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第5話 葛藤と驚愕と

設定説明の表現が下手だと自覚中。だらだらと無駄に長く・・・上手くまとめられる人を尊敬します。

「お待たせしましたー!コッコドリの丸々煮込みになります、美味しいですよ!」

「お姉さんありがとう」

「とんでもありません!ごゆっくりどうぞ!」

「ありがとー!お姉ちゃん!」

「いっぱい食べてね!」


 六人掛けの丸いテーブルに大人が三人と子供が一人腰掛けており、異様な雰囲気を醸し出している。

 机の上には、菜と肉を煮込んだスープが四つ並んでいるのを始めに、魚の盛られた大皿、調理された肉料理等、他の席と比べても一目で豪華だと分かる品々が並んでいるのだが、半分が全くと言っていいほど手が付けられていない。

 座り食事をしているのがノクトとサンラで、ひたすらに沈黙を貫きつつ両腕を胸の前で組み、目は静かに閉じているのがギャラドとウルバだ。普通であれば席を共にし、食べている側としては、この上なく気まずいだろう。

 しかし、良く見ると沈黙しているだけではない様子。

 ギャラドの面持ちにはうっすらピクピクと血管が浮き上がってきており、何かを我慢しているようにも見て取れる。

 ウルバも同じく沈黙しているのだが、沈黙と言うよりは静観している姿が形容するに相応しく。

 このまま平行線を辿るのかと思われた時だった、机の上にあった皿が一つ綺麗になったと同時。

 ノクトとサンラが顔を見合わせ互いに頷くと、混み合うお店の中でもはっきり店員の目に留まるくらい、綺麗に天上へと上げられた二本の腕が聳え立つ。


「すみません!このお肉料理追加で、二人分お願いします!」

「お願いします!」

「はーい!ご注文承りましたー!」


 大混雑している店内にも関わらず、女性店員からの返事が早いのは、彼らの声が溌剌としているからか、それとも別の要因が有るのか、答えは彼女らに聞かねば分からないだろう。

 実はこの後、出来上がった料理を誰が運ぶかという争いが女性店員の間で繰り広げられているのだが、それはまた別のお話。

 ちなみにこの店の名は、帝都レディースレイク北部に在る言わずと知れた名店、旅の憩。一階が丸々食事場であり、二階より上階が宿場として利用されている。下級貴族から都民まで種族に制限無く利用が可能と言う事と、他と比べれば頭一つ抜きんでているものの、都民にも手が届く範囲で価格が設定されていることから、ちょっとした祝い事や祭事等に利用されていた。それにあやかってか、エヴァンス親子の剣舞成功を祝う為、ギャラドらの提案でここへ来たと言う経緯があるのだが、何やら店に入ってからギャラドの様子がおかしい。

 ウルバはウルバで相方の姿を見ながら、やれやれとまるで理由が分かっている上で、呆れている感じさえ見て取れた。

 そこへ。


「はーい!美味しい料理の到着でーすっ!!」


 元気な掛け声と共に一人の女性店員が料理を持って現れる。

 追加注文とは別の、入店時に注文していコースメニューである一品を運んできたのだ。

 彼女の名はサニエ。ギャラドとウルバの顔馴染みであり、旅の憩の中で看板娘と称される女性店員。その彼女が器用に両腕に二皿ずつ運んできた料理を配っていくと、さらにギャラドの表情が悪化した。

 それに気が付いたサニエは首を捻り。


「あれ?どったのギャラド?珍しく失敗でもした?」

「・・・してねぇ。むしろ大成功だよ・・・」

「大成功?大成功なら良かったじゃない。ならもっと喜べば良いのに何でそんなに不機嫌なのよ?しかも、段々酷くなってるように感じるんだけど気のせいじゃないよね」

「それはお前がっ!」


 サニエから発せられた言葉に思わず身を乗り出しそうになったギャラド。様子からお前に問題が有るんだと言わんばかりの反応だが、寸での所で止め腰を下ろす。


「え、どういうこと?ぜんっぜんっ意味が分からないんだけど。何よ、あたしが原因?」


 ウルバとギャラドの前へと配膳を終え。

 空いた手の人差し指でサニエは自分を指差しながら首を捻る。

 仕方無しにもう一人の顔馴染みであるウルバへ問うが、首を横に振るだけで解決に至らない。何時までも突っ立って居る訳にも行かず、腑に落ちないまま溜息を一つ吐くと、意識を切り替えるべく、サニエは声に出した。


