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カオスハート-dawn

作者: GiruSIN

        カオスハート-dawn


※この作品は「幻想は程遠く」のエネス達の住んでいた地球とリンワットという星が融合する前のエネスが転生する200年前の話です、先にこちらの作品を読もうとした人達はラッキーと言えるでしょう



2027年 6月 23日


今この地球では必ずと言って良いほどに何もかもが上手くいくように誰もが幸せになる権利を真に得た。


だがそんな非現実的なほんの一瞬の幸せを得るためにあった全ての権利が一夜にしてなくなった出来事が今も続いていた。


それは今まで差別され続けた者達や戦争に無理矢理投げ込まれた兵士などという、ただの雑務兵のような人間達がその幸せというもので自分たちが今まで受けてきた弊害や軽蔑その全てが消えてしまわぬように、幸せを知った人間達がその出来事を風化させてしまう前に起こした正義と正義の話。




ここは元々廃墟であったが闇医者が不法建築を建築業者に頼み込み作ってもらったマップにものらない、今世ではありがたい施設だ。


そしてこの病院では1人だけ入院した患者が今もまだいるのだがその者はハートという病気にかかりそのハートは感情というものを無くすのではなく……忘れさせてしまうものである。


別にそれだけならなんとか皆の記憶を蘇らせることもできたのだが今は世界大戦というのだろうか、周りの国が戦争を始めればまた他国もという感じでこの戦争が広まり家族も友達も亡くした人間がハートにかかると何も思い出せずという事が今全世界で起きていてこの子もその1人だ。


その子の名前は、篠田 優香と言いこの子の父と一番関わり深かった病者に引き取ってもらい記憶の改善度でいうと家族がいた事と自分の名前だけだそう、そしてまだ医者の名前は聞けていなく教えてもらえてもいない。


「やぁゆだ」


何故今優香に話しかけた医者がゆだと呼んでいるのかは、篠田の田と優香の優(ゆうと読むがゆの方が発音も良く)でゆだらしい。


「ドクター今日はどうしたの?」

「実は今日この辺りでハート感染者のデモ隊がまた暴れるらしいから今日も地下で一緒に過ごしてはくれないか?」


先程差別された者達による殺戮がまた始まるようだ、もうこの国に生きている人間で一般人なんて10割の中でも2割程度だろう、残りの8割は国のお偉いさん方などの富裕層そして国で暴れ回る組織へ対抗するやつらだろう。


もちろんゆだは生きるために隠れるしかなくそれと同時に賛成するしか道がなくもちろん医者には同意であった。


「そうなのね、いつも通り隠れるよ」

「ありがとう」


別に感謝される側は医者側だというのに隠れてくれる事に対して感謝するなんてのは少しおかしい気もした、いやこれはそんな合理的だなんだよりも感情論を芽生えさせて考えた方がいいのかもしれない。


「ドクターはこの争いが終わる日って知ってる?」


もちろん誰もこの世界の争いが終わる事なんて知りもしないし知りたくもないが医者はゆだのために希望を持たせてあげたかった、だがずっとこの小さな病院の中からも外を見た事すらもなく希望なんて感情や言葉の意味ですら知っていてもゆだの心に希望は微量しか現れないだろう。


「分かるさ、それは勇者が悪い奴らを皆んな倒してくれたら皆んな幸せになる」

「勇者って世界を救う人だよね?いるのそんな人?」

「肩書きを持った人物ならいるから安心してくれよ」


医者は勇者がいるという事実は知っているがその勇者が今国に裏切られもう我々の前に出て人を助ける事ができないという事を知っていたから、肩書を持った人間がいる事は教えた。


ゆだには世界がどうなっているのかがよく分からなく勇者が世界をより良くしてくれる程度にしか思っていない、だが今この世界が求めているのは改善ではなく1から全てを作り直して欲しいという叶うことのない絶えかけの願望であった。


(肩書き……)


何となくドクターの言葉の中に含まれた肩書きの意味を察して、もうどうしようもなくなってしまった世界になる前を想像しようとしたが全く思い浮かべる事ができなかった。


外から銃弾が放たれ命乞いをする人間の声が聞こえたがすぐに撃たれて死んでしまったのだろう、その音を聞いた医者はゆだの手を繋ぎこう言った。


「さぁ地下に行こう」


医者のこの言葉には拒否権なんてないような言い方だったがそれもまた優しさなのだろう。


いつも通りベットから降りて階段を下り床によく馴染んだハッチを開けて中に入り電球を付けると医者がゆだを奥の椅子に座らせた。


「しばらく外に出れないかもね」


しばらくというのは2日か3日の事だろう、その間は何もする事ができなくもちろん何かを食べる事も喋る事もできない、権利があってもその権利を使えば殺されるなんて皮肉なものだ。


しばらくの間何もできないものだからただ寝る事にした、こういう事はよくある事だからなのかすぐに眠りにつく事ができたがきっとすぐに眠る事がこの世界でできないなら皆夢を見る事ができなくて退屈という感情しか自分達には残らないだろう。


2日経ち2人は空腹で死んでしまいそうだがそれがさらに眠気を呼び覚ます薬となってしまうが今寝たらいつのまにか餓死して死んでしまうのが目に見えていて耐えていたがもう外に出て食料を取ってくるしかないだろう。


「長い間待ってくれてありがとう、私は食べ物を取ってくるよ」

「でもまだ外には暴徒がいるんでしょ?」

「……まぁそんな事よりもやるべき事があるから、そこで待っててね」


そう言ってこの病院の外に何十人も暴徒がいるにも関わらず行くという医者には呆れてしまうがゆだのために命をかけてくれているのだから何も言う権利を見つけることがまだできなかった。


医者がハッチを開けようと手をかざすと、扉を開ける音がすぐ近くから聞こえ鍵は閉まっていたはずだがもう使い物にならないような状態だったのだろう。


「やっと見つけたぞ!さっさと出てこい!」


ゆだの記憶の中では一番汚く聞くに耐えない怒鳴り声が家の中で響いていて、医者も殺される危機感が自分を動かしゆだの口を抑えたがゆだ自身何故口を抑えられたのか意味がよく分からなかった。


(……)

「俺達はお前らを助けに来てやったんだぞ!」


そう言ってはいるが誰もこんな奴らを信用する事はできないはずだ、軍も警察も機能しないこの世界で国民を助けようなんてのはまずありえない、虐殺趣味の変態か姦族のどちらかが今家の中に入ってきたのだろう。


「私があいつらを説得して食料を分けてもらってくるからそこで待っててね」


医者は死にに行くつもりなのだろうか会話のできない連中を殺しに行くつもりだ、いずれはこの場所も爆撃で吹き飛ばされ屋根や壁で圧死するよりかは戦って死んだ方がマシと考えたのだろう、医者はそういう人だ。


「どうかしてるよ」


ゆだは疑問に思いながらもそう言ってやるが後ろを振り向き笑顔を見せただけだった、医者が懐から国の最奥と言える人間達が開発したアンチキックという超音波で相手を失神させる武器を取り出して外に出て行ってしまった。


「貴方達に敵意はありますか?」


家の中に入ってきた者達はリーデデモ隊という魔法使い集団で、今まで魔法使いは悪魔として扱われていたがその魔法使い達が集団になり徐々に大きい組織となっていき最終的に差別は終わる事なく魔法使い以外の全てを滅びへ向かわせる最悪な集団だ。


リーデデモ隊の一部と分かりアンチキックを使用したが魔力壁で怯むことも何もなく嘲笑うように医者の腹を刺し致命傷を与えたが、この光景をやだはハッチがしまっていて見れなく見る勇気も出る気がしなかった。


(……?)


医者が殺された事による喪失感が一瞬あったがまだ殺されたと確定はしていない、自分の中でも医者が死んでしまうのは分かっていたが分かっていてもまだ自分にはそれを確定させる勇気もなかったし確定させてしまえば本当の悲しみを知ってしまうだろう、過去のゆだには悲しみという感情が過剰に多すぎたのかその感情を忘れたいとまで思っている。


「暴力で解決する世界なんてどの星にもありませんからね……」


医者はデモ隊に言ったように周りからは見えたがゆだからはまるで自分に言っているかのように聞こえた、きっと今の世界では暴力が存在しなければ世界を救えないや偽善者と言われてこの言葉にも意味がなくなってしまうほど酷い言われようだろうが誰も何も言わないだけできっと1人くらいの心には響いたはずだ。


「なんで俺たちは人を殺さなきゃいけないんだ?」

「それはもう二度と口に出すなよ」


1人は人を殺す事の無意味さに気づいていた、いや皆が気づいていたが自分達がされてきた事に比べればと結果としては最低な未来しか生めないという全員が悪になれば良いという思想だったが、暴論だという事はデモ隊も知っていたがもう後には戻れない。


「俺……家族がいてさ、まだ俺は人を殺してない!まだ俺は家族に合わせる顔がある!」


こんなに酷い事をしたというのに実は誰1人として殺せていないという事を聞くとこのまま帰れば良いとも思うが、きっと初めてできた仲間を失うのが怖くて今まで帰る事ができなかったのだろう。


「俺だけが人を殺していく、それじゃ満足してくれないのかよ!」

「友達が人を殺してるところを見て誰が喜ぶんだよ!」

「……知るかよ」


医者を殺した人間は半泣きで少年にそう言った、殺したくせにとも思えたが誰も戻れないからこのまま殺し続けて後悔を生み続けるという負の連鎖だ、そりゃ泣いても仕方がないというものだがゆだはそうでもなかった。


人を殺した奴が泣いて良いわけが泣いて良いわけがないと思っていた、これは無慈悲やそういう人間性というわけではなくこれこそまさしく大切な人を殺された人間の感情だろう、これが普通なんだ。


(ドクターを殺したくせに、泣くのか?)


もしかしたらいつだって家に帰れるのに帰れないのは上からの圧力でもあるのだろうか?そうなるとそのリーダーはこの行動が正しいか聞いてみたいものだ。


「忘れるなよ、俺たちの生きる目的は今までされてきた事を思い知らせるだけだ、それ以外は何も考えるなよ」


そんな事をしては差別が酷くなるだけというのは考えなかったのだろうか?いや差別をなくせる一番の手段がこれだったのだろう、魔法使いの戦力は絶大だその力を使って人を殺し続けてまたこのような事がないように反省しろという事なのだろう、これ以外に道がなかったのだから仕方がないしどうしようもない。


「誰か助けてよ、誰か、誰でもいいから、でも最初から私にはドクターしか」


自分が殺されてしまうのは分かりきっていて誰かに助けを求めたかったが皆自分を守るので精一杯だ、人が目の前で犯されようが拷問されようが誰も助ける事はないし逆に敵側につく事だってある、そう考えるとゆだも諦めがつきもう考えるのをやめて見つかって殺されるか餓死して死ぬかを選ぶことにした。


(酷いねこの世界は……)


デモ隊の1人がここのハッチを見つけて開けてしまったが全く絶望感だとかはなく逆に嬉しさが自分にはあったのだ、何もできなかった自分が生きていてもただの無であり死んでも無ならこの世界をこれ以上見ないために死のうと思ったのだ。


「アレは、人だ!」


1人が枝を構え大砲が錬金術により生成され中に炎が詰まっているのか紅く輝いている、ここまでくると眩しいくらいだったがゆだには綺麗に見えず自分の全てを奪った人間の攻撃と見えてとても汚く見えた。


「ドクターはいつでも優しかったのに、何も知らないあなた達がなんでドクターを殺したの?」


ゆだの心から勇気を振り絞った言葉を聞いていないふりをして大砲を発射した、この時本当にこれでよかったのかなという後悔や何かに対する憎悪など様々な感情が自分を飲み込み自分の心が黒く染まった、誰かを殺されたくらいではここまで酷い感情になるはずがないというのに。


自分の目の前に放たれた熱線が自分を殺そうと迫ってくるのがよく見えた、咄嗟に目を閉じると辺りの明るさが瞬時に消えた。


「なんだこれは!?」

「増援を頼む!」


ここの空間は何も見えず漆黒の部屋と言えるだろう、ここまでの純黒は誰も見た事がなく全員が警戒し始めた。


するとゆだの目の前にこのような淡い光の板が現れこう書かれていた。


称号:全ての始まり

レベル:この能力は生物を殺せば経験値を手に入れる事ができ、それと同時に自分の全てを知る事ができる。


この能力というのは「幻想は程遠く」内にも存在はしているがまだこの時代のこの融合する前のエネスの住んでいた星には全く関係のないもののはずなのに突如現れた。


きっとゆだの過去の憤怒や憎悪嫉妬などの大罪や喪失感という大量の感情が自分をどの星でもありえないような真の覚醒を果たしたのだろう。


「……私を助けてよ」


そう言うと自動的にこの淡い光の板は消えて時の止まったかのように宙で固まった熱線はとても小さくなり何もなかったかのようになった。


すると次は白い空間に飛ばされてデモ隊はいなく目の前には扉だけがあった、ここまでくると畏怖などの未知の恐怖が自分の目の前にある扉を開けさせる勇気を無くしていく、ただ自分の周りには扉以外何もなくこの空間はきっと死ぬ事も生きる事もしていない空間だと思い何もしないよりかは扉を開けた方がいいと言う一番良いルートへと開く事ができた。


