第60話 石の正体
「やったー! おっ父! 久々の依頼だね!」
「久々は余計だ! それで、刀身以外の事も重要だろう。聞かせてくれ」
その後、俺が知りうる限りの刀の各部名称や拵について詳しく説明する。
「一体何なんだ…この業界で長年やってるが初めて聞く事ばかりだ。ここまで洗練された武器が世に出回っていないなんざ考えられねぇ。ドルムンドの古い文献にはもしかしたら載ってるかもしれないが、廃れる理由も見当たらねぇ。ジン、野暮な事だが後学の為に聞いておきてぇ。刀を一体どこで知ったんだ?」
当然の疑問だろう。まさか前世の記憶とは言えないし、ましてや天啓ですとも言えない。それを言うと日本の先達の功績を奪う事になる。なので、答えはあらかじめ用意してある。
「結論から申し上げますと、東大陸の極東の島国で細々と作られていると聞きました。私はスルト村の出身です」
「聖地の出だったのか!? なるほどな…なら世界各地から来る巡礼者に、そこの出身者がいてもおかしくねぇ」
「ご明察です。その巡礼者と仲良くなり、色々教えて頂きました。自分で言うのも何ですが、無垢な子供のなせる業かと」
「お前さんのどこが無垢なんだっての…ったく。まぁ確かに東大陸東部に関しての情報は交易が無い分、ほとんど無いに等しい。しかもあっちの方は地人が住むには暑すぎて向かねぇ土地だしな」
虚実半々と言ったところか。もちろんそんな巡礼者に会った事は無い。だが俺は近いものがあるのではと思っている。根拠は帝都の酒店で買った『清酒』と言う酒。原材料は東大陸東部でしか採れない物を使っていて、これが前世で飲んだ事のある白酒によく似ていた。巡礼者の中に着物に近い召物を着ていた人もいたので、もしかすると前世の日本に近い文化があるのかもしれない。
「まぁそれなら納得だ。存在する武器だったってのはちぃと残念だが、俺が地人のプライドに掛けて既作を全て超えてやる! 逆に腕が鳴るってもんだ! それで、刀以外の拵なんかはどうするんだ?」
「はい。刀と同じく、竜の鱗を使って鞘を作って頂きたい。武器相応の収まる場所が無ければ、武器に対して失礼です。あと、刀の鍔の形を籠目紋(六芒星、ヘキサグラム)にして頂きたいのです」
「ほう、お前さん属性魔法も使うのか」
「さすがです。私は武器と属性魔法の同時行使を多用します。予め籠目紋を備えておけば、武器への魔力干渉が易くなると思われます」
「よく考えてるねぇ。普段のお客さんと全然違うよ」
「これが本物って奴だカミラ。金だけの奴らと、夢見がちな奴らが大体だが、素材を持ち込んでくる奴は自分に合った武器を本気で探してやがる。強い弱いの話じゃねぇ。たとえその考えが理外だろうが、そいつに力が無かろうが、そういう奴は必ず無二の武具に巡り合う」
「わかるよ、おっ父」
「話が逸れたな。分かった。鍔の素材はこっちで良さげな物を選んでもいいか?」
「もちろんです。私の細かな要望はそれだけです。あと―――」
俺はカミラさんの方を見て頭を下げた。
「鞘や柄と言った拵全般の造形は、カミラさんにお願いしたいのです」
ブワッ
フムフムと一緒に聞いていたカミラさんだったが、俺の一言を聞いた瞬間、魔力の漲りを感じた。人とは違う、形容しがたい力強い魔力だ。彼女の身体は震え、その瞳は形容では無く褐色の魔力が揺らめいている。
「え、ええんですか? あたしに任せてもろて」
何やら雰囲気と口調が一変した?
