酒の席
俺と明昼は の部屋前で酒を酌み交わしていた。枯山水の庭が夜の帳相まって、静寂の空気を作り出す。惣領はもう眠ってしまったのだろう。部屋の中から微かな寝息が聞こえてくる。
明昼は焼酎に直接口を付けると、そのまま煽る。口の端から酒が漏れでても気にせず喉奥まで流し込んで行く。
「お前、まだ色季を惣領と認めていないだろ?」
「.......心では認めている」
その一言が気に入らない。とでも言うように鼻で笑った。俺は盃に入った酒をちびちび飲む。酒の飲み方から性格、理念に置いても、此奴とは反りが合わない。今こうして酒を飲み交わすのだって、昼間の出来事に釘を刺すためだ。
「嘘だね。じゃあなんで儀式失敗してんのかね」
目敏い奴だ。惣領の左上の紋を見た上で、俺のこの発言。契約の儀を行った事を既に見抜いていたと見える。明昼は俺と目を合わそうとはせず、真っ直ぐに庭園を見つめていた。それから嘆くように呟いた。
「それにあの子を認めてんなら、あたしがいる時に姿を現すはずがない。現に先代の前では姿見せんかったじゃん」
「お前が軽はずみに火傷を負わせないか心配なだけだ。今回だって容量超えの霊気を流し込んだだろう」
明昼は昔から癖がある。主となるべき者の顎を掴み、目を合わせる。そして過剰なまでの霊圧をそのやわな人の身に流し込む。全ては自らの主に値するか試すため。相も変わらず傍若無人。人の体、増してや惣領をなんだと思っているのか。
今まで碌に目を合わさなかった明昼が漸く此方を見た。その目には避難の色。何一つ変わってない。俺を蔑む目。そして人差し指で俺の胸元を刺しながら、低い声で指摘した。
「それ」
「は?」
「普通そんな心配なんかしない。だって惣領だったら自分で自分の身を守れるから。守れなきゃ、いけないんだ」
「..............」
お前の言うことは確かに一理ある。だが、必要以上に危険な目にあって欲しくはないし、いざとなれば俺達がいる。仮に自分一人で身を守れるなら、俺達は必要無いだろう。
静寂を保ち続ける俺に明昼はまた目を逸らす。それから吐息混じりに呟いた。
「男尊女卑思考、相変わらずだね」
酒はやっぱり楽しく飲みたい。そうボヤくと、らしくもない、哀愁が張り付いた表情で、ぽつりと呟いた。
「あたしの勘だと、あんたが一番最後にお嬢ちゃんを認める事になるよ」
「お前よりも後になると」
「あぁ。少なくとも必ずあたしよりは後だ。契約の儀は先だがな」
だいぶ中盤まで来たなーという印象。
そろそろ次回作の準備をしないと。




