はだかのお姫さま
「バカには見えないふくを、作ってもらったの。さっそくきてみたのだけど、にあうかしら?」
そう言って、お姫さまは、だいじんに、じまんのすがたを見せつけました。
「ひ、姫さま、いったい?」
だいじんは、顔をまっかにして、下を向いてしまいました
「あら、どうかしたのかしら?」
お姫さまは、そんなだいじんをふしぎそうな顔で見つめました。
「ひ、姫さま、そんなに近づかないでください」
だいじんは、まっすぐ自分を見てくる、お姫さまの顔が、ちょくしできませんでした。
「あら、せっかく、とくしゅな生地で作ったふくで、全身をそろえてみたのよ」
お姫さまは、むねをはり、再度自分のすがたを、だいじんに見せつけました。
「何か、かんそうとかないのかしら」
だいじんはうつむきながら、考えました。
バカには見えないふく? なにそれ?
それが、だいじんのわたしに、見えない?
そんな話、でたらめに決まっている。いや、しかし……。
「ねえ、まさかだいじんのくせに、私のふくが見えないんじゃないでしょうね」
こんらんするだいじんに、お姫さまは、まるでねらっているかのような、おとこのぷらいどをしげきするような一言を言い放ちました。
「そ、そんなこと、あるわけないじゃないですか」
「そうよね、当たり前よね、だいじんなのだから」
だいじんは思い切って、お姫さまをちょくししました。
「っ!」
だいじんはますます顔を赤くし、またすぐにうつむいてしまいました。
だめだ、まともに見れない。
「ねえ、ここに付けてもらったぽけっとがおしゃれだと思うの」
お姫さまはそう言うと、自分のむねのあたりを指さし、だいじんに近づきました。
「ねえ、ちゃんとみてくれてる?」
「っ!」
ひ、姫さま、顔が近いです。それと、むねも……。
だいじんは、はずかしさのあまり、何も言えなくなってしまいました。
「もう、なによ、ぶすいな男ね、ふくのかんそう一つ、言えないのかしら」
お姫さまはそう言うと、だいじんにせなかを向け、どこかへ歩きはじめました。
「も、もうしわけありません」
だいじんは小声で、つぶやきながら、お姫さまに目をむけました。うしろすがたなら、なんとか、ちょくしすることができました。
まさか、うつくしいおひめさまの、こんなすがたを見ることがあろうとは。
だいじんは、ひっそりとそのうしろすがたを目にやきつけました。
「しかたない、ほかの人に見せてくるわ」
お姫さまはざんねんそうな声で、そう言うと、だいじんのいたへやをあとにしました。
――
「……ふう、やれやれ」
ようやくだいじんがおちつきをとりもどすと、お姫さまが向かっていった、ほうこうのことを思い出しました。
そちらには、兵士たちのいるへやがあったのです。
まさか……。
だいじんのあたまを、これ以上ない不安がおそいました。
「ちょ、ちょっとお待ちください、姫さま」
だいじんはいそいで、お姫さまを追いかけて行きました。
だいじんは、せいいっぱい急いで兵士たちの部屋へ向かいましたが、だいじんがついたころには、お姫さまは、すでにたくさんの兵士の前で、じまんのすがたをひろうしていました。
兵士たちも、だいじんどうよう、パニックを起こしているさいちゅうでした。
「ひ、姫さま、いったい何をしてらっしゃるのですか?」
「あら、なにかしら?」
だいじんがこえをかけると、お姫さまは、何のちゅうちょもなく、だいじんの声のする方へふりむきました。
「っ!」
だいじんは、ふたたび顔をあかくしましたが、こんどは姫さまから、目線を外しませんでした。
「姫さま、おたわむれはよしてください!」
「あら、私はじまんのふくをひろうしているだけよ、なにがだめなのかしら」
お姫さまは、かれいに、いっかいてんし、自分のすがたをまわりに見せつけました。
そのすがたのうつくしさ、かわいらしさに、だいじんや、まわりにいた兵士たちのだいぶぶんは、おもわず見とれてしまっているようでした。
「ひ、姫さま、それは、バカには見えないふくなのです。だれかに見せるときには、十分ちゅういされてください」
だいじんは、姫さまにおもいきってちゅうこくをしました
「ここにいる兵士たちは、ほとんどが学のないものたちです。姫さまのふくが見えないものには、姫さまの、だ、だいじなすがたがみえてしまいます」
だいじんは顔をまっかにしたまま、言いました。
しかし、それを聞いたお姫さまの顔は、もっとまっかになっていました。
