確かに幼馴染みをかわいいと褒め続けてきたのは俺だが、ここまで自己肯定感爆上がりするとは思ってなかったんだ
銀髪に赤目。
俺の幼馴染みである月宮雪菜は日本人とはかけ離れた外見をしていた。
そのせいで小学校に入学して出会った雪菜はよく気持ち悪いとか化け物とか悪口を言われていたんだ。
『うぅ、ぐすっ。わたし、きもちわるいんだ』
そんな風に泣いていた気弱な雪菜に、とにかく泣き止んでほしくて俺はこう言葉をかけていた。
『そんなことない! ゆきなはかわいい!!』
うそだぁ、といじけたようにそっぽを向く雪菜に俺は肩を掴んで目を合わせて『うそじゃない! ゆきなはかわいいんだ!!』と力説した。
それからもことあるごとに落ち込む雪菜を励ますためにかわいいと褒め続けていった結果──
「わっはっはあ!! 今日も超絶可愛い私と共に登校できる幸せを噛みしめることねっ!!」
まさかここまで自己肯定感爆上がりするとは思ってなかったんだよなあ。
ーーー☆ーーー
「クラスメイトの諸君、今日も可愛い雪菜ちゃんだよ!!」
教室につくなり朝の挨拶からして元気すぎる雪菜の声を聞きながら、俺は思った。
もう俺たちも高校生になっていた。
中学にあがる頃には雪菜は『こう』なっていた。小学生の時に雪菜に嫌がらせをしていた連中も同じ中学にあがっていたが、あいつらのくだらない嫌がらせを自信過剰な態度で振り払えるくらい雪菜も強くなっていた。
で、雪菜が進学を希望したこの高校は周りに比べても偏差値が高く、雪菜に嫌がらせをして人生無駄にしている連中が合格できるようなところじゃなかった。
つーか俺だって雪菜が『超絶可愛い私の幼馴染みならこれくらいの高校には合格して当然よ!!』とか言い出してみっちり勉強を教えてくれなかったら合格できなかった。
俺一人だったら受験勉強とか怠けまくってそれなりの高校にしかいけなかっただろうしな。
そんなこんなでこの高校に入学してからは煩わしい連中の相手をすることもなくなって、雪菜のテンションも前よりも跳ね上がっているというわけだ。
入学当初こそ雪菜のテンションに若干対応に困っていたクラスメイトたちも今では慣れたのか、『おはよう雪菜』とか『よっ、可愛さ世界一!』とか『うぎゃあ! 雪菜ちゃあん!! 今日もピカイチでがわいずぎだよお!!』とかそんな風に受け入れられていた。
……なんか一部テンションがおかしい気がしないでもないが。
まだ七月、入学して三ヶ月くらいだってのに『こっち向いて☆』や『今日も可愛い☆』と書かれたうちわをぶんぶん振っている女子の同級生たちがいるんだよな。
何なら一部の過激なファン層がファンクラブを立ち上げたとかそんな噂もあるし。
「ふっふん。そう、雪菜ちゃんは可愛いのよ!!」
びしっと謎の決めポーズをとれば、(一部の過激派を中心に)喝采が沸き起こる。
なんつーか、雪菜もそうだが他の奴らも朝から元気だよなあ。色々と雪菜に感化されすぎだっての。
「ねっ、大和もそう思うよね?」
「はいはい」
「雑に流された!? ちゃんと可愛いって言ってよ!」
「そこらじゅうから可愛いコールが飛んできているんだから別にそれでいいじゃねえか」
「それはそれ、これはこれよ! 大和には幼馴染みとしての義務があるのよっ」
「義務だあ?」
「そう、私を可愛がる義務よ!!」
「はいはい」
「だから雑なんだってえ!!」
適当に流しながら俺は席に着く。
一部の過激派から俺に向けた『亀山のくせによくも雪菜ちゃんをあんなぞんざいに扱えるわね!』とかそんな嫉妬の声に気付かないふりをしながら、俺はここ最近ずっと脳内を埋め尽くしている難題に直面していた。
雪菜の奴、可愛くなりすぎだろうが!!
