2
穏やかな微笑み。それから一度目を逸らし、生命の伊吹を感じる庭に目をやる。青々とした木々が風に掻き乱されて、かさかさと音を立てた。
歯を食い縛る必要なんてない。沢山の美しい物に囲まれて、蝶よ花よと愛でられて生きてくれ。女人とはそういうものだろう?
しかしそう思って見た彼女の顔は、腹を括った武士の顔だった。
「だから、強くなりたい。お前が仕えるに相応しくなるように、少しでも理想に近づきたい」
激情を孕んだ双眸。それは相性の悪い火神を連想させた。どうやらこの言葉を撤回するつもりは無いようだ。俺は小さく溜息を着くと、憂いを帯びた目で娘を見た。
「撤回するつもりは?」
「ある訳ない!! お前が嫌がっても私は執念深いから、印を結ぶまで諦めない。そうやってお前を呼んだんだ」
爆発的な笑顔。悩みを振り切った者はきかん坊だ。ならば今だけは少し信念を曲げてやろう。俺は縁側から立ち上がると、ずっと彼女の前に片膝を着いた。頭を垂れて、服従の意を示す。
「お前をより間近で守れるように。俺と印を結んでくれ」
顔を上げると弾けるような眼が目に入った。星屑のように瞳が輝いている。綺麗だな、と思う。願わくばこの眼が曇ることのないように。
「言っとくがお前が前線で戦うことは許してない。それだけは理解してくれ。不味いと思ったらお前の意志を無視しても止めに入る。わかったな?」
初めての女主人は男と見まごう程、頑固で意志の強いものだった。
「あぁ。お前に認められるように精進するよ」
色季、一皮剥けました。
次回作、苦戦してます。長編を書くのってとても難しい。
宵闇がここまで言うのは、過去を覗いて見ると分からなくもない気が。
過去編までガッツ残るかなー。