「ちょっとだいじん、なにを言っているの!」
姫さまは、へや中の兵士たちにきこえる大きな声で、いいました。
「ここにいる人たちは、たしかにべんきょうはあまりしてこなかったかもしれない。でも、だからといってバカだなんて、私は思わないわ」
そう、お姫さまは怒っていたようです。
「兵士さんたちは、日頃命をかけて国を守ってくれているのよ。そんな人たちに、何てことを言うのよ」
お姫さまのねつえんが止まりません。
「少なくとも、私にとっては、とってもだいじなひとたちだわ。だから、だいじなおようふくを、見てもらいたかったの。兵士さんたちのお仕事のじゃまをしたなら、あやまるわ。だけど、兵士さんたちの悪口を言うのは、やめてくれるかしら」
まわりにいた兵士たちは、思わず聞き入ってしまっていました。
「もし、あたまを使うことが苦手だったとしても、それはバカとはちがうわ。こんなすてきな人たちの中に、バカな人なんてきっといない。そう信じているから、私は、はずかしさなんて感じることはないわ」
お姫さまは、まだまだつづけます。
「ううん、兵士さんたちだけじゃなく、この国で働く人、みんながそうだと、私は思っているわ。だいじんだって、いつもこの国のために、がんばってくれているでしょう。だから私は、安心してこのふくを見せることが出来るのよ」
気が付くと、だいじんはうっすら目に、なみだをためていました。
「姫さま……そこまでこの国のことを思っていたなんて……」
まわりにいた兵士たちも、姫さまのことばにかんげきしてしまっていました。
「ふんっ」
お姫さまは、怒ったまま、そのばをあとにし、自分の部屋へ向かっていきました。
「姫さまのふく、きれいだったよな」
「ああ、まったくだ」
「センスがよかったよな」
お姫さまがさったあと、兵士たちはくちぐちにこういいました。
「たしかに、あのポケットかわいらしかったですな」
だいじんまで、こう言いだしました。
お姫さまの、ねつえんに、かんげきした兵士たちは、そのうわさをまわりに伝えはじめました。
そんなに広くないおしろでしたので、じょうないで、はたらく人たちへは、あっという間に広まっていきました。
お姫さまが国を想う気持ちに、王さままでかんげきし、お姫さまをげきれいしました。
王さまは、お姫さまが、そのとくしゅなふくをなんパターンも作ってもらったと話していたことも聞き、毎日きるように、おねがいをしました。
国民を想う気持ちを、そんなかたちであらわすなんて、すばらしいことだとかんげきしていたそうです。
すうじつごには、お姫さまがそのすがたで生活することが、あたりまえになっていました。
『はたらく人たちへのしんらいというかたちで、バカには見えないふくを、なんのはじらいもなく見せている』
それがみんなにも伝わっていましたので、お姫さまのふくが見えなかった人は、そのことを言い出すことができないようでした。
――
「ちょうしにのりすぎた」
ある日、お姫さまは、ひっそりとつぶやきました。
バカには見えないふく? そんなのあるわけないじゃない。
「はぁ……」
お姫さまは、今日なんど目かの、ためいきをつきました。
なんでこんなに、すんなりとみんなが信じてくれたのか、ふしぎでした。
ほんとうは、みんな気が付いていて、私をバカにしてたらどうしよう。
さいきんは、そんなかんがえが、ずっとあたまのなかをめぐります。
ごめんなさい、ちょっとスリルを味わってみたかっただけなの。ほんの、できごころだったの。
お姫さまは、いまさらあとにはひけなくなってしまっていました。
なんで、こんなことしてしまったのか。そのきっかけをふりかえってみることにしました。
――
十数日前
お姫さまが自分のへやで、きがえをしていたときのことでした。
「しつれいします」
ノックとともに、だんせいの声がしました。
「どうぞー」
おつきの女性がついうっかり、はんしゃてきに返事をしてしまいました。
きがえていた、さいちゅうのお姫さまは、入ってきた、男性と目があいました。
お姫さまに、しょうげきがはしります。
「っ! しつれいしました」
男性は、かおをまっかにしながらとりみだし、いそいでとびらをしめました。
お姫さまは、男の人に、そんなすがたを見られたことは初めてでした。
「も、もうしわけありません、お姫さま、もうしわけありません」
おつきの女性のあやまる声など、耳に入らずお姫さまは、自分のむねのたかなりをきいていました。
