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戦国武将異世界転生冒険記  作者: 詩雪
第三章 帝国西部・刀編
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第83話 夜桜

 ミトレス行きの依頼を正式に受けた三日後。


 街で大量の買い物を済ませ夕方宿へ戻ると、ウォルター工房からの伝言が届いていた。


(来たかっ!)


 俺は思わず声を上げてしまいそうになるのをぐっと堪え、部屋で休んでいたレオ達に声を掛けた。


「ウォルターさんはいいのかな? 俺達が行っても」

「構わないだろうさ。皆を紹介したいってのもあるしな」

「あたしカミラさんに会いたーい!」


 そんなこんなで五人でウォルター工房に向かった。


 工房入口の滑らかすぎるドアを開けると、俺だとすぐに気付いたグリンデルさんとカミラさんが声を上げた。


「ジン君いらっしゃい! お連れさんもいらっしゃい!」

「来やがったな! 入れ入れ! お、今日は仲間も一緒か?」


「こんばんはカミラさん、グリンデルさん。伝言を頂いて仲間も誘いました。皆さんに仲間を紹介しておきたくて。近い将来こちらでお世話になると思いますから」


 後ろから『おいおいっ!』という声がかすかに聞こえたが気にしない。彼らは今街一番、いや、帝国随一の鍛冶職人三人を目の前にして恐縮している。


 それも仕方が無い。エンガス工房もジーグ工房も周辺に名の知れた工房らしいし、グリンデルさん、カルマン(エンガス)さん、トヴァシ(ジーグ)さんらは、歴戦の猛者のような風格も相まって見た目の迫力も凄いからな。


 とにかく四人は自己紹介し、それを交えながら雑談に入る。ミコトとオルガナはカミラさんに会えたことが特に嬉しかったようで、どうやったらあんなに可愛い細工が出来るのだとか、装飾品に付与する魔法効果の種類などをあれこれ聞いている。


「俺ら三人揃って五日程寝込んじまったぜ! ぶぁっはっは!」


「途中お邪魔したりして分かってはいましたが、やはり大変な工程だったようですね…」


 俺が謝ろうとすると彼らは同時に首を横に振る。


「疲れなんざ、仕上がったモン一目見りゃ全部忘れらぁな」


「ああ。ジンとグリンデルには感謝してもしきれねぇ。よくぞ声を掛けてくれた」


「さぁ勿体ぶるのはこれぐらいにして納めてくれ。俺達の最高傑作だ」


 そう言って、グリンデルさんが奥の工房から布に覆われた刀掛(かたなが)けを持って台の上に置く。


 皆が注目する中、俺は掛けられた布に手を伸ばし、勢いよく布を取り払った。



 バサッ――――


 

 目の前に、見事な拵えで仕上げられた念願の刀が現れた。


 スッと手を伸ばし右手で(つか)を、左手で鞘尻(さやじり)を持ち、胸の高さまで持ち上げてゴクリと唾をのんだ。


 不純物を取り除き、何枚も重ねて圧縮された竜の鱗の影響だろうか、前世で持っていた玉鋼の刀より重い。


 だが、俺の第一声はその事ではなかった。



「う、美しい…」



 まずはこの一言に尽きるだろう。


 姿に見惚れていると、最初に口を開いたのはカミラさん。


「じゃあ、最初はあたしね! まず(さや)の素体はジン君の要望通り、黒王竜(ティアマット)の鱗で出来てるよ。はっきり言って鞘だけでも十分な武器になる強度ね。(つや)消しと滑り止めの為に、鞘の(つか)()()にコランダム鉱を砂状にして塗ってから、表面全体に竜の翼が折り重なってる心象(イメージ)の模様を彫らせてもらったわ。ジン君はあんまり派手なの好きじゃないでしょう?」


「ええ、仰る通りです…私には勿体ほどの造形(デザイン)です」


 コランダム鉱は高い硬度とその加工のしやすさから、武具全般で人気の鉱石である。砂状にする事によって、コランダム鉱独特の深い緑色の発色は見られず、光の角度で白や銀に反射し、彫られた翼の黒い模様が浮かび上がるという見事な意匠(いしょう)だ。