扉を開けると自分の目の前に涙を流した3人組が怯えてゆだを見ていた。


「私を殺すんですか?」

「……殺す気も失せたわ!どっか行け!」


これは喜べる事ではなかったがまだ勝てるわけもない相手が流してくれると言っているのだからどこかで隠れようとした……そうしようとしたがその必要もないようだ、壁にはボーナスキルと焦がしたかのように書かれた字が書いてありそれを読み終わると3人組の首が吹き飛んだ。


「え……」


まず最初に驚きと恐怖が現れた、自分が殺したわけでもないのに突然首が飛び死んでしまった、だが自分以外に可能性がなかったのだ。


それを知りたくもないのに自分の中で確定させてしまい、さっきまでの3人の話を聞いていてこっちだって殺す気もなかったしこの世界では全員が悪いのだから殺す意味もないと考えていないのに自分がこんな人数を殺してしまったと考えると自分が醜く見えてきたがそれは忘れる事にした。


「来たぞー!ってどうなってんだこれ!」


増援が来たらしくこの死体を見てあちらはゆだの何倍もの恐怖に狩られかけているだろうが引く事はなかった。


先ほどボーナスキルで人を殺したせいなのか目の前に2という数字が現れレベルの事を表しているのだろう、レベルが現れるとますます自分が殺してしまったと言う事に気付かされて罪悪感という言葉が自分の脳内でこべりついた。


「あいつがやったのか?」

「魔法使いなのか?裏切り者が!」


きっと魔法使いと思われているのだろうが魔法なんて使った事もなくそもそも使える人間は生まれた時に決まっていて自分は使えないが、この人数を殺せるのは特殊な魔法使いだと思われている証拠だろう。


「私は魔法使いじゃない!」


数人が黙り込みオレンジ色の仮面を被った男に女が何かを言うと納得したかのように相槌を打ちこのような自分の魔力さを抉るような事を言ってきた。


「そこの男が殺したんだな?」

「……ドクターは誰も殺さなかったし、殺す気もなかった」


本当ならアンチキック以外にも魔法使い殺しのロッドという相手の魔術を跳ね返すステッキも持っていたがそれを使いはしなかった、つまりゆだの言う殺すかもなかったは間違いではなく真実であった。


「ややこしいな、もういい殺してしまえ!」


デモ隊の目的は魔法使いだけの世界を作る事だ、ならば魔法の使えないゆだは不必要できっと殺されてしまうのだろう、それを察すると何故だか先ほどとは違い死ぬ事が嫌になってきた、一度死に抗ったせいできっと死ぬ事に対する後悔を知ってしまったのだろう。


「私にできる事は……ドクターの願いを叶える事!」


そう決意した、ドクターの願いは一週間に一度は必ず言う世界が平和になってほしいなという子供じみてはいるが誰もが願い縋り付いた希望であった。


それを叶えるためなら人を殺しても構わない、経験値を手に入れてデモ隊をこの世界から消すそうする事にしたがドクターの真の願いは誰も傷付かずに世界平和を実現させたいと言う夢物語であったが、それは無理だと考える間もなくゆだがデモ隊の首をガラス片で突き刺した。


「気をつけろ!奴は変数だ!」


相手からしたらまさか反撃してくるとは思っていなかったのか隊列が少し乱れた、その隙を狙って1人が落としたハンドガンを両手で握り一撃をリーダーに撃ち放った、そうすれば指示する人間は消え戦力はかなり無くなる事だろう。


「リーダー!!」


ハンドガンを一撃放つと反動が大きく咄嗟に手を上に挙げ衝撃を抑えた、これを見る限りゆだには中を扱う才があるように見える。


(これじゃあ遅いな)


リーダーを倒したおかげかレベルが4になりとても体が軽くなった、皆には隙がないが動きが遅く見え次はもう1人のバットを奪い皆の頭に当たる気でで1人の頭にフルスイングすると自分にも魔力がついたのかゆだ以外の頭に衝撃が生き頭の中の血の流れを活性化させすぎたせいか皆倒れてしまった。


「ハハ……ドクターの思う世界平和って何なんだろうな」


レベルが5になると地面にボーナスギフトといつの間にか掘られてあり、何のことか気になりはしたが次の場所に向かおうとしたが突然自分の脳内で何か大きな黒板を引っ掻くような音がしたが耳を塞いでどうにかなるものではなかった。


ゆだは唸り声を上げ苦しんだ、その数秒間が自分にとっては長く苦しく感じそれには大きすぎる理由が自分の過去が流れていたのだ。


最初は自分が些細な間違いで親を怒らせると殴られて鼻血を出して痛くなりしばらく立てられなかった事や学校に行くと虐められてる子がいて助けると次は自分がいじめを受けての繰り返しが自分の中で流れていた、いやこれは繰り返し同じ光景が映し出されているわけではなく繰り返しの同じ日々を写していたのだった。


これを思い出すとさらに二重でもう一つの記憶が大量に流れ込んできた、それはドクターと初めて会った日や自殺しようとした日、さらには親から殴られる事のなかった日などゆだからみればもう一つの記憶はとても輝かしく綺麗なものに見えた。


今気づいたのだがゆだの憎悪や憤怒、それと嫉妬は全て過去にあった出来事のせいだと言う事に、この過去をドクターは知っていたが何故言わなかったのか。


それはドクターにある優しさでありこれを言えば過去を思い出し病み苦し見続けるだろう、それならいっそ何も知らないまま生きて欲しいと思ったのだろう。


「ドクター……こんなに優しかったドクターが……」


この世界の残酷さと向き合うにはまだ若すぎたが、この世界でそんな事は言い訳に過ぎなかった。


誰も助けてはくれなくてもドクターがいたという事実だけで今も幸せであると感じる事が今のゆだにはできているが、何かが満たされないままの心であるのは今も昔も変わらないと言うのは分かりきっていた、これは自分の満ちる事のない強欲な心とは少し思っていても必ずいつかは満ちると信じていた。


そして今自分の心がどうすれば満たされるのかがやっと知ることができた、それは単純明快すぎる事であって人によっては鼻で笑われてしまう事ではあるが今の自分の目標である世界平和であった、今この時ドクターだけの願望ではなくなり優香の願望と同じになり、ドクターの目指した未来ではなくなり優香とドクターで作る人類の欲する未来となった。





次の目的地を決めようと家に帰り地図を見ようとしたがその必要がなくなった、自分の腹から薄く光る糸がここから近い城まで伸びているのがハッキリと見えたからだ、どんなに幻想的な出来事が起きてもレベルを手に入れた人間は自分の全てを信じる事にした。


「この先にあるのかな」


何があるのかは分からないが自分の求めたものがこの先にある事だけは直感で分かった、もう何が待ち受けていようが進むしかないのだから従い進む事にした。


今思えば自分はこの短時間で敵わぬ相手を殺せている事から自信がついてきているのと同時に、優しさが薄れている気がするのだがハートにかかる前から優しさなんてなかったのかもしれない。


辺りには集団で隠れていた人間を刺し殺したり家を燃やしたり非道な事をしている人間達が見え、素早く1人の腹を本気で殴りどこかの骨が折れた音と感触が自分の手にしっかりと残るとそいつが落としたナイフを拾い腹を切り裂いた。


「あ、悪魔憑きだ!」


悪魔憑きとは魔法使いの中でも特に優れているが仲間を裏切った者に付けられる名前だ、いい加減魔力があったからと言って仲間にされるのはやめてほしいがやってる事は大義名分とともに人を殺しているのだからあちらの連中よりも酷いかもしれないがそれでも否定はし続ける。


(私はいつになれば魔法が使えるんだろう)


魔法使いが生成したライフルで右肩を撃たれ少しの間隙ができてしまった、その瞬間腹を大砲で撃たれて吹き飛ばされてしまった。


(結局1人で世界は救えない……誰かが少し集まっても全滅、これじゃ何もできないな)


諦めかけていたその時気づいたがレベルが上がると赤いハートが+1と出てきていて今自分の病気のハートが治った、という事はこの病気が治ると同時に自分の命にストックが作られたのだろう、それ以外に頼れる希望もなく今はそれを信じた。


「残念だったな」


ピストルで頭を撃たれ体の力が抜けて何もできなくなったと思うと何かが割れる音がしたと思うと自分の体が瞬きをする間もなく再生していた、まるで自分には何もなかったかのように。


「こいつ、人間じゃねぇぞ!」

「本当に悪魔だ!」


皆に自分が人間だと伝えたいがきっと誰も信じずに自分を悪魔とみなして何度も殺そうとしてくるだろう、ならば悪に慈悲なんていらないはずだ皆殺しにしてしまおうと考えた。


「私は人間だけど貴方達を殺すのには十分な理由もあるよ、そっちこそ残念だったね」


自分が今度は虐殺者になっている事に気付けてはいないが心の中では分かっていて、自分という人間に出会わせてしまって本当にごめんなさいという事を伝えたかったのだろうがこれすらも誰にも伝わらないまま皆殺されていってしまうのだ。


皆もあの言葉を聞いて警戒体制に入ったが自分の持っている木の棒は何故か敵の魔力壁と同じ粒子や波へと変わり一度無駄だろうと思い殴ってみると、魔力壁を木のすり抜け相手の頭を割ることができた。


「敵にシールドは効かねぇ!」


1人がそう言った、その1人は皆んなに言ったはずだったのだがさっきまでいた敵は皆地面で血を流し生き絶えていた、こんなにも早く死ぬ事を予想していなかったのか自分がこう言った後あたりを見渡し絶望するかのような顔で一歩後ろへ下がった。


「わ、分かった!俺はもう何もしないから見逃してくれ!」

「混乱状態の敵を逃す人間はいないよ、相手がどれだけ弱かろうとね自分は傷つかないんだから」


兵士が恐怖のどん底に落とされ悲鳴を上げながら逃げるが石に魔力を込め敵に投げると体に風穴が開きその場で倒れてしまった、もうこの者に息はないだろう。


「……」


本当にこれが自分なのかを疑いたかったが自分で考え行動したのだから他の何者でもないということはよく分かっていた、だからこそ自分が怖いのだ。


光を放つ糸はどうやら人に出会うと消えてしまうらしい、ならばこれを使って人の居場所を見つけ出し殺してレベルを上げるというのはなかなかに良い策だと思えたが、今はただこの糸の示す目的地に寄り道せずに辿り着かないと行けない気がした、何故だか一刻も早くこの糸の示す場所へ向かえと言われているかのように。


「さて、行くか」


また進もうとすると空から何かが降ってきた、それはリーデデモ隊ではなく軍隊の1人であった。


空を見上げると何人も首を吊られているかのように宙に浮かび死んでいた、誰の仕業かと思うとすぐにその正体が現れた。


「君はまだそんな歳だろうに、こんなに人を殺して家族が悲しむぞ?」


きっとこの男は家族が死んでいる事を知っていながらこのような事を言ってきたのだろう、今の世界で家族を持つ人間は珍しいというのにこんな事を言ってくるのだ敵意があるに決まってる。


「そう、本当の家族なら知らんぷりだよ」

「ふぅーんそりゃ可哀想に、ま今回はそんな事を話しに来たんじゃなくて僕達の仲間にならないか?って事でさ」


仲間を殺されてもそれ以上に強く必要な人間を見つけて怒りよりも強欲さが滲み出ていた、これは敵であろうがなかろうが殺しても良い人間だろうがまずは能力を聞いてから殺す事にした。


「入っても良いけど貴方の能力は?」

「教えたって君じゃ僕には勝てないから教えてあげるよ、真の重力操作だ」


重力操作と言ってはいるがきっとこれは嘘であるはずだ、重力を操るだけなら空に人が浮かんだままなんてまずありえない事であって地面に強く叩きつけられるか、自分の体が軽くなりすぎて制御が効かなくなるかのどちらかだろう。


「嘘だよね?」

「重力があれば下に落ちるだろ?ならば重力を限りなく無くして上に吹き飛ばす事だってできる」


確かにそういう事なら理屈が通る、重力が無いに近ければ自分が軽くなりその状態で吹き飛ばされれば自分はどこかに勢いよくぶつかり重傷を負うだろう。


「確かに、それなら自由自在に動かせるね」


こんな相手だ隙を見て殺すしか方法はないだろう、アジトについていく時にすぐ殺してしまおう。


「じゃあ僕についてきてね」


この男が進む方向はさっきまであった光の糸が示していた方へと歩いていく、もしそこに敵が多すぎるほどいるならば今のうちに主力であるはずのこの男を早く殺さねばならない。


好きは全くなかったが躊躇っていても仕方がない、スナイパーを生成してスコープを覗かずに男に向けて放ちこれは誰も避けられないはずだったが、弾が地面に落ちてしまった。


「何か落とした?」


弾が落ちた時の音はプラスチックを落としたような音で気づいていないようだが、次はもうないと思った方がいいだろう。


「何も落としてないわ」

「嘘をついて得する事なんて一度もないからな」


バレていないと思っていたが普通にバレていた、やはり暗殺する場合は何かを再生するのはやめてそのまま刺し殺したり殴りかかったりの方が効果的なのかもしれない。


「なんの事?」

「……もう良いさ」


また歩き始めると建物を壊す音と共に何かがここまで走ってくるのが分かった、建物が崩れていく様を見ていると怪獣がこちらに向かってきているように見えたが姿を現したのは魔法使いであった。


「お前が裏切り者だな!」

「時間の問題だったか」


ゆだに言っているのかと思えばまさかの自分の事をここまで連れてきた男に言っていたのだ、きっと組織の間で何かしてしまったのだろう。


「余裕そうだな!」


男は火で覆われて死んでしまったはずだがその火が溶けるかのように落ちていく、地面に音はしないのだがボトボトと火が落ち姿が見えたが魔力壁も何も使っていなくこれも重力なのだろうか?