「よく分からないけど、理由も無しに怒るのは良くないわよ。それと・・・そんな不機嫌な顔していると、相席してるお方がお料理を楽しめなくなってしまうわ」


 声の後半は少しだけ色を含んでいるように感じたのは気のせいではないだろう。

 若干の恥じらいを見せながら、エヴァンス親子へと向く。その仕草や声が、ギャラドの怒りを蓄積させているとも知らずに。


「どうぞ、お客様。こちらが旅の憩自慢の一品、レッドベアーの燻製果肉ソース添えになります!」

「っ!!!」


 笑顔も一緒に添えながら一皿ずつ手渡しで配るサニエを薄目でしっかりと見ているギャラドだったが・・・

 自分には行われなかった手渡しという行為と、一段上がった声色を聞き、我慢が限界を突破した。

 理由は至極簡単、ギャラドはサニエに惚れていただけの事。

 長い時間かけて通い詰め、決め手が見つかれば一気に口説こうと考えていた矢先の相手が、今日始めて会ったばかりのノクトに対し明確に好意を態度見せている、それも自分に見せた事の無い声色を添えて。そうギャラドの両目には映っていたのだ。

 実際は違うのだが、本人からしてみれば堪らないのだろう。エヴァンス親子を祝う為に来たのだから、ノクトに対し怒りをぶつける訳もいかず、かといってサニエにも言うのは筋違いというもの。その葛藤で戦っていたというのが事実だった。

 だが、ついに限界を超えて噴火してしまったとなれば、机を両手で叩き、声を荒げ八つ当たりするという醜い構図が、直先の未来に展開されると誰の頭にも想像できる。

 しかし、予想通りにはならない。

 ギャラドが立ち上がろうとした瞬間。ウルバが静止に入るよりも先に、ノクトの人差し指が鼻を押したのだ。まるで怒りのスイッチをオフにするかのように、トンっと。


「んお?!」


 不意の出来事が怒りを上回り、時間が止まったかのように静止したギャラド。ウルバも突然の出来事に驚き、固まってしまう。

 周囲にも気取られること無く場を治められた様子に満足し、サニエへと向き返るとノクトは話し始めた。


「素敵な笑顔での給仕ありがとうございます。料理もとても美味しく、とても素晴らしいお店ですね」

「え!?ええ。あ、ありがとうございま、す?」

「これだけのお店の賑わいもさることながら、そして料理や接客の素晴らしさ。ちょっとやそっとで、これ程の質を維持できるとは到底思えません。日々の心から店員の方々の意識の高さ、そして継がれてきた時間は相当なものなのでしょう」

「・・・は、はい?」

「今までのやり取りで、恩人であるギャラドさんと貴女が顔馴染み以上の関係だろうと予想できましたけど」


 一度区切りを入れるとギャラドとサニエの二人に動揺が走るが、否定はさせまいと言葉を挟む。


「今の立場としては自分らも含めて客と店員ですよね」

「え、ええっと・・・そう、です・・・」


 返事を聞いてから満足そうにニッコリと笑顔を浮かべ。


「だからこそギャラドさんと貴女のやり取りが俺は羨ましい」


 何故ならと言葉を続けながら、いつの間にか食事を止めて、この場のやり取りを見ていたサンラの頭をポンポンと撫でた。


「貴方達の気が置けないまでに親密な関係が見ているこちらが恥ずかしいくらいに純粋で・・・。美味しい料理に活気溢れる店内、こんな魅力溢れる所で気を遣わずに食事が出来たとしたら、どんなに嬉しいかと妄想が膨らみますね」


