第9話 ムコ養子と過去!
「たけたんカチンコチンだったね。
でもお父さんと仲良くなってもらえて1歩前進だね」
愛子は運転席のドアを開けながら嬉しそうに話している。
『超緊張したよ。
マジ心臓が口から出るかと思ったし...
っていうかさ、お父さん酒強すぎなんだけど。
あんなペース絶対ムリムリ!!』
「いやお父さんもたけたんに初めて会うのに緊張してたんであんな飲んだんだと思うよ。
でも結構飲むっていうのは間違いないなぁ。」
二人は顔を見合わせて笑った...。
これは大成功と言ってもいいのだろう。
…そういえばムコ養子じゃなきゃだめだって言ってたな。
なんか今聞く勇気の無いオレは
その事で心がモヤモヤしたまま帰るのであった...
「たけたんお疲れー。今日は早く寝るんだよ。」
『言われなくてもクッタクタでベッドに倒れたら2秒でねるかも。』
「ねぇ じゃあ、あいたんも一緒に寝てあげよっかぁ??」
…えっ?
この女かわいい顔してたまにとんでもない大胆な事を言う!
『寝たいけど早く帰んないと親が怪しむべ。オレの所送るって言ってきてるんだからさ』
「え~~~~~~!!」
…愛子!なにもそんなおもちゃを買ってくれない子供みたいな顔をしなくてもいいのでは...。
『じゃあわかった!明日!明日な!』
「ブゥ~~~~~」
愛子はホッペを膨らまして機嫌が悪いようだ。
…愛子からの夜の誘いを断ったからか?
…でもなぁ今日はもう疲れて無理だぞ
…ちょっと下半身に聞いてみるか?
”これから働けますか?”
と下をみると下半身はまでやる気0で
”今日?
無理無理!
非番非番!
飲んだら乗せるな!
飲んだら立たない!だよわかるだろ”
と下半身はいっている!
…それをいうなら飲んだら乗るなだろ。しかもそれ車の標語じゃんか。
『そこをなんとかなんないすかねぇ...』
”…………………。”
『シカトかい!!!』
…だめだこりゃ!『やっぱだめっぽい(笑)!』
「やっぱってなによ(笑)!」
『まぁまぁ愛子大好きだからな。今日は家に戻れ。なっ。』
軽くキスをすると愛子の機嫌もだいぶよくなった。
愛子は感情表現が顔にでるのでわかりやすい。
とりあえず一安心だ。
「じゃあたけたんまた明日ねぇ」
『オゥ!じゃあまたな。』
オレは愛子を見送りベッドで横になりながらあの事を考えていた
…ムコ養子...。
…だってオレの就職先関東だぞ。
…ムコにはなれねーじゃん。
…こっちで新しい職を探すか?今から...。
…そんなの無理だよな。いまさら!
…んーー。どうすっかなぁ?
このままもやもやした気持ちのまま寝る事もできずヨネに相談しにいく事にした。
『ヨネー。起きてるかぁ?』
部屋の中からドタドタと足音が聞こえる...
「おー!タケか?どうした?お父さんに嫌われたか?」
『いやいや嫌われてはいないんだけどさあ…。ちょっとね...』
「まあとりあえず中入れよ」
ヨネは冷蔵庫からカフェオレを持ってきて話を聞いてくれた。
『愛子のお父さん。愛子をヨメにやれんって言われた。
一人娘だからムコを取るらしいよ。
多分跡取りの関係だと思うんだけど...。』
「何?タケ結婚の話までしたわけ??」
『いや。たまたまそうなったんだよ。
お父さんがいきなりそう言ったんでさ、オレも愛子もビックリしちゃってさ...』
「なんだそんな事で悩んでんのかよ。
簡単じゃん!
なっちまえばいいんだよムコ殿にさ。」
『えっ~~~~~!?』
人事だから簡単に言うがそんな簡単な事ではない!!
…だって”藤原”じゃなくなるんだぞ。
…いままで生きて来た名前が変わる??
別に変な事ではないが、21才のオレにはまだ簡単に受け入れられない理由があった...
「だって、タケお前愛子ちゃんの事すきなんだろ?
そんな事でもし最悪別れることになるなら、オレなら一緒にいれる方法を考えるけどなー。」
…うーん。まあ確かにそうだ。
…まぁちょっと前向きに考えてみるか?