次の日は、とってもかぜがつよい日でしたが、お姫さまは、あえてスカートで外出をしました。
「きゃっ」
かぜでスカートがめくれたとき、お姫さまは、手でスカートをおさえることはせず近くにいた男性が、はずかしそうに目をそらすようすを、どきどきしながらながめていました。
そして、次の日は、わざと外でころび、ようふくのおしりの部分をやぶいてしまいました。
お姫さまは、やぶれた部分をかくすようなことはせず、しばらくそのまますごしていました。わざとふくがやぶれていることには、気が付かないふりをしてまわりのはんのうを、どきどきしながら、横目で見ていました。
そして次の日も、にたようなことをし、だんだんとエスカレートしていきました。
お姫さまはかんじていました。
みんなが自分と話をするときは、みんなかしこまっています。
お姫さまは、見た目がうつくしく、ふだんはまわりから、ひんこうほうせいに見られていたため、おかたい声のかけかたしか、されませんでした。
自分の前で、だれかがあんなにとりみだし、顔をあかくするすがたなど久しくみていませんでした。
そのこういがだんだんと、くせになって、やめられなくなっていました。
そして、ふと思いついたのです。バカには見えないふくのアイデアを。
お姫さまは、われながらてんさいてきなアイデアだと想いながら、ねりにねった、そのさくを、じっこうしました。
ほんとうは、どこかでだれかにたしなめられ、怒られて、すぐにおわるだけの予定でした。
だれかに怒られることも、お姫さまはあまりなかったのです。
兵士たちのへやでのねつえんは、つい、うっかりというか。
つい、話だしてしまったら、止まらなくなってしまったというか。
つい、調子にのってしまったというか。
――
「お姫さま、おはようございます」
とくしゅなふくをきたお姫さまに、だいじんが声をかけました。
「お、おはよう」
お姫さまは、笑顔でへんじをしました。
へいせいをよそおっていますが、ほんとうははずかしくてしかたがありません。
だいじんの目が、すごく気をつかった目になっています。みんな、ふくがみえないと思われたくないようです。
まさか、王さままで、ふくが見えるふりをするなんて。
お姫さまは、みんなへのもうしわけなさで、いっぱいになりました。
だってだって、みんな、きょりがとおいんですもの。えんりょして、だれも近づいてくれなかったんですもの。だれも、気さくに話しかけてくれなかったんですもの。
そんな気持ちとはうらはらに、おひめさまのなかに、あるかんじょうが、芽生えはじめていました。
「お姫さま、今日もすてきなふくですね」
「そう、いいでしょ、今日はこんなふくもいいと思って」
きゃー、何を言っているのかしら、私。ほんとうは気が付いていたら、どうしようかしら。
お姫さまは、むかしから、スタイルのよさを人知れずがんばって、いじしていました。
ごめんなさい、みんな。そう想いながら、もっとみて、という気持ちも抑えられませんでした。
むねのどきどきが、止まりませんでした。
お姫さまは、めばえている、かんじょうの正体が、はいとくかんだということに気が付くまで、しばらくじかんがかかりました。
おしろをあるいていると、お姫さまは、自分のことをぎょうししている兵士に、気が付きました。
「兵士さん、いつもおつかれさまです」
お姫さまは、えがおでそういいながら、その兵士へ、近づいていきました。
「あ、いや、ど、どうも」
その兵士は、あわてたようすでしたが、お姫さまのむねから、しせんを外しませんでした。
「あら、わたしのふくに、何かついているかしら」
そのしせんに気が付いたおひめさまは、あえてこんなことを言ってみました。
「このあたりについているの? どこかしら」
そういいながら、自分のむねをゆびさしながら、つきだし、兵士に見せつけました。
「い、いえ、お姫さまのすてきなふくに、つい見とれてしまいまして」
兵士は、こんなことを言いました。
そのひっしなすがたを見ると、お姫さまは、こうふんがおさまりません。
「そうそう、このふく、お気に入りなのよ」
そう言いながら、お姫さまは、いぜんのように、かわいらしく、いっかいてんしました。
兵士は、そのかわいらしさに、見入ってしまいました。
「このふりるが、いいとおもわない?」
そう言って、お姫さまは、こしのあたりで手をひらひらとして、兵士に、かはんしんを見せつけました。
