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アリア王女の日常

「アリア様。召し上がる順序に誤りが御座います。思い出しくださいませ。女神の色彩です……緑の髪、赤の瞳、白い肌。その順番にお召し上がりくださいませ。お美しくなられるためのお祈りですから、お覚くださいませね」

「うー……」


 王室のしきたりなんて、6歳の女性レディに必要なのかしら。


 侍女がいつものように、わたくしへとグダグダ理屈を並べ立ててきますの。

 本当なら「うるさーい!」と、テーブルクロスを引っ張って猫のように食卓を引っ掻き回してやりたいところですわ。

 

 お母様やお父様、お姉様たちが恥をかくからおとなしく、レタス、お肉、パンの順に食べましたけども……。


(こんなコトしなくても、私、じゅうぶん可愛いですわ……)


 紅茶に映った自分の顔を見ました。整っていて綺麗な顔ですわ。


(何が緑色レタスよ。私なんか木漏れ日のような金の髪を持っていますわ。瞳だって、どんな草木よりも深い緑色をしているし、肌は陶器のように美しいんですから!)


 頬を膨らまして食べていたら、お父様に「リスでは無いのだから人間らしく振る舞いなさい」と叱られましたわ。


 食事が特に楽しくない。


 そう思いながら、パンを小鳥のように食べていますの。


(あぁ、こんな毎日が延々と続くのね)


 そう考えると途端に鬱々としてくるもの。シャルル伯爵家の第3令嬢はのんびり趣味のガーデニングをしているらしいですわ。


(私だって、第3の付く王女。お姉様たちに公務をすべて任せて、スローライフを楽しみたい)


 昔そう言って、お母様から暴れ馬車の如く叱られました。引きましたわ。あの怒り方は。引っ切り無しに私に対する否定が飛んでくるのですから。


 きっとお母様は私のことが嫌いなのですわ。考えたって仕方のないことですけれど。


「……」


 しきたり通りに静かに食事をする。何を食べても、砂を噛んでいるような感覚がする。だから頭のなかで妄想していた。


(テーブルクロスで雲を包んで、ナイフとフォークで食べられはしないものかしら)


 考えてみたら、少しだけ楽しくなります。食べているものの繊維が雲に変わる気がします。綿飴の様な雲を食べている気になります。口角が上がりますの。


 これが、私のささやかな王室への抵抗ですわ。


(私が魔法使いなら、お父様やお母様の口から出る皮肉や文句を全部ひまわりの種に変えられるのに……)


 想像してくすっと笑う。

 私の心の声は、お父様にもお母様にも、届かない。優秀なお姉様たちは、私のことなんか眼中にないのか、声すらかけてこないですわ。


(期待してないならマナーやルールなんて、ことさら必要ないですのに)


 その後もずっと、王女としての振る舞い方の練習ばかりが続きましたわ。



 夜になって、明日あすにかけて夢を見る。

 

 そのことが、とても楽しみですの。だって、夢は私の見たことのない景色を見せてくれる魔法のようなものだから。


「おやすみなさい」


 ──そして、こんにちは。

 夢の中の住人さん。


 王女ではない『私』を唯一受け入れてくれる夢の門番が、扉を開けましたわ。気がつけば私は霧深い森のなかでちいさな妖精とココアを飲んでいました。


 草を踏み分ける足音がしますわ。振り返ると黒いローブを着た性別不明の人が立っていました。身長は私と同じくらい。


「すみません」


 発せられた声を聴くと、男性のように思えます。抑揚のない、不思議な声質でした。


「私にも、何か飲み物をくれませんか、()()

(!)


 彼がそう言うものだから、私は一気に目が覚めてしまいました。夢のなかで『王女』と呼ばれたのは初めてでしたから。


 変わった夢を見たのは、私だけではなかったらしいのです。お母様が、背中を這う大蛇の夢を見て寝込んでしまいましたの。


「お母様、大丈夫?」


 私やお姉様たちが声を掛けても唸るだけで目線も合わない。夢見が悪いだけでこんなになるはずがないと、お父様は人伝ひとづてに奇術を操れると噂の少年を連れてきましたわ。


「お初にお目にかかります。ファンクルと申します。この度は、グレース女王様に憑いた大蛇を祓う役割を授かりました」


 その声に聴き覚えがありました。


「貴方は、夢の中の魔法使い!」

「?」

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