表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/15

8

「カイン、エバを捕まえたよ、エバを捕まえたんだ」



カインと僕はふたりきりだった。

アダムからの厳しい教育。

学問、戦術、実践。

怠ればすぐに罰が下された。


僕は何度も泣いた。

カインの前で何度も泣いた。

その度にカインは僕を慰めてくれた。

でも、カインは僕の前で泣いたことはなかったね。

僕は、きみの力になれていたのかな。



アベルが走る。廊下に足音が響く。

ノックもなくアベルはカインの部屋に駆け込んだ。

「カイン褒めてよ!エバを捕まえたんだ!」

その瞬間、アベルの表情は凍りついた。

「エバ…?」

そこには、イブがいた。

正確に言えば、イブのかたちをした生き物がそこにいた。

その生き物は、目を瞬かせ、アベルを見つめていた。

「な、んだ、お前は」

その生き物は応えない。いや、応えることができないのだろう。ただ、あー、とも聞こえる意味のない音を漏らすだけだった。

「ちがう、お前は、お前はエバじゃない」

アベルの中で、なにかが弾ける音がした。



カインはイブの髪の毛を手に入れた。

そしてカインはあることを思いついた。

この髪の毛からイブのクローンを造ればいい。

そうすれば、イブはずっとカインのもの。

愛を、安らぎをくれる。

それからカインの生活はその生き物中心の生活になった。

言葉を知らないその生き物に言葉を教え、食事を運んだ。

その生き物の髪を梳くとき、安らぎを感じた。

その生き物が無邪気に笑うとき、暖かさを感じた。

カインはそのとき、愛とは、与え与えられるものだということを学んだ。

その生き物が愛を教えてくれた。


そしてその生き物は今、最愛の弟に首を絞められている。

反射的にカインは、アベルに向かって、引き金を、引いた。



ねえカイン。

きみはいつも僕を支えてくれていたね。

僕は、きみの力になれていたのかな。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