第6話 今帰るから...。
次の日!
オレは紙を持って寮を出た
今は何もする気はおきない...。
自分に突き刺さるこの運命!
まだ5パーセントも受け入れられようと出来ない状態でいた。
しかし泣いてばかりいても何も始まらない!
だから泣きながらでも行動しなきゃいけなかった...。
そう。涙だけじゃ明日はこないから...。
本音は今は何も考えたくないのだが、
自分のせいで会社の人には迷惑をかけられないと、
会社に行く前の朝方、紙に今の決意を書き会社に向かっていた...。
会社につくといつもの朝礼をやっていた。
「藤原!早くこっちに来い」
朝礼で話していた所長が、
どうやらオレが遅刻してきたのに気がついたようだ。
『すいません。』
ヒサさんが心配そうにオレを見ている。
ヤノッチは相変わらずオレとは目を合わせようとはしない。
しないんじゃない!
多分出来ないんだな。
そして大さんは、オレを睨みつけている!
大さんは変なとこに真面目だから、
多分オレが遅刻してきた事に対しての怒りだろう。
オレは大さんを睨み返し、
そして、プイッっとそっぽを向いてやった!
そのオレの態度に、かなりイライラしているのが見てわかる。
そう。この人と組むようになってから初めての反抗みたいなものだから。
所長の話が終わると案の定、大さんが側に寄ってくる。
が、その前にオレは所長の前に歩いていった。
『所長!今日をもって、会社を辞めさせていただきます!
いままでありがとうございました!』
所長がビックリしている。
そりゃそうだろう!誰も相談はしてないから、
みんなビックリして当然っちゃあ当然なのだ。
周りを見渡すとやはりみんな驚きの顔をしていた。
ヒサさんはどうした?って顔をしていたし、
ヤノッチもこの時ばかりは驚きの顔を隠しきれない感じだった。
あの大さんすらもちょっと驚いたような顔を少ししているような気がした。
「ちょっと急には無理だよ。藤原!なんとかならんのかね?」
『すいません...。もう決めた事なんで...。』
すると大さんが近づいて来る!
「所長!こんなやる気のない奴なんて、いてもいなくてもいっしょですよ。
なぁみんなそうだろ。」
大さんが大きな声でみんなに言い聞かせるようにしゃべっている。
…はぁ?なんだって?
いつもは人との争いは嫌いなため反抗すらしないで言われた事を全てこなしてきたが、
今日はもうオレの中で何かの感情が弾けた!
…おまえのせいで...。
…おまえのせいでオレの胃はなぁ...。
そう思ったら大さんに向けて口火をきっていた!
『オイ、今なんていった?』
オレの口から意外な言葉があふれでる!
今まで押さえ付けていたその感情それは「怒り」の感情だった!
「あっ?」
大さんだっていきなりオレの臨戦体制に対して刃向かう気でいるようだ!
非情に気まずいムードが事務室にほど走る!
『だから?何だって?聞いてんだよ!』
自分のうまくいかない人生を大さんにぶつけていた!
まるでこの人がオレを胃ガンにしたかのように...。
今日はその8ヶ月分の嫌がらせへの復讐だ!
どうせ辞めるんだし、こんな8ヶ月のいやがらせに比べたら、
オレがここで少し言いたい事言ったっていいだろうと思った!
ホントはこんな事言わずに辞めるつもりだったが、
こんな最後の最後まで向こうから仕掛けてきたのだ!
いつまでも黙ってばかりいるオレじゃない!
オレのあまりの意外な剣幕にあの大さんすらも黙ってしまった。
『やる気のない奴だって
そりゃーオメーの事だろーが!。
毎日毎日仕事だって全部オレにやらせて、口ばっかでウダウダイヤミしか言わねーだろーがよ!
オメーもだヤノ!
友達ヅラしてエグイ事して...
所長!こんな人の心の痛みもわからないような人達と仕事する気はさらさらありませんから!
短い間でしたがありがとうございました』
そう言うと誰にも目を合わさず会社をあとにした...。
みんなオレの方を見ていた...。
まるで悪役かのように...。
キチガイな人間を見るかのように...。
…オレがイジメられてこき使われてんの知らないんだろうな...。
…そのストレスのせいで多分胃ガンになって仕事も辞めてるのに...。
…なんでそんな目でみんなはオレをみてんだ!まったく。
…あんな人の気持ちなんかこれっぽっちも、わかんないような奴でも長生きできんのかな?...。
…あんな友達を平気に裏切るような奴でも、自分の命なんて考えず生きられるんだろうな...。
…神様ちょっと不公平じゃないですか?
…神様なんでオレばっかいじめるんですか?
…神様オレがあなたになんかしましたか?
…神様がいるなら、オレが理解出来る答えをください...。
…愛子、もうお前をまもってあげられん...。
…もう一緒にいろんなとこにも行けん...。
…二人で約束した、じいちゃんとばあちゃんになったら縁側で思い出話をしながら茶をすするのも無理そうだ...。
…そして、マサ!
