表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/106

夢の話A(結木さくやside)

拙作『月の末裔』『Darkness~やがてキュウになる』の、形を変えた続編になります。

この作品だけでも読めるように書くつもりですが、先の二作品を読んでいただいた方が、どうしても作中の諸事情がわかりやすくなると思います。


予めご了承ください。

 私は夢を見る。

 とても綺麗でとても切ない、同じ夢を。


 いつごろから見始めたのかはっきりしないが、多分、十歳は越えていたと思う。


 季節は初夏、なのだろう。

 草が一面に萌え出ている、明るく晴れた草原。いや……ゆるやかな小高い丘、らしい。

 そこに、姿の美しい若い木が一本、すっと生えている。


 不意に風が吹く。

 丘の上の若木は、涼し気な葉ずれの音を響かせる。

 木の種類までははっきりわからないが、楠のような楢のような葉に見える。

 風に踊る葉は、裏と表の色合いが微妙に違うのだろう、陽射しを弾いてキラキラと輝く。


 私は少し離れたところに立ち、葉をゆらす若木を見ている。

 否。

 若木の下にうずくまる、美しい獣を見ている。


 白銀に輝く体毛。それよりも銀色が強い、柔らかなたてがみ。

 額から20㎝ほど、まっすぐ伸びているアイボリーホワイトの細い角。

 ユニコーンだ、と私は思う。


 ユニコーンは固くまぶたを閉じ、頭を木の幹にもたれさせた状態で、じっとしている。

 私は一歩、また一歩近付く。

 ユニコーンの全身がしっかり見えるようになった瞬間、私は息を呑んで立ち止まってしまう。


 ユニコーンは怪我をしていた。

 一番目立つのは鮮血のにじむ左脇腹の傷だったが、他にも全身のあちこちに、切り傷や擦り傷らしい痕がある。

 すっかり治っているものもあれば、ようやくかさぶたが乾いてきたという痕もある。

 輝く体毛のせいで見落とされてしまうだろうが、このユニコーンは今まで、どれほどの傷をこらえてきたのだろう?

 涙がにじんでくる。


 私の気配を感じたのだろうか?

 ユニコーンはふと目を開け、首をもたげる。

 長いまつ毛に覆われた、黒曜石のような瞳が、真っ直ぐ私を見た。


黄泉津大神(よもつおおかみ)……黄泉津姫(よもつひめ)


 ユニコーンは嬉しさのにじむ声で、ささやくようにそう私へ呼びかける。


「迎えに、来ていただけたのでしょうか」


「……いいえ」


 なんだかとても哀しくなって、私はかぶりを振る。


「いいえ、私は黄泉津姫ではないのです。私は……」



 そして、いつもそこで目が覚めてしまう。

 ……いつも。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