「は、はい」
兵士は、きょどうふしんになりながらも、こんどはお姫さまの、かはんしんをぎょうししました。
「そうそう、このふりる、うしろに、ぼたんがついているのもかわっているでしょう?」
そういいながら、こんどは兵士にせなかを向け、おしりをつきだして見せつけました。
兵士は、それをまたぎょうししながら、なんともいえない、しあわせそうなひょうじょうをうかべていました。
「お姫さま、こんにちは」
「お姫さま、今日も、すてきなふくですね」
「お姫さまのふくは、センスがいいわ」
さいきん、お姫さまに話しかけてくる人が、かくだんに多くなりました。
いぜんのお姫さまは、お上品"であたまが良く、そのかわりに、とっつきにくいぶぶんがありましたので、
お姫さまに話しかけてくる人は、だいじんなど、一部の決まった人にかぎられていました。
こんなにたくさんの人たちに、声をかけられるのは、はじめてでした。
そういういみでも、お姫さまはよろこびをかんじていましたので、ほんの少し、こうおもってもいました。
『はだかのお姫さまも、わるくないわね』
お姫さまは、お下品でバカなことをやっていますが、少し、とっつきやすくなったようでした。
よくじつ
「今日も、すてきなふくですね、おひめさま」
また一人、じょせいがお姫さまに話かけてきました。
「ありがとう」
そうえがおで返しながら、お姫さまは自分に話かけてくる人の言うことが、毎回、にかよっていることに気が付きました。
お姫さまのえんぜつに、じゅんすいに心をうたれたひともいましたが、じっさいにきさくに、話しかけてくる人は、『ふくが見えるとアピールがしたい人』『ひらきなおって、お姫さまのはだかが見たい人』が、大半だったのです。
おひめさまは、ふとじぶんのこころがはだかになっていないことに、気が付きました。
お姫さまは、いままで、つねにかんぺきをめざしていました。りそうのお姫さまをめざして、毎日がんばっていました。
しかし、そのがんばりと、きもちとはうらはらに、なぜか人がはなれていきました。
他人に、すきをみせたくない。お姫さまは、いままでそう思ってこうどうしていましたので、そのせいかもしれません。
今は、そのかんぺきさにたえられなくなり、ぼうそうしてしまったお姫さまですが、『はだか』になった今でも、なるべくきれいなすがたを見せつけたい。そうおもっていました。
しかし、そうやってたどりついた先には、お姫さまが、ほんとうにめざすものは、なかったのです。
お姫さまは、ある決意をかためました。
――
「いつまでやっているんだ、あのバカ娘は」
そういいながら、王さまはお姫さまのようすを、ひややかにながめていました。
じつは、王さまは、とちゅうから気が付いていました。
王さまは先日、お姫さまに声をかけたとき、お姫さまの肩に手をおきました。そのとき、たしかに感じたのです、お姫さまの肩のぬくもりを。見えないだけなら、肩のかんしょくが伝わるはずがないのです。
おそれおおくて、じっさいにお姫さまにふれることは、ほかにだれもしていないようすでした。
そこで王さまはれいせいになり、かんさつしてみると、まわりのしせんに、お姫さまが、あきらかにはんのうしていると、かくしんしたのです。
おうさまは、あきれかえっていました。みえをはって、いつまでも気が付かない、しろの人間に。あんなうそに、いっときでもだまされてしまった自分自身に。そして、お姫さまのバカさに。
なにも言わず、しばらくようすをみることにしていたのです。
――
よくじつ。
その日はおしろでだいじなしゅうかいがあり、じょうないの人や、国民もあつまってきていました。
そのしゅうかいのなかで、お姫さまが、国民へ向けて、スピーチをするじかんがもうけられていましたので、王さまは、気が気ではありませんでした。
今日のしゅうかいは、ぶだんのおしろとはちがって、子どもたちも来る予定でしたので、もし今日も、お姫さまが『とくしゅなふく』でくるようでしたら、思い切って、ちゅういしようと考えていました。
しかし、お姫さまは、自分がスピーチをするじかんちょくぜんになっても、なかなかあわられません。
とうとうお姫さまが、スピーチをするじかんになりました。
「おそくなって、ごめんなさい」
いきを切らせてあらわれた、お姫さまはとくしゅなふくはきてきませんでした。しかし、とくしゅなふくをきるまえの、お姫さまがきていたような、うつくしいふくではなく、きじゅつしがきるような、おもしろおかしなかっこうをしていました。
