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第百八話






「次っ! お前達の番だっ!」


 白夜達は鎧を着た女兵士に連れられ、門の目の前にまでやって来ていた。


「入国理由はなんだ?」


 門の近くに構えている男兵士に質問をされる。


「俺達四人はドンブ村の出身です。村が魔物に襲われたことをきっかけに冒険者登録をしたいと思い、村よりやってきました。これが村長のサインです」


 白夜は男兵士にふところから取り出した村長のサインを見せる。

 ドンブ村の村長に書かせたものだ。

 内容はこの者達の身分を確証するといった内容で、最後に村長の直筆サインが添えられている。――もちろん白夜には読めない。


「ふむ……確かに。ではこれは預からせてもらおう。次に荷物チェックだ。何か国に持ち入れる物はあるか?」

「この花瓶と魔法石くらいですね。魔法石は護身用、花瓶はそいつが好きなんで持って来たんですよ」


 白夜はイルミナを指差しつつ、背負っていた袋の口を開け、花瓶と数個ほど入ったミスリルの魔法石を男兵士に見せる。

 イルミナは「ほ、ほほほ。私のたしなみでしてよー」と下手くそな演技をしている。

 ――正直黙っていて欲しい――と白夜が思っていることを知らずに。


「ふむ……綺麗な花瓶と魔法石だな。他にはないか?」

「えぇ。ありません」

「ふむ……? 金銭は無いのか?」

「あ、それも提示するんですか?」

「当たり前だ。所有している財布も出すんだ」

「……分かりました」


 白夜は懐から皮袋を出して兵士に提示する。


「もちろん全員分ですよね?」

「当たり前だ」

「だ、そうだ。お前達も出すんだ」


 白夜がそう言うと、他の三人も懐から皮袋を取り出して男兵士に提示する。


「これで持ち物は全部か?」

「はい」

「ならばこちらで持ち物と金銭の確認を行う。その間にボディーチェックを済ませるんだ」


 男兵士はそう言って皮袋の中身を確認し出す。

 その間に白夜達四人は女兵士に体をポンポンと叩かれながらボディーチェックをされる。


「……貴方達、特に武器は所持していないのね。最近は物騒なんだから、何か持っていた方がいいわよ」

「忠告ありがとうございます。一応、簡単な魔法が使えますので、魔法石以外持って来ずに丸腰で来てしまいました。国内で何か見繕ってみます」

「へぇ……魔法ねぇ……魔法学院にでも入学するのかしら?」

「まぁ冒険者登録が先ですかね。視野には入れてます」

「そう。冒険者ギルドはこの門をくぐった先、真っ直ぐ進むと噴水のある広場があるわ。そこまで行くと嫌でも目につく大きな時計塔があるから、その左側の建物がそうよ」

「おぉ、ありがとうございます。探す手間が省けました」


 白夜が女兵士と話し込んでいると、金銭の確認が終わったらしい。

 男兵士が皮袋を四つ持ってこちらへと歩いてくる。


「金銭の確認が済んだぞ。しかし……家族に感謝するんだな」


 そう言いながら男兵士が皮袋四つを白夜達に返して来た。


「まさか一人二枚も金貨を持たせるとは……しばらく生活には困らんだろうな。しかもこの魔法石もかなりの物だろう。羨ましい限りだ」

「……えぇ。本当に感謝ですね」






(……危なかった)






 当初の予定だと、魔法学院の学費や生活費を見込み、金貨百枚程度を国に持ち込む予定であった。

 しかし、如何いかんせんその量は多すぎたようで、クロヌスやギンから反感を買ったのであった。――一村人が持っていて良い金額ではないと。

 なので持っていく金額は最低限持っていても怪しまれないような金額にとどめ、残りはメシアに預けて来た。


 聞く所によると、兵器はおろか衣食住に必要な物を買い漁り、国内物資を空っぽにするという軍事作戦もあるようで、大金を所持して入国すると検問で引っかかる可能性が高いらしい。

