第10話 男の約束
あのお父さんに挨拶に行ってから毎日悩んでいたが、意外と早く結論がでた。
今日は卒業式の前日!
オレは初めてお父さんに会ったファミレスにむかっていた...。
初めてお父さんに会って以来ちょくちょく遊びにいってはお酒をつがれたり、いろんな物をご馳走になったりしていた。
…もう家族の1人になれているのかな?
そんな事を思いながら運転していた。
そう!今日は悩んで出した結論をお父さんに伝える日!!
お父さんにはさっき話があるから一人でレストランに来てほしいと電話で伝えた...。
もう今日はさほど緊張はしていない。
自分の決意は決まっていたから!!
そんなこんなで運転してるとファミレスが見えて来た。
…ちょっと早く着いちゃったかな?
『すいませんアイスコーヒーを1つ。』
…あっ!お父さん!
「いやーたけ、ビックリしたよ。どうかしたかい?」
いざ決意は決まっていていて、話す事も決まっていても、重い話を切り出すのは勇気がいる!
でもオレは思い切って口を開いた。
『お父さん、愛子さんと結婚させてもらえませんか?』
「だって、それは...」
『ムコでも全然かまいません。
ただちょっと僕の就職先関東なんで一緒に行きたいんです。
必ず5年以内にこっちで仕事探して戻ってきますから。
だからよろしくお願いします!』
お父さんはあまり吸わないタバコに火をつけ、何も言わず黙っている。
そんな重い沈黙を破ったのはお父さんの方だった...。
「私もね、たけ。いつかたけがこうやって言いにくるをじゃないかと思っていたんだよ。」
タバコの火を右手で落としながら淡々と話続ける。
「たけなら信用できそうだから、たけになら預けていいと思っていたよ。
もうムコの話は忘れていいから。
前はムコを貰ってと思っていたけど、娘が幸せならそれが1番だ...」
『それじゃあお父さん...。』
「私が一生懸命育てた愛子はたけに預ける!
どこでも好きな所に持って行きなさい。
娘を頼んだよ。」
『お父さん...。』
気がついたらお父さんの手をギュッと握り、目頭が熱くなっていた...
『ウッ...ありがとうございます。』
感動とかではなく、自然に涙が溢れて来て、頬を伝っていた。
「私もたけに1つお願いがあるんだ。
愛子は嫁にあげるから、たけは車でドリフトするのをやめて、あの車を売って普通の車に乗り換えてほしいんだ。
もう家族の一人なんだから事故したりしたら大変だろう?
これが私からのお願いだけどどうだい?」
『180をですか...。』
「あっ!そうだ!たけは何日で関東に帰るんだい?」
『帰るのは1週間後ですね。』
「1週間か?なんとかなるかな?ちょっと電話してくるから待っててな。」
お父さんは携帯を持ったまま外に出てってしまった。
…それにしても車をおりるだって?
…これが条件かよ?
…オレは180SXと愛子のどちらかを選ばなきゃいけないって事か...?
…オレの生き甲斐のドリフトをやめなきゃいけないって事かぁ...。
…そんな事出来るわけない!
…オレは乗れるまでずっと180に乗っていくつもりだったんだ。
…オレの青春そのものの180を売れる訳がない。
全然考える暇もなくお父さんが電話を終え帰って来た。
そしてオレは決断を出した!
『お父さん。わかりました180からおります。』
全然本心ではなかった。
この時もう少し勇気があって...
考える時間があって...
この車は愛子と同じくらい大事な車だから売れません!
そう言えれば、よかったのだが、
オレは嫌われる事を恐れ、偽りの答えを出したのだ。
もっとも考える暇すらなかったのが1番の原因で、
この時本音を勇気を出して言えていればと後々、後悔する事になる事を今のオレは全くしらない...。
「そうか!じゃあ男の約束だな。
今知り合いに電話したら急すぎて明日しか開いてないらしいんだ。」
…んっ?明日?
「明日ならOKと教会で予約がとれたから、明日結婚式を挙げなさい。
みんな来れないと思うから、うちら家族にだけにでも、愛子の花嫁姿を見せてくれないか?
私はねたけ、いままでそれを楽しみに育ててきたんだよ。」
…エッ?
…エッ~~!?
『エッ~~~~~!?』
思わずビックリで声が出てしまった。
…結婚式??
…明日??
…明日~~~~!!??
もう何が何やらあまりにも急すぎてパニック状態である。
『明日ですか??時間は明日卒業式があるんで昼以降なら大丈夫ですけど、洋服とか何にもないしどうしていいかとか何にもわかんないですよ。』
「たけはそういうのは気にせず、ただ愛子と来てくれればいいから。
じゃあそうと決まれば今から忙しいぞー。
今日はこれでお開きだから。たけも帰って用意して明日3時に現地で待ってるから。」
『ハイ!わかりました。』
二人はそう言ってレストランを後にした。
すごい展開になって来た!!
オレは明日結婚するらしい!
花嫁が明日結婚式することを知らない結婚式!
そんな事ありえないだろ?
自分の事なのにあまりの急な出来事に人事のような感じだ。
…もう6時かぁ...。
結婚式ってこんな感じかな?とか車で走りながら想像していると結婚式に欠かせない物を思い出した!
…あっ!指輪!
…指輪買わなきゃ!