…お前の授業参観にも行ってやれん...。
…だっこも...。
…一緒にお風呂に入るのも...。
…公園で一緒になって無邪気に遊ぶ事も...。
…もう、あと少ししかしてあげられない...。
…愛子...。マサ...。
…父さんは最低だよ...。
…最低だ...。
『ウッ...ヒック、ヒック..。』
…ホントはもっともっていっぱいやりたい事があるんだ...。
…マサと毎日10数えるまでお風呂に入りたい...。
…愛子とマサといろんなとこに行って思い出いっぱい作りたい...。
………………。
………………。
…普通に...。
…普通に暮らしたい...。
…神様!もう1度チャンスをくださいよ...。
…神様。助けてください...。
…誰でもいいから助けてくれよぉ...。
…助けて...。
気が付くと帽子をまた深く被り寮までトボトボと歩いていた...。
…そうだ電話しなきゃ。
気を取り直して、
オレは携帯を手に取り、
愛子に向けてボタンを押した!
「やっほーたけたん。」
『おぅ....。』
「あれっ!?今日仕事じゃなかったっけ?どうしたの?」
『うん...。まあ...。ちょっと...。』
…はぁ...。
…そんなに簡単に辞めちゃったてはいいずらいけど正直に言わなきゃな...。
『今日仕事辞めて来た...。』
「えっー!!なんで?なんで?なんでーー??」
『精神的なもんかな...。』
「で、どうするの?」
『そっち帰ってからどっかで働くよ。』
「違うよ!いつ帰ってくるの?」
『明日かな?』
「明日?また早いねぇ。体は大丈夫なの?」
………………。
………………。
『うん。まぁ大丈夫だよ。』
「よかったぁ。体さえ元気ならあいたんはそれでいいよ。
でもゴメンね。会社辞めちゃうほど、たけたん悩んでたんだね...。
気付いてあげられなくてゴメンね。」
『ううん!全然!全然!だって...。いや何でもない...』
…これが精一杯だった。
『明日の飛行機の時間がわかったら、またメールする。そして帰ったらゆっくり話すわ。』
「わかったぁ。久しぶりにたけたんに逢えるね!楽しみだね。
たけたん大好きだよ。」
『おぅ...。オレもオレも。』
「えーそれだけー?」
『だって今外だから周りに人いるし、無理無理!帰ったらいっぱい言うよ。』
「ムゥーー!まっいっか。気をつけてね...。」
『あいよーー。』
…やっぱ愛子の声聞くだけで癒されるなぁ。
…早く我が家に帰ろう!
愛子との電話が終わると、
さっきまでの怒りの感情等の高鳴りは随分おさまっていた...。
…大さんとヤノッチにちょっと悪い事したかな?
冷静になって考えると感情まかせに怒鳴ってしまった自分が恥ずかしい。
だが、あの時言った言葉は多分オレの本音だった事は間違いない!
ずっと我慢していたのだ...。
…まぁ言ってしまったもんはしょうがないかな?
そう自分に言い聞かせているうちに寮に着いた。
これからが大忙しだ!
荷物を梱包して、明日には帰らなければいけない。
それにしても、すぐ目からこぼれ落ちるこの水滴はなんとかならないものだろうか?
…愛子にやっぱりホントのことは言えなかったな...。
…オレが自分で侵した過ちなのに、それが原因で一人ぼっちになるのが怖いんだ...。
愛子とマサに捨てられて、後1年か2年後一人で淋しくこの世から旅立つ姿を想像したら、
それはとても虚しく、
とても淋しく!
こんな弱虫で泣き虫なオレには耐え切れない想像だった...。
それに愛してるなんてホントは薄っぺらいただの言葉だなんて思われたくなかった...。
とってる行動からしたらそう思われても、しょうがない事だが、
それでも思われたくなかったのだ。
そう!だって本当に最後まで守りたい人も!
最後まで手を握っていて欲しい人も、両方ともに愛子とマサ!
お前らだけなんだから!
…だから帰ったらちゃんと話そう。
…もうオレはお前ら無しでは生きて行けないのだから...。
…オレは2人さえいてくれたらもう何もいらないよ。
なぜか今更になってこの気持ち!
…大好きだ!愛子もマサも!
オレは1度大好きになって結婚した愛子に、
今日もう1度恋をした!
今更気がついても遅いかもしれないが、
前以上に愛子とマサを愛おしく思った!
すべての片付けが終わり、
ダンボールを家に送り終わって時計を見ると16:00を過ぎようとしていた。
18:00以降になると早い人から仕事を終え、
寮に戻って来てしまう。
そうなる前にリュックサックをしょい、
鍵と一緒にごめんなさいのメッセージをヒサさんのポストに入れ、
寮の玄関を出てもう1度寮を見上げてみた。
…たった8~9ヶ月しかいなかったんだよなぁ...。
…すげー長く感じたな...。
…ヒサさんと向こうで2人でやってた3年半は、すごく、あっ!という間だったんだけどなぁ...。
…ほぼ4年半!この運送会社にお世話になりました...。
そう心の中で言い、誰も居はしないが一礼をして空港の側のホテルに向かった。
オレは1つ家族の元に1秒でも早く戻ると言う決断をし、
仕事を続けると言う選択肢にピリオドをうった。
このまま寮にいたら、朝の事があったから、
みんなオレの部屋に来て、
”どうした?”とか
”会社辞めんなよ。”とか
言われると面倒くさい事になりそうな気がしたので今日は空港の側のホテルに泊まる事にしたのだ。
今のオレには家族と離れて働く仕事なんかは、どうでもよかった。
ホテルの部屋は殺風景でなんか落ち着かない。
まあそれも今日1日だけだと思いテレビをつけると、天気予報がやっていた。
”明日は各地、特に関東近県は記録的な豪雨になるでしょう”
…なんだよ。明日大雨か?
