第5話 残りの宣告!
今年ももう終わりの冬の季節が来た。
やっと大さんとの相方もなんとか耐え、8ヶ月がすぎた。
そう今は10月!
あと地元の営業所まで帰れるまで2ヶ月を切った!
愛子の誕生日に浮気をした後、
オレは罪悪感からか、いつもは買わないプレゼントを買って、愛子に贈った。
買ったのはGーSHOCKのラバーズコレクション!
ペアーウォッチだ。
お揃い系のプレゼントをあげるのはドッグタグ以来で、
黙って送った愛子の誕生日プレゼントは2日遅れで届いたようで、かなり喜んでくれた。
こんなんで許してもらえる事ではないが
オレからお詫びを込めた精一杯のプレゼントだった。
仕事の方は、大さんはこう言う人なんだ!と割り切って、
あまりイライラさせないように気を使いながらボチボチやっていた!
でもやっぱり胃薬だけは必須品だった。
最近は胃薬の、のみ過ぎのせいか、
薬を飲んでも飲んでも胃の痛みが消えない時が多々あった。
でも弱音なんか吐く訳にはいかない!
そうオレは強くならなきゃいけないのだから!
今日も仕事の予定だったが、
こないだ会社で受けた健康診断でどこが悪いか知らないが、
再精密検査!
と引っ掛かったため今は病院に来ている。
別に心配するほどの事ではない!
だって毎年、尿酸値や他いろいろで検査を受けるのはよくあることだから...。
で、だいたい食生活を変えるようにと、医者に怒られ毎年精密検査が終わる。
今回もそんな感じの事だろうと自分の中では安易に考えていた。
「藤原さん、3番の中にどーぞー。」
…あー毎年毎年、なんで検診で引っ掛かるかなぁ?
…まったく面倒くさいよ!
そんなふうに思いながら扉を開けて中に入った。
『あっどうも...。よろしくお願いします。』
こうしていつも通りの再検査の始まりだ。
やはりちょっと太っていることで医者からいろいろ言われる始末!
そしてなんだか気まずそうに医者が出したのは検診の時に撮ったレントゲンの写真だった。
…ん?
…今年はまた悪いとこ増えたのか?
「藤原さん。今回精密再検査に呼んだのは2つありまして、1つはこれ見えますか?」
医者はレントゲンの胸の辺りを棒で指している。
…ん?なんだ?
「ここに影みたいな物がみえるでしょ?」
『はぁ...。』
「これまだ確実ではないですが腫瘍ですね。多分悪性の方だろうと思います。」
…悪性腫瘍?
…悪性腫瘍っていえば、あれじゃんか...。
その医者から出る意外な発言に今まで適当に聞いていたが、
ビックリして目を丸くして先生を見つめた!
そう!オレは悪性腫瘍の意味を知っているから...。
『先生!まさかオレがガンって事ですか...?』
……………。
……………。
……………。
……………。
「えぇ。でもあなたの場合早期発見なので大丈夫なのですが...。」
『ですがなんですか?』
無意識的に声が大きくなる。
「こっちの検査ももう1回詳しいレントゲンの写真を撮る時に一緒に受けてほしいんですよ。」
…??
出された紙はHIVウィルス検査同意書と書いてある。
…HIV??
…エイズの検査って事か?
『先生!!』
「あなたは3ヶ月以上前に異性と交遊を持った事ありますか?」
『えっ?えーと。2秒くらいしか中に入れてませんけど...。』
「はぁ...。あるんですか。まぁとりあえず検査を受けて両方の結果が出るのは2時間後ですから、それまでこれでも読んでいてください。」
渡されたのはHIVとエイズに関する本みたいな物だった。
オレは前より詳しいレントゲンの写真を撮り、
HIVの検査も受けた。
そして待ってる間先生から貰った本をひたすら読んでいたら、
もの凄い記事がある!
「フェ●チオ等でも口内にキズ等があったりすると感染することがあります...。」
…えっそうなの?
先生からHIVの検査を受けてくれっていわれても、
たった2秒くらいしか入れてないし
大丈夫なはずと思っていたオレには衝撃的な記事だった。
…なんだよ。普通にオレも感染する可能性結構ありありって事かよ?
しかし記事には続きがあり、
「感染の確率はかなり低く1パーセントを切ります!」
その記事にホッと肩を撫で下ろした...。
…1パーセント以下か?