いやまあ昔から容姿はそれなりに整っていた。が、小学生の頃は嫌がらせで自信をなくして俯きがちだったのもあってまだそこまで目立ってはいなかったと思う。
中学に進む頃には俺が褒めすぎたのもあって過剰なまでに自信を取り戻し、より可愛くなるのは可愛く生まれた私の義務とか言いながらただでさえ整っている容姿を磨いていった。
その結果がこれだ。
ずっと一緒にいたはずなのに最近じゃ照れくさくてまともに顔を合わせるのも難しくなってきたぞ、ちくしょう!!
こんなはずじゃなかった。
俺はただ元気がない雪菜に笑ってほしかっただけで、こんな誰だろうが完膚なきまでに魅了する可愛いモンスターを生み出すつもりじゃなかった!!
俺、幼馴染みとして振る舞えているよな?
デレデレしてキモくなってないよな!?
恋愛感情かどうかとかはひとまず置いておいて、普通にあんな可愛くなったらずっと一緒だろうが何だろうが意識するだろ! 昔のように四六時中おてて繋いでべったり一緒とか意識しまくって無理だから!! 最近は意識して距離をとらないとふとした時に見惚れそうになるしよお!!
昔からずっと一緒だったからこそお互い変化には敏感だ。ほんの些細な変化にも気づかれてしまう。
だから死ぬ気で隠し通せ。
『幼馴染み』だからこそ、雪菜を女として意識しているだなんて絶対にバレちゃいけねえんだ!!
ーーー☆ーーー
「雪菜ちゃんはー?」
「「「可愛いよおーっ!!」」」
……騒がしいにもほどがあった。
昼休み。
教室でさあメシでも食べようと思ったら、黒板の前に飛び込んできた雪菜がいきなり歌って踊ってとどんちゃん騒ぎを始めたんだ。
ちなみに今は歌と歌と間にあるMCパートのようだ。一部の過激派がどこから取り出したのかサンライトを振り回して興奮していた。
まあ、昔から運動神経も歌唱力もずば抜けている雪菜が歌って踊ってとやればただの教室もトップアイドルのライブ会場に早変わりだからな。過激派はもちろん、他の生徒も迷惑そうにはしていないのが救いか。
そうじゃなければこんなの騒音トラブルだからな。見逃してもらえているところに雪菜のポテンシャルの高さが見えている。
「うんうん、まあ当然だよねっ」
ずびしっ、とポーズを決めれば(一部の過激派の)絶叫の嵐。よくもまあ飽きないもんだ。
ん?
なんか雪菜が俺のほうを見ているような???
「でもでも、足りないなあっ!! もっと大きな声で言ってみよう!! さあ、みなさんご一緒に!! 雪菜ちゃんはあー!?」
「「「可愛いよお!!」」」
「さらにい!!」
「「「とっても可愛いよお!!」」」
「もういっちょーっ!!」
「「「超絶可愛いよおっっっ!!!!」」」
うるっせえな、おい!!
こんなんご近所で撒き散らされたら騒音トラブル待ったなしだぞ!!
でもまあ、流石にこれだけ言われりゃ雪菜の奴も満足する……してくれるはず……なんだが、すんげえ不満そうなのは何でだ?
「はいはいもういいよーっだ。ノリが悪いので今日はもう終わりなんだからっ」
そんなあ!! と過激派がうるさいが、まあそれは置いておくとして。
雪菜がめちゃくちゃ俺を見ているというか睨んでいるのは気のせいだよな? アイドルのライブで俺だけにファンサしてくれたとか勘違いしているのと同じだよな!?
「……大和のばーか」
いじけたように頬を膨らませている雪菜が小さく何か言っていた気もするが、周りの過激派がうるさくて何も聞こえなかった。
ーーー☆ーーー
「やーまーとっ! 帰ろっ!」
昼休みの間はなぜかいじけていた雪菜も機嫌を直したのかいつものように俺にそう声をかけてきた。
ぐいぐいと肩を掴んで揺らしてな!
