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七夕 夏の日

作者: 天月

今でもよく覚えている。


うだる太陽の熱気とぬるい風。額からも背中からも止まることなく流れ落ちる汗。

空はどこまでもどこまでも深い青、そのなかにくっきりと弧を描いているまっさらな雲……。

クリアバッグに詰め込んだ使い終わった水泳道具がかたかたと揺れていた。小さな手をとられながら彼とふたりで駆け込んだのは、近所の公園にあるおなじみの児童館だった。

「あら、こんにちは二人とも」

にこやかに、この施設の責任者である卓球上手なおばちゃんがいつものように明るく迎え入れてくれる。

「みんなあっちで七夕飾りの短冊を作ってるから、二人も何かお願いごとを書いていってね」

「はーい!」

揃って返事をしながら、ばたばたと木板の廊下を踏み鳴らしてレクリエーションルームに飛び入った。

大勢の同じ小学生たちが連なった長机の周りを囲みながら、用意された色紙とペンと紐を手にしてきゃっきゃと明るい笑い声をその場に響かせている。

友人と肩を寄せ合い「何書くー?」などと語りながらも、好きな色のペンを持ち好きな色の紙に向かう子どもたちの表情は、どの顔もみな真剣そのものだった。

私たちはそれぞれ水色と黄色の紙を選んで、その輪の片隅に潜り込む。

願いはすでに決まっていた。この日のふたりが心から願っていたことはただひとつ。

先に紙に向かっていた子たちよりも早く、ペンはその用途を終えた。

おんなじ願いを込めて書いた短冊を持って、施設の玄関前に立て掛けられている大きな竹に結んだのだった。

『また会えますように』……と。



ーー 遠い夏の日。

隣の公園の大木からは絶え間なく蝉の鳴き声がさざめいて、ゆっくりと流れる風に揺れている笹の葉とふたつの短冊を並んで見ていた。

翌年から6年間、ひとりで同じ願い事を繰り返すことになる前の、鮮やかな誓いの記憶。






「ー、早く!ほら」

「もう、待ってってば……ぅはーっ!」

「凄いな……」

「綺麗だねぇ」

彼の車で連れられて訪れた一番近場の天文台。

あの日と同じように手を引かれて一歩踏み出すと……眼前には煩い民家の灯りを遠く排除した、一面の瞬く世界が広がっていた。


……ずっと変わらない。大切な人の傍で、夏が今年も綴られていく。



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