廃寺院と私
体調を崩しました。
季節の変わり目は気をつけた方がいいですね。
クーリシュ村を出た私は、村長さんが用意してくれた地図と自分の転移マップを照らし合わせ目的地を決めた。
目的地はこの街道を進むとある戦場都市アルバラ。戦場都市という名前ではあるが、現在は防衛都市として機能しているらしい。
私が今いる国はクリシュナ王国という名で王都はロータスというのだが、それは真逆に位置する。
王都はこの世界に慣れてない私では荷が重いし、アルバラを越えた先にある国境都市に行って転移のマーキングだけでもしたいからこっちにした。
徒歩なら三日、馬車なら朝出発すれば閉門までに着くらしい。
ちなみに馬車は村長さんが乗り合い馬車を用意してくれてたみたいだったけど、貯まったお金でオンラインショップの確認とかをしたいから断った。
乗り合いだと狭い馬車内で死角がないから変な事出来ないし、お喋り好きな人でも居たら根掘り葉掘り色んな事を聞かれてボロが出そうだしね。
しかし、このオーラル平原は広い。
王都と戦場都市の間に広がるというこのオーラル平原は、行き来に片道七日かかる遮蔽物が一切ない平原で、たまに小さな泉や川が流れてる以外は何も無い原っぱだ。
あのクーリシュ村は、その行き来の為の中間拠点として作られたとか言っていた。
ちなみに今日はクーリシュ村が出来る前にキャンプ地として使っていたという、廃寺院に泊まるつもりだ。
簡単な塀で囲まれた聖なる女神像が祀ってあるだけの場所で、女神像がある場所から一定の場所はモンスターに襲われないらしい。
旅の野営地として協会が必要そうな場所に建てているらしく、この世界では女神像の野営地は寺院と呼ばれている。これから行くのほぼ使用されず、放棄された寺院なので廃寺院なのだ。
ちなみに人の住んでいる場所は教会と呼ばれ、聖地にあるのは聖堂と呼び方が分かれているらしい。
まぁ寺も神社も区別がつかない私には、この呼び方が正しいのか分からない。
でも八百万の神っていうし、細かい事を気にしたら負けな気がする。
お米一粒に七人の神様、トイレにも神様。
感謝はすれど気にしたらご飯も食べれないし、出るものも出ないんだよ。
くだらない事を考えていたらいつの間にか日が暮れかけていた。日が暮れる前に廃寺院に着きたいのでペースを上げる。
道中はたまに襲って来るホーンラビットを倒しつつ、村長さんが用意してくれたお弁当を食べたりしただけで問題は無かった。
急いだかいもあり、それから三十分ぐらいで廃寺院に到着した。
廃寺院は台座の上に人の大きさぐらいの白い石像があり、木の柵で囲まれた広めの場所だった。体育館くらいあるだろうか?
廃なんて付くから荒れたイメージだったが、よく考えたら荒れるほど物がない。
元が何も無い原っぱだし、魔物が近づかないから柵も像も壊れない。
屋根ぐらいあればいいのにと思ったが、資源や費用と維持の問題だろう。
とりあえず女神像に軽くお祈りをし、念の為周辺に誰も居ないのを確認してから野営の準備を始める。
最初は村長さんの用意してくれたテントを使おうかとも思ったが、誰も居ないならオンラインショップでワンタッチのテントを買って使ってみる事にした。
購入したテントは大きい折りたたみ傘の様な構造みたいで、組み立て方もそんな感じだった。あとはマットや寝袋、小さなテーブルと必要そうな備品をその都度購入していく。
さて。粗方野営の準備が出来たら、本日のお楽しみ!オンラインショップでの酒盛り!
実は酒好きの私があの村にいる間、ろくに呑めなかった…原因はそう!異世界の酒不味い!!何?あのぬるくて臭い水で薄まったみたいなビールは!?
ビールやワインにすら氷を入れたくなるキンキンに冷えた酒好きとしては、ぬるい酒は万死に値する!