「これは……」


きっと自分の質量をかなり下げ自分を覆った火は自分という存在を殺す動きをしていたが質量の少なすぎる自分は人間と見做されず殺されはしなかったのだろう、ここまでくると重力操作ではなく概念操作のようだ。


「え?」


地面に落ちた火が敵の体にまとわりつき口の中へと入っていきまるで拷問を見ているかのようだった。


「さて星淵魔が来る前に隠れようか」

「何それ?」

「敵だよ、敵うはずのない敵だ」


この男が勝てないと言うのだから大人しく隠れた方がいいのだろう、倒壊寸前の建物の壁の後ろに隠れそこで休む事にした、男は屋上に逃げて必死に隠れている頃だろう。


やっと安心できたのだが突然外から轟音が聞こえ外を覗いてみようかとも思ったが今覗けば死ぬ未来はすぐに分かった、ならば相手の魔力を感じようと自分の魔力を少し使い探そうと思ったが逆に探知され殺される未来すら見えた、一目も見ていないのにここまでの圧には恐れてしまう。


(今は考えるのをやめて静かにしてよう)


何も音は聞こえなかったのに爆風とともに砂や建物の瓦礫が辺り一体を破壊し尽くしたが、今ゆだ達のいる建物は崩壊してちょうど2人とも見えないような場所に埋まった、それも浅い所だから怪我すらしていないだろう。


男はゆだに生きているかの確認をしたかったがこの状況じゃ何もすることができない、何か行動を取ればマイナスを生むだけだ。


(これじゃ次は水で見つかる!)


この男は敵の戦い方を見た事があるのか直感なのか分からないが次は水で2人を探そうと言うのだろうか、だが魔法使いにだって魔力量というものはあり津波ほどの力はないだろう。


土の中から水滴が上に向かい上がっていく、これは何かの現象なのだろうかと思ったがこんなものがあればすぐに有名になり自分も知っているはずと思ったがこれは敵の仕業であることは間違い無いだろう。


上に上がっていく水滴は一つの塊となるため集まり始め完全体になると敵の方向と自分たちの方向へ音速以上のスピードで吹き飛んでいき空中で一瞬火すらも出ていた。


この事態がかなり危ないと思ったのか重力操作で水を制御不能にしようとしたが、意味はなく腕を撃ち抜かれた。


「逃げるんだ!」


実はあの男は真の重力操作と言ってはいたがそれはゆだのように手に入れたい能力ではなく魔力を極め、物などに魔力をこめるといつもの魔力と馴染めずにそのまま倒れてしまうだけのことであってあの時火は男を見失った、それは質量の関係ではなく実は魔力を瞬時に物へ移したからバレなかっただけだったのである。


「貴方じゃ勝てない!」

「君がいて勝てる相手じゃないんだよ!」


怒鳴り逃げろというがあれは命の無駄だ、何故今まで生きてきた事をこんなふうになかった事にできるのか不思議なくらいだ、と思ったが人を何人も殺した自分が思っていい事ではないというのはよく分かっていたが、自分勝手というのも十分承知の上だがこの人間だけは助けたいと思えた。


「でも助けたい人を見殺しにするくらいなら死んだ方がマシだよ!」


初めて人を助けるかもしれない、ドクターを助ける事はできなかったが誰かを助けようとした姿勢を持てただけでドクターも喜ぶだろう。


水が自分から蒸発すると男が騎士に刺された、実はあの水は囮であり蒸発した瞬間にできた油断を見て瞬時男を刺したのだろう。


「貴方はまだこの世界の正義になりますか?」

「当たり前だ……俺がやらなくちゃいけないんだから!」

「そうですか」


騎士が最後の遺言を聞くと腹に剣を刺したままだったがそのまま剣を上にあげ体を引き裂いた、もうあの男は絶命し無念に狩られそのまま地面で倒れたままなのだろう、助けようと思った人間が目の前で死なれるのはここまで気分の悪い事だったとはまるで分からなかった。


「貴方は何者ですか?」

「私?」


騎士の兜の中から鋭い目つきでこちらを見ているのがよく分かる、どうせこの世界や人になんの恨みもなしなくせによくも人を殺せると言いたいものだ、なんてったってこんなに強いなら周りの人間も黙り込み何もできないはずなんだから。


「そうです、人のふりをした貴方です」

「何言ってるの?私は人だってば……」


自分の頼もしい人が殺され絶望している最中なのに騎士は容赦なく質問してきて嫌気が刺してきた、なんでこんな幸せだろう奴に殺されなきゃいけないのだろうかと。


「そうか、魔族はいつも嘘をつくからな」

「お前は人なのに話が通じないんだな」


騎士は自分を他種族という、それを否定するが聞く耳を持たないという終わった人間性をしていてその上強いという最悪なキャラだった。


「話をしても無駄だからな、最初から逃すつもりもない」

「そうか、死ね」


包丁を生成しようとしたがまだ銃火器などしか作れなく、それだと魔力の消費が半端で近くに転がっていた鉄棒を手に取り騎士を殺しにかかったが魔力と騎士の感情が混ざり騎士の圧で吹き飛ばされた。


(勝てるわけがない……)


近くから声が聞こえたと思うとまだあの男は体を切り裂かれていても生きていて、何を言っているのかよく聞こえなく耳を澄ますとこう言っていた。


「僕を、殺してくれ……」


そうだったのだ、あの男がもしゆだが人を殺せば殺すほど強くなっているところを見ていて今の状況まで辿り着く事を予想して殺してくれと頼むというのなら辻褄が合うというものだがこれには少し勇気がいるものだ。


こんな中学生あたりの年齢の女の子にそこまでの勇気を抱くその勇気すらもない、と客側の意見からは思えるだろうが過去にされてきた事を振り返るといつでも決断には最大の勇気が必要という昔に知った事を忘れぬようにしていて、今もまたそれを思い出し殺す事を決意した。


「貴方がそんなことを望むなら私もそれを望むよ」

「そいつを殺したところで何も手に入れられないぞ?」


騎士は止めるようにいうがゆだには殺す権利と理由があるのだから他の誰に言われようが決めた事は実行するまでだ、鉄棒で頭を叩き割り即死させ痛みすらも感じさせずに殺してあげた。


この決断には後悔も混ざっていたのだこんな事をするくらいならレベルなんていらないと、だがそれでもこの男も死ぬ事よりも大事で叶えたかった望みがありそれが世界平和だってのだからひと時を過ごした仲間として意志を継ぐのは当たり前の事だろう。


「ありがとう……さぁ続きをしようか」


今のゆだのレベルが一気に跳ね上がりレベル300となった、一気に体が軽くなり全てを殺して破壊する事もできそうなほど体の奥底から力が漲ってくる、きっと今なら何者にも負ける事はないだろう。


(実力を隠していた?いや元からあそこまでの魔力はなかったはずだ……ならばなんなのだ?)


騎士も動揺をしているがそれは心の中だけにとどめ現実では支障の出ないよう警戒は絶対に解くつもりはないらしい。


「それで私に勝てるとでも?」

「後を任せられた人間なのに負ける事はできない」


鉄棒を強く振ると騎士に魔力の波で一歩下がらせる事ができた。


「どうしたんだよ、あいつよりお前は弱いのか?」


死んでしまった男よりも弱いのかと挑発したがそれには乗らずに、空へ飛び炎の滝をゆだに落としたが1発しか撃つことのできないスナイパーに雷元素を込めて騎士に撃つと辺りの炎は全て吹き飛び周りの建物に飛び散った。


騎士に当たるはずだった弾は剣で真っ二つに切り裂かれてまるで効いていない、少し勝てるか不安になったが必ず勝てるはずだ。


「どうやら君は少しの遊び心だけで全てを滅ぼす力を持っているようだ、今私がここでお前を殺す!」


騎士はデモ隊だけの脅威ではなく全世界の人間の脅威と思い本気を出してゆだを殺す気だ。


確かにゆだの少しの遊び心だけで全世界の人間を殺す事はできるのかもしれないが、関係ない人間を巻き込むのはドクターの望む事でもないしそれで自分の喜んで欲しい人が喜ぶわけでもないのにそんな事するわけがない。


「滅ぼすとか、あんたらが今それをしてる最中だから私が止めようとしてるんだけど?」

「それは知っている、だからこそお前を殺さなければいけないんだ」

「敵対関係だもんな」


デモ隊の人間を殺しているのだからこちらが殺されても文句は言えないが、こっちにもデモ隊を滅ぼす真っ当な理由があるのだと、つまりこの戦いはどちらも悪であり正義であるというわけだ。


「酷い世界になったものだな」


騎士が魔力で槍を作り出した、そもそも魔力とは昔からずっと改良を続けられた魔力壁やすぐに放つことのできる雷や炎などの元素が主に使われるのだがこのように魔力を武器にするのはとても難しいことで、その武器で戦うのだからずっと武器を維持する事を意識しないとすぐに魔力は消え散ってしまう、それをこうも簡単に作り出すということは何度もこういう場面に備え練習してきた殺しのプロであるということだ。


こっちも鉄棒に魔力を込めて騎士が地面に降りた瞬間を狙い熱線を放ったが錬金術で剛鉄の玉で弾かれると上から氷の槍が降ってきたがそれを全て叩き割った。


それを見てこのやり方では勝てないとすぐに諦めたのか全方位から人の石像の頭だけを召喚しそこから炎を放ったが自分の体の周りに風魔法と水魔法を融合させ炎を通さない壁を作りなんとか塞いだ。


(強くなっても全く勝てる気がしない!)


今の考えは読めないが状況からして焦りが見えたのか騎士がゆだの後方から石弾を放った、これくらいなら走って避けられるが何が目的なのかはまだ分からなかった。


石弾が自動で爆発すると転び擦り傷を負った、即座に立ちあがろうとすると地面から鋭く大きな針が自分の腕と足を貫いた。


だがそれもすぐに引き抜き騎士の方へと走った、とても痛いが喚いていては何も始まらないし特にその瞬間に頭を潰される気がするからだ。


「さすがにしぶといな」


騎士が腕のガントレットを外して腕を剣で浅く切り血を出すと瞬きする間もなく辺り一体を赤黒い魔力で染めた、これを今この瞬間世界で初めて生み出した魔法の一つなのだがこれは後の世界でも受け継がれる魔法となる。(幻想は程遠く内でも絶体絶命という時に使われる禁忌魔法である)


「ブラッドムーン」


騎士が詠唱するとここにはこの2人しか人間はいないはずなのに敵意や冷たい視線を重く向けられている気がする、もうこんな事やめてしまいたいくらいのプレッシャーもあった、地面に座り込むと体を血のような魔力で覆われ自分はそれと共に固まってしまった。


「解除」


自分についた魔力が割れ身体中から血が流れ出ている、もうこれでは立ち上がる事も何もできないだろう。


「本当はこんな過ち繰り返してはいけないのに……」


騎士がゆだの頭を剣で切り飛ばしゆだは死んでしまった、もうこの世界を救える者は誰1人としていなくなり世界にはもう救いを求めるだけの弱者となった。


騎士もアジトに帰ろうと後ろを振り向きもう無感情であろう。


そんな時ゆだの魂はレベルを持っていた、レベルは決して力だけを与える者ではないという事は皆も知っているだろうが能力や何かのギフトを手に入れる、それと同じで能力の一つのレベルをひとつ下げて魂を復活させるというものだろう、そして今このレベルが1つ下がり299になったがその代わりに自分の体の隅から隅まで全て再生した、ここまで来るともう魔物の域に到達したとも言えるだろう。


「私の体……いや魂が強くなったのか?」


魂が強くなっても心までは進化しない、だから一度挫ければ普通の人間と同じですぐに諦め相手の隊に加わるだろう。


「そうか君は我が主と同じ……しかし2人目を望むのかどうかが」


何かを悩んでいるようだ、この考え方からして流してくれる可能性も0ではない気がして少しばかり希望を持つ事にしてみた。


「いや、主と同列に立たれては下の者たちが反乱を起こすか……やはり取り消しだ!」


決断した結果部下がこんな事で反乱を起こしたら普通に困るしリーダーにその部下殺されても勢力が衰えるだけだしやっぱ殺しちゃおうという事らしい、これ以上やっても勝てる相手ではないのだし死んだふりをして乗り切ってみる事にした。


(終わった……死んだふりでなんとか見逃してもらおっと)


騎士が熱線を放ち自分の肩にほんの少し当てすぐに息を殺してその場に倒れたが、まだ騎士から殺意が絶えずこちらに向けられている。


(どうするどうする!)


必死に考えていると遠くから黄色のレーザーポイントが騎士を狙い騎士も不思議に思ったのか元を辿ると軍隊がなかなか現れない中久しぶりに姿を現し今回こそ討伐しようと派遣された者たちだろう。


軍隊は魔法を使えはしないが脅威的なアーマーや銃火器を使い全てを滅ぼす最高で最悪な連中だなんとか騎士を倒してくれるだろう。


だが国や軍は魔法使いを人間として扱わずまた他の生き物と見做し魔法使い1人に懸賞金百万を掛け国に預ければ保護すると言ったが真実は毒殺であった、そんな事が外に漏れ国民はそれを批判するかと思えば魔法使いには人権がないのだしそれくらい許されて当たり前や害獣は殺してしまえなどといった事をネットで吐いていた事は前魔法使いも知っていて騎士もその現実を見ているとどちらを味方するかはすぐに決断していた。


騎士が軍隊を見ると今まで着ていた鎧が魔力でできたダイヤモンドを超える硬度をした黒い勇者のような服に変わり、手には勇者の剣を持っていた。


(勇者は確か社会復帰もできない状況なんじゃ?)