 そこで言葉は切られる。

 ノクトの笑顔の先に続く言葉があれば、どうでしょうか?という問いかけではないだろうか。

 数拍の時間。

 彼も彼女も自分達の言動に気がついたのだろう。ハッとなった二人は、無性に気まずくなり、互いに誤魔化すよう視線を彷徨わせる。


「ウルバさんも、そう思いませんか」

「・・・あ、ああ」


 いきなり流れを振られたウルバであったが、まるで魔法でも見ているみたいに頷いていた。

 冷静に全体を見ていたつもりでいたのに、いつの間に自分さえも取り込まれていたなんて思いもしなかったからだ。

 自分自身であれば、サニエには相手で態度を変えるのはどうか、ギャラドには大人気ないぞと声をかけ、どちらか傷つけていたであろう。場合によって静観を貫くことで場が荒れ、店から追い出されていた可能性だってある。更に、途中の親子の仕草からしても、もしかしたら子供に対して何らかの気付きを与える場を用意していた可能性も否定できない。

 爽やかな笑顔。そして思慮深さ。

 それらを笑顔を崩さずやってのける様に、内心恐れを覚え、息を呑んだウルバであった。


「あ、そうだ」


 そして今までの流れがまるで無かったかの如く、自然に思い出したようにさらりとノクトは言うのだ。


「レディースレイクに来るまでの旅路で、魔士院に入る為の申し込みが出来ると情報を得ていたのですが、何処へ行けば申請ができますか?」







 一瞬ノクトの問いかけに引っかかりを覚えたウルバだったが、予め用意されていた知識を話し出した。


「募集は毎日行われているから急ぐ必要はないよ。ただし、朝の刻から二の夕刻で締め切られるから、そこだけ覚えておくといい。・・・その前に少し、説明させてもらってもいいかな」

「是非お願いします」

「レディースレイクは外周街、内周街が在って、民権は外周街の四街所で申請ができるようになっている。四街所は単純に北なら北所、東なら東所という具合に」


 少しでも分かりやすく伝わるよう、料理の乗ったままの丸皿を利用し伝え。


「それぞれ四街所は各入都門から真っ直ぐ進めば突き当たるように位置されているから、迷った時は中央に向かって進み、突き当たったらどちらかへ進めばいずれ何処かの四街所へ辿り着けるんだけど」

「中央に向かって伸びていた大通りでいいのかな?」

「その通り。どの四街所も手続きに差は無いから好きな所で申し込むといいさ」


 簡単に伝えた所で一度区切りを入れる。

 この街は兎に角広い。人口も大だ。街の入り口で生業をしている彼らは、それを目的にする旅人達にとって、話しかけ易く情報を得られる貴重な存在に違いない。エヴァンス親子に限らず、多くの旅人から過去に何度も同じ問いかけを受けていたのだ。

 だからこそ、一見であればここで説明は終わっていた。けれど彼ら親子と知り合い、人となりを知った。その上で協力しようと思えたから、自分達が経験した事柄を伝えようと思う。

 阿吽の呼吸。

 サッとギャラドへ目配りすると。


「エヴァンス親子に伝えても良いよな?」

「ああ。問題ない」


 と、声に出さずとも、その行為だけで確認が交わされる。


「ただし、望んでも騎士院へ入れるとは限らない・・・。何と言うか、騎士院、魔士院共に入る際は運が絡んでくるんだ」


 どうしてだろうかと顔に出たのだろう、ノクトの返事を待たずに答が返ってくる、ウルバに加えてギャラドからもだ。


「頭の固い連中が居るんだよ。キクノダイト鉱石以上に頭が黄色くてかたーい貴族様がな」

「・・・屈折した言い方をしているように聞こえるかもしれないが、間違いじゃないんだ。四街区の頭にはそれぞれ、北公爵、東公爵、南公爵、西公爵らが存在し、彼らによって統治されている。そして各院に入るには、個人の意思ではなく、内周街や王宮内で行われる適正試験、四方士試験によって分けられるんだけど―」


 彼らの話は長く続いていく。

 帝都レディースレイクは、中央に王宮、王宮を囲うように内周街、内周街の周りに外周街と続き、それぞれの間には大きな川が流れている。外周街より外は湖に囲まれ、全て幅広い橋によって繋がれていることから、橋を使わなければ行き来できない設計が取られているのだが。

