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第6話 日陰に芽吹く才 前編

 広い花壇を手入れしている人物が一人居た。額には薄っすらと汗が滲み、手は汚れ、全身に土埃を被ってもなお続ける姿は、その道の職人であればどんなに栄えた姿だと称えられたであろうか。

 しかし、前提として中身の人物が、帝都レディースレイク第三皇女であり、ユーティリア・レディース・レイクと呼ばれている人物だからこそ、話が変わってくる。


「ユーティリア様!また部屋着で庭にお出になって!何度も言っておりますが、その姿のまま花壇の手入れはお止めくださいませ!」

「ごめんなさーい!もう少しだけお願-い!」


 侍女の叱咤に似た声に怯むことなく、自我を伝える姿はむしろ清清しく。花壇の世話をする表情は快晴に負けず劣らず晴れやかだ。

 花壇はいくつもあるので、見える範囲であれば近寄り声をかけるのだが、今のように植え物の影に隠れてしまっていると位置の特定が難しくなってしまう。そういった場合は、庭全体に声をかけ返事を待つことで、大体の位置を特定する方法が、ユーティリアと侍女のアナシアの間に出来た習慣であった。

 部屋の中から庭へと出て、声の聞こえた方角に向かう侍女。

 しかし、その表情は、本気で怒っているというよりも、どちらかと言えば諦め半分が混じっているという感じか伺える。


「・・・こちらでしたか」

「見て見て、アナちゃん!プリムラの花が咲きそうなのよ、凄いでしょ!」

「アナちゃんではありません!アナシアと呼び捨ててくださいと何度も言えば―――。いえ、それはいいです、もう・・・」


 自分が使える姫様の花好きは今に始まった訳ではないけれど、ここまで来ると病気なのではないかと心配してしまう。

 土の手入れに始まり、種まきから花咲くまでの世話、挙句種を保存して次に繋げるだなんて、帝都レディースレイクの第三皇女がするべきことだろうか。

 自分個人であれば、断固反対するところだが、ユーティリア様の姉のフローラリア様を始め、王族の面々からも好きにさせるよう仰せつかっているのだから、反対も出来ない。

 兄や姉と違い、殆ど国事に関わらず、土弄りばかりしているから影で貴族達から噂だって囁かれていると言うのに・・・

 土被り姫、に加えて。

 種撒き姫、だ。

 本当に悪い意味で的を得た形容がされていると思う。悔しいくらい下品に。

 だからこそ見返してやりたい。小さな頃から侍女をしているからなんて浅はかなモノじゃない。本当に、心から姫様の素晴らしい姿を知っているからこそ、立派に成って欲しいと願う。