やだもそう思っていたのだが実は国民に安心感を持たせるため勇者が敵側についたというデマは流さず、今は精神状態が不安定なためしばらくの間社会貢献等などの行動ができない状況であると発表したのだ。


「死ね!」


軍人の1人がレールガンを撃つと周りがロケットランチャーを数発放ちアサルトライフルを一斉射撃すると勇者を殺したかと思うと全ての弾が軍隊に跳ね返り何人かの腹や頭がレールガンにより貫通し、15人程度は重症の瀕死状態だがあと30人は戦える人間がいた。


「皆んな殺される……なんで勇者なのにそんな事するんだ!」


味方が殺されていくのをただ見ているのも気が引けて勇者に訴えかけたが勇者はさらに怒り軍隊を魔力壁で閉じ込め20人ほど圧死させた。


「魔法使い達は人権がなかったが人権のある国民達が繰り返した行動を完璧に真似して、同列に立とうとしているだけだ」


それもそうだ、今まで魔法使いに対して虐殺を繰り返し重ねてきた時その時魔法使いからしたら国は敵だった、ならば今味わっている状況を国に行えば自分達は同じ事をやっとできたという事になるのだからその時初めて自分達が同じ存在……つまり迫害を受け人権も奪われた人間が人権のある人間と同じ行為をして同じ位に立ってやるという少し難しい理屈を勇者は言っていたのだ。


だがそんな方法では魔法使い以外の人間は話を逸らし必ずあちらを悪という名前で塗りたくり魔法使いの真の目的も聞かずにまた虐殺を繰り返すという未来が見えた。


「それともなんだ?何も知らずにこの世界の仲介者になろうとしてたのか?」

「それは……」


勇者は正しい事を言っていた、何も知らない人間が薄皮一枚のこの世界を見ただけで争いを止めようとしても消える事のない最悪の歴史で起きた事で起きた争いはどちらにも悪も正義もある、そんな状況の世界をどんな理由で掬えば良いというのだろうか?


これ以上この世界を救う理由を見出そうとすれば全て感情論や決めつけで終わってしまうだろう、そうなるくらいならずっと黙ってどこか遠くに行けば良いとも思えてきた。


「安心しろ、私は君の意見を尊重する」


きっと勇者のこの言葉は感情論も受け止めてくれるという、過去の自分の勇者という責任から逃げたかったが色々な理由を話したが誰も逃してはくれなかったことから人の話はどんな理由があろうとちゃんと受け止めてあげたかったのだろう。


軍隊が勇者にライフルを撃ち続けているがそれをどんな原理を使って弾き返しているか分からないが能力ではない事がよく分かる。


「私はただ、殺し合って生まれる結末は敵側に対して差別が酷くなってまた争いが生まれるだけだと思うから……両方ともが降伏し合うことはできないの?」


これこそ絶対に現実できない最高の未来だ、どっちも最終決定できる立場ではない事は分かっていたが少しでもこの事を知ってもらいたいという善意で言ったが話は聞いてもらえても誰の心にも響かずに終わっただろう。


「確かに争いは後悔しか生まない、どうせこの戦いが終わったら魔法使いが恐れられるだけだろう……それでも騙されて殺されるよりかはマシなんだよ」


ここまで来るとゆだはどっちの味方につけば良いのかが分からなくなってきた、軍隊は自分の国が犯した過ちである虐殺に怒った魔法使いを全滅させ国民の被害者を減らす、という理由をつけて戦っているが魔法使い達も今まで殺された者達とこれからも犠牲を生まないために戦っている。


これはつまり争いのない法の上での話し合いなんかで収まる範疇を超えたものに育ちすぎてしまったのだ、この現実の情報量に耐えられなくなったのではなくこの現実の最奥の最悪を知ってしまいどちらの味方にもならずに無駄な死を生んでしまったゆだの後悔でできた涙が流れてしまった。


「そうだったね……それじゃあ私はどっちの味方になれば良いの?」


勇者は可哀想な昔の自分のようなゆだを見て小さく微笑み優しく答えてあげた。


「君は、君の信じたいものを信じて自分のためになる事をすれば良いんだ」

「……」


勇者という肩書きが落ちただけで根は真の勇者のままなのか皆の求めていた答えをゆだに教えて未来を導かせてくれる言葉を教えてくれた、やっとゆだも自分が本当に求めるものは味方ではなく自分の思い信じたいものを信じて自分のするべきと思った行動を取れば良いという事に気づけて笑顔というよりその言葉の重みによりこの戦場をしばらく無の感情で眺めることしかできなかった。


勇者がしばらく軍隊の放つ鉄の球や魔法使いの使う魔力というものを極限まで似せた物質を使った熱線全てを跳ね返し決して自分の攻撃で軍隊を滅ぼす事はしなかった、きっと国側を自分の犯した過ちで怒らせ同志を殺したくはなかったのだろう。


争いが終わると勇者がゆだに近づきこう言った。


「さっき私が言った言葉が何故か自分にも響いたんですよね……本当は私人を殺してる中でずっと思ってた事があったんですよ」

「それは?」


何かを隠したがるように言う勇者にそれはというだけでこれ以上の事を話させようとしたがそんな事しなくても話してくれるだろう。


「貴方と同じ感情論です、これ以上悪も正義もない争いをしても前と何も変わらない未来が待っている事は分かっている……ならば争う理由をなくしてしまおうと」

「争う理由がなくなる!?そんな方法あるの?」


この世界で生まれた魔法使いに対する差別で生まれた争いは決して消える事はないと思っていたが、何か策があるのかもしれなく正直疑い驚いている半信半疑の状態だ。


「それはこの世界から魔力を無くす事だ」





魔力は今の時代で調べた限り魔力があるのはこの地球だけで、その魔力を扱えるのが魔法使いだけだから魔力を無くして根本から解決してしまおうと言う話なのだろうが魔力が存在しているのは常識のようなもので常識をなくす事は不可能である、だって皆は地球上にある酸素を一瞬で無くす方法を知らないように魔力も同じ事なのだ。


「それは無理があるよ」

「そう決めつけるのは良くない、もともと魔力はこの星には無かった物質なんだ」


とは言っても今の人間達には兵器を作る力があっても宇宙に行くための機械を作る事はまだできる範囲までは到達していなく他の星から魔力を持ってくる事はできないんだ。


「え?」

「私もあまり分からないのだが、国がどうにかして戦闘機を瞬間移動させる事ができないのかと実験していた時に失敗で作られたのが魔力であった」


どうやら国の兵器実験の思いもよらぬ失敗で作られた新たなる物質が魔力だったらしいのだが何かがおかしい、この星のものではないと言っていたのはいったいどうなったんだ?


「じゃあこの星の物質じゃないってのは?」

「そこなんだよね、その瞬間移動の実験を無かった事にして魔力の事をずっと国が研究していたのだ」

(国が魔力を生み出したのに魔法使いを殺すのか)


自分達の作り出したものに感染したような状態の人間を国が殺していると考えたらとても現実味があり何かを隠すために殺したのだろうと思った。


「だがリーデの最高位魔法使いであるラファエルが瞬間移動で作られたのだからと言って瞬間移動の原理を使いランダムな多次元に行けるのかもしれないと思い研究を進めたのだ」


そう、瞬間移動でそんな物質が生まれるわけがなくきっとどこかの星とランダムと言いはしたが特定の場所に高確率で現れる地球から他の星に行ける何かが誕生しそこの空間から魔力が出てきたのだと考えその直感だけの実験をデモ隊のリーダーであるラファエルは行っていたようだ。


「結果は他の星へと繋がるワープゲートが完成したのだが、その中に入る事はできず代わりにそのゲートから魔力が出てくる事がわかったのだ」


ゆだが途中聞いていて思ったのはゲートの中に入らない理由はなんなのかだった、その中から物質が出てくるのならばこっちから物体を入れる事だって簡単にできるはずだろうと思ったのだ。


「凄い発見じゃん!」

「確かにラファエルの発明は成功したが、ゲートが閉まらず全ての魔力がラファエルに注がれたんだ」


つまりそのラファエルの体内にある魔力と全世界にラファエルが散らばらせた魔力を取り込んだ魔法使いの魔力をどう無くすかの問題らしいのだが世界を回っているだけで寿命で2人とも死んでしまうだろう。


「その魔力をどうにかしたいんですか?」

「その魔力を城の中にいる自分の体から放ったラファエルを討伐すれば魔力を取り込んだ人間達の魔力も殺したもののものになるが、それが成功する確率はかなり低い」


今考えてみたのだが魔力が多ければ多いほど強いのがまるで経験値を手に入れれば強くなるゆだの持つレベルという能力と似ていることから、自分が殺せば全ての魔力は自分に移る可能性が高いと考えた。


「実は私は能力を持っていてレベルというものなんですが何かを殺せば経験値を得て強くなるんですけど、もしかしたら私がラファエルを殺せば全ての魔力が自分のものになると思うんです」

「……素晴らしいじゃないか!と言いたいが君はその力を手に入れて世界を自分の掌の上に置いておきたいと考えるかも知れないから保留で」

「確かにそれはいい判断だよ」


仲間にはなってくれるだろうがラファエルを殺す権利を手に入れるには幼すぎるし何をしでかすか自分でも分からないということからまだ殺害権は勇者にある。


「安心しろ、必ず魔力は私の体内に入っていく」

「そうなればいいですけど」


接近戦をして殺せば1番近くにいて殺したという事実は勇者にあるのだからきっと魔力は勇者の体の中に入っていくはずなのだ。


勇者が何かを悩み考え空を見上げると顔面蒼白になりゆだを抱え込むように守り魔力壁を今出せる最高硬度で自分達の周りに張りなにものも通さない鉄壁を作り出した。


「どうしたの急に!?」

「あの戦闘機は私の持っているラジオでもここを襲うとは言っていない、つまり何かやばい事をするぞ!」


きっと毒の爆弾だとか言ってはいけないのだろうが大した事はしてこないはずなのだが、宣言無しに空襲をするというのは確か犯罪だったはずでここまでしないと勝てないような状況に他国は責められ続けたのだろう、それかもしくは勇者を殺すために派遣された戦闘機なのかは分からないが勇者が言うくらいなのだから恐ろしい何かが始まるのだろう。


「耳を塞げ!」


ゆだが少し戸惑い時間がなかったのか勇者が自分の耳に布を押し込み手でゆだの耳を強く押さえつけ魔力壁だけではなく外に自分達を囲うように岩の壁を何重にも張った。


すると3秒数える間もなくとてつもない轟音と共に全ての岩の壁が剥がれるかのように溶けていき魔力壁はこの大きすぎて爆発なのかも分からないような何かに耐えるが少し割れた。


この爆発した何かは隣国が開発したA/1という半径50kmを燃やし尽くす死の具現化である世界最強兵器のミサイルであった。


そしてこのミサイルの中には爆発すればするほどさらに国が秘密にしている物質が触れ合いさらなる爆発を呼ぶと言う半永久爆発を引き起こすもんで5分くらいするともう後は消えたが風邪と共に石や砂または炎がこの魔力壁を強く抉るかのように叩きつけ2人はとても恐怖した。


「もう大丈夫怖がらなくて大丈夫だ……私がこの件を終わらせたらきっと世界から争いはとても減るだろう」


ゆだは勇者の優しい声がけは届いていたがそれよりも爆発によって先程まで見えていた青空にほんの少し浮かぶ雲、倒壊寸前ではあったが神秘さや誰かに描かれた子供の絵などの微笑ましく思えたものが全て灰になったとしても燃え続けていた。


挙げ句の果てには隠れていた難民やリーデデモ隊が骨が少し見え皮膚は焼けてみるに堪えない状況を目の当たりにして声など届いていても返す言葉が混乱により何も思いつく事はない。


(これは夢なの?)


