第5話 招かれざる客Ⅰ
(力のある魔物どもがおらず、人間の多すぎない場所がいい。しかし、果たして我を相手に人間がまともに話を出来るかどうか…いつかの小僧以来だな)
神獣ロードフェニクスと呼ばれるその神の使いは、住処である火山を飛び立ち、託された人間の子を携え空を飛んでいた。神も面妖な事を仰せになる、と若干の愚痴をいいながら、目的地を探す。
既に地上がどれほどの騒ぎになっているのかも知らずに。
(むっ、あそこは…丁度よさそうだな。一度の訪問で終わってくれればよいが)
神の使いは良さそうな地を見つけ、西に目標を定め速度を上げた。
◇ ◇ ◇ ◇
ロンとエドガー、オプトの三人はロンの家近くの広場の隅に陣取り、今日の狩りについての話に華を咲かせていた。この村には冒険者や行商人向けの小さな宿はあるが、食事と酒を出すだけの店はない。村の者は広場に出て飲むのが習慣となっている。
「それにしても、百匹近くいたんじゃないか?」
「九十二匹だ。聞いて無かったんだな? ニットさん言ってただろ」
ロンは話を聞いていなかったオプトを叱責する。
ニットとはスルト村唯一の商店の店主である。村の住民の必需品はもちろん、たまに訪れる冒険者達の貴重な補給場所として、村には欠かせない万事屋だった。
村には冒険者ギルドは無く、魔物の素材は一手に商店で買い取ってもらえるようになっており、月に一度、商店が冒険者ギルドがあるマイルズに売りに行く。村の住民以外からの素材の買取はやっておらず、村で食用の獲物以外の魔物狩りを担う、三人のためのルールだ。
なお、村人に危険を及ぼす可能性がある魔物を、単独で狩る事の出来る人材はこの村には少ない。
「久々に矢持って突撃したぜ。小さい、多い、なんて弓術師には相性悪すぎるってんだ」
「がっはっは! オレもあんま好きじぇねぇな! 探知魔法に数匹引っかかった時にはなんとも思わなかったが、近づいてみるとあのザマだ」
「つーか、ロンは盾背負ったままだったじゃねぇか」
「さっさと終わらせたかったからな。キラーアント程度の攻撃なら効かんし、当たらん。盾なんか要らない」
ロン、エドガー、オプトの三人は元冒険者であり、ロンは戦士として前線、エドガーは暗潜士として魔物の発見、奇襲。オプトは弓術士として中距離攻撃を担っていた。
仮に冒険者パーティーとして見た場合は、回復もままならない上に、火力も足りない。だが魔素が薄く、強い魔物のいない村近辺なら、十分に安全マージンが取れる組み合わせである。
「ちげぇねぇ! チマチマやってたら日が暮れてたぜ。どうせならローグバイソンあたりに出てきて欲しかったな」
「確かにな。アレはしぶといが、美味いし、ツノと皮もそこそこの値段で売れるしな。矢も当て放題だ!」
「おいおい、あの突進を抑えるのは、そこそこ強化しなきゃいけないんだぞ? こっちの身にもなれっての」
夜も更け、酒もそこそこ入った三人は、気持ちの良い風に当たりながら天を仰ぐ。
「ロン達がここに来てから五年か…」
「よく覚えてるな」
オプトが懐かしむように呟く。
「…ジェシカはどうなんだ? 良くなってるのか?」
「正直、厳しい…最近、特に弱々しくなってきている」
スルト村には魔吸班病を患った人間がジェシカを含め五人いる。
元々ロンとジェシカは同じ冒険者パーティーで、スルトの北西に位置するスウィンズウェルという街を拠点に冒険者をやっていた。だが、治癒術師だったジェシカが魔吸班病を患ってパーティーを抜け、ロンもそんな彼女を放っておくことは出来ないとパーティーを抜けた。
前衛と回復サポート役を失ったパーティーに、冒険者活動は難しい。後日パーティーは解散したが、その後、他のパーティーメンバーがどうなったのかは分からない。
ロンはパーティーを抜けた直後に、ジェシカに夫として支えたいと言った。魔吸班病にかかった人間がどうなるかわかっているはずと、当初は頑なに拒否していたジェシカだったが、とうとうロンの熱意に折れ、ロンの提案でスルトに移住してきたという経緯だ。
「そうか…本当に俺らになんかできる事はないのか?」
「ありがとう。お前らには感謝している。俺たちを迎え入れ、ジェシカを笑顔にしてくれている。十分だ」
「そんなのは当たり前の事だ。なんたって、ジェシカは村の女神だからな!」
「…エドガー。お前はもう少し探知魔法が上手くなってくれれば言う事は無い」
「この野郎っ!」
いい奴らだよ、お前らは。ロンは心の中で二人に感謝しながら杯を空けた。
そろそろ戻るかと支度をする三人だったが、エドガーがふとその手を止め、村の入り口を見ている。
「どうした?」
突如、暗潜士としての顔付きになったエドガーにロンとオプトは緊張する。
「……何か来る」




