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戦国武将異世界転生冒険記  作者: 詩雪
第三章 帝国西部・刀編
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第54話 シス村

 露天風呂拠点から二日の旅路、俺はレオ達三人と共に彼らの故郷であるシス村に向かっていた。目的地であるドッキアへの道中に村があったので、立ち寄っても構わないというと彼らは喜んだ。


「そういえばドッキアに何しに行くんだ? やっぱダンジョン?」


「それもあるけど、一番はウォルター工房だよ」


 グレイ山脈の麓にある鉱山の街ドッキアは、その名の通りグレイ山脈の一角を構成する数多くの鉱山を背にし、良質な鉱物を産出する街としてその起源を有している。


 良質な鉱物を目当てに、一攫千金を狙う鉱山労働者、武具職人や宝石職人が多数集まるエネルギッシュな街だという。ドッキア産の武具は信頼性が高く、帝都で売られている武具の中でも一桁も二桁も値段が違っていた。


 帝都で黒王竜(ティアマット)の鱗を手に入れた俺は、アルバニア騎士団のベルモッド中隊長に勧められた武具店に、この素材を持ち込んで武器として加工できるかどうかを聞いてみたところ、『帝国で竜の鱗を加工できる技術を持つのはドッキアの職人だけだろう』と言われていたのだ。その場で店主が知る工房を教えてもらい、その店がウォルター工房という訳だ。


「ウォルター工房かぁ…」


 レオがウォルター工房と聞き、若干苦い顔をした。知っているのかと聞くと知っているというが、何となく歯切れが悪い。


「村にはそのドッキア冒険者ギルドの支部があるんだけどさ、そのおかげでドッキアの情報は結構流れてくるんだよ。それで…」


「そのウォルター工房は冒険者憧れの工房なんだけど、工房主が地人(ドワーフ)で、武具の作り置きはしてないらしいわ。全部お客に合わせて作ってくれるらしいんだけど、すっごい値段を吹っかけてくるってウワサなのよ!」


 レオに代わってミコトが端的に教えてくれる。


「そういう事だ」


「なるほどな。技術に見合う値段かもしれないし、そうでない値段かもしれない。ウォルター工房の噂が独り歩きして、腕の真偽が分からないといったところか」


「所詮噂はウワサだよ。ジン君は実際に行って確かめるんでしょ?」


「分かってるじゃないか、オルガナ」


 そう、自分の目で確かめるのが一番だ。その地人(ドワーフ)というのにも会った事が無い。帝都西部には多く住んでいると聞いたが、それもそのはず、帝都西部に隣接するミトレス連邦は、地人(ドワーフ)を含めた亜人達の国なのだから。


 おそらく、レオ達とは帝国内までの旅となるだろう。


「さぁそれはともかくだジン! シスに着いたぜ!」


 遠目から見てもスルトとは違い、かなり大きな村のようだ。だが村の守りはかなり質素。村の柵もあって無いようなもので、やはり聖地であるスルトとは警備にかけられる人材も少ないようだ。


 シスに着いた俺達は、それぞれが次は長旅になるという親兄弟への報告や準備の為に、今日は解散となった。


 ◇


 シスの宿を取り、ドッキア冒険者ギルドのシス支部に顔を出す。そこは食堂が併設されており、雑多な雰囲気が漂う。帝都の立派なギルドもいいが、こういうのも嫌いじゃない。俺が訪れた時間帯は日も落ちかけていた事から、食事客や依頼報告の冒険者で中はごった返していた。


 俺が扉を開けると視線がこちらへ集まる。気にせずにカウンターに座り、奥にいる店員に酒と肉入りのスープを頼むと、豆と温めた果実酒が同時に出てくる。メインは少し待てとの事だったので、酒を飲みながら待つ事にした。


「おいガキ。てめぇ、見ねぇ顔だな」


 後ろからそう声がする。


 だからなんだ。無礼な輩は無視するに限る。


 ぷはぁ~! 酒がうまい! この豆の茹で加減と塩加減も悪くない。ここまで来て、だいぶ寒くなっていたからな。温めた果実酒が身に染みわたるようだ。


 俺がうまうまと酒と豆を堪能していると後ろから怒声が聞こえ、横のカウンターにドンッと拳が振り下ろされた。


「何無視してんだこらぁ!」


「はい?」


 いや、あるとは思ったが…まさか本当に絡んでくるとは思わなかった。せめてメインの肉スープを食べてからにして欲しい。


「てめぇ、いい度胸してんじゃねぇか…そんなに酒飲みてぇなら飲ませてやるよ」


 そう言うと、絡んできた男は俺の頭の上で手に持つ杯をかたむけ、ゆっくりと酒を浴びせてニヤニヤと笑う。


「おいおいジョゼフ、飲ませすぎだろっ! ぎゃはははは!」


「こないだのガキみたいに(しつ)け過ぎんじゃねぇぞぉ! ひゃはははは!」


「はっ! 挨拶も知らねぇガキに世間を教えてやるのは俺様の仕事だからなぁ!」


「坊やぁ~、お姉さんが治癒魔法(ヒール)かけてあげよっか~? あ、治癒魔法(ヒール)じゃお洋服乾かないんだった! キャハハハッ!」


 下卑た笑い声が店内に響き渡る。こうやって普段から新人いびりをしているんだなぁ…なんだか怒りを通り越して哀れに思えてくる。


 こんな輩をギルドは放っておくのか。俺は後ろにいた従業員にこっそり聞いてみる。


(すみません、この方々はいつもこのような?)