 そのようなやましい理由など一行には全く無いが、向こう――門兵はそう思わないだろう。

 一村人がそれ程の大金を持っているのはおかしい。

 ならば当然疑われ、取り調べを受ける展開となってしまうであろう。


 取り調べを受けてしまう状況になると、こちらはかなり不利だ。

 もしボロが出てしまい、イルミナやギンの種族がバレてしまうと、魔族を敵対視している国と言うこともあり、早速詰所行きになってしまうかもしれない。

 ――本当に危なかった。


「入国費用は一人当たり銀貨一枚だが……持っているか?」

「すみません……金貨しかないです」

「ならば金貨一枚頂こう。両替の手数料として銅貨十枚頂戴するので……」

「お釣りは銀貨九十五枚と銅貨九十枚でしょうか?」

「……そうだな。少し待っていてくれ」


 兵士は金貨一枚を持って関所へと向かい、両替に向かってくれた。


「……なんかすみません。細かいの持ってなくて」


 銀貨も銅貨も百枚近くとなると、かなりの数だろう。

 白夜は水分を求めてコンビニに立ち寄ったにも関わらず、財布に一万円札しか入っていなかった時の申し訳なさを思い出し、近くの女兵士に謝罪する。


「ん? こちらは両替手数料として、銅貨十枚という正当な報酬を貰っているわ。当たり前のことじゃないかしら?」


 すると女兵士は何を言っているんだと言わんばかりの視線を向けてくる。

 確かに生前はコンビニで買い物するときに釣り銭を貰うのに手数料を取られた覚えはない。

 そう考えると報酬を支払っているのだから謝る必要は無いのかもしれない。


「……ですが、後ろも混んでいますし、ご迷惑かな〜って」

「なにそれ? 入国するのに並ぶことなんて、当然のことでしょ? 面白い人ね」


 女兵士は「あはは」と笑い、白夜もつられて「ははは」と笑う。


(俺は客が並んでいる時に、一品だけ持って来て諭吉出す奴にやるせない気持ちを感じるんだが……こっちでは普通のことなのか? もしくは俺の心が狭いのか……)


「お待たせした。袋は御入り用かな?」


 すると男兵士が帰って来た。

 白夜達が持っている皮袋より大きめな袋に入れて来てくれたようだ。

 貨幣百枚程度ともなれば少々心許こころもとない袋だったので助かった。


「あぁ、お願いします」

「じゃあ袋二つで銀貨一枚だ」


(あぁ、無料サービスじゃなかったのね……)


 男兵士はしてやったりという笑みを浮かべて白夜を眺めている。――上手い商売方法だ。


「……なるほど。それは兵士さんが抜いた銀貨とは別のお支払いですか?」


 なんだか悔しく思った白夜は男兵士に対して少々カマをかけてみることにした。


「……銀貨? 何のことだ? 俺は両替手数料の銅貨十枚を関所に納めたが、それ以外には手を付けていないぞ?」

「鎧の右腰辺りから銀貨がチラリと姿を見せていますが……」

「何っ!?」


 すると男兵士が慌てて自分の鎧の右腰付近にバッと顔を向ける。


「おや? 冗談のつもりだったんですが、その慌て様……もしかして本当に抜いちゃいました?」

「――っ!?」

「あらら……抜いちゃったんですね。お顔にそう書いてあります」


 白夜は顔をちょんちょんと指差しながら少々呆れる。


(まったく……そういうことしてると、信用失うぞ?)


 お釣りをちょろまかす店に行きたくなる客など居ないだろう。

 しかも今回だと銀貨一枚――千円相当だ。

 生前だとバレた場合、間違いなくクビだろう。――クビだけで済めば良いのだが。


「まぁいいですよ。今回はチップ代わりに受け取っておいてください。ただ……そういうこと続けてると、いつか天罰がくだりますよ? 神様って、意外と人のこと見てますから」


 そう言って白夜は兵士の手から皮袋二つを取り、銀貨が入っている方から一枚取り出し、男兵士の手に握らせる。


「はい。どうぞ。袋代です。もう入国しても大丈夫ですよね?」

「あ、あぁ。どうぞ……」


 男兵士は力なく返事を返す。

 白夜は特に男兵士を咎めることなく先へと進むが、コウハク、イルミナ、ギンの三人はじとーっと男兵士を蔑みの目で見つめながら先へと進む。


(案外咎められるより、ああいう視線の方が心に来るんだよな……しかもそれが無垢な子供の物となると……もう悪いことすんなよ)


「ま、待って!」


 すると後ろから声が聞こえて来る。

 その声音は女性のもので、先ほどボディーチェックをしていた女兵士のものであった。


「――? なんですか? まだチェックすることが?」


 白夜はくるりと振り返り、走って来た女兵士の顔を見る。――急いで走って来たようで、肩で息をしつていたので、焦りの念がうかがえる。


「申し訳ない! うちの兵があのような――泥棒と同じことをしてしまった。これはあの者の給金から引いた謝礼金だ。受け取ってほしい」


 そう言って女兵士は銀貨十枚程入った袋を白夜に手渡そうとして来る。


「いや、結構ですよ。あの人が可哀想かわいそうです。返してあげてください」


 だが、白夜はそれを受け取らずに突き返す。

 あれほど面倒ごとに巻き込まれるのは嫌だと思っていたのに早速巻き込まれようとしている。

 これを受け取るとまた何かしら起きるかもしれない。――具体的に言うと、あの兵士の恨みを買ったり。


「し、しかし……あのような――」

「あ、そうだ! 先ほどは絡まれていた所を助けて頂いて、ありがとうございました。冒険者ギルドへの道も教えてもらいましたし、こちらが謝礼金を支払うべきですね」


 そう言って白夜は女兵士の話をぶつ切りにし、銀貨を一枚取り出して呆ける女兵士の手に握り込ませる。


「なっ!? ま、待ってほしい! 無礼を叩いたと言うのにこれを貰うわけには――」

「ん? 貴女から無礼を叩かれた覚えはありませんが……まぁいいです。俺達は急ぎますので。これで」


 白夜はまだ何か言っている女兵士の言葉を無視してくるりと国内の方角へと向き直し、歩を進める。


「――あ、あの! 私はルーレッド・エミリアだ! 街で困ったことがあれば私の名前を出せ! 少しは融通が効くはずだ!」


 白夜はちらりと顔だけをエミリアの方へと向け、右手を上げてひらひらとし、感謝の念を送る。


 こうして一行はようやく人間の国――ヒュマノへと入国したのであった。






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