殺し文句
深夜の語らいの後、惣領は儀式の疲れもあって眠ってしまった。明昼の膝を枕にし、微かな寝息を立てている。でもその様は大きな蓑虫が横たわっているようで、なかなか可愛らしかった。先程から宵闇の気配が僅かに漏れ出ているが、彼女を起こさない配慮だろう。姿を現すことはない。
「よっと」
明昼が惣領を抱えて布団まで運ぶ。蹲る様を見て、僕はそっと髪を撫でた。さっき僕を見かけで判断しなかった。僕は君を一瞬でも男の子だと思ってしまったのに。そんな君だから仕えたいんだ。
「寝ちゃったね」
「人間は休息が必要なのさ」
明昼はもう何本目か分からない焼酎に手をかける。床に胡座をかいて、片手で酒を掻っ喰らう様は、どう見ても女性には見えない。せめて盃に移せば良いのに。そんなぞんざいな態度に反し、惣領を見る目は優しかった。聖母のような慈しみを持って彼女を見詰めている。
「可愛いね。何時だって人の子の寝顔は」
「あぁ。でも、アンタも十分可愛いよ」
たまにこんな殺し文句をぶん投げる。彼女は思ったことをただ述べただけ。そこに深い意味はなく、強いて言うなら「今日はいい天気だね」程度のものだ。でもその表情、口調も相まって、絆されてしまいそうになる人間がいる。一体何人もの人が泣きを見た事だろう。
「君、前に人殺しとか言われなかった?」
「さぁ、忘れたよ。そんな大昔のこと」
僕と惣領を一瞥し、僕らを見ながら遠い目をした。此方を見ているようで、全然違う世界を見ている。それからそっと惣領の髪に触れた。乱雑な明昼らしくない、割れ物に触るような手つきだった。
明昼にとって、人とは人科人間という扱い。
神様なのもあって、人の味方は非常に雑把。
選り好みするのは珍しい.......気が.......します?
(そうでも無いか?)