 その後もカミラさんこだわりの説明は続く。


(つば)も要望通りの籠目紋(かごめもん)(六芒星、ヘキサグラム)ね。素材はこないだジン君に教えたアヴィオール鉱よ。魔力との相性は抜群だし硬度も申し分ないわ」


 アヴィオール鉱は今俺が着ている上下服と同じ素材。


 三ヶ月ほど前にジェンキンス総合商店お抱えの職人が作ってくれた物だ。この服を着るようになってから、特に戦闘時の動きがかなり良くなった。破損や汚れを気にしなくていいのも大きい。


 服の感性(センス)は鈍い方でこだわりは無いが、レオ達にはかなり好評だったようで、『金を払うからそこに頼んで俺達の分も作ってくれ』と頼まれた程だ。


柄下地(つかしたじ)は木刀にも使ってあるハビロで、刀身に合わせて色染めしてあるわ。柄巻(つかまき)(つば)と同じアヴィオール鉱糸で編んでるから、余程の事が無い限り編み直す必要は無いよ。編み方はそうねぇ…前例が無かったから高低差を意識して、とにかく滑りにくくなるように。後はあたしの直感です! 以上!」


 Vサインを決め、『にっしっし』といたずらっぽく笑うカミラさん。文句無しの仕上がりに釣られて笑った。


 柄下地(つかしたじ)に馴染みのあるハビロを使ってくれたのは有難い。木刀で慣れているし、何より硬さは身をもって知っている。こういう何気ない部分で使い手の事を考えられるカミラさんは、やはり職人として優れているのだと思う。


 柄巻きも持った瞬間に分かる手の馴染みようで、前世でいう所の摘巻(つかみまき)に近い編み方だった。糸自体も星刻石の色に近づけたのか青黒く染められていて、派手さは無いが網目の意匠は流石と言う他ない。


「あと刀を差すベルト。言われてなかったけど、絶対いるよね? こーゆーの。ジン君に貰ったお金多すぎだったからついでに作っといたよ。暁大蛇(ティタノボア)の皮を(なめ)したやつだから、軽くて丈夫よ。良かったら使ってね♪」


 今更ながら完全に想定外だった。前世と違って、刀を差す腰帯(こしおび)など着用していない。


 右腰から左腰にかけて徐々に細く、薄く仕上げられてある。左腰に刀を差した時にズレにくい仕様になっている様で、このベルトも使い手に対するカミラさんの心遣いが止まらない。


 初見でこんなものをついでに作るとは…天才だなこの人。


「ありがとうございます! 危うく(かつ)ぐ羽目になる所でした。 (こしらえ)も感動しましたし、カミラさんにお願いして本当に良かったです!」


「こちらこそ! 初めての事ばっかりだったけど、あたしもこの仕事で成長できたと思ってるわ。何か変えて欲しい所あったら言ってね。ジン君ならいつでも歓迎よ」


 俺とカミラさんの様子をグリンデルさんは満足そうに見つめていた。娘の成長と、俺が満足のいく仕事が出来た事が嬉しいようだ。


 そして、俺の方に向き直り言葉を発する。


「俺らの番だ。抜いてみてくれ」


 無言で頷き、ゆっくりと刀身を抜き放った。



 シュィィィィン―――



 刀身の、鞘を滑る音が薄暗い工房内に響く。



 言葉が出てこない。



 刃先から(むね)にかけて深青(しんせい)から漆黒に変わっていく階調(グラデーション)の中に、所々に薄赤いほのかな光を湛える魔力核。


 刀身を横にして刃先を天に向けると、まるで―――


 拵えと同様に刀身に見入る俺に、刀匠三人がそれぞれ言葉を繋いでゆく。


 刃  星刻石

 刀身 黒王竜の鱗

 全長 三尺四寸九分(106cm)

 刃長 二尺四寸四分(74.2cm)

 先反り 四分(1.2cm)

 両刃の大切先 一寸六分(5cm)


