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プロローグ3

 ラウジとルクスは今、整備された道をラクシズ村からダンジョンへと向かう為歩いている。ラクシズ村がダンジョンよりも高い場所にある事から、やや下り坂である。


「何で真っ直ぐ道を作らなかったの?」

「…周りは木が生えているから分かりずらいが、突然崖になってるとこもあんだよ。だからショートカットしようなんか考えんなよ?」


 ただルクスが指摘したように、ダンジョンへと続く道は曲がりくねってる上少し狭い。元々この道は魔獣の通り道。獣道に結界を張り手頃な石で舗装したものだ。標高が高い場所にある事もありダンジョンが右手側に見える事もあって、指を指して疑問に思うルクスに答えるラウジ。


 この周辺は周りに起伏が何もない所である為、山や丘と言えるほどではないが、ほんの僅かに起伏があるラクシズ村周辺は珍しいとも言えるが、少しでも高い場所に生活圏を置く事は魔獣や魔物が跋扈するこの世界での人の知恵でもある事から辺境の村々では普通の事だ。


 下手に低い所では何時水場の流れが変わって流れて来るか分からず、更にその水を求めて強力な魔獣がやってくるか分からないからだ。


 元々が獣道であり、結界も弱い物しか使用していない。無駄に近づく事も無い様な代物で、だからこそ魔獣も利用する道である。だが標高が高いと言う事は魔獣も弱いものしか居らず、冒険者にとっては大した相手では無い。


 真面な武装が出来ないラウジにしては命掛けであるのだが。だからこそラウジはダンジョンの行き帰りにはほぼ走って移動を行うか、魔獣の気配を読んで移動する様心がけて居たのだが、ルクスと話している事もあって走る事も気配を読む事もしていなかった。


 ラウジの説明した内容もそうなのだが、この整備された道以外では、どんな魔獣が出て来るか分からないと言うのもある。決まったモンスターしか出てこないダンジョンと違い、外『フィールド』では魔獣も心があるのだ。


 だからこそ出来るだけ低レベルの魔獣が出て来る場所に道を置く。その辺りは経験則によるものでしかなく、下手にその道を離れたりはしない。


 竜種すら下し、魔獣の生態に詳しいルクスならば無視出来ようが、それでもラウジの言った内容もあって、ルクスも大人しくラウジに付いてくる。


「へ~、だから魔獣も出て来るのか。」

「おう、ってうん?」


 ラウジの説明に頷いていたルクスの言葉に頷きながら、ルクスの言葉の不自然さに気付く。まるで目の前に魔獣が出てきた様な口調であり、ルクスの方を向いていた視界を前へと向けた。


「…バイコーン?」

「だね。まだ子供かな?」


 漆黒の黒毛馬。額には捻じれた大きな角が生えており、ラウジとルクスの方を向いて鼻息荒く興奮している。


 ラウジが信じられない物を見たと、驚きながらその正体の名前を呼べば、ルクスによって肯定される。ただルクスの感想は一般的でなかったが。


 そのバイコーンの体長は3~4メートルあり、どう見ても成体であるのだが、レウの様にルクスの実家の騎獣牧場に居た魔獣は大きいのかもしれない。


 バイコーンは、ユニコーンやペガサスに並んで騎士に人気の高い騎獣であるのだ。その一番の理由は速さと底無しとも言われる体力を持つからで、一節によれば全速力で大陸を一周してもまだ体力尽きないと言われている。ユニコーンの角には癒しの力がありバイコーンの角には猛毒があると言われているのだ。


「そんな訳無いだろっ!!どう見ても大人だっ!!」

「えっ?こんなに小っちゃいのに?」

「お前の知っているバイコーンはどんなんだっ!!」


 偶然にしても会ってしまった強敵に、腰が引け震えているラウジであったが、ルクスの暢気な感想に思わずツッコみを入れてしまう。そのツッコみも恐怖の余り何処かズレていたが。


