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戦国武将異世界転生冒険記  作者: 詩雪
第四章 エーデルタクト編
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第88話 風人の姫と少年戦士

 アイレの傷の手当をしながら、彼女はこれまでの経緯を話してくれた。


 風人(エルフ)の戦士を率いて(ラクリ)の日を戦った事。

 自分以外の戦場に出た風人(エルフ)の戦士は皆死んだ事。

 エーデルタクトがジオルディーネ軍と魔人による風人(エルフ)狩りに遭い、大勢の風人(エルフ)が殺され、連れ去られた事。

 そして逃げ延びた自分は、生き残りを探して方々を駆け回っている事。


「今日は採取と狩りの途中で運悪く敵に見つかっちゃったってわけ。今拠点にしてる野営で戦えるのは、私ともう一人だけだから」


「なるほど。もう一人は野営の守りで、アイレが調達に出ていたのか…っと」


 キュッと頭の包帯を締める。


「痛い! もうちょっと優しくしなさいよ!」


「…それだけ元気なら傷も早く治るだろ」


 気の強い娘だ。さっきあれ程泣いていたくせに…とは言えない。


 折れた腕にはアリアから貰ったストールを巻いてある。今までミコトに使った一度しか使用してないから、まだ治癒魔法(ヒール)の効果は有るだろう。他の負傷は多少時間はかかるが、傷薬で十分治せる。


「それで、私を助けてくれたって言うこの子は一体何? さっきからずっとこっち見てるんだけど…」


 一応マーナにも聞いておこう。クリスさんが(あるじ)だしな。


「君の事をアイレに話してもいいのか?」

『わふわふ《 ダメなの? 》』


 こっちが聞いてるんだがな…


 まぁ、アイレなら何の問題も無い…はずだ。


「この子は聖獣マーナガルム、聖王狼っていうらしい。マーナって呼んでやってくれ。訳あって共に行動してるんだが、俺とは普通に会話ができるし、君の言葉も普通に理解してるから、下手な事は言わないでくれよ」


「うそっ、聖獣!? …なら言葉も話せるか。さっきのは独り言じゃなかったのね。でも、なんであんたは会話できるのよ」


「知らん。マーナの本来の主曰く、俺には獣従師(テイマー)の素質があるらしい」


 はたから見れば、完全に独り言のように聞こえただろうな。気を付けよう。


「ふーん、獣従師(テイマー)ねぇ。冒険者の職ってやつね? 魔獣を仲間に出来る人を、里の伝承では『魔を従えし者』って言うらしいけど、それと同じかしら」


「大げさ過ぎる。『仲良くなれる者』辺りで手を打とう」


「威厳が崩壊したわ。伝承なんだから諦めなさい。それにしても聖王狼かぁ…言われてみればカーバンクルに似てる気がしてきた」


 その言葉に、不覚にも興奮した。


「げ、幻獣を見た事があるのか!?」


「な、なによ急に…樹人国(ピクリア)には三体の幻獣がいてね。中でもカーバンクルは人懐っこいから、私が樹人(ドリアード)の知り合いに会いに行く時に、たまに見かけたりすると寄ってくるわよ」


「おお…幻獣に好かれるとは、やるなアイレ。見直したぞ!」


「そっちの方が大げさ。まぁ、樹人(ドリアード)と関わる機会の無い人間は一生見る事は無いかもね。でも覚えておいて。ピクリアに長居は禁物よ。出来るだけ入らない方がいいし、ヴリトラに見つかったら人間は即、殺されるわ」


「幻王竜ヴリトラか…確かに竜種は強い。黒王竜の赤子に一度挑んだが、死にかけた。成竜なら生きて帰れなかっただろう。肝に銘じておく」


「はぁ!? 黒王竜に挑んだ!? 馬鹿じゃないの!? 子供でも人が(かな)う相手じゃない! …まぁ魔人をあっけなく倒しちゃうくらいだし? そのあたりの感覚は私とは違うのかも知れないけど…」


「あれは仕方がなかったんだ」


「何があったのよ…と、とにかく! よろしくねマーナ。あと、助けてくれてありがとう。貴方は命の恩人よ」


『わぉん!( 遊んで!)』


「礼はいいから、遊んでくれだとさ」


「お安過ぎる御用よ―――」


 …――――


「もう休んだ方がいい。明日、君の体調を見てから動く。言っとくが無理は禁物だからな」


 そういって俺は立ち上がり、収納魔法(スクエアガーデン)から防寒具一式を取り出してアイレに渡してやる。


「…わかった。お言葉に甘えるわ。それにしても便利な魔法よね」


収納魔法(これ)が無ければ家を担いで旅をする羽目になる。世界最高の魔法だ」


「ふふっ、違いないわ」


 ◇


 翌朝。


「おはようジン、マーナ。見張りありがとう」


「ああ、おはよう」

『うぉん《 おっはよー 》』


「あれ? これって…」

「夜の内に見つけておいた。空っぽの鞘じゃ心許ないだろう」


 アイレのすぐ側に、細剣(レイピア)が立て掛けられている。


 昨晩俺が見つけておいたものだ。


 鞘の形状からしてアイレは細剣(レイピア)使いである事は分かるし、彼女が戦った跡も円形に木がなぎ倒されていたので、落とした場所も想像に難くない。案の定簡単に見つけることが出来た。


