プロローグ4
自分が書けるペースは二、三日に一回更新といった所ですね。早くても、この文章量だと。
ラウジを先頭にして、まるで古代建築物の中の様なダンジョンを進む。まだ一階である為、出て来るモンスターはスライムやバットと呼ばれる蝙蝠のモンスターばかりであり、幾ら装備が不十分なラウジであろうと、不意打ちさえ受けなければ余裕で攻略できる場所。
ましてやラウジは装備が不十分である事から探知系のスキルには恵まれており、不意打ちを受けても戦闘と言う意味では下手な強者よりもなお強いルクスも居り、ダンジョンの一階程度では苦戦するはずも無かった。
ただ物語に出て来る冒険者に憧れを持つルクスは、本人も気付いていなかったが、強敵との戦闘を望んでいる節がある。
外のフィールドとは生態が違うダンジョン内に置いて、ルクスの戦闘力が万全に効くという訳ではない事を知っているラウジはほんの少しルクスの事を心配しながら、それでも上層ではそんな敵等出てこない事も知っていた為、注意はしていなかった。
「…どっちに行く?」
「えっと、ラウジは道知らないの?」
「知ってるけど、これお前のテストだからな。」
今までは真っ直ぐの一本道だった為、ラウジの先導で歩いてきたが、四辻に出てしまった為、ラウジは振り返りルクスに問いかけた。ルクスはラウジに正解の道を聞くも、これはルクスの冒険者としてやっていけるかを見るテストである為、ラウジはあえて教えない。
そう言われ、ルクスは少し考えた後、向かって右側を指差した。
「こっち?」
「何でだ?」
「だって僕正解の道を知らないもん。順番に行くしかないでしょ。」
「はぁ、半分正解。」
その理由をラウジに聞かれ、始めて来た場所なのだから全部行ってみるしかないと答える。その答えにラウジは溜息を吐いて、半分間違いだと答えた。
「何で?」
「まず一つ、事前に情報ぐらい仕入れておけ。ここに来る事は分かっていたし、未発見のダンジョンだという訳では無いんだから。」
ラウジの採点に不思議そうに首を傾げるルクスに、ラウジは答える。初めてダンジョンを発見し潜る時は仕方がないが、このダンジョンは発見されてから結構な年数が経過している。潜っている冒険者の数も人の居ない辺境としてはそこそこ居り、情報が全くないという訳では無い。
試験と言う事でダンジョンの一階を攻略すると聞いておきながら、まったく情報を仕入れていないルクスに呆れるラウジ。
「次に、ほら、足元見ろよ。」
「足元?あっ、足跡がある!?」
「まぁ、他の冒険者も潜ってるからな。」
次にルクスに地面を着目させた。地面に積もった塵埃にラウジとルクス以外の足跡がうっすらとだが見て取れる。その足跡は左側へと集中しており、足跡を発見して驚くルクスに、ルクス以外に下に降りていく冒険者も居る事を教えた。その冒険者の足跡であり、左側が正解である可能性が高い。
「こうやって少しでも危険を減らそうと言う努力も必要なんだ。」
「やっぱり冒険者は凄いね。」
「うっ、…ま、まぁな。」
ラウジの講釈に、成程と納得しつつ、冒険者らしい事に目を輝かせてラウジを見るルクス。そんなルクスの視線に、先輩面出来るほどの実力が無いと分かっているラウジは気まずげに目線を反らしてしまう。
「じゃあ、左側へ行けばいいのか…」
「そうだけど、今回は右から順番に行くぞ。」
「何で?」
「言っただろ。これはお前のテストだって。答えは教えたけど、カンニングみたいなもんだし、お前の判断が半分当たってる理由も教えてやるよ。」
改めて正解の左側の道を行こうとしたルクスにラウジは声を掛ける。その内容は最初にルクスが判断した右側から順番にまわろうというもの。ルクスはそう言ったラウジに、正解の道を知ってるのに、何で態々間違った道に行かなければいけないのかと言った。不思議そうにするルクスに、ラウジは半分正解の意味を見せる為だと答えて、納得いかない顔をしているルクスを連れて右側の道を進んだ。