「わかった、わかったからそんな急かすなっ」
「可愛い私を待たせる大和が悪いのよ!」
「はいはい、とんだ暴君だな」
そんなこんなで一緒に帰ることに。
……過激派が何やら睨んでいる気がしないでもないが、いつものことなんだからそろそろ慣れてほしい。
「ねえねえ大和おー? 何か言うことなくなーい?」
「腹減ったな」
「そうじゃなくって!」
「雪菜は腹減ってねえか? ちょっと軽くつまんで帰ろうと思ってんだが、無理に付き合わなくても──」
「お腹ぺこぺこちょーぺこだよ!! ほらっ、早く行くよ!!」
「わかったからそんな引っ張るな!」
自然に俺の手を掴んで引っ張る雪菜。
こんなのは昔からよくやっていたことで、『幼馴染み』なら別におかしくなくて、だから変に意識するほうがおかしくて、だけど、ああくそ顔に出てねえよな!?
ちっちゃくて柔らかくて女の子の手をしてやがる。こんなの意識するなってほうが難しいっつーの!!
そんなわけでコンビニで適当につまめるもんを買ってから、俺たちはコンビニ横に腰掛けていた。
昔だったら雪菜も普通に地面に腰掛けていたんだが、いつからかお上品にハンカチとか敷くようになっていた。どちらかといえば内気でよくもじもじしていた小学校時代に俺がそこらじゅうを引っ張り回していた時とか、可愛い言いまくって元気になりすぎた中学時代とかと違ってな。
でもまあ、そうだよな。
いつまでもそのままってわけにはいかねえよな。
「みひぇみへっ」
……ガムを膨らませてはしゃいでいる馬鹿がちっとばっかセンチメンタルなアレソレをぶち壊してくれた。
ったく。変わりなく元気そうで何よりだよ!!
「はいはい」
ムカついたので馬鹿のガム風船にポテチを突っ込んで割ってやることに。
「わあ!? 私の可愛いガム太郎くんがあ!?」
「……、世界広しと言えどガムに名前をつけて愛着が生まれやがるのは雪菜くらいだぞ」
「可愛い私の成果物はすべからく可愛いというのに!! よくもこんな酷いことができるよねっ。鬼畜、外道、悪鬼羅刹の大魔王!!」
「悪かった、俺が悪かったからグミを両手に構えて威嚇するのはやめてくれ。つーかその細長いグミでどうするつもりなんだ?」
「絞め殺す」
「物騒だな、おい」
死にたくないので頭を下げてポテチを献上して許しを乞うことに。
一枚しか残ってなかったから指でつまんで差し出すと、なぜかぶんぶんグミを振り回して『仇はとるんだから』と気合い入っていた雪菜がいきなり固まった。
「? なんだ、やっぱりこれだけじゃ足りねえか?」
「いやっ、ちがっ、そうじゃなくて……ッ!!」
「何だ、じゃあこれで許してくれるのか。せんきゅーなっと」
「うっむう!?」
こういう時は勢いが大事だ。
変に長引かせてもろくなことにならないし、多少強引でもさっさと手打ちにしないとな。
そんなわけで雪菜の口にポテチを突っ込む。
大体お菓子でも与えてやればしぶしぶ矛を引っ込めるのが雪菜だからな。
「……っ……ッッッ!?」
にしても急に静かになりすぎだとは思うが。
いつもなら『仕方ないわねっ、可愛く慈悲深い雪菜ちゃんに感謝感涙感激して拝み倒すことね!!』くらいは言うんだが。
「……大和のばか」
「あん?」
「もお! 焦らしまくるかと思えばいきなりこんな大胆に、本当もう大和のばかあっ!!」
「うぶへっ!?」
ぺちんと細長いグミを俺の頬を叩きつけて駆け出す雪菜。
いきなりなんだってんだ。
別に普通にポテチをやっただけで、一枚しか残ってなかったからつまんで雪菜の口に放り込んだわけで、いや待て、そんなの恋人同士とかがよくやる『あーん』というヤツなわけで──
「……やっべえ。流石に高校生にもなってアレはなしってことだよな」
昔から食べさせ合うのなんて当たり前にやっていた。まあ最近は悔しいことに意識していたからそういうのも自然とやらなくなっていたが、こう、癖になっていたのか自然に身体が動いていた。
そうだよな。高校生、それも異性なんだ。
付き合っているわけでもなし、幼馴染みにしても限度があるよな。
