もも・まる
長女が猫をもらってきた。生後三カ月ぐらいだろうか。牝の三毛だった。「もも」と名付けられた猫は、翌年、リビングのピアノの下で五匹の猫を産んだ。三か月ぐらいまでに四匹は猫好きの人たちにもらわれていった。残ったキジトラの牝は「まる」と名付けた。
ももはとても賢くて人なっつこかった。お茶目で皆の心をしあわせにした。妻はももを自分の子のように可愛がった。子猫のまるは私のところにきて甘えた。寒い日はフトンの中にも入ってきた。
ももは十三年いて、突然、大みそかの朝早く天国へ逝った。ピンクの花に囲まれて、妻の手から旅だった。
しばらくして、妻はまるを可愛がるようになった。肩をもんだり、腹をさすったり、「まる、まる」と呼んでいるのを聞くようになった。まるも、私のいない時は妻に甘えているらしい。いつだったか、妻の膝の上に乗っているのを、遠くから見たこともあった。
ある日、妻が私に言った。
「あなたが近くにくると、まるが膝から降りちゃうの。きっと、ご主人様に遠慮してるのだわ」
まるは、私に見られてはまずいと思っているのだ。
先日、まるが妻の膝の上でくつろいでいるのを見た。近ずくと、まると眼が合ったが、動かなかった。私の顔を見ながら、
「もういいでしょ」
と眼で言っていた。