もちろん常温や温めた酒も物によっては好きだが、異世界の酒は飲めたものではない。
村では舌の肥えたお貴族様はこれだからってバカにされたけど、居酒屋の生ビールの美味しさを知ってるこっちとしては不味い物は不味いと言いたい。
オンラインショップで買った物は常温、冷温が選べるみたいで設定みたいなボタンで決められる。
確かに冷たいのがダメな人や熱いのダメな人も居るけど、何でそんな所には芸が細かいのだろうかと思ったりもした。
だが、酒飲みには嬉しい制度だ!
私はオンラインショップで試しにビールと焼き鳥に枝豆、唐揚げ…はどうしようかな。足りなければ買えばいいか。
購入画面からニュルニュル取り出して、用意しておいたガーデンチェアとテーブルに並べる。簡単に出し入れ出来るので、ビニールシートとかよりくつろげるしっかりした物にしてみた。
うわっ、椅子から見上げる女神像って不気味だな…
食べる前に何気なく見上げた女神像にSAN値を持って行かれてしまった。
よく考えたら、異世界に来てから独りって初めてだ。
…よし!飲んで嫌な事は忘れてしまおう!
「かんぱーい!」
あ、ビール注ぐコップ!紙コップというかプラコップを買って、7対3の黄金比にビールを注ぐ。
ごくごくゴクゴク…ぷはーッ
う、美味い!あ、焼き鳥温かいなりぃ。
美味しいなー、嬉しいなー。
豪快に焼き鳥を頬張って、冷えたビールで流し込む。枝豆も美味しい。
テンションが上がって、ついついツマミをオンラインショップで探しながらたくさん購入してしまった。
もう久しぶりの美味い酒と愛郷の食事で飲み過ぎてしまった。
もはや最初SAN値を減らして来た女神像は、お酌をしてくれないホステスのヘルプぐらいに見える。
せっかくだからお供えをしてあげよう。
最初はビールにしようとしたが酔ってテンションが上がったのもあって、ちょっと良いお高めのシャンパン開けてグラスまで買って小洒落たおつまみまで並べちゃう。
ちょっと離れて眺め、満足して再度女神像と乾杯して飲み直した。
そこで私の愚痴が炸裂した。
ちょっと詳しい内容は割愛するが、小一時間言っていた気がする。
戦闘チートが欲しかっただの治癒能力も欲しいだの魔法や相棒、現代の生活レベルだの大きい物から小さい物までグチグチ言っていた。
そして気づいたらテントで寝ていた。
どうやら限界が来て寝てしまったらしい。
ちなみに私は何故か意識が無くても寝床に入る習性がある。
若干の二日酔いでグロッキーになりつつもうすっかり明るい外に出ると、ガーデンテーブルの上は相当散らかしてあった。
袋を買ってゴミをまとめ、マイナス査定で費用を取られつつゴミ処理をオンラインショップに任せて片付けを済ます。
ガーデンテーブルとチェアもアイテムBOXに片付けた後、女神像を見ると綺麗だった。
あれ?昨日シャンパンやおつまみをお供えした気がするが、自分で食べて片付けたのだろうか?
不思議に思って近づくと、女神像にビー玉が置いてあった。
ピンクの磨りガラスっぽいビー玉が台座も無いのに、転がりもせずに女神像の足もとに置いてある。
何気なく手に取ると、それはスッと溶ける様に消えた。
「!?」
《スキル・治癒を収得しました》
頭に声というか文字が浮かんだ。
え?スキル?あのビー玉ボーナス玉だったの?
慌ててステータス確認しても、そこには治癒が増えていた。
これは笠地蔵的な事が起きたのだろうか?
女神像を見上げても、ちょっと気持ち昨日より神々しく見えるぐらいしか変化は無い。
「えーっと…ありがとうございます?」
とりあえず女神像様にお祈りをして特に変化も天啓も無かったので、テントを片付けてから朝ご飯代わりのスポーツ飲料を飲んだ。
しばらく女神像側からのアクション待ちをしてみたが、何も無かったので旅立つ事にした。
もう一晩この現象の確認をしてみようかと思ったが、思いの外人恋しくなっている今、日中する事も無くここに留まる気はしなかった。
どうせ転移で戻ろうと思えば来れるし、今は先を急ごう。
お酒大好き!