7
広く、設備の整った部屋。
技術の粋を集めた、個性を全く感じさせない部屋。アダムはそこで仕事をしていた。
アダムの仕事は、研究兼塔のシステムメンテナンス。塔の運営管理は、彼の掌の上にある。この塔はアダムなしでは作動しない。
アダムの視線が資料の上を走る。黒曜の瞳が、素早く情報を読み取っていく。
ふと、アダムは手を止めた。すると図ったように部屋のインターホンが鳴った。
「アダム、ノアです。お時間をいただけますか」
「ああ、入れ」
資料から顔をあげることなくアダムは答える。そのためアダムは、ノアがいつもの柔和な、人懐こい笑顔を浮かべていないことに気がつかなかった。
「アダム、お伺いしたいことがあります」
そう言われてアダムは初めて異変に気付き、資料から目を離しノアを見る。
「どうした」
ノアは一瞬逡巡し黙り込む。しかし意を決したように話し始めた。
「この塔で行われてきたプロジェクトの記録を遡りました」
「プロジェクトの最初期、あなたは自分の遺伝子と、エバの遺伝子を掛け合わせて僕らを造った」
「アダム、あなたの話だと、このプロジェクトの一番最初の成功例はカイン、次にアベル、そして僕ですね?」
「それがどうした」
アダムがノアを鋭く見つめる。
「このプロジェクトの最初の成功例は、13F。それ以前の記録は見つかりませんでした。そしてこの13Fには遺伝子にある特徴があった。遺伝子表現型が突然変異体であるアルビノ。つまりこれは僕のことです」
ノアは話を続ける。
「そしてカインとアベル。彼らの遺伝子を採取し調べました。黒髪のあなたと金髪のエバ、ふたりからアルビノの僕が産まれたとしたら、金髪の彼らもアルビノ遺伝子保因者であるはず。しかし、彼らからアルビノ遺伝子は確認されませんでした」
「何が言いたい」
アダムが席を立つ。ノアはアダムから目を逸らさずに言う。
「アダム、あなたは今自分の遺伝子情報にロックをかけているため、あなたの遺伝子と照合することはできませんでしたが、僕、あるいはカインとアベル、いずれかが、アダムとエバの子ではない。そうですね」
ノアの瞳が悲しげに揺れる。
「そしてその可能性が高いのは」
「ノア」
アダムはノアに近付き、彼の前に立つ。アダムは何もせず、何も言わない。しかしノアはそれだけでもう泣きそうになった。
「お前たちは私の子だ。余計な詮索はするな」
それだけ言うとアダムは部屋を後にした。残されたノアは、ひとり立ち尽くすしかなかった。
イブは混乱していた。
イブの歌をきいて以来、男は昏睡し目を覚まさなかった。
このままではいけない、それだけは分かったが、イブになす術はなかった。
そこに、侵入者を知らせる電子音が鳴る。
ピーという高い音が部屋に満ちる。
イブは男の肩を必死に揺らす。しかし男は目覚めない。
ドアが開く。イブは入り込む光の眩しさに目を細める。
「探したよエバ、さあ帰ろう?」
そこにはアベルが立っていた。