 二人のそんなやり取り何か知らないとバイコーンは、二人に向かって頭を下げ、角を突き出しながら突撃してくる。


「うわ、うわ…」

「そんな、慌てなくても…」


 ラウジの慌て様にルクスは口では宥めながらも、バイコーンの方を向いて足に力を込め、最初の距離よりも半分ほどになった所で飛び出した。


 その様子は腰を抜かしていたラウジが唖然とするもので、まるで高速で振るわれる剣の様。剣と剣がぶつかったと錯覚する程の速度を持っていた。


 ルクスは回転するように、突き出された角を避けて、その回転そのままに裏拳の要領でバイコーンの首元を強打する。思わず足を止めて仰け反るバイコーン。


「ルクスっ!!気をつけろ、ポイズン化だっ!!」

「っ!?」


 そんなバイコーンに追撃しようとし、ラウジの叫びに後方、ラウジの横まで飛び退いてくる。バイコーンの方を見るとバイコーンの角が気味の悪い紫を主体とした色に変色していた。これこそがバイコーンの猛毒であり、一時的にならば、触れるだけで絶対的な強者である竜種すら動けなくする猛毒である。


 だが普段はこのポイズン化等行わない。このポイズン化、体力を著しく損ない、無尽蔵とまで言われる体力の殆どを持って行かれるバイコーンの切り札の様なもの。ラウジは知らない事であったが、ルクスの裏拳の一打でバイコーンにそこまでのダメージを負わせていたのだ。


「…うーん、厄介だなぁ。」

「…普通は厄介だなで済まねえよ。」

「えっ、そう?」


 バイコーンの様子を観察していたラウジ。命の危険が迫っているからこその集中力を発揮しており、いまだ腰が抜けているのを考慮しなければカッコイイのだが、それはラウジなのだから仕方がない。


 隣で呟かれたルクスの呟きに、ツッコみつつもそちらを見ると、地面に視線をやりながら何かを拾っているルクスが居た。


「…何やってんだよ?」

「うん?これこれ。」

「石?」

「うん。」


 ルクスが拾っていたものは、最初の一撃の時にルクスが踏み抜いた道の一部、手頃な大きさの石ころであった。それを大きく振りかぶる。


 バイコーンはいまだこちらを敵意の籠った目で見ているだけだ。ルクスの一撃が思わぬ威力だった為でもある。逆に言えば、いくら当たり所が良かったとはいえ、耐えられたなとルクスの実力を知っている者が見たら言うだろう。


 ルクスの手を離れ、それこそ下手な弓矢よりも速く、空気を切り裂いてただの石は放たれた。真っ直ぐバイコーンへと向かい、角の付け根。額へとぶつかり、あまりの衝撃に粉々に砕け散る。


 だが当たったバイコーンにとっては堪ったものではない。ただの石とは言え、石が粉々になる威力で叩きつけられたのだ。それも額へとである。くらくらと眩暈を起こし、体を四肢で支えるのが精一杯になってしまった。脳震盪を起こしたのである。


 頭を振って前へと向いた時には、すでにルクスが引き絞られた弓の様に左手を振りかぶり目の前まで接近した後であった。


「うわぁ…」


 その様子を見たラウジが声にならない声を上げる。空を飛ぶ竜種すら地に叩きつける剛腕が、全力で振りぬかれたのだ。全ての衝撃が四肢を伝わり、足元の地面を割り陥没させ、それでも落とす事の無かった衝撃が、バイコーンの3メートル越えの巨体を宙に浮かせたのだ。


 当然の様にバイコーンは絶命しており、落ちてきた後その肉体を地面に横たわらせている。


「Bクラスの魔獣を一人で狩っちゃったよ…」


 ラウジの呟きには、決して自分に出来る事ではない驚きと恐怖とほんの僅かな憧れが含まれていた。


「さぁ、行こうか。」

「そうだ…、ちょっと待ていっ!?」


 障害物は無くなったと言わんばかりにラウジに手を差し出し、先に進もうとするルクスに同意しかけ、そこでまだバイコーンの素材をはぎ取っていない事にツッコみを入れた。


 ダンジョン内では倒したモンスターは魔力となって消えていき、後に残るのは魔石だけであるが、ダンジョンの外フィールドで倒した魔獣や魔物は死後も魔力とならない。その素材を死体となって残すのだ。


 ましてやバイコーンはBクラスと高位の魔獣。その素材を売るだけでも計り知れない金額が懐に転がり込む。万年貧乏性、真面な武装すら出来ないラウジにとっては見逃せない出来事であった。


「素材剥ぎ取り?」

「ってか生え変わりの鱗を買い取って貰えるのを知っていて、何で魔獣の素材を剥ぎ取らないんだよ?」

「鱗を売れるのを教えてくれたのは父さん何だよ。その他が売れるとか、教えてくれなかったんだ。」


 バイコーンの死体から使える素材を剥ぎ取る事を知らなかったルクスにラウジが疑問の声を上げる。ルクスは昨日、レウの生え変わった鱗を売っているのだ。あれも立派なと言うか最上の素材である。


