一日のおわり
初めて出会った日を何度も繰り返して、2年の時が経っている。
それでも僕は今日も、病院へと足を運んだ。
いつも通り待合の長机に座って、あなたが来るのを待ちわびる。
いつも通りあなたが廊下を歩いて……
「柚樹くんっ!」
もう僕の高校生活も最後の年だ。
あれから顔付きも少し変わって、十数センチ背も伸びている。
いつの間にか身長の差は大きくなっていて、あの日抱きしめた時より君のつむじがよく見えるようになった。
あぁ何度、何度この日を待ち望んだことだろう。
廊下を走ってくるあなたを見て、視界が滲んでくる。
まだきっと、始まりの一歩に過ぎないんだろう。
また忘れてしまうかもしれない、でも、それでも、やっと今日。
君と、『初めまして』って言わなくていいんだ。
駆け寄ってきたあなたを抱きしめ受け止める。
涙を拭って、しっかりと彼女の顔を見つめる。
いつもの満面の笑みで、耳にすんなりと通る綺麗なソプラノが聞こえる。
「柚樹くん!私、柚樹くんのこと、覚えてるよ!」
あぁ、きっと。
これまでの日々は、これまでの初めましては。
今日のためにあったんだ。
「柚子さん」
「柚樹くん!」
これが僕の、あなたの、長い一日。
あいも変わらず短い作品でしたが、お読みいただきありがとうございました。
今回のテーマは『記憶』です。
主人公の中では進んでいる時間も、ヒロインの中では止まっている。
そんなすれ違いをテーマに、描かせていただきました。(既存の作品でも多い設定だとは思います)
感想や評価、応援メッセージなどいただけると嬉しいです。
ではまた、次の作品でお会いしましょう。