 北外周区は北内周区に住む北貴族。

 東外周区は東内周区に住む東貴族。

 南外周区は南内周区に住む南貴族。

 西外周区は西内周区に住む西貴族。

 四方角の外周区が四つの内周区によって統治されていた。また、内周区の頭には公爵家が存在し統治され、実質彼らの意思がそのまま内周区に反映されていると言っていい。つまりは、公爵家の意思が内周区の意志になり、外周区もそれに呑み込まれるという具合だ。

 各公爵や貴族家には昔から方角に準えて紋章に花を模しているのだが、花の知識が有ればどの方角に属するか分かる仕組みになっている。

 そして花には一つ一つ、色を初めに、姿形や生き様等から称される花言葉と言うものが存在し、花の特色に呼応するような考えを各公爵家は持っていて、騎士院、魔士院についても指導方針に色濃く反映されていた。例えば、北公爵家現代表ロジス・ベルゴールと言われれば、赤く情熱の花、戦地への出陣式や騎士任命式等の祭壇にも添えられる名高い花で、花の名をベルゴールと言う。茎は曲がることなく天に向かって一直線に伸び、しっかりとした芯を持つ花。多くの花と混ざっても、その存在をはっきりと示し、孤高を貫くその姿形から、魔法よりも物理が重視されている。教育過程も比例し、比重は騎士が絶対だ。よって、例え魔法士の才があろうと北外周区へと割り振られれば、騎士としての教育を余儀なくされてしまう。

 魔法の才があるのなら魔法士の育成を重視した地区へ行けばよいではないかと思うかもしれない。しかし、レディースレイクで士院へ入ることを望む限り通用しない訳がある。

 それが、四方士試験なのだ。

 レディースレイクでは、内周街の四区の何れかで申し込みを済ませると、指定の場所で試験を受けるよう指示が出される。試験後の結果、四区の何れかへ割り振られる仕組みが取られていた。つまり入り口は何処で受けても出口は一つ。

 一説には、各地区の力の均衡を図るためだとか、四族公爵家の意思が関わっているといった、数多くの噂があるものの、正確なことは分かっていない。

 あまりにも無作為過ぎて、運次第というのが大衆に息づいていた。


「そういう事情が・・・」


 一通り聞き終えると、何かを考えているように、ノクトは呟く。

 何か考えている父親と、料理を美味しそうに食べている子の姿を見て、ウルバは思いを伝えるべきと判断し言う。


「だから、サンラ君の才に魅せられた自分から言わせてもらえば、ここで受けるべきじゃない。レディース山を越えれば帝都カルテットが有る。そこで騎士になるべきだ絶対に」

「俺も同意だ。坊主の才能はここじゃ伸ばせねえ。直にでも他所で騎士になるべきだ」


 二人の目は本気だった。

 彼らの目を見てノクトは内心苦笑しつつも、彼らから感じる優しさと思いに感謝し、だからこそ確認しておかねばと声に出す。

 まずはお礼。


「こんなにも素敵なお店でのご馳走と、色々と教えてくれて、ありがとうございます」


 そして本題を切り出す。ギャラドとウルバなら前置きは省いても問題ないと判断した。


「お二人は、四方士試験で?」


 全て言う必要は無いだろう。この一言で自分が補完したい知識を求めていることは伝わるはずだ。

 きっと彼らが、広場の目に付くところで剣舞を、生業を建前としている理由が、そこにあると思わずに居られないから。

 聞いてみたい。ギャラドとウルバの思いを。


「・・・・・・」


 ノクトの質問に二人は不意を突かれ目を見合わせる。

 しばらくして意思疎通が整ったのか。


「その・・・なんだ。俺達も受けたんだけどよ、試験を、な。騎士院に入れたまでは良かったんだが、中に入ってからが酷いモンでよ・・・」


 ギャラドからぽつりぽつりと語り始めてくれた。

 自分の横へ意識だけ向けると、サンラも食事の手を止め、じっと見ている様子が伺える。


「レディースレイクと名を聞けば、一生に一度は訪れてみたいと言われる帝都だ。ここで騎士という職にさえ就くことが出来れば、地方に住む村や町の家族も揃って移り住めるくらい給金が出る。入都する時見かけただろうが、門番で立つ一番下の騎士でさえ着込んでいる支給装備一式は見栄えが良い上に、上等なもだ」