 アナシアの知っている、ユーティリアの優しさ。

 ユーティリアの器の大きさ。

 分け隔てないユーティリアの慈愛を。

 上げればキリがないほどに良い所があるのに、自分以外誰も分かってくれないのがこれ以上ないまでに腹正しいのだ。


「アナちゃん!笑顔だよ、笑顔!」

「ふへっ?」

「えーがーおーだー!」

「へがを?」


 気が付けば両頬を引っ張られていたようだ。口角が上がるようクニクニと引っ張られているが、痛くなく。

 パッと指が離れ自分の頬に触れるが、土は付いていない。多分、ユーティリア様が、頬に振れる前に、自身の服で指先を拭ってくれたのだろう。

 そういった気遣いができるのに、どうしてこうも言うことを聞いてくれないのか。

 怒りではないが湧き上がる何かがあって、言動に表れてしまう。


「ま、た・・・姫様わああああああ!まったくもおおおおおお!」

「アナちゃん怒っちゃ駄目だよー!」

「アナって言うなああああああ!」


 そして始まるいつもの庭内競争。

 嫌じゃないけど嫌だ。楽しんだらいけないのに、競争中に笑みがこぼれた。

 自分では、ユーティリア様は変えられないのだと思う。だから、遠くない未来、姫様を真に理解し支えてくれる人間が現れてくれると願い続けよう。

 土を被った下に眠る本当の姿に気が付き、表舞台へ導いてくれる人が現れてくれると信じて今日も追いかける。


「ユーティリア様、待ちなさーい!」

「いーやーだよー!」

「なんだとおおおおおおおおお!」


 追いかけっこをしながら気が付いたのだが、また大きくなられたようだ。背も、他も、色々と。

 現在、姉のフローラリア様が、帝都で一番美しいと言われているけれど、そんなことはない。

 唯一近くで見比べられるアナシアだからこそ断言できた。土を拭い去り本当の姿へと昇華すれば、内も外もユーティリア様に叶う者は居ないと。


「あ」

「ふんぎゃ!?」


 突如、侍女に有るまじき声を上げてしまうアナシア。

 理由は簡単。突然、壁が現れたのだ。前を走るユーティリアが足を止めた為に、勢い余ってぶつかってしまった訳だが。

 突然の事に勢いを削げず、反動で尻餅をついてしまう。


「ごめんなさい、アナシア!?大丈夫?」

「あたたた・・・。じ、自分は大丈夫です、姫様こそお怪我はありませんでしたか?」

「ええ。私は大丈夫なのだけれど、この子が・・・」


 そう言いつつ視線を横へと向ければ、そこにお辞儀をしている花壇の主があった。


「萎れかけていますね・・・」


 花は咲いているのだが何らかの原因で地面を向いてしまっていたのだ。見れば土の中から根が見えてしまっているのが数本有る。

 大きな花が咲いているが弱々しく項垂れ、今にも枯れてしまいそうな状況。それを見たユーティリアは、膝を着くと躊躇せず土を触り始めた。原因は何処だ、何が問題だったと心の声が聞こえてきそうなほど真剣に。


「根が・・・出てる」


 少しして気付く。土が軟らかすぎたと。

 すくすくと育ってくれたのだが仇になり、茎の頂点に咲く花の重みで抜けかけてしまっていたのだ。

 慌てて少しでも深くへと植えなおすが、咲いた花の方に重心が有り、植え直しても植えなおしても倒れてしまう。

 アナシアも姫様が一つ一つの花に心を砕いてきた経緯を知っているから、安易な事を言おうとも思わない。

 彼女は彼女なりに何かないかと考えを振り絞って案を練る。

 すると・・・


「あ!」


 先程まで思っていた事が幸いし、もしかしたら使えるのではないかと閃いたのだ。


「何か支えになるような物があればいいのではないですか?!」


 ユーティリアへ声をかけた矢先に、彼女も既に走り始めていた。


「その子達をお願い!支えられる棒か何か探してくるわ!」

「え、ちょっと?!ユーティリア様?!」


 多分声をかける前に同じことを閃いていたのであろう。でなければ、声をかけると同時に駆け出す事なんてできはしない。

 付け加えると、ユーティリアには、いくつかの候補が使えるのではないかと予測が立っていたのだ。部屋の中に駆け込み、目当ての棒を手に取るが・・・


「・・・足りない。なら―――」


 予め部屋の中に用意してあった棒は細く心許なかった。分かっていた事だが、部屋の中に有る物は諦めて、部屋を飛び出す。

 背中越しにアナシアの叫びが聞こえるけれど。


「すぐ戻るから!」


 と、声をかけ、飛び出していったのだ・・・

 騎士らが使う槍等の棒を求めて。






 旅の憩を出た二人は、一番近い申請所へ申し込みを終え。指示された場所、王宮内にある試験場に到着していた。今は受付を済ませ、持っていた申請書を審査してもらっている最中。

 にこやかな笑顔を貼り付けたまま、四方士試験受付嬢であるデアラは事務仕事を続けていた。


「サンラ・エヴァンス君、ね。魔士院志望で―――」


 粛々と自分に与えられた仕事を処理しているわけなのだが、実務が簡単過ぎ、かなり暇な一面もあった。彼女本人もその同僚も、その境遇に満足しており自ら変えようと望みはしないのだが、代わりに時間潰しとも言うべき、志願者粒チェックと呼ばれる遊びが流行っていた。と言っても、休み時の話のネタにする程度のものである。


