夢絵本
前世
生まれるまえは人魚でした。
生まれてからは眠り姫です。
死んだら海の泡になります。
蓮の花
むかし、うちのには池があって
蓮の花が咲いていたはずなのに
おかあさんに抱きつこうと
ころんで溺れたはずなのに
いまうちには池がない
蓮の花が咲いていない
おかあさんがいない
おかあさんがいない
きれい
さびしい
きれい
かなしい
夢絵本
意識は孤独な眠りのまま、宇宙空間を漂っていた。
実体をともなわない身体を何かが浸していた。
脳裡で藍色のアニメセルの星図盤のような、
絵本のようなものが静かに捲られていった。
それは、星屑で描かれた人魚姫の絵だった。
珊瑚の飾り玉を添えた美しい髪を巻き上げ、
刺のような突起のある貝殻のような耳をして
いいしれぬ憧憬に満ちたさやかな瞳を擡げ、
牡蠣を鏤めた魚の尾を後ろに反らせて跪き、
小さな両手を組み合せて祈るようにしている、
ほっそりとあえかな少女の形像だった。
星々はきらめきながら妙なる音色を奏で、
銀の砂のようにさざめきながら滑り落ちる。
私は何か心に歌いかけてくる存在を感じた。
それは星屑でも青いエーテル空間でもなく、
そのすべてであるかのような形なき存在。
それはかすかに声をふるわす溜息にも似て、
甘くせつなく胸をうつやさしい調べだった。
私が目覚めてからも彼女のことを憶えていて、
皆につたえてもらいたがっているように感じる。
その歌声を今いちど聞きたいと願いながら、
記憶は散り散りに断片化していく。
私の心はつたわらない
私の心はとどかない
ああ、ああ
あなたにはわからない
あなたにはわからない
…わたしの心はくだけそう
わたしの心はやぶれそう
…
…かなしい…かなしい
わたしの涙は
はじけそう