…飛行機ちゃんと飛ぶかな?
…愛子に電話してみっか?
電話をかけるため携帯を取ると...。
…!?
…不在着信が13件?
そりゃそうだろう!
いきなり会社を辞めたのだから...。
元いた営業所から6件!
さっきまでいた営業所から4件!
そして残りの3件はヒサさんだった。
…みんなご迷惑かけてすいません。
今更会社に電話なんてかけられない!
…もう振り返らず、進むんだ...。
会社関係からかかってきた着信履歴は無視して、
明日の飛行機の時間とかの話をするため、愛子に電話をかけた...。
「もしもーし。」
『愛子!明日雨らしいよ天気予報みた?』
「らしいね。」
『飛行機大丈夫かな?』
「飛ばなかったら、明後日でいいんじゃん!どうせ逢えるんだし。」
『まぁそうだな!
でも出来れば早く逢いたいじゃん?』
「えっ!えっ!?なに?たけたんからそんな事言うなんて、めっずらしー!
だから明日大雨なんじゃないの?」
『そんな事ねーよ。ちょっと素直になったんだよ
(笑)』
「あいたんもずっと逢いたかったよ
寂しかったよ!
でも私達の事を想って1年そっちに行ってくれたんでしょ?
だから寂しいけど我慢したんだよ。」
『………………。』
…………………。
『なぁ愛子!!』
「ちょっと待って!!
たけたん!!
なんか大事な事あいたんに隠してるでしょ?」
……………!!!!
…鋭い!!
『えっ!?なんで?』
「なんとなく!さっきからたまに態度がよそよそしい時があるから...。
あいたんが聞いたらショック受ける話?」
…やっぱだてにオレの嫁さんやってないな!
…付き合ってるころから女の勘さえてたからな!
『あははは...どうかな?』
…ショック?受けすぎるだろ!
…受けすぎて最悪離婚+慰謝料+養育費か?
…はぁ、ため息しかでねぇ...。
「わかった!じゃあ明日帰ってきてから聞くね。」
『愛子!オレな、何があってもお前だけが大好きだよ。
お前を泣かす奴がいたらどんなにこわい奴でも立ち向かっていく!
お前が月で泣いていたら、
月まで泳いで迎えにいってやる!
これからはずっとずっと側にいる...。
ずっと、ずっと...。』
「ちょっと、たけたんどーした?
でも嬉しい!
あいたんもたけたんと一緒の気持ちだもん。
たけたんと出逢えたから、こんないっぱいの笑顔になれた!
たけたん以外の人なんかなんの興味もないよ。
ずっとずーーと一緒にいたいね。」
『……うん。そうだな。』
『今日はもう寝るか?』
「そうだね明日になれば逢えるもんね。
じゃあ、また明日ね!
おやすみー。」
『オゥ!オヤスミ!』
…愛子!お前と出逢えてよかったよ。ホント!
…もう残り少ない命かもしんないけど、
…でもその命!オレの残りの命全部!愛子とマサにあげよう!
…生きられる時間は、1秒でも長く一緒にいよう!
…どんな不安でも愛子とマサが側にいてくれれば大丈夫だ!
…はぁ...でも今までも二人の為に生きて来たつもりだったんだけどな...。
…たった1つ!
…たった1つ間違えただけなんだけどな...。
…そう!愛子に言えないような間違いは1つだけなんだけど...。
…それだけなのに...。
…死んじゃうのかな?
…たった1回の間違いだけなのに...。
…死んじゃうのかオレは?
…こんなに大好きなのに...。
…こんなに家族をを愛してるのに...。
…マサはまだ3才なのに...。
…まだ家族の為に家も買ってないのに...。
…まだまだやりたい事はいっぱいあるのに...。
…死んじゃうのか!!
『なんでだよーー!!』
『誰か助けてくれよぉーー!!』
『いやだぁ!!なんでオレなんだよ!』
『死にたくねぇーよー!!』
『誰かぁ...。』
1人の男の叶わない願いがホテルの部屋にこだましていた...。
オレの運命の悪戯はこれでもう終わりだと思っていた。
もう充分だと思っていた!
これ以上の不幸なんてある訳無い!
そう思っていたんだ!
しかし崩れ出した歯車はとどまる事を知らなかった!
…どうしてオレだけ?
…神様答えてくれよ。
…なぁ...。
…オレはそんなに強くないよ...。
…神様そこらへんわかっていますか?
…こんな人生の高いハードル越えられないよ...。
…ねぇ神様...。