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戦国武将異世界転生冒険記  作者: 詩雪
第三章 帝国西部・刀編
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第78話 聖獣マーナガルム

 ウォルター工房に作刀依頼を出してから四ヶ月が経ったある日、ドッキアに滞在する全ての冒険者に緊急通達を行うべく、多くの冒険者達がギルドに呼び集められていた。


 俺もレオ達と共にギルドに足を運んでいる。


 ギルドマスターのクリスティーナさんからの通達はこうだ。


 西方ジオルディーネ王国とサーバルカンド王国の全冒険者ギルドが何者かに壊滅させられ、ピレウス王国とエリス大公領の冒険者ギルドの約半数が閉鎖されたという事。


 ミトレス連邦盟主国である獣王国ラクリがジオルディーネ王国の侵攻により陥落し、現在は臨時的にドルムンドを盟主国として帝国が認定した事。


 ミトレス連邦全域ではジオルディーネ王国軍と亜人達の激しいゲリラ戦が行われており、ミトレス連邦全域が一級危険地帯に指定された事。それに伴い、中級以下の冒険者はミトレス連邦、ジオルディーネ王国、旧サーバルカンド王国への入国は極力避けるよう心掛けて欲しいといった内容だった。


 冒険者の行動は縛れないので、ギルドとして入国禁止とは言えないが、入国先にギルドが無い以上、冒険者にとって入国する意味はほとんどない。なぜ上級クラスには言及しないのかを疑問に思ったが、単純に実力があればいいだけの話だろうとその場は流した。


 一通りの通達が終わり、ゾロゾロとギルドを後にする冒険者達。俺とレオ達四人は隅のテーブルに集まり、人が引けるのを待つあいだ雑談している。


「よその国の話だけど、なんか亜人が可哀そうだよな」

「ああ。冒険者ギルド襲ったのも絶対国の奴らだろ? どうかしてるぜ…」

「なんでギルドは怒らないんだろうね。仲間やられちゃったのに」

「ジン君はどう思う?」


 オルガナに急に振られ慌てて言葉を返す。


「そうだな…色々思う所はあるけど、戦えない亜人達が非道な目に遭っていない事を祈るばかりだ。だけど…」


「冒険者ギルドを襲った時点で、何か悪だくみしてる気はするよな」


「ああ。ギルドを襲ったら大陸中のギルドを敵に回す可能性もあるんだ。それをする利点がまるで無い」


「まぁ、あたしらがあれこれ考えた所で何も出来ないんだけどね。それにしてもこの街も亜人が増えたよねぇ。元々地人(ドワーフ)は多かったけど、獣人(ベスティア)風人(エルフ)初めて見たよ」


 そう、ここ一月(ひとつき)で亜人の難民が多く帝国に流れて来ていた。ミトレス連邦の現状は分からないが、皇帝の命により難民の処遇は迅速に行われ、ここドッキアと北西のガーランドを主とし、近隣の街村にバランスよく配分されている。


 皆不自由が無い様に、帝国から最低限の衣食住の保障と仕事の斡旋もやり、ちゃんと働けば帝国通貨を得られるなどの政策が取られている。下々(しもじも)の俺から見ても、皇帝の差配は見事と言う他なかった。まるで予見していたかのような行動の速さだ。


 未だジオルディーネ王国は帝国に宣戦布告していないようだが、帝国はミトレス連邦へ進軍する大義名分を得た。仮に帝国がミトレス連邦をジオルディーネより奪取すれば、亜人達は確実に帝国の庇護下に入る事になるだろう。


「どこまで見通されているのか…」

「何か言った?」

「いや、独り言だよ」


 オルガナに笑顔で返し、話を誤魔化した。


 ドッキアに滞在して四ヶ月の今日まで、俺達はギルドの依頼を挟みながらダンジョン挑戦を主にし、その間三名の初級者をパーティーに迎えたりと色々やっていた。


 俺が思ってた以上にDランクからCランクに上がるのは難しいらしく、レオ達は未だDランクのままだったが、彼らは装備も一新し、確実に実力は上がってきている。最近はCランク以上推奨の依頼にも挑戦するようになってきていた。