「あっ、宝箱。」
「そっ、これが半分正解の理由。」
右側の道はすぐに行き止まりとなっているが、その正面に古びた大き目の箱が置かれていた。物語にも登場する物で、ルクスはすぐにそれが宝箱と呼ばれている物だと分かった。
半分正解の意味は、普通なら魔力となってしまい、ダンジョン内で素材を集める事は無理なのだが、その例外がこの宝箱であり、宝箱の存在があるからこそ隅々まで探索する冒険者も居るぐらいである。
無理をすれば命を落としかねない為、それ程重要視されていないが、宝箱を探してダンジョン内でしか手に入らない素材を手に入れてくる依頼もある為、それこそが半分正解と言った意味であった。
「何これ?」
「薬草だな。錬金術で薬の材料になる。そのままでも回復効果はあるらしいぞ。」
ダンジョン内にポツンと置かれた宝箱は誰が置いているのか分かっていない。それに一定時間が経つと中身が復活している事もあり、ダンジョン内の特有現象として知られている。一説にはモンスターの様にダンジョン内の魔力で構成されているのではと言われている。
そんな宝箱には罠や鍵が掛けられている場合も多いが、まだ一階の宝箱にそんな物は無い。その為ルクスの手によってあっさりと開かれた宝箱から素材が取り出された。
中身は正式名称があるのだが、一般的に薬草と呼ばれる草であった。見た目ただの草であり、宝箱と聞いて金銀財宝とまでは言わないでも、それなりに価値のある物が入っていると思っていたルクスは肩を落とす。
「まだ一階なのに、そんな良い物入ってねえよ。」
「でもさ…」
「宝箱にあんまり期待すんな。それにその薬草だって冒険者ギルドで買い取って貰えるんだぞ。」
ガックリと明らかに落ち込むルクスに、何とか励まそうとするラウジ。下に行けば想像している様な宝箱もあると教える。それと同時に、宝箱で出るものはあくまでオマケであり、その階のモンスターを倒して魔石を手に入れた方が高くつく事も教える。
さらに薬草と言えど歴とした収入源であるラウジにとっては、薬草である事に落ち込むルクスが許せないと言う思いもあった。だからこそ数回軽く小突いて次に行こうと促す。ルクスも最初はこんなもんだと思い直す事にしてラウジの後を追うのだった。
「次はこっちに行くぞ。」
「今度は真っ直ぐの道?」
「行けば分かるさ。」
次にラウジが指差したのはやってきた道から見て真っ直ぐの道。そこも間違いなのではと思うルクスであったが、先程の様に宝箱があるのかもしれないと思い直し、ラウジの言葉に従う。但し、今度は先程の様にラウジが先導するような形では無く、グイグイとルクスの背を押してくる。
「ちょっ、ちょっと何で押すのさっ!?」
「行けば分かる、行けば分かる。」
文句を言いつつも足を動かし前へと進んでいく。宝箱のあった右側の道とは違い、すぐに行き止まりという訳では無く、少し歩くと扉があった。事前にダンジョン内にも部屋がある事をラウジから教えられていたルクスは不自然に思えるものの、不思議がってはいない。
「開けるよ?」
「…おう。」
「何でそんなに下がってるのさ。」
後ろに居ると思っていたラウジに声を掛けるも、ラウジはかなり下がった場所から声を返してくる。その事に不思議に思いつつ、やけに重い扉を引いて開ける。
「うわっ!?」
「あはははは……!!」
瞬間部屋一杯に詰まっていたと錯覚させるほどのスライムがルクスに向かって雪崩れ込んできた。その事に驚きの声を上げてしまう。ラウジはドッキリが成功したと言わんばかりに腹を抱えて大笑い。
「何これっ!?」
「ひぃ、腹痛ぇ。通称、モンスターハウスだよ。」