「歳は八つ・・・」


 記入が終わった試験申込書を審査しながら、目の前にいる仲の良さそうな親子を見て、声には出さず心の中で呟く。

 身形は平々凡々。容姿は飛び抜けて良いけれど、自分の好みとして範囲外。こういう万人受けしそうな男親は、いくら子持ちといっても多数の相手と遊んでいそうで手を出したら駄目だ。子の方であれば将来に期待が持てるが、自分と年の差が離れすぎていてこちらも駄目、さほど差の無い層の同姓が憎たらしいくらい羨ましい。加えて資金も持っているから余計にだ。レディースレイクの民権を持っていない事から、試験費用と万が一受かった場合、卒院までに掛かる費用の一括支払いが必要と説明したら、軽く二人分は卒院できそうな額を見せられた。


「駄目元で唾でも付けとこうかしら・・・」

「え?」

「あ!いえいえ!何でもありません、オホホホホホ」


 心で呟いていても、最後の一言だけ漏れてしまったようで、慌てて笑顔を貼り直す。


「それでは申込書に不備は―――はい、ありませんね。んーと、魔士院を希望と言うことですが、説明したとおり必ず叶うとは限りませんので、ご了承ください・・・」


 改めて書類を見直しつつ説明を続けていくが、久しぶりに見る高望みな志願者だと思う。もしかしたら、今まで見てきた志願者の中で一番かもしれない。志望理由が余りにも大人び過ぎていて、親がそう書けと日々書く訓練をしてきたのかと問いたくなるくらいの内容だ。大抵の場合は、親子で来た場合は殆どと言って程に親が代筆するのだが、最初から最後まで子一人で書ききったのにも軽く驚かされた。

 自己申告欄も、子の年齢で魔物魔獣狩経験多数、傭兵経験有りに加えて魔法適正検査経験無しと書かれているにも関わらず、魔士院を希望。

 先ほど騎士院ではないのかと声を掛けてみたが、間違いありませんと言われた際には、不覚にもときめいた。いや、再確認したものだ。

 余程実践経験で大物を相手にしたのだろうことが予測されるが、討伐対象も之と言った目立つものもなく、どうしても疑惑が先行してしまう。

 親は親で、ニコニコと子供を見ているだけで、自分のことなどまったく視野に入っていないのにも腹が立ったが、子が好き過ぎて周りが見えていないと結論付けることで苛立ちを治めた。


「そうですね・・・」


 周りを見渡すが、今日に限って何故か申込者が多く、実技試験に始まり、魔法適正試験も埋まってしまっていた。

 過去最大とは言わない。それでもここまで埋まってしまうのも珍しい。

 四方士試験の募集は日々行われており、祭事や国事が無い限り開かれている。志願者は好きな時に受けることができ、混雑を防ぐ仕組みが取られている。代わりに、受かった場合は入院まで待機を命じられ、指定された日時に一斉に入院するというのが決まりだ。

 どうしたものかと悩むデアラ。とりあえず、待ってもらう他無いと判断し、魔法適正試験から受けてもらおうと決め、指示を出そうとした時。


「・・・もし、試験まで時間があるようでしたら、息子と準備運動をしていても問題ありませんか?」


 事前説明とデアラらの様子から、どういう状況か判断したのだろう。一つの提案がノクトから出された。


「準備運動、ですか?う~ん・・・」

「はい。先ほどの説明の中では、身体を温めてはいけないとはありませんでしたので、もしよろしければ許可をいただきたいのですが」


 問われて悩む。

 説明は確かにしなかった。というより、受付手引きに書かれていないのだから、説明なんてする訳がない。

 どうしたものかと考え。

 今までの経験や手引きの個人的解釈に、先ほどの鬱憤も晴らしてやろうという思いも無意識に加わって、次のように導き出した。


「でしたら、お子さん一人であれば、ここの敷地内であればご自由にどうぞ」

「サンラだけで、ですか」

「はい。ここの受付では他の方もおりますし、お子さんの順番が何時回ってくるか分かりません。いつでも呼びにいけるよう、エヴァンスさんには待機をお願いしたいのですが・・・」