 今日も依頼達成報告の為にギルドに寄ったのだが、偶然緊急通達に出くわしたという流れだ。


「そろそろ窓口も空いて来たな。行こうか」


「おぅ」


 窓口の職員には顔と名前も覚えられている。全員が16歳という若年パーティーで中級ランクというのはさすがに珍しいらしく、ドッキアでは注目の若手扱いになっていた。


「皆さん、今日もお疲れ様です。突然の告知で驚かれたでしょう?」


「ええ。でも俺らに出来る事はありませんからね。ここで頑張るだけです!」

「そうだな! 早くジンに追いつかねーと!」

「それはムリ! 私たち以上に強くなっていくし!」

「そうだね~、凄さが増していくよぉ」

「やめてくれ。職員さんの前で」


「ふふっ、皆さんお若いからこれからですよ。無理だけはしないで下さいね。今回の依頼達成の金貨三枚です。どうぞお納めください」


「あ、ジンさん」


 依頼達成の報酬を受け取り、これから宿に戻ろうとする所を呼び止められる。


「はい?」

「ギルドマスターが直接お話したいことがあると通達が来ています。これからお時間はありますか?」

「えーっと、そうですね…」


 ちらっとレオ達を見ると、『上位ランクは大変だな』と言いながら手をヒラヒラさせている。彼らは俺がアジェンテである事は知っているから余計な詮索はしてこない。


「という訳で大丈夫です」

「よかった。では執務室へお願いしますね」


 そう言われて2階へ上がり、ここ数ヶ月で何度目かの執務室の扉をノックした。


「どうぞぉ」

「失礼します」


 部屋に入ると、キィキィと背もたれを鳴らして椅子に座るギルドマスターのクリスティーナさん。そして、見慣れないものが目に入った。


 彼女の側にフワフワと浮かぶ水色の何かはほのかに光を帯び、綿毛のようにも見えるが咄嗟に腰の舶刀に手を掛ける。


「警戒しないで大丈夫よぉ。ジン君は初めてだったかしらぁ? この子は相棒のマーナガルムよ。マーナって呼んであげてね♪」


「あ、相棒? どういうこと―――」


《 こんにちは。ジン 》


「うおっ!?」


 突然頭に流れる声。直感で声の主は水色の何かであることは分かった。


「何なのですかそれは!」


 驚きの声をあげると執務室に光が溢れ、水色の何かは狼のような姿に形を変えてゆく。右半身は純白、左半身が淡水色(うすみずいろ)の、言葉にし難い神秘的な存在。竜に似た小さな翼がパタパタと動いていて、大きさは人間の頭ぐらいだろうか。


 当然だが、前世でも見た事が無いその姿形に目を奪われる。俺が口をパクパクさせているのを見て、クリスさんはクスッと笑い、


「マーナは一応聖獣よぉ。やっぱりこの子の声が聞こえるのねぇ」


《 私も久しぶりにクリス以外の人に声を聴いてもらえたよ 》


 この世界には人語を理解し、操ることが出来る魔獣が存在する。その頂点が『神獣』と呼ばれる存在であり、人々が生涯目にする事は無い伝説上の魔獣だ。


 そして神獣の眷属にして、人々がその生涯で一度目に触れられるかどうかの存在が『幻獣』で、さらに幻獣の眷属が『聖獣』と呼ばれている。


 聖獣までが圧倒的な知能を備えており、人と話すことが出来る存在。クリスさんがマーナガルムと呼んだ小さな狼は、その聖獣だと言うのだ。


「はは…クリスさんは獣従師(テイマー)だったんですね。御見それしました…ゴホン、初めましてマーナ。もう知ってると思うけど、俺はジンだ。よろしく頼むよ」


《 うんっ、よろしくね! 》


 表情は分からないが、ペコリと頭を下げた後、空中でくるくると回るマーナを不覚にも愛らしいと思ってしまった。


 獣従師(テイマー)とは聖獣の声を聴き、聖獣を供にすることが出来るという、世界でも一千人といない希少な存在と言われ、その力は完全に先天的なものでなろうと思ってなれるものではない。


 いざ戦うとなった場合、聖獣に代わりに戦わせたり、聖獣の強力な魔力を借りて魔法を放ったり、自身を強化したりと、従える聖獣によって戦い方は変わると聞く。多くの獣従師(テイマー)はその力と聖獣の希少性を買われ、王侯貴族に仕えたり冒険者として名を上げている。