 確かに門や街中で見かけた騎士らは、質の良い鎧を纏っていたのを思い出す。


「見かけにだって憧れるやつらも多いのさ。俺もそんな見かけだけに騙されていた連中の一人だったんだが・・・。騎士院に入る為、自分でも呆れる位鍛錬を続け、近くの村や街で用心棒をやったりしている内に小さな誇りが芽生えたんだろうな。・・・違うか、今思えば理想を求めすぎてたのかもしれねえなあ」


 一度目を閉じ、開けるギャラド。飲み物を手に取り、口にしながら話を続けた。


「入るのは難しいと聞いてたから死に物狂いで自分を鍛えた。けど、入ってしまえばそれまでだった。毎日繰り返される体たらくな訓練に教鞭、そこに求められるのは個々人の質でもなんでもねえ、集団としての平均を求められたんだ。得意だった斧槍を棄てさせられ、身体がデカくともロングソードを渡されるしまつ」

「そんなことが・・・」

「最初は俺だって無下にせず頑張ったさ、きっといつか立派な騎士になれると信じ苦手な剣を振り続けた。教官を信じて過ごしたんだが、ある日知っちまったんだよ。ああ、それだけじゃねえな、俺の場合は、運が良かった・・・。自分を追い込んできたおかげで、周りに合わせる為、実力を下げるだけでよかったんだからよ」


 ギャラドから語られる言葉の一言一言が重く語られていく。悲痛な思いが込められた言葉が。


「なんせ、一定の実力に達しない者には、鉱石の浸透か退院の選択が突きつけられるんだから、な」

「?!」


 思わず衝撃の言葉に、息を呑んでしまう。

 ウルバも似たような経験をしたのか、本当かと目線を向けると頷かれてしまった。


「んで、定期的に行われる実技試験を合格すれば、立派なレディースレイク騎士のいっちょあがりって仕組みだよ。騎士院にいる間、自分達の行き着く先に気が付いて抗議したが無駄だった。気が付けば騎士院を追い出され・・・良くも悪くも今の俺って訳だ」

「・・・全ての院生が、ですか?」

「外周街の両院は間違いないだろうよ。退院してから他街区の情報も集めてみたが同じだった。途中、何らかの理由で内周街の両院へ引き抜かれた連中は分からねえが。実力で選ばれてたわけじゃないから何が基準になってるか分かりゃしねえ・・・」

「引抜ですか?」

「ん?ああ!すまん、悪かった。そこ説明してなかった。俺が知ってんのは、四方士試験で外周街の院へ割り振られた者の話になるんだが、四方士試験後内周街の院へ割り振られた奴等のことまでは分からねえんだ。経験したのは外周街の騎士院なもんでよ、んで、内周街は経験がない上に情報も得にくいもんではっきりとしたことはさっぱりだ。なあ、ウルバ」

「確かに。自分もまさか同じような経験をした人間と出会って、こうなるとは思っても見なかった」

「違いねえな。がはははは!それに何だかんだで剣舞も良い食い扶持になってるしな」


 教えてもらったことを整理しつつ、旅路や他の都街で集めていた情報と照らし合わせていけば見えてきたものがある。

 確証を得られたと表現するのが正しいのかもしれない。


「だから、広場で剣舞を披露していてくれたんですね・・・」


 ノクトの呟きに、またも驚かされるウルバであったが、続きを否定することなく口にする。


「そんな大それたことじゃないです、考えも無く騎士や魔士を目指す旅人に普段はこんな話はしませんし。ただ、貴方の様に、真剣な思いを持つ人達に同じ道を歩んで欲しくなかっただけですから」


 何処か嬉しさを含んでいるようにも聞こえるのは、きっと理解者が現れてくれたからだろう。

 ギャラドとウルバは共に、夢や思いを砕かれ、挫折を味わった。味合わされた。

 普通なら心が折れ腐ってしまう人間が殆どだろう。もしかしたら、闇に身を落とす者だって居てもおかしくない。けれど彼らは負けることなく、現実と向かい合い自分達にしかできないことをしようとしている。