呆然と抱きしめられながらこの悲惨な光景を見ていて自分と繋がっていた光っていた糸を見ると、弱っているというか今にも消えてしまいそうなほどに弱い光を放っていた。


(もうこの世界に平和な場所はないな)


勇者は確信した、この世界にはまだ平和な場所と言える所が存在していたがこの光景を見て仕舞えばもう可能性なんて見出せるわけがない。


ゆだが立ち上がりこの糸の示す場所へ向かう事を再開する事を決心した、人類の未来はなんだか自分にかかっている気がしたからだ。


「行こう……こんな事がもう二度と起きないためにラファエルの元へ」

「勇者ってのを肩書きだけにしないためにも進まなきゃね」

「まだ言ってなかったけど私の名前は篠田 優香……ゆだって呼んで、あなたは?」

「私はフォレン 優雅だ、フォレンで大丈夫」


きっとフォレンは純血の日本人ではないのだろうが、ネットでしか騒ぎ人を煽ることしかできない脳死他国叩きの(一部の人間)よりかはマシと言うか比べれば聖人である、まさに勇者だ。


「多分このまま真っ直ぐ進めば城だと思うよ」


ちなみに城とはリーデデモ隊が占拠したこの国の最後の砦とも言える場所であった。


「とにかくこの煙のない場所へと出ないとだから乗ってくれるかい?」

「わかった」


背中に乗りフォレンががっしりとゆだの足を掴み魔力壁を浅く張り煙の入らないようにして、瞬足で走り倒れた木の板に転ぶかと思ったがそれら全てを弾き外に出ようとした。


もう5分くらい経ったのかまだ外に出る事はなかった、やはりA/1の50kmまで爆風が届くと言うのは事実だったらしく走っても走っても短時間だが終わりを感じる事さえできなかった。


「着いたよ」


合計10分くらいとても素早いスピードで煙の外へと向かいやっと煙のない青空を見る事ができたが、陸は様々なものが吹き飛ばされ全てが破壊され更地のような状態であり酷い怪我を負った民達もここに避難しているためまさに地獄絵図であった。


(デモ隊よりも酷いな)

「さぁ城に向かおうか」


ゆだが背中から降りフォレンがそう言った、フォレンの指の向いている方向がゆだの光る糸と同じ方向であり糸が今まで示していた所が城だと知る事が今初めて知る事ができた。


「あ、でも少しここで休憩をする事にするよ」

「わかったよ」


フォレンは休息を取ると言ったが負傷者たちの元に行き、再生魔法を使い自己再生能力を高めさせ皆の傷を癒していくなかで数人勇者だと気づいた人間はいたが皆がありがとうと言って、騒ぎを起こすつもりがないと言うよりかはその気力が湧かないほど何かに打ちのめされてしまっているのだろう。


勇者が皆を癒し終わると、1人ずつに優しくこの先にある西の防空壕へ逃げなさいと言い家族がまだ来ていない者達は残ったが、こんな事は考えたくもないのだがきっともうその家族は死んでしまっているだろう。


幼い子供がママ!ママ!と叫び泣いているが勇者ですら死んでしまった人間にはどうすることもできず悔しそうにしていた。


「フォレン……ここの人達の家族はもう……」

「分かってるけど、ここにいるみんなが希望を持って大切な人を待ってるんだ……何も言わずにただ待っててあげてくれ」


皆が最大限の希望と今までに感じたことのないほどの絶望に襲われながらもなんとか耐えているのだから、自分が耐えられなくなり皆を見殺しにしても最低な人間になるだけでありそれ以前にそんな事は自分の性に合わない。


勇者が泣いて家族を待つ者たちに軽く防空壕に早く逃げた方がいいととても遠回しに言っていると、どこからか戦車が現れこちらに弾を放ってきた。


「こんなになった国民を見てもまだ無へと歩むか!」


フォレンはきっとここにいる者たちが傷ついているのを敵国は戦争に平民を巻き込んではいけないと言うのを盛大に破ってしまい焦って皆を殺害しにきたのだろう、つまり皆魔法使いに殺されたと言い逃れるためにこの戦車が来たのだろう。


なんだか勇者というのは魔物と戦うのを想像していたが今のところ人としか戦っている光景を見ていない、今もフォレンが戦車の上に飛び乗りハッチを開けて中に入り悲鳴が一瞬聞こえるとすぐに聞こえなくなった。


「おかえり」

「あぁ」


ゆだはあまり人を殺しすぎるのダメだと言いたかったがそんなのはただの綺麗事であり自分も何十人と人を殺しているくせにというのもあるが、この世界は誰かを殺さなければ生きていくともできない他者族ではなく人間の中での弱肉強食があるのだからゆだは何も助言する事ができなかった。


子供やまだ全然若い成人男性が家族の亡骸をここに置いて泣くのを必死に堪えて防空壕まで向かっていく姿を見ているとこちらまで涙を誘われるが、何故だか泣いてはいけないという義務感のようなものがあった。


「夜が近づいてきたな」

「ならスラム街の宿屋ならまだ壊れてないだろうし向かってみます?」

「安全だと良いな」


宿屋までフォレンを案内している道中やっと廃墟などが現れ始め安心感がとても大きく自分にのしかかってきた。


ちなみに宿屋は周辺のギャングに守られているためこの辺りでは1番平和で安心安全な場所と言えるだろう、

宿屋に着くと店主が目を凝らし自分達を見つめて歓喜しながらこう言ってきた。


「もしやうちの家族の傷を治してくれた勇者様かい!本当にありがとう……俺はまた大事な家族を失うところだったよ!」


涙ぐみながら感謝をフォレンに伝えているこの光景を見ているとやはり勇者の姿はこうあるべきだと思った例え人を殺しても許されることではないし感情論で語ってしまうが、命を最初から賭けて国の命令に従って罪のない民を傷つけようとする人間を殺してもそれには命の重みの差というものができてしまっており、その兵士を殺し民を守った勇者は本当に英雄である事ができるだろう。


だからこそ勇者が本当に英雄だと実感する事がゆだにもできたのであろう。


「人なら傷つけ合わず助け合うのが基本だ……それよりも今日はこの宿で一晩泊めてもらいたいんだが」

「もちろん宿代なんて取りませんよ!今はどの部屋も空いているので2階の1番奥の部屋に泊まってください!」

「では店主の御好意に甘えさせてもらいます」


ここで店主からの報酬を無かった事にしてしまうのはとても惜しいもので素直に泊めさせてもらう事にした。


さきほど店主はどこの部屋も空いていると言ったがここはスラム街の中で1番人気のある宿屋であるのにどうして人がいないのだろうかと思ったが、この国じたいが病んでいるのだから国民だって家にこもり身を守るだろう、それが例えギャングであってもただの一般人なのだから逃げたくもなるだろう。






部屋に入るとベットが二つ用意されていてランプの照明は壊れていて反応しなかった、2人が別々のベットに落ちるように無言で寝転ぶと今こう初めて思えたのだ、これこそ本当の幸せなんじゃないのかと。


過剰な愛を受けて育つのも幸せと言えるがこの少しの喜びだけでこんなにも大きな幸福感を感じられるのだから。


「なぁ、ゆだ……あの時は仲間を殺してすまなかったな」

「大丈夫だよ、仲間って言えるか曖昧な人だったし」

「まぁ人攫いの事だし仲間なんて作らないよな」


あの時殺された男は実際気のいい奴というだけで仲間とまでは言える存在ではなく殺されても何も感じなかったが、あの男が死んだ時の絶望感は凄まじいものであった。


もうする事はなくこのまま眠った、いつもなら夢を見ていても朝になったら忘れるものだが今回はハッキリと覚えていた。


夢の内容は少女が自分達の前でナイフを持ち自殺するという内容で、こんな内容はあまり好かないものでどうせ正夢になるわけがないだろうもので損しかなかった。


(酷い夢だったな)


辺りを見渡すとフォレンの姿がなくあいつの事なのだからきっとゆだから逃げる事などはありえないしこの国を見捨てて自分可愛さに逃げたというのもありえないだろうと考えた、じゃあ一体どこにと思うだろうがそれはすぐに分かり外から何かが爆発する音や銃弾を撃ち放つ音が聞こえた。


「何やってんだよ」


一般人が爆発物なんかを持っているわけもないだろうしデモ隊か軍隊それか警察とやっているというのが確率としては1番高かった、


外から何やら人の声と機械の声がぐちゃぐちゃになったような何かの音が聞こえて、それはとても汚くもうこれ以上何も発さないでもらいたいくらいなのに何故かとても印象に残る特徴的な音だった。


のだがこのまま戦わず隠れているよりすぐに応戦した方が仲間というものだろう、すぐに窓を開けて下に飛び降りるとフォレンが軍人一人一人を拳で殺めて今戦い終えたところらしい。


「やぁゆだ、今日の君は昨日よりも魔力が増えたね何かあったのかい?」

「特にないけど休んだから魔力が戻ったんじゃない?」

「そうだよね」


実際のところは寝ている間に自分の殺してきた経験値と様々な事を一瞬で学び寝てる間にその記憶を凝縮させたぶんの自分の人生が経験値となりレベルが600になったのだ、もしかしたらラファエルにだって簡単に勝てるかもしれないと希望もかなり溢れてきた。


「でも強くなったからと言ってその力で自分の行動で後悔しないようにね」

「私が自分の力で後悔する事なんてないよ」


きっとゆだ自身も少しそう言う面では自分の事を疑ってはいるが世界を手に入れようだとかなんだとかは自分に向きもしないしそれだと精神を削るだけだと分かっていたのだからそんな幸せそうで後悔のある人生は歩めるはずがない。


「そう緩く考えていたら私のように躊躇なく人を殺す人間になるぞ?」

「でもそれで価値のある人間の命は救われてってるし別にいいでしょ?」

「君と話してると退屈しないね、昔の私にも君みたいな人がいれば強さなんて求めなかったのかもね」


勇者は何か大きすぎる理由があって勇者という力と称号をその場で与えられるが、それは感情によって授かるものであり何か少しでも支えがあったりその時に大義名分など正義の具現化のような概念しか頭にないような人間にしか与えられないものである。


そしてその称号を持つものは生きているだけで強くなっていくものだから戦争にもよく使われきっとフォレンも一度は戦争に行ったのだろう、それで人を殺した後悔もあるがそんな後悔を持っていては世界を救えぬともう片方を滅ぼしている事に気づきながらも現実から逃げていたのだろう。


そう昔の自分を振り返ったフォレンも優しい友達や仲間と言える存在がいればもっと平和で大切な人とまだ一緒にいる事ができたのかもしれないと考えていた、人を躊躇なく殺してはいるがどんな人間に何と言われようが根は本当に良い人間なのである、フォレンはただ国の奴隷であっただけで勇者としての名に恥じない行動を昔からしているのだから。


「ここの人達は今日デモ隊によって襲撃を受けるとラジオが報道していたんだ……今日はここに1日いていいかな?」

「もちろんいいよ」


これで目的地に早く行こうなんて言えば国民を見捨てた力ある者としてゆだのハートにかかる前の時のようにまだ世界から人間であるにも関わらず家畜のような扱いを受けて同族と見られはせず省かれてしまうのだろう。


それだけは絶対に避けるためというのもあるが仲間の意見を尊重して自分とは関係ない人間であろうと守るのが自分の今の役割だと感じていたからである。


空から火の玉が降り注いでくるのがわかる、これはまるで流星群のように美しかったが水魔法をサブマシンガンのように一撃一撃を勢いよく放ち狙い撃つとそれは空中で爆発し残ったものも全て連鎖的に爆発した。



「爆発系統魔法まで操れるようになったのか……」


デモ隊は確かに軍隊よりも強いがフォレンも驚いていた通り前までは爆発系統魔法は覚えていなく、それに単なる爆発ではなく衝撃が加わると爆発する仕組みでありこれでは一人一人の戦力が軍の精鋭兵の中でも優れた者と言える人間のところまで辿り着いてしまいこれを見てしまうとゆだもこれ以上強くさせないために魔力を全て没収しにここから飛び出したかった。


(元凶を叩きたいけど……この街の人達がデモ隊に殺されるだろうし、今までよく人々はこの争いに耐えてきたな)


そうやって共に殺し合ってきた人間達に感心気味に悩んでいたら、次は少し遠くのどこからか閃光爆弾の音がここまで鳴り響き火の玉も途中から降らなくなった。


「奇襲の可能性がある、気をつけてくれ」


フォレンがゆだの近くに行きシールドを張ると街の奥から砂嵐が木材や石など様々なものを巻き込みこちらへと迫ってきた、シールドはミサイルなどの熱風や爆風などの攻撃には耐えられるが巻き込まれた硬く大きすぎる物体などには脆くどこかに隠れられる場所がないのかと辺りを見渡すと、少女が手でこちらに来なさいとサインしていてすぐに2人はそこへ移動した。


ここの建物と建物の隙間に魔力壁を浅く張り木などは衝突しないが砂は魔力壁にばちばちと当たっていて外に出られるのか心配になった。


この助けてくれた少女に見覚えがあるのかフォレンが少し動揺していた、だがあまり深い関係ではないだろう。


「また会ったね、今はどこを目指してるんだ?」

「まだこの国から出られそうな気配もしないし、しばらくはここに留まるよ」


この女の子は旅人のようで今は仕方なくこの国から出られないようで他国に行く予定はないんだとか。


「じゃあ私はそろそろデモ隊の基地に行って説得してくるよ」


何故殺すのではなく説得なのかと思えば元はフォレンだってデモ隊の一員でまだここで人を殺していないからまだ説得で間に合うと言うことなのだろう。


砂嵐が吹き荒れる中どこかへ行ってしまいゆだと女の子はここで待機する事にした。


「貴方が能力者の優香ね?」

「何の事ですか?」


旅人が突然能力者かどうかと聞いてきて何のことかよくわからなかったがきっとレベルの事だろう、これは黙って嘘だけついていれば何とかなると信じてこのまま逃れれば逃げるつもりだ。


「最近リーデデモ隊の死者が随分と出ているようで、その死者があなたの住んでいた病院から続いていたもんだからそれを追ってここまで来たの」

「あなたはデモ隊の人間なの?」


もしもこの少女がデモ隊の一員ならば同胞の敵討といったところだろう、こんな狭い場所で戦おうとしていると言うことはそれに自信があるということだがまずは話を聞いてみなければ判断も何もできない。