ーーー☆ーーー
「というわけで贖罪の意味も込めて一発くらいならグーでも蹴りでもどんとこいだ」
「はぁ?」
「何だ、武器ありが望みなのか? 仕方ねえな。中学の修学旅行で買ってから改造しまくった木刀までなら使ってくれていいぞ」
「まってそんな厨二の遺産を私に押しつけないで可愛いとは対極だってそれえ!!」
「こいつの何が気に食わないってんだ?」
「わざわざ大和が真っ黒に塗ってその上に金の龍とか書いちゃっているアレな木刀は流石に私の可愛さでも中和できないから!!」
「確かにあまりの格好良さにその他あらゆる事象が霞んでしまうのも無理はねえか。くっくっくっ」
「おーい帰ってこーい。過去に封印した厨二の心が漏れてきているぞーう」
夜。
あんなことがあったのに普通に窓から俺の部屋に入ってきた雪菜についいつものように絡んでしまった。
家が隣で、互いの部屋に飛び移れる距離で、昔からこういうのは当たり前だったにしてもだ。
「最悪嫌われたと思っていたんだがな」
率直な感想を口にしたら、バッと勢いよく近づいてきた雪菜が漆黒の木刀『ダークネスブラッディスプラッシュドラゴン』を両手で抱えるように持ちながら目を見開いて、
「何で私が大和を嫌うのよ!?」
「な、なんでって、あんなことしてしまったからな。昔ならともかく、流石に高校生になってもってのは思わず逃げ出したくなるくらい気持ち悪かったのかな、と」
「気持ち悪いって、はぁっ!? ふざけないでッッッ!!!!」
それは。
その叫びは滅多に怒らない雪菜が本気で怒っているのだとそうわからせるには十分なものだった。
「私が、この私が! 大和のことを気持ち悪いだなんて思うわけがない!! そりゃたまに厨二が溢れてイタイなとか思うことはあるけど、何があっても絶対に大和のことを気持ち悪いと拒絶することはないし、絶対の絶対に嫌わないんだから!!!!」
「お、おう。わかった、わかったから少し離れてくれ。キスでもする気か?」
そこで、ようやく。
雪菜は鼻と鼻とか触れ合う寸前にまで顔を近づけていたことに気づいたのか、ババッと先の倍する勢いで離れていった。
そっと。
顔を隠すように両手で木刀を前にかざして、一言。
「ばか」
「おう」
「もう二度とあんなこと言わないで。いいや考えることすら許さないから!!」
「わかった」
「私たちは何があってもずっと一緒なんだからね!!」
「……、そうだな」
俺だってそうありたい。
だからこそ。
「俺たちは幼馴染みだもんな」
今一度強く思う。
雪菜のことを『可愛い』とは絶対に言えない。
言ったら最後、意識しまくっていることが顔に出るに決まっているからだ。
異性で、意識していて、そんなんで『幼馴染み』のままでいられるかどうか。どうなるかわからないが、少なくとも今のままじゃいられなくなる。
何があってもずっと一緒。
これまでと同じようにこれからもずっと一緒にいるのは変わらないと、『幼馴染み』としてそばにいてくれると、そう信じてくれている雪菜を裏切ることだけはできない。
「……っっっ!! ああもう、ばあーっか!!」
「ぶっふ!? 仲直りの空気じゃなかったか!? なんで枕を投げつけられたんだ俺!?」
「うるさいうるさい超絶うるさあーい!! 大体、百歩譲って! 幼馴染みのままだとしても!! だったら前みたいに可愛いって言えよお!!!!」
「なんっはぁ!? なんでそうなる!?」
「私は可愛いからだよ!! それ以上の理由があるとでも!?」
「誰も彼もがそう言っているんだから別に俺が言わなくてもいいだろうが」
「よくない!!」
くしゃり、と。
顔を歪めて、そして雪菜は言う。
「だって私はこの世の誰よりも大和にこそ可愛いって言ってほしいから!! 大和のために、大和だけのためにここまで可愛くなったのになんで前みたいに褒めてくれないのよぉおおお!!」
「な、ん」
意味がわからなかった。
確かにきっかけこそ俺が嫌がらせに落ち込む雪菜を元気づけるために可愛いと言い続けてきたからかもだが、そんなのあくまできっかけだろ。