「ありがとう…」


 大事そうに剣を抱きかかえる。そうだよな、剣士たるもの剣は大事な相棒だ。


「見事な細剣(レイピア)だ。普通の細剣よりも太く、とても力強い。アイレも相当な使い手だな」


 『魔人に勝てないけどね』と苦笑いしながら言う。


細剣(これ)はドルムンドの地人(ドワーフ)に打ってもらったシリウス鉱の剣よ。刺突だけじゃなくて、斬撃にも調和するように特別に作ってもらったの」


「なるほど。どうりであまり見ない形状だと思った。地人(ドワーフ)とはやはり凄いものだな」


 その後軽く食事をしながら、アイレの怪我の様子と相談し、全快とは言わないまでも、十分に動けるところまで回復したとの事なので動くことにした。


 アイレに案内され、まずは風人(エルフ)の野営地へ無事を知らせに行く。森をかき分け、木を伝い、道なき道を進む。


「そういえば、ドルムンドへ逃げようとは思わなかったのか?」


「初めはそうしようと思って皆で向かったわ。でも、あんまり兵隊が集まって来るもんだから諦めたのよ。包囲されてるんじゃないかってくらい。穴が無いわけじゃないと思う。けど、私一人ならまだしも、皆を守りながらってのは難しいわ」


「そうか…」


 会話をしながらも、その駆けるスピードは速い。さすが風使いと思わせる身軽さだ。俺も風魔法使いとしてやって来てはいるが、アイレの洗練さには遠く及ばないだろう。


 しばらく進んでいくと、探知魔法(サーチ)に複数の魔力反応が掛かった。数的にも風人(エルフ)の野営地だろう。だが、なんとなく魔力反応の動きが慌ただしい。ある一点の魔力反応を中心に、そこから逃げているような…


 即座に遠視魔法(ディヴィジョン)に切り替えると、その魔力反応は見たことの無い、魔獣もしくは魔物の大きな反応だった。


「アイレ! この先に風人(エルフ)以外の大きな魔力反応がある!」

「なんですって!? この先は野営地が…まさか!」

「恐らく襲われている! 急ぐぞ!」

「ええ!」


 速度を上げ、風の様に突き進む。


 徐々に悲鳴が聞こえ始め、逃げ惑う風人(エルフ)の老人や子供とすれ違い始めた。アイレを見た風人(エルフ)達は一様に驚きつつ、喜びの言葉を発している。


「ひ、姫様! よくぞご無事で!」

「話はあと! 早く逃げなさいっ!」

「は、はいっ!」


 開けた野営地に到着すると、あちこちで倒れている者がおり、一人の風人(エルフ)の少年戦士が、果敢にも空飛ぶ魔獣と交戦していた。



「うぉぉぉぉ! 寒いんだよコンチクショー!」


 空飛ぶ魔獣の口から猛烈な冷気が吐き出され、少年を襲う。だが、風を吹かせギリギリその威力を弱めて戦闘を続けている。避けずに受け止めているのは、仲間に被害が及ばないようにする為だろう。


 手に持った二本の短剣(ダガー)で隙を見ては斬り掛かっているが、体勢が悪く、あまりダメージは入っていない。


「くそっ! みんな早くにげろ!」


 少年の覚悟は、駆けつけたアイレとジンに届いた。


「エト!」

「アイレ様! ご無事でよかった! コイツ空からいきなり来て!」

「さっさと倒すわよ! ジン! こいつはブリザードホークって―――熱っ!」


 俺は既に攻撃準備に入っている。巨大な火の玉を頭上に掲げ、少年戦士に指示を飛ばす。


「よくぞ一人で皆を守った少年! そいつからいったん離れてすぐ追撃準備だ!」


「はっ!? 誰!? 人間!?」

「早く離れなさい! 灰になるわよ!」

「わわわわわ!」


 危機を察知したブリザードホークは(いなな)き、ジンに向かって冷気を吐き出した。


『グエェェェェェ!』



「―――大火球魔法(ノーブル・スフィア)!」



 ドオォォォォン!



『グ…グガ…』


「落ち無いか。―――地の隆起(グランドジャット)!」


 大火球を食らい黒焦げになりながらも、今だ飛行能力を失わないブリザードホークへ、止めを刺すのは風人(エルフ)の戦士二人の役目だ。


「足場にしろ!」


 アイレとエトはタタンと土壁を駆け上がり、渾身の力でブリザードホークに斬りかかった。


「はっ!」

「だりゃあ!」


 ズバン!

 ドシュッ!


『グウゥゥゥ……』


 ズゥン――――


 深々と斬られた魔獣は力なく地に落ちた。


 倒した事を確認するため、魔力反応を視る。


「倒したな。アイレ、怪我人の治療を。俺は信用されていない。君らでやってくれ」


 収納魔法スクエアガーデンから傷薬を取り出してアイレに手渡す。恐らく逃亡生活で物資は乏しいだろう。こういう時の為に、傷薬は山の様に買い込んであった。


「あ…うん」


 アイレは傷薬を受け取り、怪我の無い者に配りつつ自らも介抱に回った。


「さて、今日は鶏肉だ」


 さっそくブリザードホークを捌くため、採取用の短剣では刃が通りそうにないので、舶刀を抜き獲物に近づく。側に居たマーナはブリザードホークの死骸に乗っかり、『おいしいの? これ』といって前足でバシバシ叩いている。


 俺が淡々と作業する傍ら、理解が追いつかない様子で逃げ惑っていた風人(エルフ)達が集まり、遠巻きにこちらを見ている。


 一通り治療が終わったのか、そんなジンを見てアイレは呆れたように声を掛けた。


「さすが冒険者と言っていいのかしら。戦闘後の余韻とかないわけ?」


「なんだそれは。俺は無傷だし、皆の食料の方が遥かに大事だな。早く血抜きして内臓を取り除かないと、肉の味が落ちてしまう」


 ごく自然に会話する二人を見て、風人(エルフ)の少年戦士エトが、アイレとジンの間に割って入り、怒気を放った。


「何者だお前!」



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