悪神と最後の祝福
『人の命に価値はあっても、人の時間に価値は無くなった』か。
僕は、ネットに上がっている誰が言ったかもわからない言葉を読みながら、案外あたっているかもしれないなと考える。
機械が人間の代わりに仕事をするようになってから数年が経ち、科学は目覚ましい速度で進歩していた。
僕が誰もいない公園で電子端末をみながらベンチに座っていると。
「こんにちは。少年。今は暇かな?」
僕が振り向くと老人が隣に座っていた。
「そうだね。暇といえば暇かな。仕事も勉強や研究もすべて機械がやっちゃうから。人間はすることがないからね」
昔は、時給というものがあったらしい。
でも、今はそれがない。機械が仕事をしたほうがずっと効率がいいから、人間が働いても文字通り『タダ働き』というわけだ。
「そうか、ワシはもう先は短いからの。最後に一つくらいはいいことをしようと思ってな」
「今時老衰なんて、ありえないだろ。そんなに気になるならさっさと病院にいって若返ってくればいい」
僕はボケたことを言っている爺さんに病院にいくことを強く勧める。医療の発達し、永遠の時間を生きれるこの時代に老衰なんて物好きにもほどがあるだろう。
「そういうわけにもいかんのじゃよ。ワシは人間じゃなくて神だからの」
いったいこの爺さんは何を考えているのだろうか。
あまりにもばかばかしい話に僕は口を開こうとすると。
「それにもう、時間もあまりないようじゃからの」
その神様はそういうと体が半透明になり始めていた。
「どうやらあの機械たちは、ワシの予想以上に優秀のようじゃ。人間の心が解明されるのはあと少しだろう。もう長くは持たないかもしれんな」
老人は何かを悟ったように語る。
「いったい爺さんは何者で、何をするつもりなんだ?」
「ワシは貧乏神じゃよ。今、人の心が分析されていろいろな神が無かったことにされ消えていっている」
「じゃがせめてワシは最後の祝福しようと思ってな」
貧乏神はどこか満足そうな様子だ
「どんな祝福をしてくれるんだ?」
「全ての人間が等しく貧しくなるようにな。これで貧富の差はなくなるじゃろう」
貧乏神は最後に祝福すると、透明になり消えていった。
まだ、僕には最後の祝福が良いものなのかは分からなかった。