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戦国武将異世界転生冒険記  作者: 詩雪
第四・一章 ドルムンド防衛戦
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第95話 ドルムンド防衛戦Ⅱ

「よく見て感じておきなさい。これが戦場の空気です。学院に居ては到底学べません」


「はい、お母様」


「尋常ならざる敵です。これから大勢の死人、怪我人が出るでしょう。万が一母が死ぬ事になったとしても、目を背ける事はなりませんよ」


 この言葉には気丈に振舞う娘も反応に困り、言葉が出ない。


「あ…ぅ」


「ふふっ、少し脅し過ぎましたね。まだまだ貴方には教えることが沢山あります。こんな所では死にません」


「はい! ご帰還をお待ちしております!」


 そんなやり取りをしている母娘(ははこ)の元へやって来たのは、スウィンズウェル騎士団長のアスケリノ。


 そこで彼が目にしたのは、共に黄金色の髪を風になびかせ、街の外壁上から戦地を見渡す母娘の姿だった。


 昨晩の雨で濡れたままの草木が朝日を受けて光り、発生した朝霧は風に流され視界が徐々に明瞭になっていく。


 まるでこの二人の為に晴れゆく朝霧は、幕となって開戦を告げているのかのようだ。


 正に、戦場に降り立った気高き戦乙女(ヴァルキリー)の如く。


(まさかこの方と戦場を共にする日が来るとは…)

 

 アスケリノは見惚れそうになったが、パンッと顔を叩き母娘に声をかけた。


「こちらにおいででしたか、ティズウェル男爵夫人」


戦場(ここ)でその呼び方は止めてくださいと申したはずですよ? アスケリノ団長」


 背中越しに発せられる声に恐縮しながらも続けた。


「失礼いたしました。閣下よりお二人の安全を預かっておりますこの身の上をお察し下さい」


「貴方が成すべき事は他にあると思いますよ」


「確かに守るなどおこがましいのですが…それよりも、皆奥様に会いたがっております」


「私は騎士団員でも冒険者でもありません。一傭兵とお考え下さい」


「御冗談を。誰がそのように思えるでしょう。皆奥様と共に戦場にある事を光栄に思っております」


()れ物と思われぬよう精々頑張りましょう」


「我々の立つ瀬がございません…」


「ふふっ、これぐらいにしておきましょうか。軍議はどうなりましたか?」


「助かります。はい、昨晩すでに。各隊の初期配置はこのようになります」


 アスケリノは胸をなでおろす。この人と話すといつもこうして(いじ)められるのだ。


 吹き出る汗を拭い、戦場予定地を指差しながら各隊の配置を伝える。


 本陣 司令官ヒューブレスト旗下(きか)百人

 右翼 軍長ローベルト 騎士団一・二番混成部隊 千九百人

 中央軍 軍長フィオレ 騎士団三~五番混成部隊 三千人 一般兵五千人

 左翼 軍長アスケリノ 騎士団三~五番混成部隊 千五百人 一般兵三千人


「妥当だと思いますよ。右翼と魔人兵(ゾンビ)の戦況次第で、中央から送れるよう厚くしているのですね」


「はい。右翼が相対する魔人兵が全て強軍だった場合、中央と左翼は即座に増援を送り、自陣の数的不利も辞さない構えです。冒険者パーティー三組には独立遊軍として自由に動いて頂き、獣人隊の十名は右翼に入るとの事です」


(正確な数は分かりませんが、数百体の強い魔力を感じる)

