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第3部:Scrap and Build — 虚無と再生 —

第1章:半ズボンの破壊神(The Audition)


新生GEAR CLASHは、絶頂という名の停滞の中にいた。

マゼンタの光に塗りつぶされたステージ、レオナが完璧に計算した「ムービズム」。4人のギアは一糸乱れぬ精度で回り、もはや練習の必要すら感じさせない「自動機械」と化していた。


その「檻」を壊したのは、一人の少女だった。

オーディションの扉を蹴破り現れたAtoZ。半ズボンの制服に、緩んだネクタイ、剥き出しの膝。アンガス・ヤングの再来を思わせるその姿に、誰もが唖然とした。


彼女は傷だらけのSGギターをアンプに直結すると、凄まじいハウリングを撒き散らしながら床をダックウォークで猛進した。


「……綺麗すぎて、反吐が出るわ」


その一打のノイズが、ともちの緻密な旋律を、ハノンの完璧なリズムを、そしてレオナが作り上げたマゼンタの平穏を、跡形もなく粉砕した。

 

第2章:剥離(Stripping)


「まずは、その『嘘』を捨てなさい」


正式加入(殴り込み)から数日後、AtoZはハノンの豹柄ハットをゴミ箱へ投げ捨て、ともちのギターからピンクのリボンを引きちぎった。


「キラキラに頼らなくても、あんたの鉄は十分尖ってるわ」


レオナが作り上げた「新生」という名の装甲が、一枚ずつ剥がされていく。スタジオのLEDは消され、裸電球の白が支配する中、AtoZは宣言した。


「このノイズの中に、全裸の魂で飛び込んでみなさいよ!」

 

第3章:虚無の駆動(Digital Riot)


ライブ当日、観客は驚愕した。ステージ中央に立つAtoZは、アンガス・ヤングの半ズボン姿でありながら、ギターを持っていなかった。

彼女の手にあるのは、一台の黒いサンプラー。


「音はもう、ともちが鳴らしてる。私は、その先を壊すだけ」


AtoZはギターを弾く代わりに、空中で見えない弦を掻きむしりながら、激しいヘッドバンギングと感電したようなステップでステージを支配した。ともちのギターをリアルタイムでサンプリングし、暴力的なグリッチノイズへと変換して撃ち返す。


ハノンは、豹柄ハットもセクシーな歌唱法も捨て、ただAtoZが放つノイズの塊に食らいついた。レオナもまた、自分の旋律を「破壊の素材」として差し出し、狂ったように笑いながらシンセのフィルターを全開にする。

楽器を持たず、肉体とノイズだけで「野生」を体現するAtoZ。彼女という劇薬によって、GEAR CLASHはついに内側から完全に爆発した。

 

第4章:金だらいの鎮魂歌(Requiem for a Clang)


MVの撮影現場。かつての極彩色のセットは撤去され、そこには一台のマイクと、あの「黄金色の金だらい」だけが吊るされていた。


AtoZは、レオナの脳天を打つ「笑い」の道具だったそれを、冷徹な楽器として再定義した。彼女はサンプラーを操り、金だらいの衝撃音を「宇宙の終焉」のような残響へと引き伸ばしていく。


「笑われて終わりじゃない。この音が、私たちの『死と再生』の鐘よ」


ランサーズはもはや踊らなかった。彼らはAtoZのノイズに導かれ、のたうち回り、土着的な衝動のままに肉体を躍動させた。

映像の中には、豹柄もスパンコールも、マゼンタの甘い誘惑もない。ただ、泥にまみれて咆哮を上げる、真に『GEAR CLASH』という名に相応しい、剥き出しの4人の姿があった。

 

第5章:真白な残響(White Out)


ライブの終わり、そしてMVの最後。

AtoZは、全てのノイズを真っ白なハウリングへと収束させ、そのままフェードアウトするようにステージから姿を消した。


マゼンタの光が消えた後のスタジオには、裸の電球の下、肩で息をする4人だけが残された。ハノンは乱れた髪のまま、もうハットを必要としていなかった。ともちは傷だらけの黒いギターを愛おしそうに抱え、カヨは自分の内側で脈打つ、かつてないほど自由なギアの音を聞いていた。


レオナは、床に転がった最後の一粒のパイン飴を口に放り込み、空になったサンプラーを見つめて呟いた。


「……最高にアホな、最高の音楽やったわ」


AからZまで、すべてを奪い、すべてを塗り替えた後の、真っ白な静寂。

そこには、自分たちを縛るものは何一つない。

4人は、これまでで最も深い呼吸をしながら、次の音を鳴らすための「自分だけのギア」を、しっかりと噛み合わせた。



GEAR CLASH


――第3部:Scrap and Build 完――


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