今や全校生徒が否定できないくらい可愛いんだ。誰に問いかけても誰もが雪菜を可愛いと答えるんだ。
それだけあったら、俺一人の評価なんて気にする必要もないはずなのに。
「私、前よりも可愛くなくなった? 大和の好みとは違う方向に進んじゃった? だったらどうにかするから、だから、だから!!」
ぎゅう、と。
俺の胸のシャツを両手で掴んで、縋りつくようにそう言う雪菜に俺は首を横に振る。
違う。
そうじゃない。
俺はこんな辛そうな顔を見るために本音を隠してきたわけじゃない。
なら。
だったら。
「可愛いよ」
「…………、え?」
「だからっ! 雪菜は、なんだ、この世の誰よりも可愛い。初めて可愛いって言ったあの時からずっとそう思っている」
だめだ、我慢なんてできない。
顔が赤くなっているのがわかる。こんなにも近くにいる雪菜の吐息を、ぬくもりを、微かに香る甘い匂いを、とにかく何もかもを意識してしまっているのがバレてしまう。
「これで満足か?」
「え、あ、そんな、だって、大和は、あれ?」
「さっきも言ったが、少し離れてくれ。キスでもする気か?」
どうにかこうにかさっきの軽口を繰り返していつも通り振る舞おうとした。
失敗だった。
何もかもが間違っていた。
ついさっきとは状況が致命的に違いすぎるからだ。
「きっききききっキスう!? や、やっぱり、そういう感じ、だったり……?」
「……ッ!! 普通に近すぎるってだけだ!!」
無理があるのはわかっていた。
それでも今すぐどうこうとか何も考えられていない以上、誤魔化すしかねえだろ、ちくしょう!!
ーーー☆ーーー
自分の部屋に帰った月宮雪菜はベッドの上に転がって、そして悶えるようにごろごろと左右に転がっていた。
幼い頃のあの日、気持ち悪いだとか言われて自分に自信がもてずに塞ぎ込んでいた雪菜に大和が可愛いと言ってくれた。その言葉の数々があったからどこに出ていっても恥ずかしくないと、超絶可愛いのだと胸を張れる今の雪菜がある。
自分に自信がもてたし、だからこそ外見も内面も磨いてさらに可愛くあろうと努力しようと思えた。
その結果として今では多くの人が雪菜を可愛いと言ってくれる。
それでも、やはり、大和は特別なのだ。
これまで可愛くあろうと努力してきたのは他ならぬ大和に可愛いと言い続けてほしかったから。それこそが雪菜が今日まで努力してきた原動力なのだから。
それなのに最近の大和は可愛いと言ってくれなくなったし、前までと違って距離が少し遠くなっているような気がした。手を繋ぐことも抱き合うことも一日中夢中になって遊び歩くこともなくなった。
そっけない、と。
たまにではあるが、そう感じていた。
だから大和に飽きられてしまったのではないかと不安だった。
だけど。
だけど、だ!!
「やった……やったやったやっっったあ!!」
可愛い、と久しぶりに言ってくれた時のあの顔。
あそこにはこれまで一緒に過ごしてきて一度も見たことがない感情が溢れていた。
それがどんな名前の感情なのかまでは断言できないが、少なくとも飽きられてはいない。
その逆。
気になるからこそ、好ましいからこそ、あんなにも輝かんばかりの感情が溢れ出たのだとそれだけは断言できた。
「大和ったら意地になって隠していたんだ。まったく、かわいいんだから」
普段は怠けることのほうが多いし、厨二が抜け切れていないところもあるし、素直に褒めてくれなくて意地悪だけど、本当に辛い時に一番欲しい言葉をくれる格好良さがあるし、何よりあんなにもかわいい大和のことが雪菜はずっと前から大好きだった。
願わくば、雪菜がいつからかなんてわからないほど自然に、それでいて強烈に大和に対して抱いているこのとびっきりの感情と同じものを向けてくれていればと、頬が期待に緩むのを我慢できなかった。
【連載版】はじめました!
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