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すべてが眠る長い冬。窓の外の吹雪。

完全に環境を管理された塔の中、わたしはひとり生きていた。

何度もわたしは死に、また誕生した。

自分の死期が近くなると新たに自分のクローンを生成し、記憶と役目を託して死んでいく。

気が遠くなりそうな数百年の記憶。

気が遠くなりそうな数百年の孤独。

気が狂いそうだった。すでに狂っていたのかもしれない。


心の支えは彼女だった。

硝子の向こうで眠る彼女。

彼女のために世界をひとりで保ってきた。

窓の外には変わらぬ吹雪。

わたしは彼女の目覚めを待ち望み、ひとり数百年の孤独に耐えた。



アダムの部屋で、イブは眠っていた。正しくは、眠らされていた。身体のあちこちには打ち身のあとや傷があり、ここに来るまでに激しく抵抗したことが見てとれる。腕には精神安定剤を投与された痕。彼女は疲れもあり深く眠っていた。

アダムはイブを静かに見つめていた。

「きみは、どこまでもわたしを拒むんだな」

窓の外には青い空が見える。うららかな午後の陽の光の中、イブはうつくしい絵のようだった。

「そこまでだ」

後ろで男の声と、同時に銃を構える音がした。

「イブを解放しろ」

アダムは振り向かず、ただイブをずっと見つめていた。眠る彼女。アダムを受け入れる唯一の彼女。

「アダム」

アダムがぽつりとこぼす。そして男に向きかえり、言う。

「アダム、お前の名前だろう」

男は表情ひとつ動かさず、アダムに向けて真っ直ぐに銃を構えていた。

「初めて目覚めたエバが何度も呼んでいたよ。狂ったように何度も」

アダムは淡々と続ける。

「わたしはエバが妻だと教えられた。その妻が、わたしを罵倒する。そんな声なら必要なかった。だから奪った」

アダムが硝子細工を触るように、イブの頬を撫でる。それはアダムの愛情の深さを垣間見させた。

「声と、そして彼女からイブという名前を奪った。しかしそれでも足りなかった。だからわたしはアダムを名乗った。彼女の愛するアダムを奪うために」

あたたかな陽の光が揺れる。不思議な穏やかさが部屋に満ちていた。永遠にも似た時間が、アダムのなかに流れる。

アダムはポケットからなにかを取り出すと、イブの眠るベッドのサイドテーブルに静かに置いた。

「エバの、イブの首の装置の鍵だ。イブが目覚めたら、これを持って塔から出ていけ」

そう言うとアダムは男の横を通り過ぎ、扉へと向かう。男は、それをただ見ていた。

「最後に。…その鍵を外すのは、塔の外で、わたしの目の届かないところでしてくれ」


部屋の外にはノアがいた。いつもの柔和な笑顔で、アダムを待っていた。

「アダム」

ふたりはどこへともなく、部屋から遠ざかるように歩く。

「…わたしの名前は、アダムではないんだ」

「では、なんと言うんですか?」

「わたしの名前か?随分前のことだからな、もう忘れてしまった」

「そうですか。じゃあ、いっしょに考えましょう」

彼が立ち止まる。

ノアが柔らかく、彼を抱きしめて言う。

「…大丈夫です。僕は何処へも行きません。僕はちゃんと、あなたの子どもですから」

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