「…恐らく冒険者達は右翼に行く羽目になると思いますが」


 ポツリとつぶやいたティズウェル男爵夫人の言葉はアスケリノには届かない。


 最高戦力である騎士団の一、二番隊をぶつけるのだ、これ以上は望めない。余計な不安を(あお)る必要もないし、司令官のヒューブレストも分かっているだろう。


「私は本陣で控えます」


「左様でありますか。正直、右翼に入ると仰ると思っていたので、お止めする必要がなくなって安心致しました」


「娘は後方の回復部隊に入れてやって下さい。戦場は初めてですが、治癒術師(ヒーラー)としては十分に役に立つはずです」


 娘の顔を見ながら母は力強く宣言する。


「必ずや!」


 これより、母娘ではなく所属する隊は違えど上官と部下になる。


「何と力強いお言葉。日々のご鍛練の成果、遺憾なく発揮されますよう願っております。では、お嬢様には私の隊からサポートとして一名つけさせて頂きましょう」


「お願い」


「はっ。参りましょうお嬢様」


「はい。…お母様! ご武運を!」


 娘の後押しに母は笑顔で剣を持ち、胸に当てた。



 ◇



 ゴゴゴゴゴゴ―――



 馬蹄(ばてい)が地を蹴る音、武器鎧の(こす)れる音が合わさり、ドルムンドの街は、まるで雷雲が迫るかのような重音に包まれていた。


 街を背に帝国騎士団は横陣展開。中央が大きく膨らむ(いびつ)な陣形だが、対するジオルディーネ軍も左翼に出張っている四つの檻を引く隊があるのみで、人間の兵は中央と右翼に集中していた。


 司令官のヒューブレストと三人の軍長は(くつわ)を並べ、両軍の布陣が終わる瞬間を待っている。


「中央と右翼に六千ずつか。予想通りだな」


「ああ。魔人兵に戦術を行使する知能はない。ただ戦場を荒らす魔物と考えれば、さほど全体で警戒する必要はないと俺は見る」


「同感です。敵中央は左翼の檻から離れて布陣しています。戦力としては使えるが、戦術としては使い物にならないと、敵自ら言っているようなものですね」


「ジャック殿、右翼が崩れたらゾンビ共は中央ではなく、街になだれ込むんだな?」


 右翼軍長のローベルトが、同じく右翼部隊として戦う獣人ジャックに問う。


「ええ、その可能性が高いでしょう。魔人兵は敵司令官が指示した獲物にまずは飛びつきます。例えば『獲物は目の前だ』と叫んだ対象です。万が一抜かれれば有無を言わさず街に向かうはずです。『味方の助勢に』なんて知能はありませんから、真っ直ぐに走り出すでしょう」


 軍議において、魔人兵を引き連れて敵味方を襲わせ、大乱戦に持ち込むという大胆な作戦も出たが、あまりに損耗のリスクが高いという事で棄却された経緯がある。


 最終的に、魔人兵には(ラクリ)の日に亜人軍が採った、個の力でぶつかるという事をせず、組織力で当たり、中央、左翼とは完全に独立した戦いに持ち込むことが決まった。


「つくづく魔物だな…街に張り付かれるのは厄介だ。何が何でも止めねばなるまい」


「奴らは撤退を知りません。我らの選択肢は一つ、殲滅あるのみ」


 ジャックの言葉に、ヒューブレストと三人の軍長の手綱を持つ手が引き締まる。人間相手しか戦争をしたことが無いのだ。当然殲滅戦など経験した事が無い。


 軍と軍の衝突は、大勢が決まった段階で勝負は決する。不利な方は見切りをつけ、自軍の被害を抑えるためにさっさと退却するのが通常である。全滅するまで戦うなどまず無いと言っていい。


 殲滅戦となると、右翼は力だけでなく精神力も試されるという、過酷な戦場となる事がこれではっきりしたと言うもの。


「少しでも戦況不利と判断すれば即座に増員する。頼んだぞローベルト殿、ジャック殿」


「騎士団一、二番隊の力を信じるのみだ」


魔人兵(やつら)はルイ様の仇。獣人(われわれ)の命に代えて殲滅します」


 戦場に目を向けたまま、ヒューブレストに力強く宣言するローベルトとジャック。ヒューブレストは続いてアスケリノに言葉を投げた。


「右翼の戦況次第では左翼に援軍は送れん。アスケリノ殿、数的に不利だが貴殿と帝国騎士の力をもってすれば、敵右翼を突破できるだろう。その後、作戦通り中央との挟撃を狙ってもらいたい」


「お任せを。帝国騎士団と帝国兵の強さ、存分に振るってご覧に入れましょう」


「フィオレ殿の中央軍は、両翼の支柱だ。岩の如く構えよう」


「ええ、軍議通りに。数でもこちらが勝っている訳ですから、遠慮なく援軍にやって下さい。寡兵でも食い破って見せますよ」


「心強い。…では各々方、武運を祈る」


 ヒューブレスト、ローベルト、フィオレ、アスケリノの四名が剣を重ねる。



 ―――帝国に勝利を!



