四季神
銀庭の気配が去った事を確認し、僕は君に垂れながら過去を思い出していた。僕の体を支えてくれているのは、太い枝。成人男性くらい平気で抱えられる。僕はそんな君を労うように、そっと枝に触れた。
「覚えてるかい? 君が枝を落とした日」
勿論でございます。そう言うように、枝が上下に揺れた。
「彼奴さ、君の枝を枯らさない為に式神にしたんだよ。春を呼ぶ、桜の精。それが四季神の始まり。時節家代々に続く、四季の擬き」
僕は君に言い聞かせるように、静かに語りかける。君は嬉しげに枝を揺らし、花弁を降らせる。相も変わらず綺麗だなと思う。
銀庭が神の座を降りた。それは神無月に出雲の国で語らうことは無くなるということ。神というのは、人に崇められて権威を増す。人に媚びへつらって仕えるなんて以ての外だ。だから彼奴は金という色を剥奪されて銀の色を冠している。
そんな彼を君は哀れんで、自らの一部である桜の枝を落としたのだ。僕にだって、そこまで身を切ったことなんかないくせに。
「最初は君が落とし、僕が餞別として渡した僕ら桜の枝。それが元に春暁が生まれた。次に焼け付く夏を表す明昼。物静かで寂しい秋を示す薄暮。そして凍てつく永夜の冬、宵闇」
一神じゃ、寂しいとか考えたのかもしれない。枯らすなよ。大切にしろよ。と会う度に言っていた気がするから。ただご本家四神と色合いが異なる者が多いのは、銀庭自身、色を奪われた身だからかもしれない。もう、正式な色さえ与えられないのかも知れない。
そんな過去に思いを馳せると、君は慰めるように、花弁を一つ振らせてきた。彼奴が勝手に決めたことだ。だから何も止めはしない。ただ最後に見せた哀れむような目が気に入らないだけ。
「ん.......。なんだか眠くなって来たよ。もう誰も寄せ付けないように、君の枝垂れで隠しておくれ」
――最初の贄である私が、その願いを叶えます。
タイトル回収兼白無垢の初恋伏線回収。
(気になった方は、枝垂れ桜の餞別を御覧下さい)
本人自身が色を歪められている。だから正当な色を与えられない。と言うところを見て、絶句しました。
枯らさない約束を絶対に守る銀庭が好きです。
最後のお声は今度は紛うことなきあの子。