そう思い出すと、車をUターンさせ、
家とは逆の方向の宝石屋さんと言うか、指輪屋さんに急いだ。
実をいうと来週買う予定だったので一度前に行った時に予約済みなのだ。
『すいません。藤原ですけど予約しておいた指輪なんですが、明日必要になっちゃったんですが、なんとかなりますかね?』
「どーも藤原様。あのお引取の方ですが、来週とお伺いしていますが...。」
『すいません。どーしても明日必要になってしまって!』
「少々お待ちください」
…やっぱ無理かあ?
奥に入っていった店員のお姉さんが出て来た。
「すいません。本日は無理かと思われますが、明日の13時までになんとかしときますので、それでもよろしいでしょうか?」
こっちの必死な熱意が伝わったみたいだ。
『ありがとうございます。』
思わずガッツポーズ!
…よかった!何とかなった。
なんとなくだが明日結婚式を挙げる現実味が少し出て来た。
…もう7時かぁ?
…愛子が仕事終わってうちに遊びに来るのが8時だから、愛子の分の弁当も一緒に買って帰るか。
…さてでもどうやって伝えるかな?
…「明日結婚式をする事になったから...」っていったら多分驚いて「エッー??」ってなるだろうな(笑)
そんな事を車の中で考えながら、
街中に180のいい音させたマフラーの音を響かせて、
いつもの常連のお弁当屋さんに向かっていた。
弁当を買い終え、家に戻り愛子を待っていると、
【ピンポーン】
今日のドッキリカメラの主役さんの登場である。
お父さんからの話を伝える前にやり残した事があると気が付いたオレは、
帰って来たばっかの愛子の手を取り、
オレの車に乗せて、とある場所に目指してアクセルを踏み込んだ...。
「たけたんどこいくの?」
『ちょっと話があるんだ。』
オレは車を飛ばして例の場所に向かっていた。
言わなきゃいけないことを言うのはこの場所じゃなきゃと思ったから...。
結構飛ばしていたせいか、すぐについてしまった。
「たけたんここに来るの久しぶりだねぇ。」
『そうだなここから付き合いが始まったんだもんな。
オレが花束なんて買ってな。
懐かしいな...』
「そうだねあれからもうちょっとで2年だね。懐かしいね。」
卒業してこの地を離れると、もう当分この夜景を見るのも出来なくなると思うと淋しい気がする...。
アカ、ヨネ、オレが何回ここに来てこの夜景から元気をもらったかわからない...。
一人で授業についていけず単位を落として凹んでいたそんなときも、
よく一人で来ていろいろここで考えたものだ。
多分、アカもヨネも一人で何回も来てるだろう...。
それだけに妙にさみしいと感じる。
「ねぇ。たけたん話って何?」
『愛子、卒業したらオレと一緒についてきてくんねぇ??』
「たけたんそれって??」
『あー!!お前じゃなきゃだめなんだ。
オレと結婚してほしい!
幸せにできるかわかんないけど、精一杯の努力をするから...。』
そうオレは、なあなあになってしまい、
ちゃんとしたプロポーズをまだしていなかったのだ!
やり残していた事とはこれ!プロポーズだ!
愛子を見ると下を向いていた
…えっ?ダメなのか?
ちょっとして愛子が口を開いた...。
「ウン....嬉しい...。」
『ヨッシャー!』
今日2回目のガッツポーズの発動である!
愛子は目から涙をこぼし、
マスカラがぐしゃぐしゃに取れていた...。
そして間髪をいれず、オレが今日お父さんに会って来たこと。
明日が急に結婚式になった事も話した!
この時の驚きようったらオレの想像を遥かに越えていた。
…母さん!オレはこの人と一緒に生きていきます。
…天国から見えていますか?
…生きていたら祝福してくれたかな?
…母さんに負けないようにオレはこの人を守るんだ...。
届くか届かないかわからないが綺麗な満月に向けて心で叫んだ...。
『愛子寒いから、ぼちぼち帰るか?』
愛子は結構泣いたせいかすごい顔である。
『愛子、オマエ顔ヤバイぞ(笑)』
「うるさいなぁ、もう。しょうがないでしょ」
いつもからかわれているから、たまにいじめると反応が楽しいものだ。
二人は幸せな気持ちのまま車に乗り家に戻った...。
今日もまた南蛮丼が冷めている。
二人で冷めた南蛮丼を食べていると、
オレはアカの事を思い出していた...。
…前もアカがリナちゃんにフラれた時にそういやー冷めた南蛮食べたな。
…アカは元気にしてっかなぁ??
…アカ明日は卒業式だぜ!
…オレとヨネはアカがいなくても何とかギリだけど卒業できたよ。
…愛子とも結婚することになったぜ!
…って思っても届かないか。
…今度暇があったら愛子つれて遊びにいくかな?
そんな事を思っていると弁当の中身はからっぽだ。
愛子は弁当を食べて家に帰った。
明日の用意でもするんだろう。
オレももう寝る事にする。
卒業式まで遅刻したんじゃシャレにならない!
まだ寝る時間が早いせいか、いろんな事が頭の中に思い浮かぶ...。
…寝るんだ!寝るんだ!
人間不思議なもので無理に寝ようとすればするほど目が覚めてしまうものである。
それでも電気を真っ暗にして目をつぶり、
眠たくない体を無理矢理寝かしつけた...。