「こいつと()で打ち合えるのは宝剣ぐれぇだろうな」

「ああ。何をどんなにぶった切っても、刃こぼれ(ゆが)みはあり得ねぇ」

「素材、造りにおいては最高峰の武器だ。あとは使い手次第だな」


 刀を持つ手が震える。


「この刀に相応しい人間にならなければなりませんね…」


 少しその場を離れ、呼吸を整えてから振ってみると、軌道に合わせて刀自身が勝手に進むかのような感覚に陥る。どういうことかと戸惑っていると、グリンデルさんが説明してくれた。


「勝手に進んじまうんだろ?」


「え、ええ…戸惑っています」


「それは黒王竜の鱗のお陰だ。前に竜の鱗は元々細かい毛の集まりだと少し話したのを覚えてるか?」


「はい、伺いました」


「鱗の元になってる毛は一方向に生えそろってんだ。竜が飛ぶ時に、風の抵抗を受け流して推進力に変えるためにな。だから鱗を武器に変える際には、毛並みを揃えてやりゃ勝手に前に進む。言い換えりゃ少ない力で武器を振れるって事だ」


「なるほど。そういう事でしたか…理屈が分かればどうという事はありませんね。少し強化して振ってみます」


 再度呼吸を整え左上段に構える。続けて刀を含めて全身を強化した瞬間、魔力核の光が強くなった。


 左袈裟、切り上げ、続けざまに右袈裟に振り下ろし、残心のまま腰を落として納刀。最後に横一閃の抜刀術を繰り出す。


 シュオン!


 竜の鱗が空を斬る音が鳴り、魔力核の光の残像が薄暗い工房に複数の光の線となって揺らめいた。遅れて皆の前髪がフワリとなびく。


 突如現れた幻想的な光景に、その場にいる全員がそれぞれ感嘆の声を上げた。


「すっげぇ」

「これが刀ってやつか! 剣と全然違うな!」

「綺麗…」

「ほえぇぇ…」

「わぁ…」

「これでご先祖にも胸張れるってもんだ」

「いけそうだな」


「ああ…斬れねぇモンはねぇ」


 静かに納刀し、作刀に関わった四人向かって深々と頭を下げた。


「グリンデルさん、カルマンさん、トヴァシさん、カミラさん。これほどの物を作って頂き、本当にありがとうございます。今後百年、千年と続く名刀となる事は間違いありません。最初の所有者として、恥じぬよう精進いたします!」


 その後、もっと見せてくれとせがむレオ達に刀を見せながら、肩の荷が下りた職人四人も交えて酒盛りが始まった。


 俺が帝都から持ち込んだ清酒を振る舞うと、地人(ドワーフ)の四人は大喜びして、うまいうまいと次々に瓶を開け、すべて飲み干されてしまった。


 飲み干したお詫びにと、棚の奥に眠っていたドルムンド特産の冬炎酒(とうえんざけ)という、とんでもなく辛い酒を振る舞われた。とてもじゃないが人間が飲めるものではない。


 このままでは全員が酔いつぶれてしまうと思ったので、そうなる前にここにいる八人に改めて今後の事について話しておく事にした。


「皆さん、俺は明日ミトレスへ発ちます。この街で刀の活躍をお見せ出来ないのは心残りですが…」


「はっ、何気にしてんだ。冒険者はそれでいい!」

「そうだぞ。ここまで名声を轟かせてみやがれ!」

「やってやれジン! 間違っても俺達の為にドルムンドをどうこうしようなんざ思うんじゃねぇぞ!」

「そうだよジン君。あたし達地人(ドワーフ)はそんなヤワじゃないからね!」


「流石です。ですが、この刀に誓ってミトレスの民を精一杯救って見せます」


「ぶぁっはっは! それじゃあついでに頼むとしようか!」

「仕事と酒がありゃ国なんざどうでもいいわ!」

「ああそうだ! 生きてりゃそれでいい!」

「あたしらよりドルムンドのじっちゃんばっちゃんの方がよっぽど強いわ」


 祖国が戦時中なのにも関わらず、カミラさんまでもがカラカラと笑い、全く悲観していない。俺は救われたような気持ちになり、笑いがこみ上げてくる。



 ああ、この人達に出会えて本当に良かったな…



「で、その刀はお前さんの専用武器だ。(ごう)(名)を付けてやったらどうだ?」


 グリンデルさんの一言で場が一気に盛り上がる。


「おーっ、いいねぇ!」

「聞かせてくれ!」

「ジン君一世一代の瞬間よ!」

「ハイパーウルトラ燃えるファイティング闇ソードってどうだ!?」

「クソなげぇクソだせぇ。血飛沫暗黒丸。これしかないだろ」

「明日からあんたらをそう呼んであげるわ」

「二人ともセンス終わってるね~」


 とんでもない圧力を掛けてくる面々に苦笑いしつつ、素直に考える。


 そして、刀身を見て最初に思った事を口にした。



 刀身は天文薄明(てんもんはくめい)