 よくもまあ、自分の口からすらすらと、このような言葉が出るものだと思ったが。

 一瞬考え込んだ彼と目が合う。するとどうしてだろうか、スッとした気持ちになり自然と顔が大きくなった。


「はい。分かりました。確かにここだと他の方の迷惑になってしまいますね。それでは、身体を動かせるよう、近場をお借りしたいのですが―――」

「え、っと」

「ここまで来る途中にいくつかの鍛錬場がありました。そこをお借りしても構いませんか?」

「え、あ、大丈夫だと思います」


 本来なら、ただの受付嬢であるデアラに権限等有るはずも無く、実際は越権行為に当たるのだが・・・

 ノクトの笑顔と言葉を挟むタイミング、日頃からノクトが言っていた鍛錬場は殆ど使われていないと知っていたことが加わり、勝手に良いと口に出してしまったのだった。

 彼女は気が付いていないが、他に順番待ちしている者達も聞こえていた。しかし、彼らは彼らで、試験待ちの緊張感からか気に留めただけで動こうとはしない。


「ありがとうございます。それでは自分がここに残り、息子だけ行かせていただきますね」

「はい・・・」


 念を押し、腰を下ろす。

 すると真横に居たサンラと目線が合う形となり、囁くには丁度良い格好となった。


「途中にあった鍛錬場は覚えてる?」

「うん」

「お姉さんの許可が下りたから、そこに行っておいで。サンラの順番が着たら呼びにいくからな」


 ポンポンと頭を撫でつつ、そっと囁く。


「それと・・・。準備運動だけどね、ちょっとだけなら魔法を試してみてもいいよ」

「え」


 一瞬何を言われたのか分からなかったのだろう。掛けられた言葉の意味を理解し、心からの笑顔を浮かべるサンラ。


「ちょっとだけ、だからな」

「はい!お父さん!」


 余程嬉しいのか一目散に掛けていく姿が微笑ましい。

 ノクトも息子を見送ると立ち上がり、残る問題を解決すべく、デアラに声を掛けた。


「えっと、試験の概要と規約等を確認したいのですが、可能であれば一通りを見せていただけませんか」

「それは先ほど説明したと思うのですが・・・」

「はい。教えていただきありがとうございました。もっと詳しく知りたいのです。本来なら貴女から聞きたいところなのですが、他の方々もおられるようです。待つ時間もありますし、目でも確認したいので、お願いできませんか?」

 

 もう何を思っても後の祭り。

 普段から手引書に沿って行動していたデアラは、例外を出されると考えられなくなってしまう。まるで何かに踊らされているかのように、ノクトの指示に従ってしまうのであった。




 


 見渡せば所々傷んでいるものの丁寧に補装されており、隅々まで手入れが行き届いている。

 立て掛けてある武器や防具の類も磨かれているだけでなく、地面は踏み固められ一枚の岩と言ってもいい。それだけ、歴代の騎士達がこの鍛錬場を使用し、踏み固めてきた証といえるだろう。

 広さは街で見かけた民家を三つ並べた程度ではあるものの、しっかりと整理整頓されているおかげでより広く感じるくらいだ。


「すごい・・・」


 鍛錬場の雰囲気を全身で感じ取ったサンラは、自然と身震いが起り、言葉が漏れた。

 一頻り後、先ほどから気付いていた存在へと視線を向ける。視線の先には子供が一人居る、男の子だ。

 歳は自分と同じくらいに見て取れ、背丈も差は無く、素振りをしているではないか。

 つまり、同年代の歳の離れていない存在。

 振られる手は淀み無く、サンラの目から見ても綺麗なものだった。

 同年代と思われる同性で、あれだけの素振りを見たのは初めての事。ワクワクドキドキと心が躍り始め、好奇心が吹き上がると同時。

 思わず礼儀を忘れ声を掛けてしまったのだ。


「あの!」

「っ!?誰だ!」


 驚いたように振り返り手を止めた姿を見て、サンラは自分の過ちに気が付く。

 ここで素振りをしていたと言うことは、自分と同じく準備運動でもしていたのだろう。先客で、且つ、集中していたところを邪魔してしまったのだから、自分に非があるのは明確。