 噂では、獣従師(テイマー)をリーダーとしたSランクパーティーが西大陸南方にいるらしいが…


 聖獣は一度主を決めると、主が死ぬまで付き従う。聖獣にとって寿命はあって無いようなもの。人間や亜人の一生に従ったところで、その生のほんの一時(ひととき)でしかないのだ。


 獣従師(テイマー)と混同されがちだが、召喚師(サモナー)と呼ばれる存在もある。魔獣、ここでは聖獣を従える獣従師(テイマー)と違い、召喚師(サモナー)は『聖霊』と呼ばれる魔()に近いものを従えるという。


 戦い方としては魔力に偏っており、召喚師(サモナー)の殆どは魔法師系の者で、聖霊から魔力を借りたり、聖霊の魔力を使って魔法を扱うものが殆どらしい。


 その存在は獣従師(テイマー)以上に少なく、広く認知されている者はいないと言っても過言ではない。そのような中でも唯一知られているのが、神聖ロマヌスに在する聖女が召喚師(サモナー)と言われている。だがその聖女の力を見た者はほとんどおらず、その存在は疑わしいのが現状だ。


「この子の声が聞こえるって事は、ジン君も運よく出会えれば仲良くなれるかもしれないわねぇ」


「せ、聖獣とですか?」


「ええ。君は素質ありそうだから聖獣について少し教えてあげる。この子は『王種』に分類されてて、別名『聖王狼』なんて呼ばれる存在だけど、聖獣にも色々いてねぇ。人に危害を加える野蛮な子もいるし、マーナみたいに優しい子も沢山いるのよぉ」


「た、確かに…マーナからは敵意のようなものは感じません」


「この子は相手に危害を加える類の力は持っていないの。せいぜい噛みつきと体当たりくらいね。マーナはそれすらほとんどやらないけど。その代わり、危害を加えられる事もないわぁ」


 ほら、といってクリスさんは小さな火球を指先に灯し、マーナへ飛ばす。するとブゥンという音と共に火が消えた。吸収されたような印象も受ける。


「マーナが()()すれば、あらゆる物理干渉は無効化、魔力干渉も魔素に分解されるっていう、ある種無敵に近い力よぉ。私はこの子の力を『万物の選別(エレクシオン)』って呼んでるの」


 正に神のごとき力だ。攻撃出来ない以上は相手を倒すことは出来ないが、自身が害されることも無い。ある意味最も平和的な力だとも言える。


「な、なるほど…マーナは凄いな」


《 わたしすごい? えへへ… 》


 ブンブンと尻尾を振る姿も何とも言えない。むぅ…


「マーナは何というか、ずっとこうなのですか?」

「こう?」

「ええ、何というかあまりに人懐っこく感じますので」


「マーナが興味を示すのは、自分の声が聞こえる人だけよ。この子とは昔ミルガルズで会ったんだけど、その時からこんな感じだったわぁ。可愛すぎて仲間にならないか聞いてみたら、あっさり付いて来てくれたの」


《 わたしは眷属と、関わったヒトの影響が強いと思うよ。むかーしお友達だった女の子の影響が一番強いかな? おばあちゃんになって死んじゃったけど。クリスは優しい魔力を感じたんだ。だからいいかなぁって 》


「ふふっ、ありがとマーナ。この子の生みの親は幻王狼カーバンクル。幻王狼の眷属は世界中に数体いると言われているけれど、恐らくこの子は一番最近生まれた子よ。最近と言っても百年以上前だけどねぇ」


「その幻王狼もこのような感じだという事ですか。これは認識を改めなければなりませんね。とにかく人知を超えた恐ろしい存在だと認識していたもので…」


「かもしれないわぁ。私は幻王狼に会った事が無いから分からないけどねぇ」


 その後、マーナが遊ぼうというので何をして遊ぶのかを聞くと、『なんか飛ばして!』と言われた。少し戸惑ったが、執務室を散らかさない程度に風魔法や火魔法を飛ばしてみるとそれを避けたり、万物の選別(エレクシオン)()き消したりしてキャッキャッしている。


 遊びでその凄まじい力を使うのかと拍子抜けしたが、マーナにとって万物の選別(エレクシオン)は、呼吸をするのと同じようなモノなので気にしないでいいとクリスさんが言った。


 魔力は犠牲になるが、俺としては楽しそうなマーナを見て癒されるので別に構わない。うむ、構わない。



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