酒の席2
嬢ちゃんの部屋の前で酒を飲んでいると、ふわり四神の気配を感じた。宵闇ほど暗く厳しい空気ではない。もっと穏やかで、秋の風を感じさせる空気。だからあたしは、特段顔を向けることなく返した。
「薄暮ー。あんたが最初とはね」
今日も今日とて、ご隠居からせしめた焼酎を飲んでいる。その事を大して咎める訳でもなく、薄暮は“ちょこん”とあたしの隣に腰かけた。手にしているのは湯呑みと急須。どうやら台所から持ってきたようだ。そしてあたしと話をするつもりらしい。まぁ、酒は楽しく飲んだ方が良いわけで。
「なに? いけない?」
「いんや? あんたとは基準が違うし」
薄暮の惣領に求める基準は『敬意を払うこと』。そして彼の理念は『偉いもの程頭を垂れる』というもの。つまり彼の主人になる者は、謙虚さが必要なのだ。実際先代は、ちょくちょく子供を扱いしたせいで、薄暮とは少しばかり衝突していた。ま、子持ちだったし、心配するのは無理もない訳だが。
あたしは横目で薄暮を見やると、ちょいとネタばらしをしてやった。
「ちなみに、今代は女人だよ」
「あぁ。そうなんだ。珍しい」
淡々とした口調で返したが、少しの驚きを含んでいた。なかなか嬢ちゃんの男装の質は高い。
「男だと思ったっしょ?」
「線の細い男児だとは思ったけどね」
男だとか女だとかっていう括りで薄暮は差別しない。その点はかなり気に入ってる。線が細かろうが、なんだろうが、彼は心を見て物を判断する。
酒が喉を焼き払う感覚を楽しんでいると、髪の長い者が現れた。この部屋の主人、色季である。彼女は二人揃った神共に、興味津々と言ったように話しかけてきた。
「二人で何話してるん?」
嬢ちゃんが薄暮の隣に座ると、彼は部屋の中に入り、一度席外す。その様子を見て、少しばかり怪訝な表情を浮かべた。あんたを嫌って外した訳じゃないよ。安心しな。ま、すぐ戻るだろ。
どんなに姿が見かけと離れていたって、中身みてくれる人って良いですよね。
でも見かけのインパクトってやっぱり大きいから、私も見かけで判断しちゃうな。




