春暁
桜華に対して啖呵をきった数日後、彼はふわりと降臨した。薄暮と似たおかっぱ髪。しかし一点違うところが一つ。一本に束ねられた長髪。顔立ちは春の日差しのように柔らかかった。切れ長を通り越した糸目が、常に微笑んでいるように思える。
「こんにちは、貴方が私の惣領ですね。私は春暁。どうぞ宜しくお願いします」
「君の主となる時節色季だ。宜しく」
彼は恭しく跪くと、そっと契約の儀を結ぼうとしてきた。そんな彼を慌てて止める。
「いや待って。四神って主と認める基準があるんでしょ!? 良いのそんな簡単に!!」
「私を呼んだこと自体が契約に値しますので」
そう言って、ただでさえ細い目をより細めて微笑んだ。今まで呼んだどの式よりも柔らかく、穏やかだ。名前からしても春が入っているし。
イマイチ彼の基準が分からないが、認めてくれるならお言葉に甘えて儀を結ぼう。改めて左手を差し出すと、彼はそっと自分の両手を重ねた。
焔がぐらり、ぐらりと揺らめく。外の枝がそれに呼応して窓に体当たりをしてくる。何度やっても四神の儀は凄まじい霊圧。突然光の粒が桜の花弁となって、私と春暁を包み込んだ。
「有難う、春暁。後は宵闇だけだ」
実を言うと、まだ宵闇との契約は完了していない。でも少しだけ過保護が和らいだ。その証拠に以前は明昼がいる時には必ず姿を表したのに、今では時折顔を見せる程度に落ち着いた。
ゆっくりでいい。惣領になるのはまだゆっくりで。自分にそう言い聞かせて、私と春暁はその場を後にした。
この子が好きです、春暁。
柔らかくって、ふわふわしてて、しんどい事があったら静かに聞いてくれそうな。
膝ぐらいは貸してくれそう。