 両軍配置につき、全隊停止。


 ドルムンド防衛戦が幕を開ける。



 ◇



 相対した両軍。

 口火を切るのは侵略者、ジオルディーネ軍である。


「我らが王の覇道を阻む、愚かな帝国兵とドルムンドの民に告げる! 獣人国の様になりたくなければ即刻兵を引き、ドルムンドを明け渡せ! さもなくば貴殿らに血の雨が降り注ぐであろう!」


 これに応えるは中央軍軍長フィオレ。


「我ら帝国とドルムンドの民はいかなる敵にも屈さぬ! 恐れを知らぬ愚かな蛮兵ども、貴殿らに我らを抜く事は(かな)わぬ! 身をもって思い知るがいい!」


「愚かな選択をした帝国に思い知らせてやれ! 右翼突撃!」


 ジオルディーネ軍の右翼部隊が帝国軍の左翼めがけて突撃を開始。それを見て司令官のヒューブレストが即座に反応した。


「開戦の狼煙を上げるのは、地人(ドワーフ)の民だ!」


 右手を上げ、左に振り下ろしたヒューブレストの動作を見て、街の防壁で構えていた地人(ドワーフ)の長、ワジル率いる援護部隊が動き出す。


「きおったぞぉ皆の衆! 地人(ドワーフ)の力思い知らせてくれるわぃ! 大型弩砲(バリスタ)隊、煉獄投石機(トレビュシェット)隊、ワラワラ動いとる左にぶち込んでやれぃ!」


 おおーっ!


「まだまだぁ! 真ん中(中央軍)の敵にゃアレをぶちかませぃ!」


 盛り上がったワジルは、ヒューブレストの指示に無い攻撃をやらかそうとしていた。


 無理もない。作ってから初めて使ってもらえる兵器(こども)達の気持ちを考えると、生みの親たる者、使ってやるのが親心というもの。


(おさ)ぁ! アレは一発大金貨五枚だぜ!? いいのかい!?」


「今使わんでいつ使うんじゃ! 混戦になっちまったらもう撃てんからの! ケチケチするんじゃないわい!」


「そう来なくっちゃな! せっかくの弾が湿気っちまうぜ!」


「火薬なんぞと一緒にするんじゃないわぃ! 魔力長砲(マナ・カノン)全砲撃てぃ!」


 街の外壁に備えられた、人間には到底造り得ない大型兵器達が次々と火を噴く。


 ドドドドドド ドゴァァ ズドドドドド!


「うわぁぁぁ!」

「なんだ! 何が飛んできてる!?」

「魔法じゃないぞ! でかい鉄の矢だ!」

「ぎゃぁぁぁ!」

「この石爆発するぞ!」


 見たことのない兵器から放たれる雨のような攻撃に、ジオルディーネ軍右翼は大混乱に陥る。


 方や、魔力長砲(マナ・カノン)によって砲弾を多数撃ち込まれた敵中央軍は、遠くから思いの外ゆっくりと向かってくる砲弾を撃ち落とすべく、魔法による遠距離狙撃態勢に入った。


「魔法師隊、あんなもの撃ち落としてしまえ! ―――放てぇ!」


 ジオルディーネ中央軍魔法師隊から放たれた数多の遠距離魔法が、自軍上空に舞い上がった。


阿呆(あほう)め。一番やってはならん事しよったわい。()()魔法弾じゃぞ。かっかっか!」


 偶然か、それとも狙い通りか。この地人(ドワーフ)の長ワジルは戦争の緊張感もどこ吹く風。自慢の兵器(こども)達の晴れ舞台に高らかに笑った。


 遠距離魔法は全て魔法弾に命中。上空で弾け飛んだ。


 ドゴン!ドゴン!ドゴン!ドゴン!ドゴン!


 その瞬間、遠距離狙撃を命じた中央軍を率いる軍長は、信じられない光景を目の当たりにする。


「さっ…散開! 散開しろ! 降ってくるぞぉー!」


 バラバラに砕けたと思った矢先、鉄球の破片一つ一つが突如火の玉に形を変え、自軍全体に襲い掛かったのである。


 ドドドドドドドドドド!


 火球魔法(イグ・スフィア)と同等の威力、はたまたそれ以上の火球が上空全体から降り注ぎ、ジオルディーネ軍中央部隊は開幕早々あり得ないほどの被害を被った。


「さすが(おさ)でぃ。敵が撃ち落とすのを見込んでたんですな! これなら大金貨数百枚も浮かばれるってもんでさ!」


「当り前じゃ! かっかっか!」


 …敵が馬鹿でよかったわぃ!



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