第1話 選択ミス
『ただいまー』
今日もスーツ姿でいつも通りのご帰宅だ。
「あっ!おかえりー」
「パパおかえりなしゃい。」
『オー。マサ帰ったぞー。愛子帰ったぞー。』
結婚して3年が経った。
初めは愛子もこっちに来てホームシックな感じだったような気がしたが、
じき慣れたようだ
そして何より子供が出来た!
名前は将。
将軍のように立派で強い人間に育ってほしいといろいろ画数も考慮して名付けた名前だ。
今はまだ2才半!
これでもかってくらい元気で毎日手を焼いている。
前まで他人の子供を見ても、やかましい!うるさい!
としか思えず自分の子供がお腹にやどった時、
オレは自分の子をちゃんと愛せるんだろうか?
なんて思ったこともあったが
生まれて来てビックリ!
可愛すぎて、毎日寄り道もせず会社から原付きをフルスロットルで家まで帰るようになった。
寄り道?パチンコ?
イランイラン!
マサと遊ぶのが1番大事!
そんな感じである。
またマサが生まれてオレの守らなきゃいけない人が二人に増えた瞬間でもあった...。
『愛子先フロ入るぞー!マサ来い。パパと一緒にお風呂入るぞ。』
「パパーーー。」
…なんて可愛いんだ。
我が子ならみんな目に入れても痛くないと言う。
マサが生まれてくる前は、
何をバカな事を。
と思っていたが、
マサが生まれた今はオレもそんなみんなの一員!
いってる意味をよく理解した。
『ふぁー気持ちいいなぁ』
「パパ、アツュイよ。」
『大丈夫だよ。ほら。』
【ボチャン】
「ホントだ」
…あー毎日が幸せだ。
…幸せすぎて幸せな事を忘れてしまうくらい。
…幸せすぎてこれがあたりまえと思うくらい。
…幸せだ。
…でもこの後愛子に報告しなきゃいけない事があるんだよな...。
『はぁーー。』
思わずため息が出てしまう。
そう、それは今日の夕方の話だった。
『ヒサさん今日も疲れましたね。』
「そっかぁ?楽勝でしょこんくらい(笑)」
『だってヒサさんオレに荷物いっぱい持たせるからでしょ(笑)?』
「そんな事ないよ。
オレよりちょっとフジの方が持つ量が多かったんじゃん?
いいじゃん!美味しいラーメン食べたんだから、
動け動け!!」
『あーヒドーイ。』
二人はトラックを下りて事務所に向かいながら笑顔で話していた。
就職してオレのあだ名も大学時代のタケからフジに変わっていた。
オレが勤める会社は運送屋さん!
トラックで1日二人で一緒に行動する。
物量が多いせいだろう。
この仕事を一人でやったらかなりキツイ事になるのは間違いない!
オレがこの会社に入ってオレに1から仕事を教えてくれた先輩がヒサさんである。
今もオレの相方だ。
初めは気が合わない人だったらどうしようとか思い、
すごい緊張し胃を痛くした事もあった。
だがそんななんにもわからないオレに、怒らず丁寧に教えてくれて、
今じゃ昼の休憩中に美味しいラーメン屋を探すくらいの仲になった。
話もすごく合い毎日MDをFMトランスミッターで飛ばして、
トラックで爆音で聞いている。
『ヒサさんウーハーほしいですね』
「そうだなもうちょい重低音ほしいよな」
なんて話もしていた。
ヒサさんが相方でよかったと最近常々思う。
なぜかって?
それはこの人だとストレスがないからだ。
1日トラックの車内で密室状態でいるのが時間の大半の仕事!
気が合わない人だと気を使ったり、無言になったりとすごいストレスになるのだ。
でも逆にヒサさんが相方で困った事もあった!
それは毎日美味しいラーメンの食べ過ぎで体重が6KG増えてしまったこと。
これには愛子にも腹を摘まれ、
「何これ?プーさん?」
と言われる始末だ。
でもまぁそれ意外は全然問題無しなので、贅沢な悩みと言えよう。
【ガチャガチャ】
二人して仕事を終え事務所に入ると、
待ってましたと言わんばかりに上司が駆け寄ってくる。
「ちょっと二人とも話があるからこっちに来てくれないか?」
…何だ一体?