「違うよ、ただ医者の残した患者薄帳の最後にあなたの名前が書かれていて病名がハートだったから何かあるんじゃないかと思って」


きっとハートを患っていた人間がどの兵器よりも強い魔法を使う集団をどうやって殺したのか、それとも何か強い仲間がいてこうなったのかと考えて追ってきたのだろう。


「大変だったね……でも私を警察に突き出したいならこの国の人間誰でもいいんだし追いかける必要ないでしょ」

「そうじゃなくてだね!この薬をあなたに飲ませるためにここまで来たの!」


少女が懐から出した薬は丸薬で何が含まれているのかも分からないのに易々と受け取るはずもなかった。


「何それ?」

「ハートを治す薬だよ」


もうゆだのハートは自分で感じてみてなのだがレベルを手にした瞬間からもう完全回復していると思っていたのだ、だからこの少女は骨折り損のくたびれもうけというわけだったのだ。


「え!ごめん、もう治ってるの」


遠くから爆発音が聞こえたがこの子は全く気にせずに何故か諦めないでここに立ったままだ。


「それは本当なの?」

「そうよ」

「なら……私の名前は覚えてるよね?」


これは正確に答えなければ泣いてしまう系の展開だった、きっと記憶のどこかにこの子がいるはずだと思い出してみたがいじめっ子とドクター、それと忘れかけの両親の名と顔しか覚えていなかった。


この少女には申し訳ないが真実を言う事にした。


「覚えてるも何も会った事ある?」


そう言うと涙目になり口の中に薬を詰め込んできたがこの薬に害は無い気がする……いやこの子が嘘をついていると思えなくなってきて疑いすら持てなくなってきた。


「飲んじゃったよ!」」


丸薬を飲んでしまうとレベルは下がらなかったが魔力が少し消えた気がしするのだ、こういう場合体が弱体化してすぐ気づくのだが今回はまるで違く体が逆に軽くなったのだ。


「ゆだ……あなたのあだ名を付けた親友は覚えてる?」


飲んでから数秒するととても長い時間をフラッシュバックするかのように思い出した、嫌な記憶が大半だったがとても素敵でなにものにも変え難い綺麗で笑い合える思い出が、それはドクターとハートにかかる前によく遊び実験していたことや今の時点ではまだ思い出せない戦争やハートが起きなければ長く、ずっと一緒にいることができた親友と釣りに行ったり山に出かけたり。


こんな思い出を見てもなおこの子の名前は思い出せなかったのだが、最後の思い出にこの映っている女の子は名前は発していなかったがこの一言で誰なのかをすぐに思い出せたのだった、その女の子が言った一言はゆだが一緒にいてくれれば誰からも愛されなくてもいつも楽しくいれるよ!


「あなたは、みつきなの?」


ゆだが半泣きになり少女にそう聞くとみつきは泣きながら頷き2人は抱き合った。


昔ゆだは漢字を覚えるのが下手でずっとひらがなで名前を覚えていて今もそのままだと言うのが少し面白く感じることができた。


「また会えて嬉しいよ!」

「私もだよ!」


2人が抱き合っていると砂嵐が部分的に消えて驚き警戒するとフォレンが1人の魔法使いを連れてここまで来たのだった。


「その人は?」

「こいつが砂嵐を作り出した本人らしく、何でも言う事を聞くから見逃してくれと言う事なので連れて来た」


フォレンのことだからあの魔法使いをこの先の戦いで利用するつもりだろう、魔法使いもそれを何となく察して助けて欲しそうな顔をしていた。


「お、おい!我々を裏切ったら代償は大きすぎるぞ勇者!まだ間に合う……だから逃してくんね?」


もちろんこのまま流すわけもなくフォレンは無言で睨みつけ魔法使いも諦めたようだ。


「こいつの名前はルディスだ、才能だけで生きてきた人間で弱いので城に辿り着いたらこいつは置いていくけどそれで大丈夫か?」

「全然良いよ」


きっとルディスも勇者という存在がいればこちらに楯突くこともないだろうし同行させても損はないはずだ。


「それじゃ私はここから一番近い防空壕に逃げるよ」

「さようなら、私もこの一件を終わらせたら後で向かう事にするよ」


みつきが手を振りA/1の落ちた近くにあった防空壕に隠れるつもりだろう、あの子のことが少し心配になったが銃刀法違反のあった国でどうやって作ったのかも分からないショットガンとピストルの合成銃をいつでも作れる使える人間なのだから何とかなるだろう。


「この先の街を越えれば城だ……ここまで生きて来たのは奇跡だと思い先へ進もう」

「そうだね」

「俺は足手纏いになるだけだよ?」

「足手纏いなりに頑張ってくれ」


ルディスはきっと強いのだろうがここにいるフォレンと比べたら圧倒的というほどの差があり勝ち目はないがゆだと比べれば少し弱いくらいなので案外役に立つかもしれない。


スラム街から出るためにずっと歩いていたら、軍人の1人が倒れて自分達に助けを求めていた。


「おい!悪魔を助けるのかよ!」


フォレンがすぐに治癒魔法をかけるとルディスがそう言った、確かに言いたい事はよく分かっていたが怪我を負った人間を差別して見殺しにする方が2人は嫌だったが、この2人は魔法使いでもなければ魔法使いの差別のされ方や虐殺のされ方を真に知っているわけではなく返す言葉がなかった。


「逃げて、くれ……」

「下がれ!」


軍人がフォレンに忠告をすると軍人が突然爆発し無防備な皆にも爆撃が当たりルディスとゆだは軽傷だったがフォレンはすぐに魔法壁を張ったとはいえ不完全なもので左腕が酷い火傷に包まれ痛そうだった。


「武士道ってもんはないのかよ!」


降りて来たのはロケットランチャーを抱えた日本兵3人であった、きっと火傷をして体に風穴が空いていた日本兵に爆弾をつけ瀕死にさせたのはこの3人のせいであるはずだ。


「武士?この時代の俺達にそんなもん残ってねぇさ」


軍人達にはそういう心は元々ないというわけでもないのだろう、今の時代なのだからどんな卑怯な手を使ってでも戦果を得て世界を平和にするという目的しかこの世界の軍人は戦う理由を持っていないのだから。


「私はもうデモ隊には入っていない、殺しあっても無意味だぞ?」

「それは知っている、だがお前は勇者なのだから命を狙われて当然だ」


きっとこのまま話していてもアメリカ兵などが応戦してくるだけだろうしすぐに逃げるか殺すかのどちらかが今の場面では有効的だろう、フォレンが2人を抱えて敵が目の前にいるにも関わらずそのまま前へ突っ走ると相手もよろつきはしたがサブマシンガンを取り出し乱射したがなんとか撒き切ることができた。


「痛そうだな」


魔法を主に使うルディスがフォレンを再生させるとやはりフォレンの治癒とは違いすぐに再生して痛みもすぐに引いた。


「助かるよ、少し急いだおかげでここまで来ることができた」


デモ隊にも強さがありNo.3が名前も聞くことができずフォレンに瞬殺された男でNo.2が勇者であり、No.1がラファエルから愛され戦い方を教えられた正体不明の男がいる街へ今来たのである。


「なるべく音を立てずに行かないと死ぬからな、分かったか?」

「もちろん」


ここは普通に歩いていても足音はなるがそれくらいなら誰も気には止めないだろうと前を進んだ、ここはデモ隊がとても多くいると予想していたのだが、誰1人として現れなく不気味さを漂わせる空間であった。


静寂に包まれ屋根に穴が空きそこから光を通した幻想的で廃都市を思わせるかのようなショッピングモールで、デモ隊が近くに歩いていて目があったが敵意はないようだそのまま通り過ぎていった。


「何で襲ってこないんだ?」

「よく分からないが、何か裏があるはずだ」


それもそのはずだ、これほど城が近いのに自分達から防衛するために何十人も敵を配置するはずなのに何もいないしいたとしても攻撃してこないというのは異常というには条件を満たしている気がする。


「もしかして相手が私達に普通のデモ隊を置いても勝てないって思って城で全員待ち伏せしてるんじゃ?」

「それはありえるな……何百人いようが私達がいれば難なく勝てる、だがあちらが本気で私達を殺そうとしているのなら何万と兵士を用意するだろう」


リーデデモ隊は世界的な組織であり皆に招集をかければ1日で何千人と集まることだろう、それだと自分達でも勝てる希望はかなり薄い……というより主力に辿り着けるかどうかが曖昧なくらいには希望が薄くなる。


「そしたら俺無力だよ?逃げていい?」

「お前だって少しは強いんだから私達の事をラファエルに会わせるくらいはしなさい」


例え何万人が襲って来ようがルディスだって人を逃したり送ったりなどは得意であり戦うよりもそっちの方が早く終わるはずだ。


「分かったよ……期待はしないでね」


憂鬱な気持ちになりどうやって城の中心部へ送ろうかと考えている最中、顔が鋭い牙を持つ口だけしかない大きな鉄の犬が自分達を襲いかかって来た。


ゆだが鉄棒で頭をフルスイングすると顔面は吹き飛んだが爪をたててまた襲いかかってきたがルディスが熱線を放ちなんとか倒すことができた。


「怖ッ!あいつ貫通魔法で少し焦げただけって化け物じゃねぇか!」

「見た目からして化け物だけど、かなり硬いね」


魔力をそのままぶつけるような大技でさえあの様だ、硬度で言えばダイアモンド異常の硬度をした殺戮兵器と言えるだろう。


「きっとこれは私を殺すために国が作り出した、無差別殺戮兵器だ」


そう言われればこいつは誰であろうがきっと噛み殺すであろう、先ほども躊躇なく襲ってきたのだからもう手段はとっていられなくなったのだろう。


(この世界本当に救いようないな)


ゆだは世界平和を目的に城へ向かうが国がこんな事をし始めているのを見てしまうと自分の救いたかったものが裏切ってきたのだからさすがに悲しくなってきた。


もう後戻りはできないと考えれば考えるほど自分は今ここにいる仲間以外のほぼ全てを敵に回しているという状況を深刻に考えてしまってもうどうしようもなかった、自分は強くてもいつか死んでしまうしここまで来たというのに誰も助けられなかったら自分はただの殺人犯とやはり強い人間にも悩みがあり周りからは勇者!だとか英雄!と言われても中身は人間であって今はもう諦めたいというところまで来てしまった。


(もし何万人も襲ってきたら私はすぐに殺されて、私の残った肩書きはただの殺人犯……)

(俺が死んだら家族はどんな目で見るんだろう……考えたくもないぞマジで)


ゆだだけがブルーなのかと思っていたらルディスもかなり落ち込んでいるような状況で自分のした悪事の重さを理解して家族を泣かせて最低な人間として後世に名を残すんじゃないのかと今更後悔してきてしまったのだ。


その頃フォレンはと言うともしこの件が万事解決したあとこの国や他国に兵器や殺人の見直しや定義さらにはどう罪を償わせるかなど色々な事を考えていたが、勇者という称号と共に力を持っているのだから力で世界を平和へと導くことを考えていた。


「もしもこの争いが終わったら、皆は自分のしたこと全てを忘れて大切な者の元へ帰って自分のするべき事をすればいいと思うよ」

「俺もそうするよ」


きっとフォレンは2人が暗い気持ちになっているのを察して明るく将来性のある言葉をかけてあげると2人は少し元気を取り戻し、なぜこの戦いをしているのかを再確認することができたのだった、それは大切な者にまた会うために最後まで戦い抜くという事だ。


「ここだけは静かに行こう」


今皆が歩いている所はこの街を支配したリーデデモ隊No.1の主に佇んでいる噴水の近くで遠くから歩いていくことにしたのだがその必要がなくなったのだ、その理由が近くの家の看板に首を吊って死んでいたからだ。


「アレは囮か?」

「違うだろう、魔力が異様なほど残っている」

「じゃあ自殺したっていう事?」

「そりゃありえねぇと思うけど……事実は否定できねぇし」


この光景はとても不気味に感じたのだった、敵の中でも2番目に強いNo.1の称号を持つ魔法使いが死ぬ理由なんて持っているわけもないのに何故死んだのかが誰も分からなかった。


この三人は理由を知らないがNo.1のこの男は差別を受けている妹を救うために世界に魔法使いを認めさせるために実力行使をしている。


とある日部下からの伝言で、妹がデモ隊の人間と揉め事があり殺されたと伝達されて自分の最後の宝を失い、それも戦う理由も同じ人間に殺されたのだから根っこから何もかもがおかしく争い何かを奪い合う事自体おかしいと感じた。


そして何ものも暴力を振らず平和な世界がないのを一番知っていて、そんな世界を見ることができないなら何もない無になってしまいたいと願い自殺をしたんだとか。


「だがこれでラファエルへ近づくためにかなり時間が短縮されたぞ、さぁ決戦は近い!」


雰囲気を少しでも和ませるためルディスがそう言ったが当の本人もこれを見てしまうと、ここまで強い人間が自殺するような世界を相手にしていると少しだけ考えあまり自信があるとは言えないが最初から自信がないのであまり変わりはない。


「そうだな先へ行こう」


フォレンも足を止めずに一歩踏み出したのだが、ヘリが空を飛んでいてこの国では今誰かが助けを求めてもヘリなんて出さず助けに行かないはずなのに何故ここにヘリがいるのだ?


