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主人公戦記  作者: TKW
1章 一人と一機
2/2

軍事用兵士ロボット①


「起きろポン太ぁぁ!!!」


鳥のさえずりが聞こえるよりも早く大声で目が覚める。

勢いよく飛びあがり、頭に乗った藁を叩き落とす。

まだぼやけている目を擦りながら無理やり意識を覚醒させて扉を開くとそこには空になった酒瓶を片手に顔を真っ赤にした男が座っていた。


「いつまで休んでいるんだこのポンコツロボットめ!酒とつまみ買ってこいや!」


「承知いたしました」


彼はこの家の主人であり、ロボット市場と呼ばれる軍事用兵士ロボットを扱う専門店でボクを買ったご主人様だ。

買われたロボットは主人の言葉を断ることができないように設定されいる。

手慣れた手つきで机の上にある小銭を拾い、外に出る。

吹き抜ける風で薄目になりながら見慣れた風景に深呼吸する。

ここは浮遊都市ラグナロク。

総人口は1億人ほど。

街はかなり賑わっており、不安など1ミリも感じさせないほどの笑顔と花に満ちている幸せの街。

すれ違う人達はボクをみて少し距離をとるけどそんなことは気にせず酒屋を探す。

ボクはロボットだから。

近所の酒屋に到着し、いつもの酒を手に取る。


「おぉポン太。お前さんも返ってきたばっかりだろ。適度に休んでおきな」


「ご主人様が待っておりますので休むことはできません」


「あ、あぁ…そうかい。大変だねぇ。」


苦笑いする男に一礼し酒屋を後にする。

無駄な時間は避けないといけない。

ご主人様の命令は絶対なのだから。


ドンッ


突然の爆発音と共に楽器と歓声が同時に上がる。


「凱旋だー!ジーク様が返ってきたぞ!」


どこからか声が上がる。

誰が返ってきたんだろう。

不思議そうな顔をしていると酒屋の男が軽く肩を叩いた。


「ジーク・マグナード。若干20にしてこの国最強の剣王(ソードマスター)の称号を持つ天才だ!」


「はぁ…」


「しかもマグナードといえばかつてSランクだったゲートを攻略してこの浮遊都市ラグナロクを手に入れ  たって話よ!」


ふんっと誇らしげに語る男。

なぜ自分のことのようにうれしそうなんだ。

人混みの中央に目線を向けると、少しだけ騒ぎの主役が見えた。


ドンッ


ジーク返ってきたのか。


ドンッ


やけに花火の数が多いな。


ドンッ


「…あ」


これ花火じゃない。

中央通りにはぎっしりと建物が並んでいる。

()()()()が崩れかけていた。


「避けろ!」


「キャー」


歓声が悲鳴に変わったことで数人の兵隊も気が付き慌てて避難誘導を行うが、徐々に建物が傾いていく。

この位置では巻き込まれる。

硬直した酒屋の男の手を引き走り出す。

と、そこで目に入ってしまう。

凱旋の人混みで押し出されてしまった少女の姿を。


────だめだ。


心の中に声が響く。

これはボクの声か。


────このポンコツロボットめ。


ご主人様の声。

そうだボクは軍事用兵士ロボット。

すべての物事に優先順位をつけるようプログラミングされている。

あそこで座り込んだ少女を助けるのは危険(リスキー)だ。

今はこの男を助けるのが最優先。

まずは安全圏まで走って───


「───パパ、ママ、おいてかないで」


「…ッ!!」


「ちょっ、おい!どこに!」


気が付けば走り出していた。

まだ間に合う。

建物は倒れかけたままで、中の鉄筋が辛うじて繋がったままになっている。

数歩進んだところで体が止まった。

振り向くと酒屋の男がポン太腕を再び掴んでいる。


「今戻ったら死んじまうぞ!いや、()()ちまうぞ!」


「離してください。あなたは安全圏まで走るのです。」


「チッ、お前はほんとにポンコツだな!」


無理やり手を振りほどき、人混みに向かっていく。

なかなか進まない。

進めば戻されを繰り返す。


もう少し。


人混みが消えて、泣きながら座り込む少女の元にたどり着く。

足には打撲と擦り傷の跡が残っていて歩けそうにない。

背中を少女に向けてかがむ。


「背負うので乗ってください」


「えぅ、あ、あぢがど」


「良い子だ」


ゆっくりとまたがる少女。

あとは走るだけ。

背中にしっかりと体重を感じたのを確認し立ち上がろうとした瞬間。

あたり全体が暗くなった。


おいおいおい。

まじかよ。

顔を上げると先ほどまでギリギリ耐えていた鉄筋が切れて勢いよく建物の頭が落ちてきていた。

衝突まで約10秒。


躱しきれる?

間に合わない。


走って逃げる?

間に合わない。


いっそ少女を捨てて。

それでも間に合わない。

何度も頭の中でシミュレーションしてもこの状況を打破することができない。

5秒。

終わった。


でも、ひとつだけ間に合うことがある。

背負った少女を抱きかかえる。


「少し痛いかもしれませんが、命には代えられません。頭を守ってください」


しっかり頭を手で守らせ、少女を持ち上げる。

全身に力を込めて数メートル先の服屋に投げた。

投げてすぐ、服の山がモゾモゾと動き始めたのでうまく受け身が取れたのだろう。

1秒。

これでいい。

すぐに来る痛みを覚悟し、目を閉じる。

0秒。

瞬間、凄まじい衝撃で周囲の物を吹き飛ばした。













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