将としての器
「銀庭」
「どうした? 惣領」
私は部屋にあるありったけの服を引っ掻き回しながら、式の名を呼ぶ。辺りには箪笥、クローゼットから引っ張り出した服が散乱している。事情を知らぬ者が見たら、泥棒にでも入られたのか? と疑問を投げかけられそうだ。
颯爽と現れた銀庭に、ヒラヒラとした服をぶん投げながら、こう言った。
「今から男物の服を買いに行く予定なんだ。付き添いを頼めるか」
「昨日も言ったが気にする事はない。君が自らの意思でそうしたいと言うならなら止めはしないがね」
何時に無く真剣な眼差し。本心に探りを入れる様な尋問官の目をしていた。彼は.......気付いている。十割私の意思では無いことを。
銀庭は服に塗れて足の踏み場も無い床を指差し、座るように促した。説教を垂れる時の態度。私は渋々膝を折って、誤魔化すように目を逸らした。
「私は別に.......。でも不快な思いしてる奴がいる方が座りが悪いから.......」
「色季」
言い訳がましい口調に釘を刺す。「お前のその思考が気に入らない」と、感情をおくびにも出さず、真っ直ぐに私を見つめてくる。逸らしているのが申し訳なくて、恐る恐る目を合わせた。静寂な怒り。その目力だけで人を殺れる。恐ろしい神。
「将が兵に合わせるのではない。兵が将に合わせるのだ。逆はいけない」
「.......」
分かってるよ。そんな事.......。
「決心がついたら声を掛けてくれ」
個々に合わせていたらキリがありません。
だから自分を持つことが大切なのです。




