深窓の令嬢
誰かに、呼ばれた気がした。中性的などっちともつかない良く通る声。聞いていて心地が良かった事は記憶している。
「今日からお前の主となる、 だよ。宜しく」
汚れのない白衣に赤袴。一目で巫女装束だと理解した。全体的に骨張った体付きではあるが、腰まで伸ばした烏羽の髪が女であることを強調する。この娘は冗談抜きで式を従える主なのだ。
彼女は春の日差しのような笑顔を浮かべ、俺に向かって手を差し伸べてきた。
「.......どうしたの?」
「女人が主なのか?」
手をとらない俺に対し、彼女は呆けたように問う。その問い掛けに俺は問い掛けで返した。女なのかと。
俺が今まで仕えてきた者は全員男だった。その中には若者も、老い人もいた。若輩者も玄人もいた。だが女人が主だった事はない。そもそも女と接したこと事態皆無である。女と言うのは常に深窓で大切にされる生き物だ。それが今代の主.......。
「嫌.......かな?」
「嫌というか.......」
嫌、という訳ではない。今までと勝手が大きく違った事に困惑しているだけだ。そう、接し方も扱いも何もかも大きく変化する。この差し伸べられた手を握っても大丈夫だろうか。折れはしないか。触れた場所から神気酔いをしないか。倒れないか。顕現してから幾許と経っていないが、不安が頭を過ぎる。
俺はどうすれば良いのだろう。
「嘗められそう?」
「.......」
このとき、そうではない。と言っておけば良かったのだ。
「そう.......」
痛く落ち込んだような顔をした。手を握られず、自虐的な言葉も否定されず、傷付いたのだろう。彼女は手を下ろすと、手短に失礼する。と言って部屋を去っていった。
彼女の気配が完全に消えた事を確認し、内側から湧き出る霊圧を遺憾無く振るう。すると、揺らめいた炎が一瞬にして消し飛んだ。まだ契約前ではあるが、精度は決して劣ってはいない。それに儀式用の蝋燭が倒れて火事でも起きたら大変だ。今のうちに鎮火しておこう。
さて、これからどうするか。とりあえず様子を見よう。主を推し量る溜め込むためににも。
この思想は、某ラジオのお話から出来ました。
もっと自分を大切にしないといけない。
そう言って、見知らぬ誰かのために全力で泣いて怒って下さる方を、私は心から敬愛致します。