 夢や目標を持つ者達が同じ轍を踏まないよう、街の入り口近くで剣舞を披露していたのだ。

 噂を聞き、憧れを抱き、旅を続けてきた者達は路銀が少ない。例え持っていたとしても生活費を少しでも削りたいと思うのは不思議じゃない。加えて、隅々まで整備されたレディースレイクの案内所は、敷居が高く見えることだろう。となれば、ギャラドらは旅人にとってどれ程ありがたい存在か想像に容易い。

 彼らからしても旅をしてきた者達全てに自分達の経験を押し付けるわけにもいかず、そんな権利だって持ち合わせていない。

 ならば、自分達と同じ高い志や才有るもの、それこそエヴァンス親子のような存在だけでもと手を伸ばしているのだ。

 彼らの思いに心打たれたノクトは、 立ち上がり、改めて頭を下げる。


「ありがとうございます。ギャラドさん、ウルバさん、お二人のお心遣いと出会いに感謝をここに。貴方達と出会えてよかった。このご恩は忘れません」


 周囲は出来上がっており、ノクトの行為に気付く者など居はしなかったが。嬉しさと照れが交じり合い、慌てふためきながら、身振り手振りで座るよう促した。


「・・・照れるじゃねえか若旦那。・・・面と向かって礼を言われたことは無かったが、嬉しいもんだな」

「今までやってきたことが報われた気がするよ」


 今日出合ったばかりだというのに、不思議と確かなものが彼らとの間に生まれたと互いに思う。

 仕切りなおしと杯を酌み交わし話に花を咲かせる彼ら。

 やがて料理も空になり。

 周囲の机も片付けられるまで互いの思いをぶつけ合い、経験を笑いあって、また合おうと約束し別れたのだった。







「・・・行っちまったな」

「ああ。名残惜しいけど、またどこかで出会えたらいいな」

「だなぁ・・・」


 二人揃ってエヴァンス親子が出て行った店の出入り口に目を向ける。

 余程名残惜しいのか、サニエが話しかけるまで、二人の視線は見えるはずもない大小の背中を追い続けていたのだった。


「なーんか変な感じね。貴方達が大人しいなんて、あ、ギャラドがかしら」

「いつもどーりだ」


 肘はテーブルへ、手の平の上に顎を乗せて、ぶっきらぼうに言うが頬が赤い。

 そしてサニエもいつものようにからかっているつもりでも、ウルバから見ればどこか不自然だった。きっとノクトに男女の間を引っ掻き回され、互いの距離感を図りかねているといったところだろう。