 返ってきた答えは単純な物で、父親に売れると聞かされたからだというルクスに、あーと頭を抱えるラウジ。そこから教えなきゃだめなのかと言う、何ともメンドクサソウにしている。


「まずな、ダンジョン外で倒した魔獣や魔物は死体を残すんだ。その死体から、武器や防具、その他魔道具に生活用品と用途によっちゃ様々だが、素材を剥ぎ取りギルドに売ったり、武装したりして冒険者は生計を立てているんだ。」

「へー、そうなんだ。」

「…教えるから、バイコーンの使える部位を剥ぎ取ろうな。」

「分かった。」


 何時までも頭を抱えてても仕方がないと、ラウジはルクスに言い聞かせる。その説明の内容にルクスの目が輝きだし、居心地悪くなったラウジは顔を反らしながら子供に言い聞かせるように言った。


「まずは蹄だな。これは打撃武器や鍛冶道具になる。次に鬣。頑丈な紐や糸に化けるし、防具を繋ぎ合わせるのにも使われる。角は止めとけ。主に暗殺道具になるからな。子供が持つ物ではありません。」


 説明しながら、それでも何だかんだと言いつつ、手際よく解体されていく元バイコーン。少々グロイ感じになっているが、冒険者としては当たり前の行動であり、これで逃げ出すようではルクスは冒険者稼業等務まるはずもない。だがルクスは態とグロく解体を進めるラウジの手元をジッと見ていた。


「…尾っぽは根元から切り取れよ、これは討伐証明になるから。皮は出来るだけ傷つけない方が良い。袋や服に加工されたりする。…あー、血も錬金術の素材になるが、もうこれは仕方ねぇな。」


 ルクスが逃げ出さない事を確認したラウジは傍にあった先の鋭い石等で更に進める。本当なら剥ぎ取り用のナイフでもあればいいのだが、ラウジにはそんな物買う余裕等ありはしないし、ルクスも今初めて素材剥ぎ取りを知ったのだ。持っている訳がない。


 流れる血を勿体無いと言いつつ、受ける入れ物等持っていないのだから仕方なく諦める。だがルクスへと講義だけはしておいた。


「んで、この剥ぎ取った素材をどうするかだな。どうしよう?」

「あら!?」


 肉塊になった元バイコーンを木々の中に投げ入れ、道の上の流れた血に関しては出来るだけ血の匂いを消すように砂を掛けておく。目の前に山となった素材の数々にルクスは如何するのかと見ていたら、ラウジは何も考えていなかったようだ。思わずズッコケてしまう。


 万年貧乏性のラウジにとってバイコーンと言う最高の金蔓を放置する事など出来なかった為の行動であり、本来なら狙った獲物を探して倒し、剥ぎ取った素材はポーターと言う専用の荷物持ちを雇うのが普通だ。


 だが、今回はルクスの試験中の事故の様なもの。ポーターも雇っていなければ、荷物を持ち帰る為の籠や袋等持ってはいなかった。


「なら、これ使う?」

「大きな布?如何したんだこれ。」

「レウの鱗を包んでいたものだよ。」


 素材の前で動かなくなってしまったラウジにルクスが大きな布を差し出した。手に取って広げてみるとそこそこな大きさを誇り、素材全てを持ち帰る事が出来そうであった。


 なんでそんな物を持っているんだと聞けば、昨日売り払ったレウの鱗を包んでいたものだと言う。確かに巨大なレウの鱗を包むためにはそれなりの大きさが必要で。


 何処に持っていたと聞こうとして、まぁいいかと思い直す。どちらにしろこれで素材は持ち帰れるのだから。ラウジはその布にさっさと素材を載せると包み、背負い直す。


「そんじゃ、ダンジョン行くか。」

「おー!!」


 予定外の戦闘はあったものの、何だかんだとルクスのとんでもない戦闘力を確認できたし、怪我もないしと改めて本来の予定を消化する為にダンジョンへと歩き出したのだった。






 目の前にはポッカリと口を開けたと言うのが正しい様な、天然の岩をくりぬいて作った様な洞窟の入り口があった。手前にはきっちりと整えられた階段が規則正しく並んでいる。


「此処がダンジョン?」

「ああ、全三層、30階からなる一般的なダンジョンだ。」


 そんなダンジョンに初めて足を踏み入れた冒険者は、今のルクスと同じ感想を抱く。入口の洞窟風味のその様子とは違い、一歩中に入るとまるで巨大な古代の建物のような、迷路じみた教会のような印象を受ける。


