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プロローグ

世界は、ひとつの塔を遺して崩れ去った。

かつて人は貪欲に資源を喰い荒らし、それだけでは飽き足らず、戦火を散らして奪い合った。その重みに耐えかねた世界は、長い冬を迎える。

人々は眠りについた。眠りにつくことのできなかった人々は命を落とした。

そして朝を迎えたとき、世界は生まれ変わった。

新たな時代、新たな神話のはじまりである。


ガタン、と、音が鳴った。

広く、無機質に明るい廊下に、ひとつの物音が響く。そして、一枚の絵のような光景の一部が動く。

排気口とみられる穴から、人の脚が出てくる。そして腰、胴、顔。

まばゆい太陽のような金の髪に、青空の青い眼をしたひとりの男が、廊下に降り立った。

彼は顔につけたゴーグルを頼りに、張り巡らされた赤外線の網を抜ける。そしてドアの前に立ち、自身のポケットから端末を取り出すと、ドアロック装置に繋げた。

数十秒すると、端末が小さく断続的に音を立て始め、そしてドアロック装置が、認証しました、と鳴る。ドアが開き、彼は歩き始める。

廊下の先もまた廊下だった。そこには危険なセキュリティシステムはないようだった。彼は緊張を少し解いて辺りを歩く。人はいなかった。それはそうだ、ここは、世界の中心の塔の最上階なのだから。

そう考えた時。そう遠くない距離で音がした。金属が鳴った音。彼は即座に警戒体制に入る。

しかし、物音は動かない。同じ場所に留まりただジャラジャラと音を立てるだけだった。

彼はゆっくりと近づく。手には小型の、しかし人を殺めるには充分すぎる銃を持って。

音の先には部屋があった。彼は覚悟を決めてドアを開けた。

そこには、ひとりの女がいた。


その女は鎖に繋がれて座っていた。彼の髪が太陽の色なら、女の髪はやわらかな月の色だった。金の髪は長く、床に落ちるほどだった。

「きみ、こんなところでどうしたんだい」

女は応えない。ただ、驚いたように目を見開くばかりだった。

「こんなところに繋がれているってことは、きみは塔の人間ではないんだろう?」

女はそのときにやっと自分が話しかけられたのを理解したように、反応を示した。

女は自分の首元を指す。正確には、彼女の首につけられた、金属製の首輪を。

「…酷いな、声帯を潰されているのか」

彼は眉を顰める。そして女の前に座り、ポケットから工具を取り出す。

「首のそれは取れないけど、鎖なら外してあげることができる」

彼は独り言のように続ける。

「僕はこの先どうなるかわからない人間だ。うまくこの塔から出られるかもわからない。それでも、一緒に来たいのなら、僕がきみを守る。どうする?」

ふいに、女の目から涙が零れた。はらはら、涙がこぼれ落ちていく。

女は涙を拭うと幾度も頷き、彼の腕を掴む。

「決まりだね」

彼はそう言って微笑んだ。そして工具を取り出し、高温の器具で鎖を溶かし切ろうとする。

「きみの名前は?」

女は、少し戸惑いを見せ、その後、床の上に指で文字をなぞって見せた。E、V、E。

「エバ?」

女が首を振る

「じゃあ、イブ、かな」

女は、笑みを浮かべると頷いて見せた。

「わかった。よしじゃあ行こうイブ。鎖はとれたよ」

そう言うと彼は先ほどまでイブを繋いでいた鎖を地面に投げ、手を差し伸べる。イブは笑みを浮かべその手を取り、ふたりは歩き出した。


世界の中心の塔の最上階。物語はそこから始まる。

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