよね。では失礼します」
白夜はもめ事を避けるべく足早にその場を立ち去ることを選択する。
だが――
「待ちな。お前ら新参なんだよなぁ?」
その大男の後ろに更に大男が二人控えていた。
一人はメイス、一人は片手剣を横に広げ、通せん坊の役目を果たしていた。
「……そうですが何か?」
白夜は聞こえないようにため息を吐き、大男三人衆の相手をせざるを得ないのであった。