 その煉瓦作りの壁を触りながら、本当にダンジョンなのか疑わしく思うルクスであったが、ラウジは俺にもそんな時があったと懐かしく思いながら説明する。


 ダンジョンは全部で三層に分別される。第一層は迷路のような迷宮型であり、一階は建物の中の様な感じになっており、通路も幅も高さも一定だ。人が普通に立って歩く事が出来る。モンスターも弱い物しか居ない。ラウジが主に活動範囲とするのは、この一階下から二階下だ。そこは天然の洞窟風味の迷路だ。


 第二層は広場型。最初にサバンナの様な広場があり、何でも人工の太陽があるそうだ。これはラウジが聞いた話である。第三層はまたも迷宮型だが、そこに生息するモンスターは大型で、避ける隙間が無いそうだ。


「ああ、言い方も教えた方が良いか?」

「言い方?」


 ラウジはきょろきょろと辺りを見回すルクスに声を掛け、余り言い分けたりしないんだがなと前置きをして、モンスター、魔獣、魔物の言い方の差を説明しだした。


 モンスターとはダンジョンが充満する魔力で作った生物であり、本当の生物ではない。息絶えれば、魔力に戻ってしまい、近くの生物に吸収され、その生物の力となる。更には魔力が凝り固まり魔石を残す。


 魔獣と魔物は基本的に外にしか現れない。迷い込んだ物がダンジョンで目撃されるが、それも稀だ。


 魔獣と魔物の差は獣が変化したものか、それ以外が変化したものかによる言い方。大地には魔力が噴出している場所があり、魔力溜まりと呼ばれるそこで原生生物がより強力に変化してしまうのだ。


 それ以外では元々、強大な魔力を持って生活している原生生物も居る。それが竜種で、これは魔獣とも魔物とも呼ばれない。


「へー…」

「まぁ、どれもそれほど重要視されてないし、言い分けてる奴なんて珍しいけどな。」


 そう言って自慢げに締めくくるラウジ。だが、ルクスはそんなラウジを尊敬したかのように見ている。気恥ずかしくなり、頬を書くラウジであったが、何かに気付いたかのように、通路の奥を凝視する。


「如何したの?」

「ああ、もう一つ。ダンジョン内に外見は違うのに、外に居る生物と同じ扱いと言うか、同種とされるモンスターも居る。」

「例えば?」

「ああいう奴とかな。」


 そんなラウジの様子を訝しみルクスが声を掛けると、ラウジはもう一つ忘れていた事があると話だす。ルクスがその事に質問すると、ラウジは通路の奥を指差しながらダンジョン初モンスターだなと言った。






 そいつは丸い体。透き通った青色をしており、二個の丸い感覚器官。袋状になっている捕食器官を持つボールの様なモンスターであった。そんなモンスターがボヨン、ボヨンと跳ねながらルクスの方に移動してくる。


「何此奴?」

「スライムだよ。」

「へっ?スライムってあのスライム?」

「まぁ、言いたい事は分かるけどな。ダンジョンに居るスライムは全部こんな形だよ。」


 そのあまりに緊張感が無い間抜け顔に見えるモンスターに、ルクスが肩を落としながら、その正体をラウジに聞く。だがラウジから返ってきた答えはルクスを驚かせるのに十分であった。


 ルクスが知っているスライムと言えば、平面の、悪く言えばゲロの様な存在であり、とてもではないが強いとは言えない。子供のおもちゃ代わりにされる事もあり、あちこちで良く見かける魔物だ。確かに感覚器官は二つで捕食用の袋もあるが、こんな丸々事はない。


「これもダンジョン特有の現象って言うやつだよ。」

「は、はぁ。」

「そんじゃ魔石拾って、先に行こうぜ。」


 例え姿形が代わってもスライムである事には変わりなく、ルクスに一撃で魔力に戻される。コロンと転がった鈍い色の魔石だけが、そこにモンスターが居た事を示しており、ラウジの言葉に従って魔石を拾い上げたルクスは、ラウジの後を付いて行くのだった。

もう少ししたらタイトルを一話、二話に変更し、章管理をしたいと思います。

ちなみにプロローグはルクス君が冒険者になるまでの話です。

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