驚きながらも体を動かし、無数のスライムを蹴散らしていくルクス。大量の魔石を足元に大笑いしたラウジに詰め寄った。ラウジも飽く迄居るのがスライムと言う子供の玩具代わりの弱いモンスターであった為、態と今回の様な悪戯を仕掛けたと言う事だ。怒るルクスに謝りながらも、魔石を拾いながら説明している。
ダンジョン内の小部屋には、基本的には宝部屋と呼ばれる宝箱が置かれている部屋と、休憩室と呼ばれるモンスターが入ってこない部屋がある。その例外がこのモンスターハウスで、モンスターがダンジョン内に生み出される部屋という訳だ。
安易に部屋の扉を開けると、モンスターハウスだった為にピンチに陥ると言う事もあり、まだ数が居ても何てことはない弱いモンスターハウスで体験させたかったとの事。
ちなみに冒険者の中には、レベルアップと魔石回収の為にあえてモンスターハウスに突撃する猛者も居り、基本的にダンジョンの地図の販売はギルド専売であるのだが、そう言った冒険者の為にモンスターハウスの場所は高値で取引されていたりする。流石にスライムのモンスターハウスはタダ同然だが。ここはラウジが見つけたモンスターハウスでもあったりする。
「悪かったって。ほら最後の道に行こうぜ。」
「もう。…うん、次が正解の道だね。」
驚かされ頬を膨らませて分かり易く拗ねるルクスを宥めながら、最後の二階に降りる階段に続く正解の道に誘った。ちゃんとした理由もあって行われた事もあって、これ以上愚痴っていても仕方ないとルクスはラウジの後を追う。
ルクスが自身の後をついてきている事を確認しながら、ラウジはほんの僅かに子供が居たらこんな感じなのかと父親の心境を感じていた。いい歳になっているのだが、借金の所為で自分に嫁いでくる女性など居ないと思っているラウジであった。
ダンジョン内の天井付近をフラフラと飛ぶバットを、天井付近まで跳び上がり叩き落とすルクス。地面に叩きつけられたバットはそれで絶命したのか、魔力となって消え失せ、一番下の等級の魔石を残した。
「如何した?」
「何、今の音?」
「音?ああ、レベルアップ音か。おめでとう、レベルアップしたんだな。」
「今のが、レベルアップ?」
その光景も、ダンジョンに潜ってからすでにそれなりの時間が経っている事もあり、すでに見慣れたもの。コロリと転がる魔石を拾い上げながら、ルクスが自身の手を開いたり握ったりしている事に訝しんだラウジが声を掛けた。
ラウジの方すら向かず、ルクスはまだ手を開いたり握ったりしながら、頭の中に響いた音についてラウジに聞いた。頭の中に響いた音と言われ、ラウジは一つの事に思い当たる。ラウジ自身もすでに二十回近くは聞いた、聞きなれたレベルアップ音である事に。
ダンジョン内でモンスターを倒すと、モンスターを構成する魔力の大半はダンジョンに還元され、この時ダンジョンが吸収出来ない分が魔石となり、吸収もされず魔石にもならなかった魔力が傍の生物に吸収され、一定値まで溜まると存在格が上がると言われている。所謂レベルアップと言うやつだ。
このレベルアップは魔力を効率良く吸収出来るダンジョン内でしか起きない。フィールドで倒した魔獣や魔物は魔力化しないのだ。
ダンジョンに初めて潜ったルクスがレベルアップについて知らなかったのも仕方ない事で、それと同時にルクスの実力がレベル1のものでもあった事にラウジは戦慄を覚える。
ルクスは初レベルアップが嬉しかったのか顔に笑顔を張り付けている。だが何かが変わったのだろう、いまだに手を開いたり握ったりしていた。ラウジが声を掛けようとしたタイミングで、ルクスは拳を握りしめおもむろに腕を振り上げる。
ボッと言う音と共に振りぬかれた拳は空気を押し出し、正面の道を突き進んでいった。明らかにその威力は上がっており、確実にレベルが上がっている事を知らしめたのである。