『ヨネ。サンキューな。ちょっと考えてみるわ!』
…そうだな。もう離れられない以上、ムコになる事も候補にあげとかないとだめだな。
一人自分の部屋に戻りながらいろいろ考えていた。
別に今の名字に未練があるわけではない...。
オレの母親は2年前病気で他界してしまった。
親父は物心つくまえからあったことがないが、毎月お金だけは母さんの口座に振り込んで来てくれている...。
母さんが死ぬちょっと前学校をやめようとおもった事もあったが
「絶対卒業しなさい!
必ずなにか見つかるから、お金の心配はしなくていいから」
といわれ退学を踏み止まった。
親父は母さんが死んだことを知らないのだろうか?
それとも知っていてまだお金を振り込んで来ているのか、
それはオレにもわからない...。
だが母さんの葬式に親父は来なかった!
それは揺るぐことのない事実!
だからオレはそんな薄情な親父が今もゆるせそうもない!
だからこの先も会う事はないだろう...。
今は親父から送金されてくるお金をたまに足りない時に借りることがある。
ホントは借りたくないし絶対使いたくないけどバイトだけじゃどうしようもない事もあるんだ。
就職したら借りたお金を全て送り付けてやるつもりでいる!
…もう一切必要ないと。
…オレはもう一人で生きていけると。
…母さんはもういないと...。
まだこの家庭の事情は今だかつて詳しくは人に話したことはない。
もちろんいつかは愛子には話さなきゃいけないとは思っていたが、まだ詳しくは話せないでいた...。
だから今のオレは一人っ子長男だが、名字にこだわる必要はないが、
母さんが離婚して、この名字になって死ぬまで一生懸命オレの為に生きてくれた事。
この事実は変えることの出来ない真実!
なんかオレがムコになって名字が変わったら、
母さんを一人どっかに置いて来てしまうような気がして足踏みを踏んでいる...。
オレの尊敬出来る人は母さんだけだ。
別にマザコンって訳ではない!
母さんはいつもオレの為に一生懸命生きていた。
だから大学を卒業したら、絶対楽さしてあげて、
いっぱいいっぱい親孝行してあげようと思っていた。
でも叶わなかったんだ...。
愛情もらってばかりで終わってしまった...。
気が付いたら゛ありがとう゛すら言えなかったんだ。
言える時間は山のようにあったのに...。
悲しい時も、うれしい時もいつも母さんが側にいた。
もぅ側にいて当たり前だと思っていたんだ。
だが当たり前じゃなかった。
当たり前じゃない!ってわかっていれば、
いっぱいいっぱい
"ありがとう"って言ったのに...。
いなくなるってわかっていたら!ずっと側にいたのに!
もっと親孝行したのに!!
母さんはオレには連絡もせず家で倒れていた。
遠い大学にいってたオレはなんにも気がつかず遊びほけていた。
悔しかった。
たしかに具合悪いといってはいたが、
まさか死ぬとは思っていなかったから。
悔しかった。
オレの心配はいつもしてくれるのに全然母さんの異常に気がついてあげることすらできなかった...。
母さんが死んで母さんの大切さ偉大さを身をもって知った。
死んでしまってから悔やんでばっかだったが、
母さんがオレの為に一生懸命生きたように、オレも
大切な人!
守らなきゃいけない人!
が出来たら、その人の為に一生懸命生きるんだ...。
そう葬式の時に母さんに誓ったんだ...。
…あー疲れた!
あまりの疲労感にベットに倒れこんだ。
飲み過ぎのせいか若干気持ちも悪い!
…もう今日は寝よう。
””愛子今日オレ頑張ったぞ!!じゃあ頭痛いし気持ちも悪いから、もう寝る。オヤスミ””
…ポチポチ 送信!
すると相変わらずマッハで返事が返って来る
【ティロリロリン】
「今日はお疲れ様でした(^O^)。あいこの為にお父さんと会ってくれて、あんまり飲めないお酒まで飲んでくれてありがと。うれしかったよ。じゃあまた明日遊びにいくね。オヤスミー」
…母さん!オレも大切な人を見つけたよ!
…この人の為に生きてみようと思うけど天国から応援してね。
そうベットに寝っころがって天井をみながら心でつぶやいてみた...。