 淡い光は桜桃梅(おうとうばい)

 


 名は―――――― 夜桜(ヤオウ)




◇ ◇ ◇ ◇




 翌日。


 ギルドへ出発の報告をして、レオ達に街の出口まで送ってもらい別れを告げる。


「みんな、息災で」


 五人で円を組み、彼らは涙を拭いながら拳を合わせる。



 ―――いつかまた会おう!



 ザッと背を向けて歩き出す俺の背に、涙声が掛かる。



「ジンっ…!」



 名を呼んで駆け寄って来たのはミコト。


 俺の振り向きざまに抱きつくや、その柔らかな唇を俺のそれにそっと重ねた。


 一瞬の出来事に、情けなくも俺の時が止まる。


 スッと離れ、彼女はうつむき加減に頬を赤らめて、心の内を叫んだ。



「出逢った時から、大好きでした!」



 止まった時を進め、この言葉に応えなければならない。



「―――ありがとう」



「…でも、過去形なのか?」


「そうじゃないと…行けないでしょ?」


「あー…その、なんだ…ミコト。これを君に」


 収納魔法(スクエアガーデン)から舶刀一本を取り出し、笑顔でミコトに手渡した。


「これまで俺の命を支えてきた物だ。使って欲しい。いつかまた会う日に返し――――」


「返さないよっ! 次会ったらもう一本も貰っちゃうからね!」


 受け取った舶刀を両腕で抱えながら、身を翻してレオ達の元へ駆け戻ってゆく。


 呆気に取られ、遠ざかるその背中を目で追った。


 ふと立ち止まって振り向きざまに舌を出し、目に涙を溜めながらいたずらっぽく笑う勝気な彼女を、とても愛しく思った。


 ◇


「死ねない理由が増えたなぁ…」


 道中、あごを揉みながら俺はつぶやいた。


 勇気を出して好意を伝えてくれたミコト。


 そんな彼女の気遣いに付け込み、返答ではなく感謝とモノで返すという選択をした俺。


 歩きながら、あまりにもクソったれな自分を再認識し頭を抱える。


「これは神罰が下っても文句は言えんな」


 いや、ミコトの事は嫌いじゃないし、むしろ明るく快活な彼女の事は好ましくは思う。性格の面でも、感情をあまり表に出したくない俺と違い、彼女は喜怒哀楽がはっきりしていて、逆に俺との相性は良いのかもしれない。


 そして、こんな風にぐちぐち考え込む俺を一言で吹き飛ばす器量も持っていると思う。


《 ジン、大丈夫? 》

 

 どこからともなく現れたマーナは、心配そうに俺の横でふわふわと浮いていた。


「あ、ああ…すまない、心配かけたか。何でもないよ」


 笑顔で取り繕う俺の顔をじっと見つめ、マーナは一言。


《 う○こだね! 》


「うわーっ! やめてくれぇっ、心を読むな! やはり見ていたんだなっ!?」


 表情は読み取れないが、間違いなく今マーナから嘲笑(ちょうしょう)を受けている。


「俺はやはり…そうなのか?」


 同じ人間に言われるより、どちらかと言えば信心深い俺にとって、神に連なる存在であろう聖獣の一言は重すぎた。


 俺の頭の上でクルリと回転し、狼の姿に変わったマーナの神託、いや、聖託はこうだ。



《 うんっ! 》



天文薄明てんもんはくめい

「空の明るさが星明かりより明るい」状態で、日の出前・日の入り後1時間30分程度です。


次回挿話を挟み、第5章に入ります。


今後ともよろしくお願いいたします。

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[一言] 無自覚鈍感系ハーレム… もうこの時点で読む気失せた。
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