ヒサさんの顔を見てもヒサさんも何だかわからないような顔をしていた。
『ヒサさんオレまたなんかミスしちゃいましたかね?』
「いやーそんな事はないはずなんだけど。」
二人の足取りは重たかった。
それは、この上司に呼ばれる時はだいたいロクな事が無い!
1ヶ月前もオレのミスでこうやって呼び出され大目玉をくらったばっかりだ。
「まぁ二人共そこに座って。」
上司の顔は前と違い今日は怒ってはいないようだ。
ホッと肩を撫で下ろした。
「あのさ●×営業所で欠員がでてさ
ヒサお前は愛想がよくて営業がうまいだろ。
フジお前はトラックの運転がずば抜けてうまい。」
…なんだ何が言いたい?
嫌な予感がした。
「ヒサとフジで●×営業所に1年行ってくれないか?」
…やっぱり...。
「もちろんただとは言わない。
1年終って帰って来たら管理職にしてやる。
ヒサお前なら2階級
フジお前なら3階級飛ばしていきなり管理職だぞ。」
『ヒサさんどうします?』
全然結論がでそうもないのでヒサさんに質問をふってみた。
すると意外な返答が。
「まぁオレは行ってもいいかな?」
意外だった。ヒサさんも奥さんがいるから嫌がると思っていたのに。
『エーーマジッすか?』
間髪いれず上司が口を開く。
「おまえらなぁ、管理職になったら今より給料10万以上あがるんだぞ。
それに向こうには独身専用の社宅寮があるから
部屋はそんなに広くはないがそこでよければ
家賃はただ!
電気代もただ!
フジのかみさんも1年我慢して給料が10万増えたほうが喜ぶとオレは思うぞ。」
…さてどうする?
…でも愛子とマサと1年離れ離れかぁ...。
…でもな1年我慢したら給料10万UPで定年まで安定か。
…あーーーー!マジどーしよー!!。
…でもヒサさんはもう行く気だもんな。
…ヒサさんが行ったらこれから全然違う人が相方かぁ?それはそれでウザイよなぁ...。
…よし!決めた!
『じゃあ 1年だけでいいんですよね。』
苦渋の選択だった...。
オレは愛子とマサと常にいれることより、未来を見て1年離れる選択をとった!
また相方が変わる事を面倒に思い回避するために選んだのも理由の半分かもしれない。
1年後は給料が上がる。
1年我慢すれば管理職になって愛子が喜んでくれる。
そう自分に言い聞かせ、出した結論だった。
だって本当のオレはずっと愛子とマサの側にいたいのだから...。
と今日こんな事が会社であった。
『愛子~。マサお風呂から上げて~。』
「はいはーい」
すっかりママになった愛子が飛んでくる。
「パパは?パパ~~。」
『マサ。パパはお腹痛いからトイレだよ。』
…もうちょっと一人で考えよう。
そう思い、裸のままトイレにこもった。
…どうやって伝えればいいんだ?
トイレで悩んでも答えは出ずせっかく温まった体が冷えるので居間に出ることにした。
テーブルにはオレのご飯が用意されている。
愛子はというと隣の部屋でマサを寝かしつけていた。
オレは部屋着に着替え、一人でご飯を食べながら愛子が来るのを待った。
「たけたんお待たせ。マサなかなか寝てくれなくてさ。」
『オゥおつかれさん。』
愛子はオレの顔を覗きこんでいきなりとんでもない事を言った。
「たけたんどうかした?まさか浮気でもした?」
『ウグッ!?』
食べていたご飯が驚いて丸飲み状態で喉に引っ掛かり危なく窒息死するとこだ!
…なんだいきなり?
どうやらなんなオレがそわそわしてるのに気がついたらしい。
…これが女の勘ってやつか?
…まったく恐ろしいな!
俺も今日あった話ずらい話を話す事にした。
『実はさ、●×営業所で欠員がでてさ、1年オレとヒサさんが単身赴任でいかなきゃいけなくなってさ...。』
「えっ?マジなの?」
『ウン...。
マジっぽい...』
「いつからなの?」
『1週間後かな...?』
「エーー!すぐじゃん!愛子やだよ!1年も離れたくない。側にいてよ。」
やっぱり反対されてしまった。
っていうかそう言われるんじゃないかと思っていた。
『でも会社の命令だし。1年行ったら管理職になれて給料も10万UPするし、
そしたら定年まで安定じゃん!