「うん、いい感じ。」
「すっんげぇ威力。」
「ほら、ラウジもボーとしてないで、行こうよ。」
初レベルアップで気分が高揚しているのか、やけにテンション高くそう声を掛けてくるルクスに、ラウジはなんだか嫌な予感がしてくる。
ダンジョンの攻略において絶対にしてはいけないのは油断と慢心だ。例えふざけていようとも、そこには幾つ物安全と判断する物があってこそで、テンションが高くなった事による驕りが言葉の端々に、その行動の一つ一つに見て取れるルクスは危険な状態だ。
ただここが一階であり、危険な罠も強力なモンスターも居らず、ましてや不意を打たれた所で怪我一つ無く収める事の出来るルクスがであり、ラウジの思い過ごしであろう。ただラウジのこの感は、真面な武装が出来ず、常に命の危機と隣り合わせで磨かれた物である。この後ルクスに注意していなかった自分を恨む事になろうとは、この時のラウジはまだ知らなかった。
あれからルクスは少し落ち着いたものの、再びレベルアップをしようとしているのか、態々モンスターを探しては殲滅していく。本来なら見逃しもいいようなモンスターまで手を掛けていくのである。
幾ら生きてはいないと言われ、魔力となって消えていくと言われても、見ていて気持ちの良い物ではなく、冒険者としては魔石の回収やレベルアップの為の作業と言われれば正しい行いの為、ラウジも注意をしていいものか悩んでしまった。
魔石の回収は確りとしており、何も言えなくなる。貧乏な自分が恨めしい。
「あれが階段だよね。」
「ああ、でも今日は二階に降りた所で終わるぞ。」
「ええ、まだ大丈夫だよ。」
「あんな。これはテストなの。食糧も持ってきてないし、もう昼時だぜ?」
「そっか…」
そんな状態での探索であったが、正面にポッカリと口を開けた通路を見つけた事で終わりを迎える。足元には整備された階段が下に向かって伸びていた。地下二階への階段である。
ラウジの、二階に降りたら帰るぞと言う言葉に不満の声を上げるルクスであったが、これはルクスの冒険者としてやっていけるかのテストであり、その内容は二階へと至る物。ラウジから見てやや危ない面もあるが、後で注意すればいいだけで、これでテストはクリアである。
何よりラウジはもう昼時である事を感覚だけで知っており、ルクスの御腹の虫もグゥーと鳴った。
昼食代わりに、ダンジョン横に併設された冒険者ギルドの出張所の様な場所で、昼飯とは言えないまでも簡素なスープは貰えそれで簡単に腹を満たした後、ラクシズ村に帰ってから本格的に食事にする心算であった為弁当や簡易食の類は持ってきていなかった。
少し残念そうにしながらもルクスも腹が減った事には勝てなかったのか、ラウジの言葉に素直に従う。途中のルクスの様子にはヒヤッとしたものを感じたが、それでも無事に終わって良かったという思いからラウジは息を吐いた。
もう階段は目の前で、ルクスもさっさと終わらそうとしたのか、ラウジがついてきている事を確かめる為に後ろ向きに階段へと近づいた。
瞬間、ルクスは地面の感触が無くなった事を訝しむ。前を見るとラウジが慌てて駆け寄ってきており手を伸ばしている。落とし穴に嵌り、自分が落ちている事を浮遊感とともに悟りラウジへと手を伸ばすが、寸前でラウジの手をすり抜けてしまった。ならばと宙を蹴って上がろうとするも、ルクスの上へとラウジが降ってきたのである。
ラウジは目の前で沈んでいくルクスを見て、咄嗟に駆け寄り手を伸ばすも、その手をすり抜けていったルクスの手に宙を握った。無事を確かめる為にルクスの落ちていった穴を覗き込むも、何故か自分の足元も沈んでいく。
「嘘だろっ!?」
ただダンジョン内に響いたラウジの声。たった一言を残してラウジもまた落とし穴、深い深い闇の中へと落ちていった。