「ごめんなさい。邪魔をするつもりは無かったんです。ただ、僕もこの場をお借りしたくって・・・」


 兎に角自分の非を謝るべく頭を下げ続ける。

 すると、敵意を明確にし構えた相手であったが。


「・・・・・・」


 しばらくの後、サンラの謝罪が本気だと悟り、ゆっくりと構えを解き始める。

 それを雰囲気で感じ取ったサンラは、身体を起こし相手を見た。ただし、再び上がった顔には、貴方に興味がありますといった意思が明確に貼り付けられているのだが。

 瞳孔も開き、瞳はキラキラと輝いて、全身で感動したと表現しているようだ。

 すごいすごいと声を発してばかり。自分を褒めているばかりで敵意が全く無いと気が付くと、拍子抜けしたように警戒も解かれていく。


「僕の名前は、サンラ。君の名前は?」

「・・・・・・」

「あれ?えっと?」


 彼は一体何者なのか。

 距離は離れているといっても背後を取られたことに変わりない事実が有る。いくら素振りに集中していたと言っても、同じ子供に自分が引けを取るわけがない。

 その一点が引っかかり素直になれずにいるが、続けて質問を投げかけられたことで、ある単語が耳に届く。


「いきなり名前を聞くのも失礼だったよね、ごめんなさい。んと、どうしても準備運動したいので隅っこの方でもいいから、借りれませんか?」

「え?」

「もうすぐ試験があって、準備しておきたいんだ」


 試験と言われ思い浮かんだ言葉が一つある。


「・・・四方士試験」

「そう、それを受けるんだ!君も!?」


 自分にも記憶に新しいものだからこそ思い浮かんだのだが、呟きが結果的に会話を成立させてしまう。


「いや。私は既に騎士院に―――」


 そこで一度言葉を区切った、自分のペースを取り戻す為にも。

 先ほどは不意を突かれ動揺してしまったが、よく見れば相手は貴族でも何でもない様子。四方士試験を受けると言うのだから受験者なのだろう。そんな人間に、この自分が背後を取られるわけが無い。であれば自分が油断していたと言うことに他ならず。

 自分も未熟だったと結論付ければ、冷静になることができた。


「こっちも警戒してすまなかった」


 姿勢を正すと、少年の相手を見据えれば視線が合う。

 そこで初めて視界に入れたサンラが、自分と同年代に近い少年だと彼も気が付いた。

 身形は質素で、腰には体格に不釣合いなやや長めな剣。自然体で立っており、距離は離れているが今から斬りかけても倒せてしまいそうな雰囲気さえある。

 本当に只の受験者だったと気が付き、ふっと笑ってしまった。


「?」

「おっと、失礼した。えっと、それで君は、何故ここで・・・それも準備運動を?」

「うん。本当はお父さんと打込みをしたかったんだけど、他の人の迷惑になるからここでって教えてもらったんだ」

「打込み?」


 その剣で?

 君が?

 とは続けなかった。

 何故なら父様からの教えがあったから。いずれ父様のように騎士の頂点に立ち、全ての騎士を導ける存在になれという教えが。

 今の言葉は、彼の見栄かもしれないし、試験前に気持ちが高ぶっているのかもしれない。

 それを自分が邪魔をしてはいけないと思った。

 だから、ここは自分が導いてあげるべきだ、彼に手助けをしてあげなければならないと、そう決める。


「打込みなら、私が相手をしようか?」

「本当!?是非お願いしてもいいの!?」


 やっぱり。と確信した。

 自分の父親であり。現レディースレイク聖騎士トリスタント・メイプルリーフ。

 その息子である自分がやるべきことは、こういうことの積み重ねなのだと。


「えっとーなんて呼べば?」

「そうだったね、失礼した。君の名前を先に聞かせてもらってもいいかな。考え事していて、さっき聞こえていなかったんだ」

「僕の名前は、サンラ!サンラ・エヴァンス!」

「私は、ブーツホルト・・・」


 レディースレイクの騎士の頂点。自分の父様の言葉を信じ、真っ直ぐ進んでいこう。

 いつの日か、トリスタント・メイプルリーフから聖騎士の称号を受け継ぐその日まで。


「ブーツホルト・メイプルリーフだ!」







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