第10話
勝負が終わってからの帰り道。
龍一が行った行為に車内が騒然となる。しかしそれに続きまた一つ問題が発覚した。
車の中でぐったりとしている龍一の隣で、友哉は落ち着かなそうに龍一を見ている。
さっき賭場を出た時に2人になって、話をしようとも思ったが、まだ『現場』に近すぎてそこは配慮していた。
「なんだ友哉。一件落着したんだし、もっと晴れやかにさあ」
お前が晴れやか過ぎんだ、と運転している姫木は思うが佐伯をちらっとみるだけにとどめた。
「あ、うん…でも、おれ…最後の勝負の時、3枚とも偶数しか出さなかったんだ…けど」
「ん?だからいいんだろ?最後に勝ったのは三なんだし…はあ??」
ナビシートの佐伯は、ただでさえでかい体を物凄い速さで反転させて後ろに向き直る。
「偶数ってえと。2、4、6か?」
こくりと友哉は頷いた。
「だからどうしようっ、て俺テンパってたんだけど、捲ったら何故か…」
窓にもたれて目をつぶっていた龍一が、うざそうに起き上がってくる。
「お前が命なんてかけちまうからやってやったんだよ。あの一瞬だけでグッタリだぜ」
あの場でのイカサマに、姫木も運転席で些か驚いていた。
「なのにてめえは、柳井とかいう優男とベラベラベラベラくっちゃべりやがって」
相当お疲れの模様だ。
龍一は、わざと友哉に丁目を張らせた後イカサマをやる覚悟をしたのだ。
「最初ニの次に六来たから、半目でくるならニの次の三で来ると読んだんだ。一は実はあのゲームでは暗黙のルールでださないことになっててな、だからない。五は六を出してきた以上あの胴師は数を戻さないと踏んだんだよ。丁目は実は全部怪しかったから、ああするしかなかった」
そう言い切って再び窓に懐く。
「龍一…お前ってほんとこういうことには天才的だな」
佐伯と友哉がほとんど尊敬の目で龍一を見つめた。
「やめろよ気色悪い。そんなに感心したんならなんか食わせてくれよ酒もつけて」
龍一はさっきから窓の外を見ていて、どうやら今日はクリスマスイブだということに気付いたのである。
「シャンパン飲ませろワイン飲ませろ七面鳥食わせろ」
と騒ぎ出し、そんな龍一を面白く見ていた友哉が
「じゃあ今日は俺に奢らせてください。今回の件では本当に皆さんにお世話になったんで…俺なんて言っていいか」
以前よりはずっと明るい表情に戻った友哉がそう言って頭を下げた。
そんな友哉の頭を、龍一が佐伯の代わりにポンポンと撫でて
「もうニ度とすんなよ?あんなはちゃめちゃな手本引き俺初めてだったんだからな」
と笑って髪を混ぜ返した。
佐伯も
「いい勉強したと思ってな、ほんとだよ2度とこんなことすんなよ」
と、代わりに撫でろと龍一に頼んで、龍一はもう一度頭をポンポンする。
「じゃあせっかく奢ると言ってくれたんで、どっかしけこんでレッツパーリーしようぜ」
と、1人盛り上がる龍一だったが、佐伯に
「悪い、事務所で榊さんが今日の件で待ってるんだ。なんか買ってくんならいいぞ」
龍一は徐にガッカリして、
「お前んとこでパーリーなんてやりたかねえよ。じゃあ、しょうがねえな、ちょっといいもんテイクアウトして食わせてくれ。腹が減り過ぎて力が出ないよ」
○ンパンマンのような口調で言う龍一に
「じゃあホットモットの弁当で」
笑いながら佐伯が言うと、
「ふざけんな!」
と 龍一は大激怒。
「わかったから」
と、姫木と相談して馴染みのイタリアンの店に連絡し、クリスマスイブを事務所で野郎同士で固まっている皆んなの分も含めてテイクアウトを頼んだ。
暫く社内は静かだったが、不意に龍一が友哉に寄ってゆく。
「悪いけど話聞いたよ。でさ、俺疑問なんだけど、無理矢理男にされて勃つの?」
前の席から
「おいっ!」
と怒気を孕んだ声が同時に聞こえてきた。
「何聞いてんだよお前」
佐伯が呆れたようにふりむく。
「だってよー、その気んなんなかったら男相手じゃ…ましてほぼ無理矢理やられて 勃つか?」
「その気があれば、男相手だって勃つだろ」
佐伯と姫木の関係を知っている龍一は、まあ…その気があればな…とちょっと流し気味に頷いた。
「けど、全く知らない奴が来て、さあ始めましょうじゃその気も何もなくね?」
友哉は黙って聞いていたが、言いづらそうに話し始める。
「薬…を貰いました」
「薬?」
佐伯の目が険しくなった。
「常習性はないって言うんで、俺も楽にできるならって貰って飲みました」
「それってカプセルか?」
龍一もちょっと難しい顔をする。
「そう、このくらいの」
指で大きさを示した友哉は、佐伯と龍一の表情の変化に萎縮した。
どんなことにしろ、薬を服用したというのがいいことだと自分でも思っていないから、その2人の表情には俯くしかない。
「それ飲むと、なんかすごく…その気になるっていうか…効いてくると別にやらなくても気持ちいいんすけど、まあ…飲まないとやってけないって感じで…」
佐伯と龍一は確信した。
「MDMAだな」
龍一の言葉に佐伯も頷く。
MDMAは友哉も聞いたことくらいはあった。
「実物見てないから確証はないけど、多分。あれは身体を壊す度合いも効き目と同等だって聞いたぜ。しかも今現在は非合法になったはずだぜ」
「お前使ったことあるのか」
佐伯の言葉に、まあ、1、2度はと龍一は答える。
「まあ、あれ飲めばできるだろけど…。どのくらいの期間飲んだんだ?」
とりあえず傍目からは、友哉の顔色も身体もどこも悪そうには見えないからまず心配はないと思うが、一応飲んだ日数や回数によっては検査をした方がいい。
「2週間くらいかな。毎日」
「毎日?」
やったことがない訳じゃないから偉そうには言えないけれど、ー毎日は…よくねえわ…ーと龍一は友哉を嗜める。
しかし、飲まなきゃやってられないという事情も理解はできる。
「とにかく、検査してきな」
龍一はなるべく優しく言ってやった。
常習性がないだけを信じて、身体が壊れるということを考えもしなかった友哉は些かショックを受けている。
佐伯は既に前を向いていたが、薬まで使わせていた金子に腹立たしさが増して行っていた。