(あ、ああ…最近この村に来たやつらで…下手に腕が立つもんだからこの村では貴重な戦力でな。村を去るまで今のところ黙認してるんだ。すまんな坊主)


 正気かこのギルド。


(そうでしたか。なら穏便に済ませる事にしましょう)


 どうやら他の従業員や客も同じようで、気まずそうにしている者や、同様にニヤニヤしながら事の成り行きを見守っている者ばかりだ。


「なーにーをコソコソやってんだぁ!?」


「挨拶もせず、申し訳ありませんでした。ジョゼフさん」


 結構なスピードで土下座した。ここでこの輩をどうにかすれば、従業員曰くこの村の防衛力が下がる。それはレオ達の故郷にとっては今の迷惑行為以上に損失になる可能性もあるだろう。


 ここは耐えて気を良くさせておき、穏便に済ませるのがいい。


「コイツ土下座しやがったぞ! おんもしれぇ!」


「かわいいじゃな~い、ジェゼフ~、()()どうすんのぉ?」


「こんな根性無し見た事ねぇ! ガキはウチ帰ってママのオッパイでも吸ってな。ぎゃはははは!」


 ジョゼフは土下座するジンの頭を踏みつけながら、得意げにしている。


「こんなのが冒険者になっても何の役にも立たねぇ。酒が不味くなる。二度とツラ見せんじゃねぇ。失せろカス!」


 バキッ!


 ジェゼフに顔面を蹴られ、壁に叩きつけられる。


 ただギルドに立ち寄ったついでに、食事でもしようとしていただけなのにこの仕打ち…酷過ぎる…


 その時、このギルド兼食堂のドアを勢いよく開けたのがレオ、ミコト、オルガナの三人だった。



◇ ◇ ◇ ◇



「――火球魔法(イグスフィア)!」


 オルガナの放った四発の火球は全てアッシュスコーピオンに命中、奇怪な(こえ)を上げながら、苦しんでいる。


『キキキキキキキ!』


「効いてるぞ! うぉぉぉぉ!」


 ガキャン!


 レオの放つ攻撃もちゃんとダメージが通っている。このままの攻撃ペースを維持出来れば倒せるかもしれないが、当初の予定より時間が掛かりつつある。


 弱点がなかなか見つからない中、次第にミコトに焦りが見え始めていた。


(弱点はどこなの!? レオもだんだん余裕がなくなってきてる! 私の矢も後三本、無駄打ちは出来ない…もう少しなのにっ!)


 残り少ない矢と戦況の悪化がミコトに焦りを生じさせ、レオへのサポートを一瞬遅らせる。これまでアッシュスコーピオンの攻撃を見事に回避し、受け止めていたレオはとうとう敵の攻撃を食らってしまった。


「ぐあっ!」


「レオ!!」

「レオ君!」


(いけない! 毒攻を食らってしまった! もうダメ―――)


「ミコト、オルガナ! まだ大丈夫だ! これは遅効性の毒だろう! 二人共落ち着いてサポートと弱点探しを頼む! それとオルガナ! 少し距離を取ってくれ、戦い方を変える!」


 するとレオは毒攻を貰ったにも関わらず、さっきとは違う動きに切り替える。敵の正面に立って攻撃を一身に受けるのではなく、側面の位置をキープし、これまでとは違う個所に攻撃し始めた。


 これはオルガナを敵の攻撃に晒す可能性を高める、ある種の賭けだった。


「レオ! ―――!?」


 レオの無事だという言葉を怪しんだミコトが声を上げようとしたその時、アッシュスコーピオンの不自然さに気が付いた。


(今一瞬尻込みしたような…どこかを庇っている?)


 ミコトは狙いを定め、庇っているように見える箇所に矢を撃ちこんでいく。


 シュン シュン シュン!


『キキキキキキキッ!』


(見つけたっ!!)


「レオ離れて! オルガナ牽制!」


「了解! ―――火球魔法(イグスフィア)!」


「レオ! そいつの弱点は尾の付け根よ! 矢が刺さってる部分を思いっきり斬って!」


 ミコトの声と共に、オルガナの火球二発がアッシュスコーピオンに命中する。距離を取った分、四発全てを当てる事は出来なかったが、その戦果はレオの攻撃をサポートするのに十分な威力だった。


「いいぞオルガナっ、最後は任せろ! おぁぁぁぁぁ!」



 ズバンッ!



『ギキキキッ!』


 オルガナの火球で脆くなったアッシュスコーピオンの外殻尾の付け根に、レオの斬撃が深々と入る。斬撃と共に敵の動きがぎこちなくなり、先程までとは打って変わって動きが遅くなる。


『キキキ…キッ……』


 断末魔と共にアッシュスコーピオンは自重を支えられなくなり、地面に崩れた落ちた。


「見事だ三人共!」


 やり遂げた三人を見届け、祝いの言葉もそこそこにジンは即座にレオの治療に入る。患部の毒を吸い出し、毒消しを塗って布できつく縛り上げる。毒消しを溶かした水を飲ませ、レオを横に寝かせた。


 その手際の良さに、ミコトとオルガナは心配そうに側で見届けるしか出来ずにいた。


「レオ、俺は遅効性の毒だなんて言ってないぞ」


「し、死ぬかと思ったわ…でも、これで連れてってくれるよな?」


「二言は無い。レオの覚悟は見せてもらった。見事な止めだった。ミコト、弓の正確性も威力もヤツには十分だった。よく重圧に負けず冷静に弱点を見抜いたな。オルガナ、この短期間でよくあそこまで出来るようになった。実は俺でも一週間であれだけの成長は難しいんだ」


「うん…うんっ…ぐすっ…」


「ありがとう、ジンくん…」


「レオ、ミコト、オルガナ。短い間かもしれないが、これからよろしく頼む」


 頭を下げ『よろしく』と言ったジンに、三人は激闘を制した喜びに満ち、これからパーティーの一員となる仲間に向かい返事をした。



 ――――こちらこそ よろしくっ!



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