…パチンコで言うと絶対当たらないリーチみたいなもんだな。
そう自分に言い聞かせ平常心を保っていた。
そうじゃなくても、ただですら胃ガンじゃないかと言われているのだから...。
病気のダブルヘッダーなんか勘弁御免こうむる!である。
まぁこの時はまだ胃ガンだけで手術か薬か何かで普通に治って、
元気にまた普通にやっていけるものと安易に考えていた...。
「藤原さん中へどーぞ。」
「藤原さん結果が出ました!」
『はぁ...どんな感じですか?』
「結果は陽性ですね...」
…陽性?なんじゃそりゃ?
『先生!陽性って?』
「言いにくいのですが、感染してるということです。」
…ははは。この先生!真面目な顔して面白い冗談を言う!
…だって確率1パーセント以下だろ?どうやっても当たらんだろ?
…マジなのか?
…なんでこんな真面目な顔で話をしてるんだこの先生は。
…オイ!
『先生!マジなんですか?』
「…………………。」
『だって確率的には、1パーセント以下って先生くれた本にかいてありましたよ!』
必死に否定していた!
…そんないきなり言われても現実味が無い!
…だって今のオレは元気だ!
…胃が痛いのも前からでそんな変な事じゃない!
…でもHIVって...。
とっさに頭によぎったのは「死」の一文字だった。
「大丈夫です!今は薬も進歩して一生HIVからエイズにならない人もたくさんいますから。」
先生から出た言葉は何も慰めにもならない一言だった...。
…まさか...。
…ひょっとしてオレは死んじまうのか?
そんな非情な事自分から聞けず椅子に座ったままガックリ下を向いていた...。
「藤原さん。当院で手術して、入院して治療を受けていきますか?」
『………先生...。
………オレは死んでしまうんでしょうか?』
精一杯の力で口を開き先生に質問をぶつけてみた。
「そうならないように、当院としても最善の努力をするつもりです。」
…違う!そんな事を聞いてる訳じゃない!
『先生!真面目に聞いてるんです!
胃ガンでHIVになった場合、オレは後何年生きられるんですか...。』
「……………。」
『先生!!!』
「一概にあまり前例が無いのでなんとも言えませんが、免疫が弱くのを考えると1年~2年くらいではないかと...」
『あっそうですか...。』
そう言うと診察室を出た...。
「ちょっとー。藤原さーん。ちょっと待って!」
後ろから先生の声が聞こえる!
オレはもう聞く事さえ聞いてしまえばもうここの病院に用はなかった...。
一番最悪の結果だった...。
余命 1~2年...。
…最悪1年後には死んじまうって事か?
病院から帰る帰り道外は雲一つない青空だった
が、オレの周りはすべて暗黒の闇の世界で覆われていた...。
そのまま海を見に一人で海岸に向かっていた。
何も考えたくなかった...。
何もしたくなかった...。
ただただ海が見たかった...。
なぜそう思ったかわからないが、
人が誰もいない所に行きたかった...。
「お客さんどちらまで...。」
『どこか海岸まで...。』
「どこの海岸ですか?」
『どこでも。人がいなそうな所でお願いします...。』
「はいわかりました。」
タクシーはオレ一人を乗せ、海を目指して走り始めた。
海岸に着くと冬の海は淋しく、
まだ3時過ぎだと言うのに若干、日が傾き始めていた。
…広いなぁ海は...。
オレは海しか見えない砂浜の海岸で一人座り、
膝を抱え何も考えず下を向き続けた...。
1時間くらい下を向いていただろうか?
目はいっぱいに腫れていた...。
…帰るかな...。
オレは寮まで10kmある距離を1人でゆっくり歩き始めた...。
いつもは逆に被る帽子を今日だけは普通に被り、
さらに深く深く帽子を被った...。
そう他人から目が見えない用に深く深く...。
そうやって地面だけを見ながらゆっくり歩いた...。
なぜかオレが歩いた後だけ、地面に、ポツンポツンと雨が降っていた...。
寮に帰って来ても食欲なんてわくはずも無く、
そのままベッドに潜りこんだ。
…帰ろう...。
…家族の元へ...。
…オレの生き甲斐の家族の元へ...。
…帰って正直に話そう...。
そう心に決めてこの日は眠りについた...。