と思うと急降下し始めて皆が警戒態勢に入ると、発煙弾を5個ほど投下して皆が逃げようとするが何者かにゆだが麻酔弾を撃たれその場で気絶してしまった。


目を覚ますと上には明るい照明が自分を照らし辺りはガラス張りで自分の体が思うように動かないと思うと腕と足が鉄の台に皮で押さえつけられていて白衣と仮面をつけた人が自分の腕から注射器で血を採取していた。


「何やってるんですか……」

「麻酔を」


話すと何故か注射器で麻酔を入れられまたすぐに寝てしまった、だがべつに拷問されるわけでも何でもないので悪い気はしなかったし自分の血が兵器に使われるわけでもないのだろうししばらくの間許していた。


また目覚め自分の血を何に使うか聞くことにした。


「あの、私の血を何に使うんですか?」

「麻酔を」

「殺しますよ?」


メスを2人の頭の右に浮かせ威嚇すると諦め部屋を出ていった、この隙に外へ出ようと拘束具を力任せにちぎり扉を破壊すると軍人がスナイパーで頭を撃ち抜こうとしたがそれを避け頭を熱線で潰した。


「鉄棒を返すのとここから出してくれればこれ以上人は殺しませんよ!」


これで誰かが殺されようと自業自得であった、人を強引に攫って血を抜き取り自分の物を盗んだのだから。


遠くから軍人が走ってきたが銃などは持っていなく代わりに鉄棒を持ってきてくれたのであった。


「ありがとうございます」


辺りには扉もないので壁を強く鉄棒で打つが全く壊れなく熱線を放つとすぐに壁に穴が空き外が見えた、きっと魔法使いが恐れられる理由はこれだろうと確信した。


外に出るとヘリに乗った軍人が機関銃をこちらに撃ち放つが岩の壁を作り出し全ての弾が無くなるまで撃たせ城の見える方へ走り出した。


すると車がこちらへ突進してきてこれはもう避けられないなと諦めると扉が開き自分の腕を誰かが掴み中へ入れられた、これを運転していたのがルディスで皆無事のようだ。


「まさか国がお前を攫うとは思ってもなかったぜ」

「きっと何か企みがあってのことだろうが魔法使い以外の人間にも警戒はしておいた方が良さそうだな」


今までフォレン以外のこの2人に害は加えて来なかったというのに何が目的で攫ったのか少し考えてみたらこれが1番の高確率であった自分を人質に取ってフォレンを誘い出す、だが少し不可解な点があり何故自分の血を採取したのかという点だ、だがそこらは考えても意味がないので一旦考えるのをやめた。


「さて、このまま行けば城だな」


王都の門を車で強行突破して中に入ると地面が爆発して車が吹き飛んだが奇跡的に壊れはせずそのまま城へ向かった。


「やっぱり罠があったか」


家の扉から槍が飛んできたり空から流星群のように岩が降り注いできたりで車はかなりボロボロになり一度降りることにした。


「もう降りるか、どうせ本丸に来ちゃったし」


本丸にはこの王都を落としたとされる伝説の人造天使と呼ばれる生物が城の中心部を守っているらしい、少し暴れればこの本丸は一気に崩れるらしいがここまで辿り着いた人間は誰1人として存在していなく、今もなお人造天使は役目を果たす時を待ち望んでいる。


「まずは石を投げてみよう」


本丸の窓のガラスを破り石を投げつけると突然ガラスが全て破れそこから炎が勢いよく放出された、人造天使はかなり怒っているようだ。


「これ勝てるのか?」

「さぁな、まぁ入るぞ」

(これで最後の敵じゃないってのが終わってるな)


人造天使は国によって作られた最終兵器であったが、それは魔法使いをキメラにすると言った悪魔のような実験であり、内蔵をいくつも繋げ脳の重要部分だけを繋げ体には鉄を埋め込み魔力を永遠に生み出せるよう循環機能のある魔法使いの心臓を四つ全てを潰し治癒すると1つにまとまりそれを体の中に入れたのが人造天使。


人造天使が最初は戦争でも役に立っていたのだが破壊力の高さが圧倒的すぎる故暗殺しようとしたのだが逆に何千という兵が殺されてミッションは失敗に終わり、その後ラファエルに飼いならされたのだとか。


魔法使いの魔力は戦いによっても増えるのだが感情によって一番増えるので四人分の感情が一つになれば魔力はかなり強い魔法使いを超えているだろう。


「もともとあれは人だったのか?」

「そうらしいけど……」


人造天使がこちらを向き誰かの名前を呟き背中からもう一つ口を表して殺してなどさまざまな言葉を喋っていたが敵意はあるように見えなくもない。


「なぁ、元は人だったならここを通してはくれないか?俺達には世界がかかってるんだ」


ここで良いよというのは展開的にも面白くないしフラグとも言える、だが人造天使は体を隅に寄せて大きく笑ったり悲しそうに笑ったり喜怒哀楽の全てが混ざっているようだった。


「本当に通してくれるのかよ……」

「きっと敵の中にもこの世界の矛盾に気づいたやつもいるのかもな」


このまま本丸の出口を出て城の中へ入ろうとすると、斧を持った魔法使いがこちらへ突進して首を切ろうと斧を振ってきた。


「一等兵だ!気を抜くなよ!」


この一等兵1人には国を滅ぼせるほどの力があり今斧を強く振られると一瞬爆発のような音とともに火がつくのだがすぐに消えてしまう。


「こいつらをまともに相手してたら誰か死ぬぞ!」

「ならばこうするまでだ!」


人造天使のいる本丸の中に一等兵二匹を吹き飛ばし入れると、中から悲鳴と命乞いをするが食べられてまた新たな声となっていった。


もう決戦は目の前まで来た、この大きな門を開ければラファエルが待ち構えていると考えると武者震いと恐怖の狭間に立ち圧迫感が自分の感情を殺そうとしてくる。


ここの門越しでも伝わってくる魔力のオーラだ、そう簡単に殺せる相手でもないし死んでくれる相手でもないだろう。


勇者であってもまだ開ける勇気がないのか誰も者を手につけずその事に触れもせずにただ眺めているだけだった……この全世界の戦争を引き起こし何百万人と人を殺した張本人がこの奥にいると考えるとただの強さでなくそいつの本性だけで逃げ出したくなってきた。


「もし俺が殺されても無視して戦い続けてくれよな?」

「分かってるさ……ここまでついてきてくれてありがとう、やり残した事はもうないな?」


ゆだはまだ何かあるかと考えたが唯一思ったことがあるとすればみつきを防空壕に残したまま死んでしまったらもう二度と会えないと考えたが、みつきにはこの争いが終わったら会いに行くと伝えてありまだその時ではなかったのだ、この約束を叶えるためにもこの先へと進まなければならない。


「何もないよ、やりに行こうか」

「分かった、じゃあ開けるぞ!」


門を開けた途端最初にラファエルが攻撃するよりも早くに熱戦を放ちルディスが石弾をミニガンのように放ち煙幕で何も見えない。


「奥に進むぞ」


城の中に入ると松明に灯りがつき煙幕が魔力の波で吹き飛ばされるとラファエルの姿が見えた、その醜悪なる姿を見てやろうと目を凝らしてみるとそこにいたのはこの国の大統領であったのだ。


「ふっふっふ……ハッハッハァ!素晴らしいねぇ!まさか勇者と共闘するデモ隊か、随分とかっこいいじゃないか!」

「大統領!?」


何故大統領がこんな事をしていたのか一瞬のうちに考えてみた、そして分かった事は今まで軍隊が容赦なく自分達を誰であろうが殺しにかかったりデモ隊と軍隊が何故あまり戦わなかったのかが、それは大統領の手駒が減っては困るからという単純な理由であったのだった。


さらに何故大統領がデモ隊を虐殺せよと命令したのにも関わらずデモ隊をまとめるラファエルとしての役をやっていたのか、それは自分の開発した魔力がほんの少し外に出てその魔力を使って魔法使いとしてその者達の名が世間に知れ渡り、自分の作った発明結果を自分がやったと主張されたら?


そう考える最初は皆根絶やしにしようと考えたが相手も反抗してきて返り討ちにされることが多く、こんなにも軍隊よりも強いのだから魔法使いを使って最初は国に刃向かわせて今までやった事を全て大統領である自分が謝って中ではラファエルとして仮面を被り同盟を結びましょうと言えば、最強の軍隊を作れると考えたのだ。


「嘘だよな?この国の大統領が魔法使いを皆殺しにしろって言った張本人だろ?」


勇者であるフォレンでさえ理解が追いつかないままなんとか考えに考え少し正気を取り戻した、だがこの場で一番怒っていたのはルディスであり魔法使いをあんなに侮辱し人として生きる権利も奪った奴らを復讐するための組織であったはずなのにそのリーダーが虐殺を命じた大統領であると知るとすぐに爆裂魔法を撃ち放ちあたりは粉々だ。


「怖いなぁ、別に自分が何をしようが自分の過ちなんだ、君らには関係ないだろう?それに国に復讐だってさせてあげた、化け物に幸せを与えてやったんだぞ?」


魔法使いを化け物呼ばわりしている大統領を見るとやはりまだ人として魔法使いを人として見ていないことがよく分かる、これを聞くとさすがのゆだも気分が悪い。


「私から言う事これだけだ……死ねるだけありがたいと思え」


そう言うと三人がレールガンを生成し大統領の頭を打つが魔力壁で弾かれ、それも想定して打った瞬間にゆだが鉄棒でレールガンを追うように正面から大統領の魔力壁を破り勇者がその隙を狙って魔力を込めた力と技量の全てが入った剣技を使ったが大統領の体は硬すぎる魔力の外套で守られていて攻撃を通さない。


大統領がこの城を錬金術で操り地面から天使の羽を召喚し羽先から避けるのが不可能に見える音速の速さでゆだを狙う熱戦を魔力壁で守ったがそれも破られ鉄棒を地面に叩きつけ上に跳ねると、それについていけなくなり壁に熱線が激突した。


「君達は確かに強いし技量で言えば私よりも上だ、だがしかしよく考えてみろ?技は力に頼らず急所をついたり全ての攻撃を弾いたりだ、それに比べて私の力は何も通さないし一撃で全てを破壊する!分かったか?」


大統領に勝つ未来が全く見えない、さっきの熱戦ですら弱気すらも出していないだろうに自分達はあの様だ、勝てる相手ではないと痛いほどよく分かったがここまで来て引き下がれるほどチキンではない。


「今世界の真実を知ってこのまま降参できるかよ」

「私もドクターの目指した未来と、私を待つ親友の元へ行かなきゃだし負けられないよ」

「そうかそうか、実に悪役というのは楽しいものだな!」


大統領は失敗したことがないのだろう、そのせいで責任なんかもかなりあってあまり自由を満喫できなかったが悪側に立てば守るものもなくただ世界を弄ぶだけだからとても面白かったのだろう。


「私にも帰りを待つ家族がいるんだ」

「死にたまえ」


上から剣が降り注ぎその剣が突然踊り出したかと思うと自分達を切り殺そうと宙で舞っていたのだった。


アニメなどではよく叩き潰したりして壊していたが現実的に考えて相手は魔力で固くなった状態なのだからこっちの剣が折れるに決まってる、それに鉄棒で叩いたとしても鉄棒が真っ二つにされてしまうだろう。


「大したことないじゃないか」


大統領が錬金術の始祖と言われるようになったのがこの時使った技で、城に使われている石やレンガそして鉄などを瞬時に繋ぎ合わせドラゴンを作り出した、こんなにも大きな相手を見ると何人いても負ける気しかしない。


「人形達よ!刺し殺してしまえ!」


今までこの城に魔法使いがいなかった理由が大統領に皆殺されたのかわからないが魔力のない魔法使いであったもの達が外から中へ入ってきてルディスに剣や木の棒を使って殺しにかかっているのだ。


「お前……このデモ隊が何のためにあったのか知っているのか!」

「そりゃ私が作り上げたのだから私が一番知っているとも、世界各国にこの兵士たちに逆らえないほどの恐怖を与えさせるためだよ」


やはり魔法使いの運命は最初から悪い方向へとしかいかないと前から実感はしていたが死んでもなお操られるという侮辱をされるところまで予想していなくそこまで非道だとは思っていなかった。


ドラゴンが城を操り大砲を生成し3秒間の間に大砲を何発も放ち熱線が皆を殺そうと一直線に放ってくる。


(レベルが上がらない……)


死んだ魔法使いを殺しても何故か経験値が少しも手に入れられず理由を考えてみたら、そもそも一度死んだものに経験値なんてあるわけがない、死んだら魔力を残して魂は無になるだけだ。


「私達のことは気にするな!ルディス広範囲攻撃だ!」

「信じるぞ!」


敵が多すぎる今では広範囲攻撃が有効的と言えるだろう、三人が魔力壁を張るとルディスはこの城の屋根を魔力をぶつけて破壊し屋根を地面に勢いよく叩きつけると敵の軍勢がかなり減り隙ができたであろう大統領にフォレンとエネスが熱線を放ちきっと殺せたはずだ。


勝ちを確信していた、こんなのは大統領でも予想できないし咄嗟に魔力壁を張ったとしても不完全で圧死されて死んでいるだろうと思っていたが大統領はこの世界にあるほとんどの魔力を取り込んだのだから不完全でも硬すぎて攻撃なんて通さないだろう。


「君達と戦っていても時間の無駄だ、帰ってくれないか?」


自分達は相手からしたらアリの様な存在にしか見えないのだろうがなかなかしぶとく時間もかかり、これでは時間の無駄でしかないとだるくなってきたのだろう。


「時間の無駄?そういう割には俺達に攻撃は当たってないぞ?」

「ならばほんの少し力を見せてあげよう」


大統領はそもそも城を使って攻撃なんてしなくてもいいほど魔力はあるのになぜ無から石などを生成しないのか謎だったが、今やっと力を見せつけにきた様でいつのまにか皆の背中が何かに斬られた。


