今日の婚約者は本音をつぶやく
前作、前々作を見るとわかりやすかも?
登場人物
黒崎 悠人
金持ちのぼんぼん。へたれ に ヤンデレと変態のエキスが混ざっている。一応、腹黒い設定。
白井 詩織 の婚約者。
白井 詩織
名家のお嬢。素はクーデレとツンデレを足して2で割って、天然を足すと出来上がる。猫被り。だから学校では敬語で優雅なお嬢様。たまに猫被り失敗するけど気にしない。
黒崎 悠人の婚約者。
伊崎 雄平
二人の古くからの友人。珍しく、昼飯に誘われて喜んでいた。婚約者はいない、というか随時募集中。女の子大好き。
ときたま願う。
いつか、いつか、心のままに君が僕にそのことを伝える日が来ることを。
だから、一歩、一歩だけでいい。少しずつでいいから前へ進もう。少し痛かったり、辛いかもしれないけど。
きっと未来は明るいから。
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真夏。
じゃなかった、初夏。
といっても30度を超えたその日は特に暑かった。
「あー暑い.....死ぬ......。」
「その意見には同意したいところだけど、それは競技が終わってからにしてほしいな。」
苦笑した悠人に対して、彼の友人はどんよりとした目をこちら見つめてため息を一つ。
「お前、シライさん以外には実は冷たいよな。」
「さてね、さあ行こうか遅刻してしまうよ。」
「ああああ....なんでこんな日に運動会なんだよ。」
今日は、運動会。運動神経は悪くないくせに運動嫌いな雄平の呻き声を背に悠人はクスリと笑った。
由緒正しい家とか権力持ってる家とかの子息令嬢が通うこの学校は、端から見ればお坊っちゃま、お嬢様学校として名を馳せている。
けれども、内部の生徒から言わせてみれば(エセ)お坊っちゃま、お嬢様学校だったりする。その最たるものとして上がるのが運動会だ。
初代学園長の方針として健全な精神は健康な体に宿る的な何かを地でいくこの学校の運動会は、あはは、うふふでは生き残れない。先生は給料アップ、生徒は食堂のスペシャルメニューをかけた熾烈な争いの場なのだ。
そして、なにがどうしてこうなるか知らないが、基本的に運動会は皆はっちゃける。きっと日頃の鬱憤がたまっているのだと悠人は思っているけれど。
『さーって始まりましたぁーーー!!今年もやります!天国と地獄!あなたはどっち?借り物きょーそーー!!』
午後の部、何故かリレーを置いてこれが最後だったりする借り物競争が最もはっちゃけているのはきっと言うまでも無いことだ。
「おい、悠人....現実逃避はいけないと思う。」
隣に並ぶ雄平はどこか悟ったようにつぶやいた。
「いや.....わかっているんだけどね....。」
『さー、今年も入ってますふっつーの面白く無い奴から難題まで!もちろんゴールできない生徒はバツゲームも用意しております♪』
楽しそうに実況する声に殺意が湧いたのは内緒だ。この学校の名物地獄の借り物競争.....それが地獄と呼ばれる原因は
「副校長先生が今使っている.....カツラ。」
『おーっと月組峨峨 優也選手 なかなかに難しいのを選びましたね!!副校長はカツラを取った人に夜な夜な3寸釘の呪いをかけるそうですが...さて大丈夫でしょうか!!』
まず、問題の難易度がおかしい。それに、実況が追い打ちをかけてくる。
『さてさて、お次は星組 荒野 晋平選手、なんか真っ青になって震えていますが大丈夫でしょーか?!さあ、お題の読み上げよろしく!!』
「......今から....女子更衣室にいって、2年5組ぴーーーさんの下着(上)を頭に巻きつけてゴールする...」
きっと真面目な生徒なのだろう、メガネをかけた神経質そうな青年はプルプルと震えていた。
『おお!!きました!!今年度体育委員独断と偏見と欲望によって選んだ地獄のお題!!!ち・な・みに本生徒さんに許可をもらったダミー下着なのでご安心下さーい。』
そう、偶に社会的に残念なことになるお題がある。
それはそうと、隣の雄平を見ると、これもスマホのバイブレーションのようにプルプルと震えていた。
「......大丈夫か?」
「......あはは、おれ いきてかえれるかな?」
「......頑張れ。」
『さーってお次は、花組 伊崎雄平選手!!!さてここまで怒涛の難題が来ましたが彼はどうでしょうか!!』
「......給食のおばちゃんをお姫様だっこしてゴール、そしてそのままチッスする。」
『きましたーーーー!!!給食のおばちゃんシリーズ!!難易度的には簡単なのに何故か地獄と言われ早5年!給食のおばちゃんにとってはお得なレアお題!!』
哀れ、ファーストキスを奪われた(?)雄平は真っ白だ。
そんな彼を傍目に悠人は自分のお題を見て楽しげにつぶやく。
「運がいいのか悪いのか....あとは彼女次第...かな?」
『さてさて、最後はオオトリ雪組 我らが、黒崎 悠人選手!!さて、彼のあられも無い姿を見たいような見たく無いような....、さあ!運命のお題発表です。』
ちらりと見た我らが婚約者はどこか心配そうにこちらを見つめていた。そんな様子に小さく笑って悠人は口を開く。
きっと大丈夫。
そう、信じているから。
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「馬鹿、変態、嫌い、死んじまえ....」
帰り。珍しく悠人の婚約者は迎えの車を要請した。
車内に入った途端、真っ赤になってポカポカと悠人を殴る彼女は可愛い。予想通りの結末に悠人は満足そうに笑った。
「いやあ、ごめんごめん。でも信じてたから。」
「.........馬鹿。」
一瞬固まって、これ以上に無いほど白い肌を赤らめた彼女はそう言ってプイとそっぽを向いた。
借り物競争の結末は、悠人の一人勝ちだった、後に続いたのは、真っ白な灰になった雄平と艶々な給食のおばちゃんペア、3位に涙目の星組選手。最後に、何故か丸坊主になってカツラをぶら下げた月組選手だった。
「........お題が、公衆の面前でお姫様だっこして、ずっと愛の言葉をマイクで囁くって何?最後にキス(長い方)っていじめなの.......もう。」
「いや、でも運が良かった給食のおばちゃんシリーズ(救済措置付き)で。」
じゃなかったらきっと悠人も真っ白な灰になっているところだった。
「嫌い。」
「うん知っているよ。」
どこかホッとしたようにいつものやり取りをする。
慣れたように悠人は軽く笑って答えを返す。
「でもね........。」
突然くるりと振り返った彼女と目があう。少しだけ潤んだ瞳は真っ直ぐにこちらを見ていて悠人は見惚れていた。
「ーーーーーーー」
さっと近づいた彼女が小さく囁く。ふわりと香る薔薇の香りが近づいて遠ざかる。
いつの間にかついていたのだろうか。バタンと乱雑に扉は閉められ、車内には悠人一人。
右手で顔を覆う。きっと今の自分の顔は真っ赤に染まっているんだろう。婚約者以上に。
「これは.....想像以上........。」
嗚呼、どうしてくれようか。我らが婚約者が可愛いすぎる。食べてしまいたいぐらいには。
へたれた狼が、獲物に狙いを定めた獣になったのはきっとキミのせい。
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きっと、これは彼女にとっての小さな一歩。
きっと、これは彼女にとっての小さなイタズラ。
‘私も貴方を信じてた。’
そんな彼女の本音はきっとこれからを変えていく。
どのくらい先かわからないけれど。
悠人さんのお題、なんだったんでしょうね。