なにも一生離れ離れになるわけじゃないんだからさ。』
「そうだけど...。たけたんが決めたの?」
『愛子とマサの将来を考えて決めた!』
「そっかぁ。じゃあしょうがないか。
愛子もがんばらなきゃね。
そのかわりたけたん浮気なんてしたら死刑だよ。死刑!。」
…愛子顔は笑ってるけど目はマジっぽいぞ。
…こりゃ浮気したら刺されるな(笑)
『するわけねーじゃんか。明日から単身赴任する1週間後まで上司の計らいで休みもらったからいっぱい遊びに行こーぜ。』
「えっ?そうなの?じゃあねディズニー行きたい!!」
『オゥ。行こう行こう!』
…愛子は無邪気に喜んでいるが本当は嫌なんだろうな...。
…結局単身赴任を決めたもう半分の理由は言えなかったな。
…ヒサさんと別れて違う相方がいやだからさぁ、なんて言えるわけない!
少しだけ罪悪感のような、自分の心が傷をついたような感覚を覚えた...。
…愛子、マサごめんな。たった1年だからな悲しくても淋しくても頑張ろーな!
離れ離れになることを頭で理解し1年耐え抜くぞと決意した寒い寒い冬の夜だった。
次の日から1週間久しぶりに遊びまくった!
ディズニーも行った。
マサに
『ディズニーランドだぞ。誰に会いたい?』
と聞くと、
「ミッキーしゃんとアンパンマン」
…アンパンマン?
…アンパンマンはいないだろ(笑)
そんな感じで朝から晩まで遊びまくった。
久しぶりにサーキットにドリフトにも行った!
愛子のお父さんとの約束で180SXは手離すとは言ったものの、
やはり手離す事が出来ず持っていた。
愛子も乗っていた方がいいと言ってくれたため、ずっと乗り続けていた。
学生時代はお金もなく、ボロボロでバンパーなんかぶつけては穴を開けてタイラップで縫い、
フランケンの顔のキズの縫い跡みたいな跡がいたるとこにある感じだった。
車番適当手術って感じだろうか?
まさに痛々しいとはこの事だ
あの当時は走れればそれでよかった!
どーせぶつけるからとか、前のドリしてる車をドリしながら撃墜してやる!
なんて事を考えている仲間の集まりだったから車がボロイほど熱い走りをしてる証!なんて感じで走っていた。
遅いと後ろから、あおられプレッシャーに耐え切れずスピン!
そして後ろに走ってた車と身内同士で正面衝突(笑)
そんな事もあり当時はフェンダーやボンネットバンパーの色が解体屋さんから適当に集めてつけてたから色もばらばら!
もしかしたらこんな車だったからお父さんが危険と思って180を売れって言ったのかも知れない。
そんな180SXもオレが就職してちょっとお金にゆとりが出て来たので今じゃ綺麗なスーパーカーだ。
そんなに裕福ではないが限られたお小遣いの中で、
ヤフオクやいろんなネットを使い、
安く部品を買っては、ちょこちょこ改造して楽しんでいた。
また愛子もその事を反対もせずにいてくれる、よき理解者だ。
そんな所も愛子の大好きな所の中の1つである。
サーキットに行くようになり変わった事が1つあった!
それは愛子もドリフトするようになった事!
これはちょっとと言うよりかなり意外だった!
「ねぇ、愛子でもドリフトできるかな?」
『そんな難しくないと思うけど、やってみるか?』
「うん!やるやる!」
こうして愛子もドリフトの魔力にドップリ浸かってしまったわけだが、
マサがいるからオレが横に乗って教える事が出来ない愛子は我流で走らなきゃいけない訳で、
勢いがよすぎるのか、度胸があるのかわからないが直したばっかのバンパーを毎回割って帰って来るのは勘弁してもらいたいものだ。
そんな愛子は
「ごめーんまた割っちゃった。テヘッ(笑)」
…そんな笑顔で言われたら怒るに怒れないじゃんかよ(笑)
『ははははは...。まぁしょうがないんじゃない。』
もう苦笑いだ。
「たけたんね、あとちょっとなんだよね。後ちょっとで何となく掴めそうなんだよね」
…ははは後ちょっと?
…さっき土手上りかけてたのに大丈夫かよ
…これは後ちょっと掴むのにオレのバンパーが粉々に粉砕するのが先か?
…車が土手登って空飛ぶのが先かどっちかだな(笑)
…どっちにしても金がかかるぞおい!