これはただ魔力をぶつけただけであるというのにこの威力とスピードならあと1分後には死んでいることだろう。


「一番強いはずの君が何故そんなに弱いのだ?実力を隠しているだろう?」


ゆだにそう言っているようだ、確かに一番強いのかもしれないが勇者の様に技量がないから攻撃をしても弾かれてしまう、というよりかは敵も殺し合う時は本気で戦っていて大統領はそうでもなさそうだから案外当てることができるかもしれないが無理だろう。


「一番弱いの間違いでしょ」


勇者が何かを思い出したようにゆだへ吹き飛び何かを手に持って渡してきた、それはただの包丁であった。


「君は鉄棒を使うがここでは切れ味がものを言う、これを使いなさい」

「えぇ……」


確かに1発の攻撃力はかなり強いが岩をこちらに吹き飛ばしてきたら壊しようがないしどちらかというとこの戦いで不利になってしまう気がしたが、きっと何か理由あってこそのことだろうと感じ使ってみる事にした。


(勝てればいいけど負ける未来しか見えないな)


鉄棒を投げつけると熱線で溶かされてしまいこの光景を見ると何で段違いな敵と戦っているのだろうと少し逃げ出したくなってきた。


だがそんな心を忘れるためにヤケクソで神速のスピードで飛んでくる熱線やライフルの弾など魔力で生成された全ての技を相手が外し魔力壁に包丁を突き刺した、そこらへんの剣や包丁とは何かが違うのだろうとすぐに気づいたのが。


本当ならどんな攻撃も通さないはずなのに包丁だけはちゃんと仲間で刃を通してチャンスだと思い、そのまま包丁を横に傾けて魔力壁を切り裂いた。


「今だ!」


フォレンがスナイパーを生成しスコープを見ずに大統領の頭を撃ち抜こうと放ったが地面からドラガンが起き上がり玉を防いだ。


ゆだを吹き飛ばすと大統領が冷や汗を少し垂らして恐ろしそうに語った。


「本当に死ぬかと焦ったよ、でも今度は君達に死ぬかと思ったとは違って本当に詩を味わってもらうよ!」


やっと相手も本気で襲いにくるらしい。


突然自分たちの目の中だけで見えたものがあり目の前に薄く光る1と書かれたものがフォレンとルディスには見え大統領は999と書かれていて、これはゆだのレベルと似たステータスを作る能力であった。


「ずっと蓄積された私のレベルは今のあなた達のレベルでは敵うはずがない!能力者の前で勝てるものなど皆無なのだよ!」


大統領がゆだを見ると驚きそれにつられて皆も見るとレベルが600と前と変わりはしないが唯一の戦力を残した事を後悔したのか大統領が熱線を放った。


「わざと外すのか?」


さきほどの熱戦とは変わって魔力が微量しか注がれていなく、それに自分の後ろへと少し早いくらいのスピードで放ったのだ、だがこれでは誰も殺さないはずと思うと後ろから悲鳴が聞こえた。


「ルディス!」


なんと後ろにいたルディスに当たると体が徐々に塵となっていく……人は本当なら死ねば死体は残るのは当たり前なのだがステータスを付けられるとHPなども付けられあんな微弱な攻撃でも死んでしまうというのだろうか。


そうなると勇者であるフォレンも一撃喰らえば死ぬ状況なのだから世界の希望である人間は殺させないために自分だけが戦わなければいけない状況になった。


(人類の未来が私にかかってる……)

「ルディス!私はもう戦力にはならないだろう、足手纏いにならない程度にサポートをする!」


弱くなっても勇者は勇者で素早いスピードで自分の後ろの壁に隠れゆだめがけて飛んでいく炎などを魔力壁で防ぎかなり優秀なサポーターとして動いてくれている。


「私についてきてね!」

「三下が私に勝てるかな?」


大統領に向かって真っ直ぐ走ると目の前にドラゴンの頭を生成し噛み殺そうとしていたがそのような攻撃をしてくることは想定済みで、混合魔法を使い霧を起こし今の敵は邪魔な魔力を帯びた霧のせいで生成魔法を使うことができずにいる。


これは勝ったと思ったのだが色々な方向から熱線が飛んできて一撃喰らうと少し服に何か当たったかな程度だったのだが、それが1秒の間に24回当たっているような感覚で大統領はステータスを付与する能力なんかではなかった。


2Dゲームで敵の剣に一撃あたればそのぶん1ダメージ喰らうところ1発分当たれば24フレームぶんダメージを負わせるという、戦っている相手と自分をゲームと同じ原理で戦わせる能力を持っていたのだった。


足が抉れたがフォレンが痛みを感じないように瞬きする暇もないようなスピードで足を治癒してくれてすぐに空へ跳び炎を放出した。


「避けるのが上手いだけなのか?もっと当ててみなよ!」


挑発してきたがここでそんなものに乗って攻撃に専念すれば頭を潰されるだろうし、あの時のように1レベル減らして蘇生できるかも怪しく無駄なリスクは取れなかった。


今回は大統領に大きすぎる隙が見え包丁を両手に持ち突っ込むと、魔力壁を何重にも重ねこちらへそれを吹き飛ばしゆだは壁に強く叩きつけられた。


大統領が霧を魔力のオーラで吹き飛ばしライフルをゆだに向けて放った、もう避けられないだろうと諦めをつかせると勇者が大盾を生成し弾を弾き飛ばした。


「ありがとう、私が今は主力なのにこれじゃあダメだよね」


この時自分の魂のレベルが3になったのが見えた、レベルが3になると同時に大統領の魔力壁を破った後にどう本体を刺し殺すかやっと思いつくことができた。


それは自分の体に魔力を被らせるように覆わせて、自分が敵に攻撃すればもう一度その魔力でできた影のような自分であるはずのものが斬り殺してくれるのではと考え実行する事にした。


「お、おいそろそろ諦めたらどうだ?」


大統領も何かを察して少し怯えてはいるが一瞬できた死の匂いにたまたま気が傾いてしまっただけなのだろうと冷静さを取り戻し、勇者はまた後ろに戻りゆだはこの方法をうまく活かせるために勇者へこの一瞬を本気で援護させる事にした。


「今から大統領に攻撃するまで最大級のサポートを頼むよ」

「任せてくれ」


ゆだがまた神速で大統領へ吹き飛ぶように進むと目の前の地面から石でできた槍が自分を突き刺そうとすると、勇者がその上に魔力壁を地面のように張るとその上に乗りそれを待っていたかのように上から氷塊を落とされゆだが潰された。


勇者が少し絶望したが自分を焦がすほどの容赦ない爆発が氷塊の中で起こり煙が舞ったがゆだの姿は絶えず見え熱線を全ての方向から打ってくるが全てサポーターが魔力壁で攻撃を通さないようにしてくれていた。


「やるじゃないか」


まだ大統領は自分のシールドを破れたところでその瞬間を狙って殺せばいいと考えているのだろうがそうはさせない。


自分の体に魔力を被らせ大統領の正面からシールドを横へ切り腕に魔力を集中させ素早くもう一度縦に切ると、大統領の姿が見えた。


「残念だったな!」


後ろから剣がゆだへめがけて飛んでくるがその前に大統領の体を追撃がうまくいき真っ二つに切り裂き、やっとの思いで討伐する事ができたのであった。


爆発するように大統領の体の中にあった魔力が散り今まで大統領が全世界へとばら撒いた魔力が、1つの小さな塊となりゆだの腹へめがけて入っていった、これでこの世界平和への最大の目標が解決されたのであった。


「おめでとう!そしてありがとうゆだ!」

「こんなことできるなんて私達凄いね!」


2人が世界から魔力がゆだの体にだけ留まった事に歓喜していると、後ろから軍隊が駆け寄ってきて戦闘態勢に入ったが攻撃の意思はないようだ。


「お前らは敵か?」


今の軍隊なら力を取り戻したフォレン1人の目力だけで押し負けてしまいそうだったが1人が大きな声で感謝の言葉を吐いてきた。


「皆さんありがとうございました!本当に……この世界を救ってくれてありかどうございました……」


軍人の1人が泣きながらそう言うと周りも泣き始めた、きっと今まで大統領との話を聞いていて世界の何かの異変に気づきその全てを解決してくれた事がとても嬉しかったのだろう。


何か引っ掛かるところがあると思うと皆さんと言うところだった、今は2人しかいないが元々は3人いた事を言っているのだろう。


「お前らも辛かったんだな」

「フォレン……この短い旅についてきてくれてありがとう」


フォレンが優しい微笑みを浮かべてゆだに感謝を伝えてくれた。


「私はゆだに真の意味で命を救われたんだ、こっちこそ感謝を伝えるべきだよ」

「そうなのかなぁ」


2人が談笑していると軍のヘリがここまで飛んで来るのが見えた、きっとこのまま軍人たちと共に帰れるのかもしれないと思い嬉しくもあったがまだ疑いは消えていない、ヘリの中で撃ち殺される可能性だってあるのだから。


「あのヘリに乗って帰るかい?」

「私はまだ友達にあってないから、このまま防空壕へ向かうよ」

「なら私もついて行こう」


軍人達もこれを聞き無理矢理どこかへ送ったりなどはする権利も失ったようで諦めヘリに乗って帰っていた、2人は最初は敵であったが今ではすっかり親友というところまで来ただろう。


「防空壕はこのまま道に沿って行けば着くはずだね」

「……」


普通ゆだはこういう時必ず返事をするのだが何故か返事をしなかった、フォレンが顔を覗くと無表情で少し止まりこう言った。


「ゆだ……なのか?」

「……殺して」


ゆだがそう言うとフォレンは衝撃で言葉を失ってしまった、するとゆだが突然高い笑い声をあげて勇者を見つめてこう言ってきたのだ。


「私は死なない、私は不死身なのだから!」


もしかしたらゆだの魂に入っていた魔力量を上回り大統領の魔力が意識的にゆだを乗っ取り体を操っていると考えきっとそれは的中したのだろうがまだ、信じることはできなかった。


「やめてくれ、冗談にしては笑えないぞ」

「確かに、私が死ぬなんて冗談のようだな……こんなにも完璧な私なのだから!」


こんなに愉快そうにゆだの体を操り気持ちの悪い言葉を発している姿を見ると怒りも混ざってはいるが絶望も混ざっていた。


「違う……人に死は必ず訪れる、それが今なんだ!殺せフォレン!」

「ゆだ、私には殺すことはできない……」


勇者が泣くのを堪えてそう伝えるとゆだは嬉しそうに笑いフォレンのいる場所から去りどこかへ行こうとしている、こんなのは想像もできずにという言い訳で頭がいっぱいになると一体自分は何をすればいいのかと考える事にした。


「結局こいつの願いは敵わずに終わる!人殺しとして名を残すだけだろうなぁ!さらばだ勇者よ」


ゆだの背中を見ているとこう訴えかけられている気がした、私を殺してくれれば私に無念はないと。


そんなわけがないと思いつつも自分だったらそうしている、だがそれをゆだが望むのか?そもそもあの状態からどう元に戻せばなどを考えて出た結果はこの最悪な結末を迎える一手である。


「すまない……すまない、今までありがとう……ゆだ」


声がボロボロになりながらゆだに謝り泣きながら、自分の握った剣で最後に初めての親友の心臓を貫きまだ息はあるがこのまま楽にしてやるしかないと首を跳ねようとしたその時、この人声が聞こえた。


「大好きだよ、フォレン……」


これはゆだ自身が言った最後の言葉であり今まで生きてきた中で一番愛のこもった最大級の感謝の言葉であった。


フォレンはこの言葉を聞くと涙を多く流して首を剣で跳ね、ゆだを魔力で生成した棺桶の中に入れて今いる地面をスコップを店から買って掘り深いところに棺桶を優しく置いた。




カオスハート-dawn 完



後日談


この後勇者であるフォレンはゆだの友達であるみつきにちゃんと親友の死を伝えると、最初は涙を浮かべていたがこれは彼女が望んだ最善の未来だから気に病まなくていいんだよ、と言われすまないと一言放った。


次は世界をめぐり自分の力を乱用してもう戦争をする必要は無くなったと言い、次は軍事基地に行きミサイルなどを全て空中へ投げ撃ち抜き爆発させそれを各国で行い国からは嫌われる存在となった。


そのような大掛かりなことを一通り終わらせるとまずは街の復興作業を手伝うことを進める事にした、勇者が勇者であるためには何かを殺すために存在するのではなく争いが起きないようにするのが勇者の務めだと自分の中だけで思い続け生きる事を誓った。




作者が最後に語ります


まずこの物語に出てきた勇者はリンワットの勇者と全く強さが違います!

だってリンワットの勇者はライフルを生成するのに5秒かかりますがこの物語の勇者は3秒でこの差が全てを決めるんすよね!

まぁそれは幻想は程遠くないでストーリーとともにその重大さだとか昔の地球に少しの間いた魔法使い達はリンワットの魔法使いと格が違うってのがすぐ分かると思います。


ただこの物語の主人公ゆだと幻想は程遠く内の主人公エネスで言うと多分エネスの方が強いかなって、それでも大統領との戦いはゆだとフォレンでなきゃ勝てなくてその理由が、レベルがあるかないかなんですよね。


やっぱりレベルは自分の強さを順調にあげていく最強の能力なんで、多分エネスが戦えば反撃するチャンスなんてなかなかないと思いますね。



皆さん最後まで読んでいただき誠にありがとうございました(´∀`)これからもどんどん小説を投稿していきます!そしてどんどん内容を進化させます!

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