夢の話A(結木さくやside)
拙作『月の末裔』『Darkness~やがてキュウになる』の、形を変えた続編になります。
この作品だけでも読めるように書くつもりですが、先の二作品を読んでいただいた方が、どうしても作中の諸事情がわかりやすくなると思います。
予めご了承ください。
私は夢を見る。
とても綺麗でとても切ない、同じ夢を。
いつごろから見始めたのかはっきりしないが、多分、十歳は越えていたと思う。
季節は初夏、なのだろう。
草が一面に萌え出ている、明るく晴れた草原。いや……ゆるやかな小高い丘、らしい。
そこに、姿の美しい若い木が一本、すっと生えている。
不意に風が吹く。
丘の上の若木は、涼し気な葉ずれの音を響かせる。
木の種類までははっきりわからないが、楠のような楢のような葉に見える。
風に踊る葉は、裏と表の色合いが微妙に違うのだろう、陽射しを弾いてキラキラと輝く。
私は少し離れたところに立ち、葉をゆらす若木を見ている。
否。
若木の下にうずくまる、美しい獣を見ている。
白銀に輝く体毛。それよりも銀色が強い、柔らかなたてがみ。
額から20㎝ほど、まっすぐ伸びているアイボリーホワイトの細い角。
ユニコーンだ、と私は思う。
ユニコーンは固くまぶたを閉じ、頭を木の幹にもたれさせた状態で、じっとしている。
私は一歩、また一歩近付く。
ユニコーンの全身がしっかり見えるようになった瞬間、私は息を呑んで立ち止まってしまう。
ユニコーンは怪我をしていた。
一番目立つのは鮮血のにじむ左脇腹の傷だったが、他にも全身のあちこちに、切り傷や擦り傷らしい痕がある。
すっかり治っているものもあれば、ようやくかさぶたが乾いてきたという痕もある。
輝く体毛のせいで見落とされてしまうだろうが、このユニコーンは今まで、どれほどの傷をこらえてきたのだろう?
涙がにじんでくる。
私の気配を感じたのだろうか?
ユニコーンはふと目を開け、首をもたげる。
長いまつ毛に覆われた、黒曜石のような瞳が、真っ直ぐ私を見た。
「黄泉津大神……黄泉津姫」
ユニコーンは嬉しさのにじむ声で、ささやくようにそう私へ呼びかける。
「迎えに、来ていただけたのでしょうか」
「……いいえ」
なんだかとても哀しくなって、私はかぶりを振る。
「いいえ、私は黄泉津姫ではないのです。私は……」
そして、いつもそこで目が覚めてしまう。
……いつも。