「たけたん!さっきねマサがねパパ見て、パパカックイイ!カックイイ!って言ってたよ。」
…えっ?マサが?
『そりゃうれしいな!』
『オイ!マサ!お前も大人になったら教えてやるからな!』
嬉しくてマサの頭をいい子いい子してやった。
この日はタイヤのワイヤーが出るまで走った!
タイヤの何分山?でいうとマイナス2分山って感じかな?
『タイヤ変えてる暇ないな。今度帰って来たら変えるからそれまで危ないから愛子運転すんなよ』
「乗らないよだって愛子にはワゴンRちゃんがいるもーん!」
オレも愛子もクタクタだったが1番疲れたのは180ちゃんだろう。
…今度いいオイル入れてやっからな!
そう180に心で呟きながらハンドルをたたき、帰り道を帰った。
こんな感じで楽しい日々は瞬く間に過ぎていった。
なんでだろう?仕事してる7連勤ってやたら1日1日が長いのに、
遊んでいるとアッ!という間だ。
1日の時間が短くなってる訳でもないのに不思議なものだ。
そして1人暮らしの荷物を買ったり、
正月いけなかった初詣を27日遅れで行ったりしてたらすぐに旅立ちの日はやって来た!
1/30 羽田~××行 13:15発!!
この飛行機に乗るため3人で空港に向かっていた。
向かう途中普通に話してはいたが、なんとなく空気は重かった...
原因は解ってる!
オレのせいだ...。
オレだって行きたくないさ!行きたくて行くわけじゃない!
やっぱ1年会えないと考えると気分は、めいるばっかりだった...
「はぁ...。寂しいね」
『そうだな...。』
会話が続かない...。
「パパみて!ひこうき!ひこうき!」
…マサ、オマエだけはいつもと変わらず元気いっぱいだな(笑)。
…ちょっとだけその元気をわけてくれよ、マサ。
そして空港に着き、荷物を預け、ゲートの前で別れの時が来た...。
『じゃあ!いってくるわ...。』
「うん...。」
「パバどこ行くの?」
「パパはちょっとお出かけなんだよ、マサ。」
「ヤダー!!マサも行く!」
だだっこするマサを愛子がなだめる。
「マサ!いい加減にしなさい。」
「パパー!パパ、パパ、パパ~~!」
マサが泣いている...
『マサ、ごめんな!でもまた会えるから!』
そして愛子の方をみるとさっきまで普通だった愛子が目を真っ赤にさせていた...
『どうした?泣いてんのか?』
「だってやだもん!!
ホントはやだもん!!
離れ離れなんてやだもん!!やだよぉ~~。」
何かが、はち切れたように泣きながら言っている。
…オレはこの二人にこんな悲しい思いをさせてまで行く意味あんのか?
…二人を守るじゃなかったのか??
…行くのやめるか?
この時オレの前には運命の2つ扉があった!
このまま単身赴任に行って後で楽をさせてあげる代わりに1年間寂しい思いをする扉!
単身赴任はやめて、今まで通りの給料で3人でボチボチやって行く扉!
オレは思い切って片方の扉を扉を開けたのだ...。
『愛子...
泣くなって。向こうにいっても毎日メールするし、離れていても心は1つだから』
そう言って振り返りゲートの方へ歩いて行った。
1回だけ振り返り手を振って...。
視界からだんだん小さくなる二人を見ていたら涙がこぼれそうだったから、
だから1回しか振り返れなかった...。
愛子がさっきヤダっていってくれたのが神様がくれた最後のチャンスだったのかもしれない!
でもオレは2人を置き去りにして1人で行くという運命の扉を開けてしまった...。
そう。オレは間違った扉を開けてしまったのだ。
不幸せな人にはいつか幸せが来るってよく聞く。
でもこの場合は真逆である。
幸せすぎたから、こんな辛い未来が待ってるのだろうか?
この時のオレは離れ離れになる事がオレにあたえられた試練だと思っていたんだ...
しかし神様は2人を守るって約束を破ったオレにつき出した試練は、こんな優しい物ではなかった。
そうオレが開けた扉は、
辛くて、
悲しくて、
どうしようもできなくて、
もがき苦しむ扉!
そんな事が待ってるなんてまだ知らないオレは、
暗くて前が見えない未来に向けて1歩ずつ進み出してしまった...。