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だから、あたしは「男尊女卑」と言ってやる。男に対してんな事しないで、女にばかりの“舐めてかかってる”って。
釣り上がる目を見ながら、ご隠居はすぅっと目を細めた。その調子でお小言も忘れて欲しい。
「良いんじゃないか」
「色季はお前を呼ぶのに相当苦労を強いられていたよ。でも諦めることだけはしなかった」
ちゃぶ台に肘を着いて、目を逸らす。子供を思う親の顔。余りにも穏やかな伏し目。ご隠居もあの子を認めてる。代々男系ではあるが、気概のある若い芽を摘むような真似はしないらしい。だからあたし達も着いてきた。
感情が高ぶって、巻舌で絶叫をあげようと思ったが、この空気を壊したくない。だから低く、よく通る声でこう言った。
「しぶとい子は好きだよ」
さぁて、お手並拝見といきますかね。あの子の実力、見せてもらうよ。そう思って二本目の焼酎直飲みしていた時だった。若い娘が障戸顔を出した。中性的な容姿の中で、唯一女であることを示す長い髪。ご隠居の愛娘。彼女は彼とあたしを交互に見比べて、怪訝そうな顔をした。
「父さん。.......と明昼?」
「どうもー、嬢ちゃん」
半分ほど飲み干した焼酎瓶をおき、にぃっと口角を上げる。すると彼女も朗らかな笑みで返してくれた。
「今お前の話をしていたんだ」
「え、本当?」
ご隠居が娘を指さすと、また怪訝そうな顔をした。でもその裏には不安の色が滲んでいる。「何かまずい事言われてないかな?」、「まだ未熟なんだよな.......」。目は口ほどに物を言う。この子、きっと嘘つくの下手だろうな。そこも含めて気に入ってるが。
「あぁ。あんたのことは認めてる。でも儀式はしない。まぁだ早すぎるね」
色季のお母さん、出てきませんが、実は結構ドジっ子。
走ると転ぶ、とにかく転ぶ。
宵闇も真っ青。頭蓋割れやしないかとヒヤヒヤです。
色季のちょっと繊細なところ。
親しい相手に嫌われたら怖いよね。それが自分より力の強いものなら尚のこと。