 変な雰囲気になるのを嫌った彼女は、手に持っていた飲み物を差し出すことで断ち切った。


「はい、どうぞっ」


 差し出された飲み物二つに、首を軽く捻るギャラド。

 見れば数が四つ。ということは、さっきまで居た二人の分も含まれていると考えるのが自然な流れだが。


「何だこれ、頼んでねえぞ?それに支払いは終わっただろうが。・・・まさか押し売りか?」

「んなわけないでしょ!お礼よ、おっ、れっ、いっ!あれだけ注文してくれたんだから、マスターからのサービスですっ。・・・半分出し損ねちゃったけどね」

「それならありがたく・・・」


 食後に出された飲み物は優しい味がして、呑んだだけで胃袋が落ち着いてくるように感じる。


「行っちゃったわね、ノクトさんとサンラ君」

「・・・会話に混じって無かったのに名前覚えてるんだな」

「あれだけ大声で喋ってればね。それにあたしだけじゃなく、他の子達も皆覚えたわよ絶対に」


 容姿が良かったからとか、沢山注文してくれたからとは言わない。それだけではなく、彼らには不思議と惹かれるものがあった。


「常連になってくれるといいのにな」


 とたんに不機嫌になったギャラドの表情を見て、やれやれと思いながら。


「お店の売り上げが伸びるから、だからね」

「・・・なら、いい」


 席が隣ながらも、静観していたウルバは、二人の仲が一気に進展したなと思いつつ、お店にもサニエにも変な期待を持たせないようにと釘を刺す。


「残念だけど、彼らはもう来ないよ。騎士になる為、今頃は別の帝都へ向けての準備してるんじゃないかな」

「へ?騎士ってなんでよ?」

「レディースレイクの騎士院じゃ、坊主のような器には勿体無いってことだ」

「そうじゃなくって、サンラ君に魔法士の勉強をさせてあげたかったんでしょ?そう言ってたじゃない、魔士院を探してるってノクトさん」

「はあ?何言ってんだ。坊主の剣技の才はずば抜けた一級品だ、魔士院なんかに入ったって何の得にもなりゃしねえよ」

「・・・・・・」

「あら、そうなの?」

「あったりめえだ、あの親子の剣舞を見たらびっくりすんぞ!なぁウルバ!」

「・・・・・・」

「ん?」


 確実な同意が得られるからと相棒へ話題を振ったのだが様子がおかしい。完全に固まっており、表情にはある感情が全面に張り付いていた。


「どうしたんだ?黙り込んで」


 ある感情、それは・・・驚愕だった。

 全く動かないウルバを見て、首を傾げるギャラドとサニエだったが、とりあえずウルバの言葉を待つことにする。


「・・・ギャラド」

「あいよ。食べ過ぎて腹でも痛くなったか?ああん?」

「ギャラドッ!」

「んお!?わ、わりい、変なこといっちまった、か?」


 怒鳴られ息を呑む。が、相棒が震えていることに気が付く。

 ここまで感情を表に出すウルバは見たことが無い。本当に体調でも悪くなったのかと思い心配したが、そんな様子は微塵も感じない。

 では何故か、答えは直に語られる。


「エヴァンス親子は、ここで、レディースレイクで四方士試験を受けないと言っていたか?」

「言ってた―だろ?多分、言ってたよな?」


 言ってないと、はっきり否定し続ける。


「じゃあ彼らの剣舞覚えてるか?覚えてるよな?」

「あったりめえだろ。あそこに居た大衆全員が覚えてんじゃねえか、あんなすげえもん一度見たら忘れるわきゃねえさ」

「・・・だったら」


 そして、もう一度、さっきよりも強く、だったらと続け。


「彼らが親子が魔法を使っていたところを見たか?身体強化や防御魔法が展開されていたか?」

「は?んなもん―・・・んなもん当然、・・・って・・・待て。おい、ちょっと、待て」


 ギャラドもウルバに諭されて気付く。

 思い出したくないのだ。

 記憶は鮮明に残っているのに、理解したくないと無意識に拒み、追いついてこない。


「エヴァンス親子は、使って、無かったんだ」


 彼らが魔法を一切使っていなかったと言う事実に。

 頭の中で記憶が早戻しで巻き戻り、鮮明にエヴァンス親子の剣舞が、見えていなかった事実と共に再生される。

 あまりにも衝撃的で、飛び抜けて凄くて、大きな喝采を生んだ剣舞だったが、そこに魔法は存在していなかった。

 通常、身体強化をすれば魔力の魔粒子が体の回りを飛び交う。飛び交う魔粒子が剣舞に色を付け華となり、演出としての魔法を加えることで、より周囲を惹き付けられる剣舞になるのが主流。

 魔法を使わない剣舞など、剣舞として大衆から認めてもらえない。

 自分達の剣舞も大衆に魅せる為に、より無駄に派手になるよう魔法の演出がいたるところに工夫していたと言うのに。


「もしも・・・魔法を使いたくても、使い方を知らなかっただけだったとしたら・・・」

「おいおいおいおい!?ふざけろよ、それを認めたら若旦那は―いや、坊主だって、魔法を使わずに俺達と互角以上だったんだぞ!」


 彼らは?


「違うだろ、ギャラド。サンラ君でさえ、剣舞の終盤には俺達以上に成長していた。魔法を使わずにだ」

「・・・まじかよ」


 彼らはどうだった?


「急にどうしたのよあんた達、大丈夫?」


 彼女の気遣いも耳に入らないほど二人は驚愕し、まるで石化してしたように、ぴくりとも動かなくなる。

 仮に魅せる為の魔法を全て省いたとしても、身体強化の有り無しは同じ人間でも全くの別人になってしまう。例えるなら、魔法の有り無しは大人と子供の力比べに同じ。

 一切を使わないまま、あれだけの剣技を、あれほどの速度で交えていた親子とは。


「彼らは一体何者なんだ・・・」


 問いかけに答えてくれる人間は、この場にはもう居ない。

 回答が得られぬまま、ただただ時間だけが過ぎていくのだった。




 

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