カミラさんの様子に驚く俺に、グリンデルさんが説明してくれる。
「ああ、お前さん亜人と関わるのは初めてか?」
「お察しの通りです」
「なら知らないのも無理ねぇな。別にカミラが特別って訳じゃない。お前さんら人間が亜人と呼んでる俺ら地人や獣人は見た目は人間と殆ど変わらねぇ。だが先天的に人間より優れた何かしらの力を持っている。細けぇ事は省くが、亜人はすべからく感情が高ぶるとそれが眼に現れんだ。俺みてぇに歳食っちまうとそれも制御出来るようになるが、カミラは眼と、ついでに口調が素に戻っちまう。ガキの証拠さ」
「そのような特徴が…教えて頂きありがとうございます。では大丈夫という事で、カミラさんよろしくお願いします」
「ありがとうジン君! こんな素材扱わせてもらえるなんて細工師冥利に尽きるわ! 任してください!」
少しして、瞳が燃え上っているように見えたカミラさんも落ち着きを取り戻し、俺は念のためにともう一枚黒王竜の鱗を取り出し、ついでに金袋も取り出す。
そこである事を思い出し、鱗ともう一つの素材を取り出した。
「ん? まだ鱗持ってたのか。だが一枚で刀と鞘を作るのには十分だぞ?」
「そうですか。しかし私が持っていても懐に納まっているだけです。刀を打って頂いている間は、カミラさんが素材に触れなくなるのもどうかと思いますので、お預けいたします。何なら自由に使って頂いてもいいですよ」
「それは助かるよ! じゃあ、遠慮なく預かるね! 燃えてきたよぉー!」
そう言いながら鱗に頬ずりをしているカミラさんを見て、俺は笑ってしまった。
「気遣い感謝する。まぁカミラはこんなだが、腕はなかなかだ。任せてやってくれ。言っとくが親馬鹿じゃねぇからな。職人としての目利きだ!」
「わ、わかっております。私もそのように感じたのでお任せしたのです。あとグリンデルさん。割と大事な事をお願いし忘れておりました」
「おいおい、頼むぜ。この期に及んで今度は何だ」
「えーっ、ジン君! 急いでるとかは無しだよ! おっ父もあたしも完璧な仕事にしたいんだから!」
「ち、違いますよ! 期限を設けるなんて身の程を弁えぬ事は絶対に致しません。これも刀身に使えますか?」
ゴトッ―――
テーブルの上に赤子の拳大の石を置く。
「なんでぇこの石。青黒い…これも見ない石だな。鱗といい木刀といい、お前さんは珍しいモン持ち過ぎだろ」
石を手に取り、グリンデルさんはマジマジと見つめながら頭を傾げる。すぐにこれが何なのか聞いて来ない所が職人たる所以だろう。後から聞いた事だが、自分の知らない素材を客に持ち込まれると、自然に負けん気が出てしまうらしい。
灯に翳したり拡大鏡というもので見たりし、暫く見ている内に、奥から小さめの槌を持ってきて俺に目くばせする。俺が頷くと、石をキンキンと軽く叩き始めた。
「この跳ねっ返りと音…とんでもねぇ密度だ。しかもこの薄く赤く光ってる部分、魔力核なんだろうが…こんな色見た事ねぇな。S級の魔物から取れるのか? ―――だぁっ! くそっ、降参だ! なんなんだこの化け物みてぇな石は!?」
「この石は俺が村から出る際に母上から頂いたものです。俺が生まれた際に村の皆から贈られたと仰っていました。俺も最初はただの綺麗な石程度にしか思っていなかったのですが、収納魔法を開発された人曰く―――」
「お前さんパルテール・クシュナーとも知り合いなのか。はっ! もう驚かねぇよ!」
「この石はおそらく星刻石です」
ガタタッ
二人が同時に立ち上がる。
「ば、馬鹿野郎! ありえねぇっ!! 星刻石っつったら―――ブクブクブク」
「おっとーっ!」
「グリンデルさーん!」
グリンデルさんはその場で泡を吹いて倒れてしまい、カミラさんも直後に顔面蒼白になり、グリンデルさんに重なって倒れてしまった。