王さまは、ほかのふくにかえさせようか、迷いましたが、じかんがなかったので、そのままスピーチしてもらうことにしました。
みんなの前にすがたをあらわすと、こくみんは、少し、おどろいたようすでした。。
姫さまのおかしなかっこうに対して、というよりは、おそらくこう思っていたことでしょう。
今日は、おひめさまのようふくが見える、と。
「みなさん、こんにちは」
お姫さまの話が、はじまりました。
「今日は、じつは、いつものバカには見えないふくはきてきませんでした。というか、じつは……」
いきなり、みんながいちばん気になっていた、ふくの話になりましたので、国民のちゅうもくが、一気にあつまったようでした。
「私、バカなんで、じつは、私にもあのふくは見えていませんでした」
「だましてごめんなさい、あっはっは」
お姫さまは、手をたたきながら、みんなの前でおおごえで笑いました。
とつぜんのことに、みんなあたまが追いつかなかったのでしょうか。いじょうがあぜんとしてしまいました。
「バカな娘だ、わっはっは」
近くにいた王さまが、みんなにきこえる大声で笑いだしました。
「この、へんたい姫が、はっはっは」
王さまは、大声で、さらにつっこみをいれました。
「そうです、私、へんたいなんです」
そう言って、お姫さまは、国民の前で、おもしろへんがおをし、おどけてみせました。
お姫さまが、みんなの前ではじめて心をはだかにしたしゅんかんでした。
「くすっ」
かいじょうから、小さな笑い声がきこえました。
それをかわきりに、国民は、大声で笑いました。
「わっはっはー」
「なんか、へんだとおもったよー」
国民の心も、そのいっしゅんだけはだかになったようでした。
笑いがひととおりしずまると、お姫さまのスピーチがつづきます。
「ほんとうにごめんなさい、でも、バカって悪いことではないとおもうの。私がいちばん言いたいのは、それ」
国民は、ふたたびお姫さまにちゅうもくしました。
「今まで、私はどう見えていたかしら。おかたい、かしこいおひめさまかしら。 でも、そんなわたしでも、こんなぶぶんがあるの。みえをはったり、いい部分だけを見せようとしても、しかたないわ」
お姫さまは、まるでじぶんにもいいきかせているようでした。
「バカでもなんでもいいじゃない、前を向いて、思い切って生きましょう。みんなも、それでいいと思うわ、だって……」
「この国の姫だって、こんなにバカなんだもの」
お姫さまはそういうと、ふたたびへんがおをひろうしました。
国民は、ふたたび大笑いしました。
その日から、お姫さまがとくしゅなふくをきることはなくなりました。
そのかわりに、へいみんがきるものとおなじようなふくをきていたり、またきじゅつしがきるようなおもしろいかっこうをしたり、今まできていたごうかなふくは、めったにきなくなりました。
また、ある日はちょっとろしゅつの多いふくをきていました。
「ちょっと姫さま、そういったこういはひかえてくださいな」
「わー、また姫さまが、へんたいになったー」
「お姫さま、そのふくさいこうよー、あっはっは!」
まわりのかける声は、あきらかにいぜんとちがっていました。
お姫さまも「いやーん」などと、ふざけたりあくしょんをとったり、わざとおどけてみせました。
「こんなことをされては、おうぞくのけんいが……」
だいじんは、あたまをかかえていました。
しかし、王さまは、まったくべつのことをかんがえていました。
たしかに、けんいをたもつために、かしこいすがた、りっぱなすがたをみせることは、大切だけれど、
一人くらい、したしみやすいバカなおうぞくがいてもいいんじゃないかと、そう思うようになりました。
それ以後、お姫さまは、ちゃんとふくをきていたにもかかわらず、『はだかのお姫さま』と呼ばれつづけました。
――
ある日だいじんが、ふかくけいれいをし、王さまにこえをかけてきました。
「王さま、ごほうこくがございます。おじかんよろしいでしょうか」
その、だいじんのあまりにかんぺきな、とてもおかたい、たちふるまいを見て、王さまはため息をつきました。
「ふぅ……わしも、はだかの王さまをめざそうかな」
そんなことをぽつりとつぶやきました。
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